偶然にも今日は千葉市の安藤操さんが「ドン・ロドリゴ日本見聞録」出版の新聞記事がありましたが・・・いすみ鉄道ファンでは、ユーモアたっぷりのヴァージョンが続いています。
本多忠朝 画:鍋之助さん
御宿岩和田浦でドン・ロドリゴ一行を乗せたサン・フランシスコ号が座礁し、それを救助した時の城主が本多忠朝侯です。(画像は鍋之助さん作) 当時メキシコ(ヌエバ・エスパーニャ)はスペインの植民地でしたので、スペインとの交渉もここから始まりました。 鎖国政策によって途絶えてしまった250年ですが、明治22年に我が国とメキシコとの間で「日墨修好通商条約」が締結されました。 これは、開国以来初めての平等条約として知られています。それを記念して久我原さんが小説を書いてくれています
お断りしておきますが、これはフィクションですよっ
前回までのお話は全部→ コチラ
忠古の憂鬱な宴の時間となった。
殿様は父、忠勝公の後を継ぎ大多喜を治め、更なる新田開発を計画している。立派な殿様だと忠古は思っていた。ただ、酒癖が悪い。飲めない忠古にとってはこれが殿様の唯一、嫌な部分であった。今日は、遭難者とはいえ、元フィリピン総督のドン・ロドリゴと幕臣、三浦按針の歓迎の宴である。悪い事が起きなければ良いが、、、
「三浦殿、ロドリゴ殿、改めて、ようこそ大多喜へ。これをきっかけに徳川家とイスパニア国の絆が深まる事を祈っております。こんな田舎でたいした事は出来んが存分にお過ごしくだされ。では、乾杯。」
忠朝の音頭で乾杯がされた。ロドリゴが杯に口をつける。初めて日本酒を飲んだ。見た目は白くにごって牛の乳のようだが、とろりとした舌ざわりにほんのりと甘みがあり、のど越しにアルコールを感じられる。按針がロドリゴに日本酒の感想を聞いた。
「ロドリゴ殿、日本酒の味わいはいかがかな?」
「はい、慣れ親しんだワインとは違い、この様にまろやかな味わいの酒は初めてです。」
「私は、アルコールのきついウィスキーに慣れていたので、最初は物足りなく思ったが、慣れてくるとこれが良くてな。ただ、口あたりの良さの割には、結構足に来る。ロドリゴ殿も気をつけられよ。ふぉふぉふぉ。」
「そうですか。なるほど、この口あたりがとても酒とは思えぬが、杯を重ねればワインと同じような酔い心地なるかも知れません。」
二人の楽しそうな様子を見て、酒好きの忠朝は興味を持った。
「なんじゃ、三浦殿。楽しそうだが、酒の話か?」
「本多殿、ロドリゴ殿は日本の酒が気に入ったようです。」
「そうか。我が領地で作る酒は自慢でのう。異人のお二人が気に入るかどうか心配していたところです。そいつは良かった。があ、はははは。」
忠古は上機嫌の忠朝を見て、今日は早めにお開きした方がよさそうだと思った。機嫌よく酒が進み、失態を起こさなければ良いが。
忠古の心配をよそに、酒は進み、忠朝も大分酔いが回ってきたようだ。小半時も過ぎた頃であろうか、三浦按針が忠朝に声を掛けた。
「本多殿、ロドリゴ殿が、本日のお礼にとイスパニアの酒をお持ちになっています。回収された積荷の中に残っていたとの事で、お酒を好まれるのであれば是非、本多殿にも飲んでいただきたいと。」
忠古は眉間にしわを寄せて、忠朝を見つめている。
「三浦殿、私は飲みたいのは山々だが、見張りがダメだというております。」
「見張り?見張りとはなんのことで?」
「ほれ、あそこに。」
と、忠古を指さした。
「お戯れを。」
忠古は短く答えたのみであった。
「三浦殿、あの堅物はほうっておいて、せっかくのるろりこ殿の志。いたラこうレはないか。」
忠古はぎくりとした。殿のろれつが回らなくなっている。何も無ければ良いが。
忠朝はイスパニアの赤い酒、ワインを飲んだ。渋い。
(ロドリゴ殿は良く、こんなものをうまそうに飲むな。)
と忠朝が思っていると、ロドリゴが忠朝にスペイン語で何か話しかけてきた。
「ん?三浦殿、るろりこ殿はなんと言われた。?」
「ワインの味はいかがかと?」
「うん。ちと、渋いのう。それに、この赤い色は血の様でなんとなく気味が悪いが、、」
ロドリコは忠朝がどんな感想を持っているかと、忠朝の顔を見ている。それに忠朝は気がつき、
「いや、せっかくのるろりこ殿の好意、ありがたく頂戴しましょう。」
と言うと、按針が小声で答えた。
「いや、実は私もワインよりもウイスキーの方が好きでございます。やはり、故郷の酒の味わいが一番でしょう。」
「うえすけー?」
「私の故郷の酒です。ウイスキーは日本の焼酎の様な強い酒です。これに比べれば日本の酒を初めて飲んだ時は少々物足りなく感じ、、、、」
「なに、私の酒が物足りない!?三浦殿、それは聞き捨てラらぬ!」
「あ、、、いや、これはご無礼しました。今では、私も、、」
「三浦殿、、、わしはなあ、、、」
そこで忠古がさえぎった。
「殿、私はこのワインと言う酒は言い味わいだと思います。」
「フン、飲めぬ忠古が何を言うか。少しなめただけでいい加減なことを。」
言っていることはわからないが、険悪な雰囲気を察したロドリゴが按針にスペイン語で声をかけた。
「按針殿、なにやら本多様にはお気に召さないようですが、ここは我ら三か国の友好を願って乾杯しませんか。」
ロドリゴが申し訳なさそうに按針に話しかけているのを見て、忠朝はロドリゴには悪いことをしたと思った。酔いがまわり、少々言いすぎてしまった。
「三浦殿、これはご無礼いたしました。つい、日本の酒の悪口を言われたようで、これは言いすぎであった。許されよ。があははは。まあ、味は渋いがこのワインと申すもの、香りは良いレはないか。ところでるろりこ殿はなんともうされた?」
「我らの絆の深まることを願って乾杯しましょうと。」
「それは良い。」
忠朝の目配せで、三人が杯を挙げるとロドリゴは微笑み、忠朝に向かって言った。
「サルー。」
忠朝はぎろりとロドリゴをにらみ、
「なんラと。」杯を飲み干して、たちあがった。
「今、猿と申したか?るろりこ殿、誰が猿じゃ?わしを愚弄する気か?」
忠朝は上半身を左右にふらつかせながら、ロドリゴをにらみ付けている。ロドリゴは忠朝がいきなり怒りだしたわけがわからなかった。サルー(salud)とはスペイン語で乾杯と意味だが、忠朝はそれを自分のことを猿と言ったのと勘違いをしている。按針はあわてた。
「本多殿、落ち着かれよ。サルーとはロドリゴ殿の国の言葉で乾杯という意味です。」
すると忠古が手を叩いて笑いだした。
「はっはっは。殿が猿とは面白い。太閤秀吉様も若いころは猿と呼ばれて天下をとったもの。これは、殿が天下を取るという暗示ではございませんか?」
すると、今度は按針が気色ばんだ。
「中根殿、何を申される。今は徳川の世。本多殿が天下を取るなど、それは謀反を意味することではありませんか?」
今度は真っ赤な顔をして立ち上がった忠朝があわてる番だった。
「忠古、なんてことを申すのじゃ。今の言葉取り消せ。わが父は命をかけて徳川家に仕えてき、また大恩もある。わしが謀反を起こすはずも無かろうに。」
忠古がこの場を鎮めようとした冗談であることは平静の忠朝ならすぐにわかることだが、酔いがその判断力を鈍らせた。
「これは悪い冗談を、ご無礼しました。私も少々酔いが回ったようで。」
という、忠古はロドリゴの持ってきたワインを少しなめただけである。忠古の口元は笑っているが、目は相変わらず冷静だ。まるで顔の上半分と下半分が別人のように思える表情に、三人は薄気味の悪いものを感じた。忠朝も今日は珍しい客を迎えたのがうれしくて飲みすぎたことを自覚し始めた。
「忠古の悪い冗談で座が白けたのう。按針殿も、るろりこ殿もおつかれレあろう。この辺でお開きとするか。」
忠古はその不気味な表情で忠朝を見つめた。
(お疲れなのは殿の方。それに、座をしらけたのは誰のせいじゃ。)
忠古がそんな風に言っているような気がして、忠朝は酔いがさめていく気がし、按針とロドリコに向かって言った。
「三浦殿、ロドリコ殿。我ら、元をただせば三河気質の暴れ者だが、この戦国の世を戦いぬいて生き残ってきた誰にも負けないという自負がござる。故郷の酒自慢でついつい言葉が過ぎてしまった。酒の席とはいえお恥ずかしいところを見せてしまった。許されよ。」
と、話す忠朝の言葉も平静に戻ったようだ。
第12話に続く
どんなになるのか、ハラハラしましたよ♪
この小説読んで大多喜城のことに興味を持って来たんです。
実はそれまであまり興味がなかった。今だから言いますけど。。。
今じゃもう「ロドリゴ」反応すごいですから、私。
ジャンヌさんと偶然の出会だそうですが、小説を書ける方と出会うのはすごく少ない確立だと思います。きっと天がいすみ鉄道を残そうとしてくださっているのですね。
久我原さんありがとうございます。ジャンヌさん、皆さん、いすみ鉄道のことを本当に思って活動してくださってありがとうございます。
体を壊さないようにお祈りしています。