答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

贅肉

2024年09月04日 | 読む・聴く・観る
Audibleで藤本義一の講演録『言葉と文字』を聴き、打ちのめされたのは先月の初めでした。にもかかわらず、それから3度も繰り返して聴いてしまったのは、そのショックが真っ当な言説を聴いたがゆえのものだったからでしょう。

言葉と文章はちがうと氏は言います。
例として挙げたのが次の言葉です。

 私は妻と結婚して三十年がたった。

氏によると、これは文章ではなく言葉なのだそうです。理由は、贅肉がつきすぎているから。
ではどうすれば文章となるのか。この言葉を例題として、段階的に贅肉を削ぎ落としたのが次の流れです。
まず「私」という主語を切る。

 妻と結婚して三十年がたった。
  
しかしこれではシロート以下だそうです。
次にするのは「妻」を切ることです。

 結婚して三十年がたった。 

これがわかるのが、ものを書き始めてだいたい5年ぐらい経ったころだとか。しかし、これでも文章ではないそうです。次に氏が示す手法は「置換」です。

 三十年たった。結婚してから・・・。

これでようやくアマチュアの域を脱したことになるのですが、まだプロと名乗ることはできないそうです。この程度の文章、つまり「置換」という手法を使うぐらいのことは、できる人が世の中には履いて捨てるほどいるからです。
問題は「結婚」です。俗にすぎる。なので「結婚」という言葉を消して、重みのある文字に替える。

 私と妻との三十年間の歳月。

さらに短くするために、また主語を切る。

 妻との三十年間の歳月。

これで終わりではありません。
次は、あろうことか、「結婚」に替えて連れてきた「歳月」を切ってしまいます。

 妻との三十年間。

最後に「妻との三十年間」の「間」も取ってしまいます。

 妻との三十年。

こうなって初めてプロの文章と呼べるのであり、それが文章の省略なのだと氏は言います。大胆に言い切ってしまえば、要諦は「贅肉を削ぎ落とす」ということになるのでしょう。
といっても、氏がそこに至ったのは五十歳をすぎてからであり、「書きながら、書きながら、ようやくわかってきた」のだそうです。

ぼくが長いあいだここへ書いてきたものを、ぼくは文章だと信じて疑うことがありませんでした。ぼくがショックを受けたのは、それが単なる言葉の羅列にしかすぎなかったと知ったからです。
そして、新聞の読者投稿欄を例に出して言った言葉に打ちのめされます。

上手いひとは自分で自分の才能に気づいていない
自分で上手いと思って驕って書いてるひとはだいたい下手
そういうひとが訴えかけてくるのは文章力ではなく言葉なんです


うむむむむ・・・これは痛いところを突かれた・・・と白目をむいたぼくはしかし、なるほど仰るとおりだと得心したがゆえに、繰り返し聴き、今後の糧にしようとしました。
ところがどっこい、現実はぼくの想いをくみ取り、すぐにそれをぼくに与えてくれるほど甘くはありません。何度聴いても、それだけで飛躍的に上達するはずもありません。
だとしても、「書く」以上は、上手や達者に少しでも近づきたいというのが人情です。だから、ぼちぼちとつづけていきましょう。ついた贅肉は削ぎ落とすように心がけて。また、「上手いと思って驕って書く」ことだけは避けるようにして。といってもたぶん、ぼくに藤本義一が言うところの「プロ」の文章が書ける見込みは、この先どこまで行っても、爪の先ほどの可能性もないのでしょうけれど。


ー・ー・ー・ー・ー・ー

と、そんなテキストを書いたのは、台風でどこへも行かず家にいた土曜日。いつになく書きだめをしたので「予約投稿」を設定したのですが、今日にしたつもりが、まちがえて昨夜になっていたのでした。気づいたのは今朝、あわてて取り消し、あらためて投稿しようと今、これを追記しています。そうしようと思った要因は、今日の朝、Xで次のようなポストを目にしたからです。

******
会社の太ったおじさんに「朱肉あります?」と聞いたら「ごめん贅肉しかない」と返された。私が会社を好きな理由の半分はこのおじさん。
@noriko_uwotaniより)
******

かなりバズっているようですが、さもありなん。
「つきすぎた贅肉」もこのように活用できれば申し分がありません。

もちろんこれは、ただの「贅肉つながり」にしかすぎず、藤本義一の言が説く本質とはなんの関係もないのですが、「ついた贅肉」を活用するというのもスタイルとしてはアリなのではないか、などという邪道を考えてしまったぼくなのでした。つまり、己の贅肉を認めて許す。そして活用する。
ハハハ、思いつきの世迷い言です。笑って流してやってくださいな。でわ。


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