筆者が率いる研究チームは最近、アメリカに生息するオジロジカに幅広い新型コロナ感染が見られることを報告した。 従って動物の宿主の中でウイルスが急速に進化して、オミクロン株が出現した可能性は排除できない。
突然変異が50個もあり、そのうち32個がスパイクタンパク質に集中。デルタ株と非常に異なる変異も持ち、研究者たちは大きな懸念を抱いている。どんな可能性があり、いま何が分かっているのか
Udomkarn Chitkul-iStock.
【スレッシュ・クチプディ(ペンシルベニア州立大学臨床教授)】 南アフリカの研究者たちが、新型コロナウイルスの新しい変異株を発見したと発表したのは11月24日のこと。その2日後、WHO(世界保健機関)は、この変異株をオミクロンと名付け、「懸念される変異株」に指定した。
【動画】肛門PCR検査後、ペンギンのように歩く中国の人々
オミクロン株に含まれる突然変異の数は50個と、従来の変異株よりも格段に多い(デルタ株は9個だ)。 しかもそのうち32個は、ウイルスが宿主の細胞に侵入するときに使われる突起物であるスパイクタンパク質に集中している。
現在アメリカで使われている3つのワクチンはどれも、このスパイクタンパク質に対する抗体を誘導して、重症化を防ぐ仕組みになっている。 オミクロン株に大量の変異が含まれていることは、感染力が高いか、宿主の免疫防御を回避する能力が高いこと(もしくはその両方)を意味する可能性がある。これは非常に懸念される問題だ。
筆者はウイルス学者で、新しいウイルスと人獣共通ウイルスを対象に、新しい感染症やパンデミックを引き起こすウイルスがどのように出現するかを研究している。 新型コロナウイルスについても動物の感染を含め、さまざまな側面を研究してきた。 オミクロン株に含まれる変異の数の多さは驚きだが、新たな変異株が出現したこと自体は、なんら驚きではない。 どんなウイルスも、自然淘汰によりランダムな突然変異が蓄積されるが、新型コロナウイルスのようなRNAウイルスはDNAウイルスなどと比べて、そのスピードが速い。ある突然変異の組み合わせが、従来の変異株のそれよりも存続に有利である場合、その新しい変異株は既存の変異株に取って代わる。
では、オミクロン株はデルタ株よりも危険で感染力が高いのか。 これはまだ分からない。それにオミクロン株が出現した条件も、まだはっきりしていない。 一般に、複数の突然変異を持つ変異株は、免疫力が低下して、感染が長期化している患者で出現することが多い。ウイルスはこうした環境で急速に進化しやすいからだ。 実際、アルファ株など新型コロナウイルスの初期の変異株は、このように生じたのではないかと、専門家は考えている。
だが、オミクロン株に含まれる突然変異の数と構造は、これまでの変異株とは明らかに様相が異なる。このため、どこから出てきたのかという疑問が生じている。
動物の宿主から出現?
そこで考えられる1つの可能性は、動物の宿主からの出現だ。新型コロナウイルスは、ミンクやトラ、ライオン、犬、猫などの動物に感染することが分かっている。 まだ査読が終わっていないが、筆者が率いる研究チームは最近、アメリカに生息するオジロジカに幅広い新型コロナ感染が見られることを報告した。 従って動物の宿主の中でウイルスが急速に進化して、オミクロン株が出現した可能性は排除できない。
デルタ株は、アルファ株の1.4~1.6倍、オリジナル株の約2倍の感染力がある。だからデルタは、ほかの変異株との競争に勝って支配的な変異株になったのだと、専門家は考えている。 ある変異株が自然淘汰に勝利するもう1つの重要な要因は、その複製率(どのくらい迅速に自分のコピーを作れるか)だ。
デルタ株は、それまでの変異株よりも自己複製のスピードが速い。これはデルタ株が、スパイクタンパク質の突然変異によって、より効率的に宿主のACE2受容体タンパク質と結び付けるようになったためではないかと考えられている。 デルタ株は、宿主がウイルスから身を守る上で決定的に重要な役割を果たす中和抗体を回避する変異も獲得した。 だから既存のワクチンは、デルタ株に対してやや効果が落ちるのかもしれない。
高い感染力と免疫回避という強力な組み合わせは、デルタ株の感染が猛烈に広がった理由と言えるだろう。 しかも多くの研究によると、デルタ株感染者は、オリジナル株や初期の変異株の感染者よりも入院治療を受けるリスクが高い。 これは、スパイクタンパク質のある変異(P681R変異)により、ウイルスが宿主細胞に入り込み、重症化を引き起こす能力が高まったためと考えられている。
変異株はもっと現れる
オミクロン株がデルタ株よりも存続に有利な構造を持ち、新たな支配的変異株になるかどうかは、現時点では分からない。 オミクロンは、デルタと同じ変異をいくつか持つが、非常に異なる変異も持つ。
ただ、研究者コミュニティーが今、とりわけ大きな懸念を抱いている理由の1つは、オミクロン株が受容体結合ドメイン(スパイクタンパク質がACE2と結合して、宿主細胞への侵入を媒介する領域)に、10個の変異を持つことだ。デルタ株は2個だった。
デルタ株よりも感染力や免疫回避能力が高ければ、オミクロン株が世界中に広がる可能性は高い。 その一方で、多くの突然変異を含んでいることは、ウイルスそのものにとってマイナスとなり、従来株よりもウイルスとしての安定性は低い可能性もある。
新型コロナウイルスの変異株はオミクロンが最後ではなく、今後も出現する可能性は非常に高い。その感染拡大が続くなか、自然淘汰と適応が繰り返されて、デルタ株よりも感染力が高い変異株はもっと登場するだろう。
私たちはインフルエンザウイルスから、ウイルスの適応プロセスは決して終わらないことを学んだ。 世界の多くの国でワクチンの接種率が低いということは、新型コロナウイルスにとって、感染しやすい宿主はまだまだ大量に存在するということだ。 そして感染拡大できる限り、このウイルスは何度も広がり、変異し続けるだろう。
その意味でオミクロン株の登場は、さらなる感染拡大とウイルスの進化の阻止にとって、世界的なワクチン接種が緊急の課題であることを改めて警告している。
12/7/2021
The Conversation Suresh V. Kuchipudi, Professor of Emerging Infectious Diseases, Penn State This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.