休日は別の顔。子煩悩な父親がほかに5つの“家庭”を持つ理由
家に帰れば子煩悩な2児のパパである長谷川裕一氏(仮名・40歳)は、父親代行を紹介するテレビ番組を観て、家族代行サービス業に飛び込んだ。
仕事が休みの日を中心に、一日30分~4時間、月に3~6回程度、副業に勤しんでいる。
長谷川裕一氏(仮名・40歳)
「担当するご家庭が常時3~5軒あって、主にお子さんの授業参観や、運動会などのイベントに合わせて各家庭を回るような形で父親役を務めます。一回につき1万~2万円、交通費も別途つきます」
主な依頼主は、約123万人(’19年12月時点)いるといわれるシングルマザー。父親代行と言えば、結婚式に参加するなど単発依頼のイメージが強いが、昨今は子供への配慮や周囲の目を気にするユーザーがリピート依頼してくるケースも多い。
「2歳の男の子の家庭に派遣されたときは、習い事の発表会でした。その母親は周りの父母たちにどう見られるかを気にしていて、『父親もちゃんといる』という体裁をつくろいたかったようです」
とはいえ、突然現れた男を、子供はすんなり父親とは認識しない。
「最初は警戒して手も繫いでもらえませんでした。喫茶店に一緒に入ったり公園で遊んだり、長時間かけて少しずつ仲良くなってから、ようやく発表会に行ったんです。ただ、そうやって子供に慕ってもらうための行為には、騙しているという面もあるわけで。この仕事を5年やっていても、罪悪感はいまだに拭えないです」
長谷川氏が登録するサービスでは「家族代行」の定番のほかに「リア充アピール代行」「お叱り代行」など変わり種も用意している

罪悪感を感じつつも母子の笑顔に癒やされる
単発の刹那的関係ではなく数年間、氏を父親として育った子供たちとも、必ず別れの日が来る。 「最後の日にお別れを告げるために会うことはほぼありません。
お母さんのほうから、『パパとは離婚した』とか、『パパは海外転勤になってもう会えない』とか、いろいろな方法で伝えてもらいます。そして僕が会うことは二度とありません。切ない別れを経験させることになってしまいますね」 また、一時的であっても夫婦として過ごした相手ゆえ、依頼主から好意を寄せられることもある。
「お母さまのほうから『本当の夫婦として付き合っていただけませんか』と言われたり、におわされたりしたことも。依頼主には僕が家庭を持っているなどの素性は明かされていませんから、仕方ない部分もあるのです。仕事でやっていることですからと、断るしかないですね」
長谷川氏にとっても困惑の場面が多々あるこの仕事。1万~2万円程度の報酬では見合わないほどの重圧がありそうだが、そのモチベーションはどこから来るのか。
「父親として行った数時間の間、お母さんやお子さんが楽しそうに笑ってくれる、それは本当に嬉しい。その気持ちがあるから続けていけます。担当する家庭の状況を事前にしっかり頭に入れて、母子に向き合える人なら、演技の経験がなくても、子供がいない人でもできると思います。特に、家族愛を題材にしたドラマや映画が好きな人や、それに憧れている人は向いていると思います」
功罪は意見が分かれるところだが、父親代行のニーズは今後高まっていくことは間違いない。
【長谷川裕一氏(仮名)】 家族代行サービス会社「ファミリーロマンス」所属。本職はスポーツクラブ勤務のジムトレーナー。現実の妻、子2人と関東近郊で暮らしている。