町役場から修繕工事を頼まれて、打ち合わせに向かったその先のひとつは、
私が始めて現場監督をさせてもらった農道だった。
どこで失敗して、どこを作り直して、どこで怒って、どこで泣いたか、
さすがにどこが誰の田んぼだか、その何人かは忘れてしまっていたが、
色々なことを、きのうのことのように思い出すことが出来る。
以前は、工事が終わって何年経っても、よくここを訪れた。
ここに来ると、自分を奮い立たせることが出来たからである。
気がついてみたら、最近とんとご無沙汰だった。
久しぶりに思い出の地に立ち浮かんだ言葉は、
「初心忘るべからず」。
月並みなようだが、原典である世阿弥は深い。
いわく、
ぜひ初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
「初心忘るべからず」とは、それまで経験したことがないことに対して、自分の未熟さを受け入れながら、その新しい事態に挑戦していく心構え、その姿を言っているのです。その姿を忘れなければ、中年になっても、老年になっても、新しい試練に向かっていくことができる。失敗を身につけよ、ということなのです。
今の社会でも、さまざまな人生のステージ(段階)で、未体験のことへ踏み込んでいくことが求められます。世阿弥の言によれば、「老いる」こと自体もまた、未経験なことなのです。そして、そういう時こそが「初心」に立つ時です。それは、不安と恐れではなく、人生へのチャレンジなのです。
(『The能com』世阿弥の言葉 http://www.the-noh.com/jp/zeami/words.html#word01より)
「初心忘るべからず」
まこと仰るとおりなのである。