答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

「より安く」について

2017年02月18日 | 三方良しの公共事業

次に「より安く」(きのうの続編です→『「より早く」について』)。

今という時代の消費者マインドを前提として考えれば、これはじつにやっかいな問題である。

ひょっとしたら勘違いされているかもしれないが、わたしはこれまでひと言も「より安く」を是としたことはない。いつの間にか「良く早く安く」が3点セットであるかのような空気が世の中に蔓延してしまったがゆえに、「より良いモノをより早く」を提唱するわたしもまた、その3点セットの信者かのように思われているのかもしれないが、「より良く」と「より安く」は共存し得ないとわたしは思っている。少なくとも、わたしが生業とする公共土木の世界では、共存させてはいけないものだと思っている。

「それはオマエ、矛盾だろう?」と思ったそこのアナタ。その疑問はもっともだ。なぜならわたしは昨日、「より早く」についてこう書いた。

 

公共事業の執行に関わる無駄を省けば自ずから「早く」なるだろう?ということだ。平たく言うと、施工者のわたしや発注者のアナタがテメエらの都合でチンタラやるのを止めて、本当の「お客さん」である地域住民のためを考え、公共事業の最前線たる現場を回していこう、ということだ。


この文脈においては、「早く」と「安く」を置き換えても何ら不都合はない。積極的に無駄を省いて「安く」を追求するべきだ、という筋立ても成り立つ。だがやはりわたしは、公共土木において「より安く」を追い求めるのは危険だと言い切ってしまう。

「賢い消費者」とは、「最少の貨幣で、価値ある商品を手に入れることのできた者」(内田樹)だ。「賢いお買い物」とは、「5円玉1個で自動車を買う」ようなことを言う。極端なことではない。「価値ある商品を最少の貨幣で買う」という行為はどこまでも行っても許されるのが「今という時代」で、むしろそのことが賞賛されてしまうのが、「今という時代の消費者マインド」が醸し出している空気なのである。「良いモノ」は「安く」手に入れることができない、という常識が都合よく置き去りにされている。そんななかで、公共土木において「より安く」を追い求めるのは、とても危険なことなのだ。


「わたしたちのお客さんは住民です」

皆さんご存知のとおり、十年来唱えてきたわたしの決まり文句だ。

「やっかいな問題」はじつはそこ、「住民がお客さん」という考え方のなかにある。「わたしたちのお客さんは住民です」というその住民が「今という時代の消費者マインド」を持った消費者として振る舞うとき、「賢い住民」と「賢い消費者」は同義になるからだ。「賢い消費者」とは、すなわち「より良い」モノを「より安く」買うことができる存在のことを言う。「安く」は「賢い消費者=賢い住民」にとっての至上命題なのである。もう一度言う。そんななかで、公共土木において「より安く」を追い求めるのは、とても危険なことなのだ。

 

そういった風潮のなかで「わたしたちのお客さんは住民です」と言ってしまっていいのか?自分の首を自分で絞めているようなものではないか?わたしが「やっかいな問題」と感じるのはそこである。それに対してわたし自身が出した答えは、「お客さまは神さま」ではないということ。迎合しないこと。わたしをとりまく現実がそんな威勢のいいものではないのは承知で、けれど、いつもどこかに「迎合しないこと」というマインドを隠し持っているという姿勢。そしてその道しるべとして、わが女房殿の師匠であるS先生の言葉、

私はお客さんに媚びないよ、だって私は技術を売っているんだもん

(この文句、気負って言うとカッコ悪いですね、あくまでサラリと言うところがミソ)

を持ちつづけて「辺境の土木屋」を生きることだった。

 

なんだか取りとめがない内容になってしまったような気がしないでもない。じつはこれ、生のプレゼンテーションでは何度も繰り返して話していたことだ。幾度かここでも書いたことがある。しかし、思い起こしてみれば、最近ちょっと端折り気味だった。現実の多くに対しては、笑ってごまかすか、切歯扼腕しつつ涙をこらえて沈黙するしかないヘタレなオジさんではあるが、わたし自身の考えは折りにふれ確認しておくことが大切だと思いたち書いてみた。

我ながら唐突なような気がしないでもない。尾上一哉さんの『地域建設業ーある建設業者の遺書』に触発されたことは間違いがない。感謝したい。

 

 

地域建設業―ある建設業者の遺書
尾上一哉
熊日出版


と、ヤットコサの思いで書いた尻から続編が思い浮かんだ。

ということでつづきは明日、『「石工の話」アゲイン』のココロだあ

(にならなかったらゴメンね)



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