新型肺炎、困難な初期診断 課題抱える受診機関側
新型コロナウイルスによる国内での感染が拡大している。感染経路が分からないケースがあり、さらなる広がりも懸念される。政府は17日、37.5度以上の発熱が4日以上続く場合などは、各地の保健所に設置されている「帰国者・接触者相談センター」に相談するよう求める受診の目安を公表した。目安の公表には、医療機関に患者が殺到するのを防ぐ狙いもあるが、受診者が増加する事態も予想される。
受診の目安は、(1)37.5度以上の発熱が4日以上(2)強いだるさや息苦しさがある(3)高齢者や糖尿病、心不全などの持病がある人で発熱が2日続く場合―は同センターに相談するとしている。
ただ、初期症状が風邪に似ていることもあって、医療機関による患者の診察には限界があるとみられる。問題なのが、新型コロナウイルスに感染した患者がどのような症状を経て、どの程度で重症化するかが完全に解明されていないことだ。
国立国際医療研究センター(東京都新宿区、EPA=時事)
◇共通するのは倦怠感
中国・武漢市への訪問歴がある、新型コロナウイルスに感染・発症した患者の診療に携わった国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長は、次のように説明する。
3人の患者の診療経験から、発病前後に強い倦怠(けんたい)感を訴えたことは共通しているが、その後は必ずしも肺炎に進展しない。
最終的に新型肺炎と診断された30代の女性についても、武漢市に一泊してから来日して咽頭痛と37.5度の発熱を訴えたが、直後の受診では肺炎の兆候がないため上気道炎(風邪)と診断された。その後、病状が回復せずに38度に熱も上がり、さらにせきやたん、頭痛などの症状が加わったが肺炎の所見はなく、3回目の受診で胸部のX線撮影やCTでようやく、すりガラス上の影という肺炎の兆候を認めて初めて新型コロナの検査を実施し、診断が確定した。
同じ患者の診療に携わった同センターの忽那賢志(くつな・さとし)国際感染症対策室医長も「臨床的に診断は肺炎の診断だけでも難しい点がある」と指摘する。この30代の女性患者についても、聴診や血液検査では肺炎の所見は見いだすことができず、X線画像検査でも明確な影を見つけ出すことは難しかったと振り返る。より詳細な画像が得られるCTでようやく、「両肺下部の胸膜周辺に肺炎らしい影が見いだせることができたし、細かいすりガラス状の影が点在していることも発見できた」と言う。
◇早期の診断確定困難か
大曲、忽那両医師らは、同センターで診療に当たった。
もう2人の患者についても論文として診療経緯などを報告した。この中で、新型コロナウイルス特有
の症状がないため早期の診断確定が難しいことや肺炎症状に至らずに回復する患者もいたことを指摘している。
1人目は武漢在住の50代の日本人男性で、今年1月27日から風邪状の症状があり、29日の帰国の飛行機内で発熱などの症状が出たため新型ウイルスへの感染が疑われて入院した。 入院時は37度前後の微熱で胸部X線、CT検査ともに異常はなく、その後ウイルスへの感染が確認されても体温は38.7度にまで上昇したものの、肺炎の症状である呼吸状態の悪化はなかった。X線とCTの両方で肺に異常は発見できず、上気道炎(風邪)と診断された、という。
もう1人は19年20日から武漢に滞在していた41歳の日本人男性で、帰国した今年1月31日から38度の発熱と軽いせき症状が出、同日入院してウイルスの検査を受けた。 入院時も発熱はあったものの呼吸に異常はなく、ウイルス検査で感染が確認された後の胸部X線とCT検査で肺炎と思われる異常が発見できたが、酸素吸入などは必要とされなかった。
この2人の男性患者は、具体的な症状は急性上気道炎と同じで、肺炎患者のような激しいせきや呼吸困難といった症状は出ないまま回復に向かった、という。このように症状の変化が多様な上に遺伝子検査の受け入れ能力に限度がある以上、軽症患者と症状が似ている風邪の患者らを初期の診察で見分けることは非常に難しいのが実情だ。
新型コロナウイルスに看護師が院内感染したとみられる事態を受けて会見する神奈川県と相模原市の担当者=17日午後、同県庁
◇院内感染の防止がカギ
横浜市で開催された日本環境感染学会学術総会で副会長を務めた東京医療保健大学大学院の菅原えりさ教授(感染制御学)は、市中感染では、感染しやすい高齢者や免疫が低下している患者、医療関係者への院内感染の防止策が重要だと強調した。既に、和歌山県と神奈川県の病院で院内感染とみられるケースが発生している。
「市中感染の場合、新型肺炎の患者が予告なしに飛び込んで来る。各医療機関の水際でどうやって患者を見つけ、院内での感染拡大を防ぐのが大きな課題だ」
診断時には他の患者と接触しないように個室に誘導し、診察する医師は気密性の「高いN95マスク」と「アイシールド(ゴーグル)」を装用し、診療後には窓を開けて室内の換気に努めるようアドバイスする。入院時や重症化してウイルス感染の危険性が高いと予想される患者への対応は、可能であれば空気が外に漏れないようになっている室(陰圧室)で、必要に応じて十分な防護服を装着することを勧める。
マスクをして介護に当たる老人ホーム職員ら(千葉市)
◇予防に事前練習
こうした措置は感染拡大の防止だけでなく、医療スタッフや周囲の患者の安心感にもつながる。菅原教授は「防護服は着用より脱ぐときの方がより注意が必要だ。事前に練習をしておくことが望ましい」と言う。
その上で、医療機関だけでなく長期療養型施設や高齢者施設での集団感染に対して最新の注意を払って対応する必要がある、と指摘。新型コロナウイルスが主に飛沫(ひまつ)感染すると想定されることから、手洗いや消毒などの手指衛生の徹底や診療時のマスクやガウンの使用などを徹底するよう呼び掛けている。(