日本の田舎が超のつくほどの高齢化であることは、今さら言を俟たないが、今回の入院でもまた、あらためて認識させられたことがしばしばだった。
入院患者の年格好が異常に高いのである。その一人ひとりに年齢をたずねたわけではないが、66歳と2ヶ月のぼくが飛び抜けて若く、そして元気だと看護師が口々に言うのだから推して知るべしだろう。
あるひとりが言うには、以前からあったその傾向は5~6年前からあきらかに顕著になり、今では、入院患者のほとんどを80歳以上が占めているらしい。
「ピチピチやんか」
おのれの皺々は重々承知をしているが、その事実を聞くなり、ついついそんな軽口が出てしまったほどである。
それは退院前日のことだったか。若い看護師に状況をたずねられ、
「あいかわらず傷口は痛むけどね。けど、しばらくはこんなもんながやろ?」
と答えると、彼女からこんな言葉が返ってきた。
「そう。あとは”日にち薬”ですよ」
へ~、いい言葉ぢゃないか。
このぼくが初めて聞くような古い言葉を知っているとは。ふだん年寄りの患者とばかり付き合っているのもあながち悪いことではないではないか、などと思ったぼくは、彼女が部屋から出ていくやいなや、その言葉の意味が、とっさに自分が感じたものと同じかどうか調べてみた。
「日にち薬」
日数を重ねてじっと養生していれば病気やけがが自然によくなってくる意。(『大阪ことば事典』より)だそうだ。思ったとおりである。
ふむ。想像どおりだ。しかし・・・
「日にち薬」
元々関西地方で日常的に使われていた言葉で、今や全国区といってよいほどポピュラーらしい。
あらま、なんのことはない。ただ単に、このぼくが無知だっただけのことである。
" The older , the wiser. "
年寄りほど賢いものだ。
また、アフリカのある国には、「高齢者が1人亡くなることは図書館がひとつ無くなるようなものである」ということわざがあるという。それが、古今東西万国共通、老人が有するストロングポイントである。なのに・・・
しゃあないジイさんや。アタマを掻きつつ苦笑いするしかなかった。