医師の警告…新型コロナ「軽症・無症状でうつす人」が増加の危険性
感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。国内では感染経路が明らかでない患者も増えており、街中で感染が広がる「市中感染」のフェーズに移ったと見る専門家も出てきた。
新型コロナウイルス、実は「マスク着用」より先にやるべきことがある
さらなる感染拡大を防ぐために、私たちは何を心がけるべきか? かつてアジアで猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)にWHO感染症地域アドバイザーとして対応した経験を持つ、東北大学教授で医師の押谷仁氏による、新たな段階へ移った新型コロナウイルス対策についての特別寄稿。
写真:現代ビジネス
「軽いインフル」のような患者もいる
武漢で発生したと考えられる、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因である新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、2003年に世界的な流行を引き起こしたSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因であるSARSコロナウイルスと、遺伝子配列はよく似たウイルスであることがわかっている。
しかし、ウイルス学的に近縁のウイルスであることは、病原性(感染した人の重症度)や感染性(人から人への感染の効率)が同じであることを意味しない。実際に、今回の新型コロナウイルス感染症とSARSは病原性も感染性も大きく異なることがわかってきている。
SARSは病原性が非常に高く、SARSコロナウイルスに感染した人のほとんどが重症化し、致死率も10%程度であった。これに対して、COVID-19の病原性はSARSより明らかに低い。現時点で致死率は正確にはわからないが、SARSよりも相当程度低いことが考えられる。
おそらく感染した人の多くは重症化せず、症状のない人(無症候性感染者)も一定の割合でいることが考えられる。この違いがなぜ生じているのかについては、かなりの程度わかってきている。
SARSコロナウイルスは主に肺の中、すなわち下気道でウイルスが増えており、喉などの上気道ではほとんど増えていなかった。さらに、SARSでは肺で膨大な量のウイルスが増殖している、重症化した感染者にしか感染性がなかったと考えられている。このため、SARSの流行は主に重症者から院内感染として拡がっていった。特に肺の中のウイルスを外にだしてしまうような医療行為を通して、院内感染として拡がることが多かった。
これに対して新型コロナウイルスは、上気道(喉など)でも下気道(主に肺)でもよく増えていることを示唆するデータが出てきている。おそらく主に上気道でウイルスが増える人と、主に下気道でウイルスが増える人がいるのではないかと考えられるが、そのメカニズムについてはよくわかっていない。
主に上気道でウイルスが増えている感染者では、症状は比較的軽く、通常のインフルエンザと同程度かそれよりも軽く済む場合もあり、症状がまったくない人も存在する。
それに対して、主に下気道でウイルスが増えている人は重症化する可能性が高く、重症化するとSARSと同じように重症のウイルス性肺炎を引き起こす。重症のウイルス性肺炎は治療が困難であり、これが日本でも死亡者が発生してしまっている原因だと考えられる。
新型コロナウイルスの場合、重症者ではSARSと同様の感染性があると考えられるが、必ずしも重症者だけに感染性があるというわけではないことを示唆するデータも得られてきている。つまり軽症者でも感染性がある可能性が高い。
無症状の人から感染が起きているかどうかは現時点でははっきりとはわからないが、この可能性も完全には排除できない。肺の奥でウイルスが増えているだけでは、咳やくしゃみなどによって排出されるウイルスは少なく、呼吸器ウイルスが人から人へ効率よく感染するためには、喉などの上気道でウイルスが増殖する必要があるのだと考えられる。このように考えると、むしろ軽症者の方でより感染性が高いという可能性もある。