書評
『シン読解力 学力と人生を決めるもうひとつの読み方』(東洋経済新報社)
著者 新井紀子
14 リーディングスキルテストとは何か?
①係り受け解析
「スラング」(p31)だらけのようだ。
「単純計算すると、30分弱で終わるテストですが」(p90)に含まれた「単純計算」は意味不明だ。また、「終わるテスト」や「1時限の授業時間中にテストが終わるよう設計されています」(p90)という文に含まれた「終わる」が意味不明だ。
「文の構造を読み解くこと」(p91)は意味不明だ。〈構造を読む〉って、どういうこと?
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この問題群では、提示された文に関する知識や親密度、好き嫌いなどに左右されない、頑健な文章構造読解の力を測ります。
(p91)
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「この問題群」は「①係り受け解析」(p90)と呼ばれる。
「問題群」の「群」は無視しよう。だが、〈「問題」「では」「測ります」〉は、意味不明だ。この文の「文章構造」なるものは、どうなっているのだろう。
「知識や親密度、好き嫌いなどに左右されない」なんてことは、あり得ない。「左右されない」という証明はできているのか? 新井らは精神について、ほとんど何も知らないようだ。ちょっと不気味だ。「例題」(p81)に関する私の指摘を参照してくれ。
「頑健な」は、どの言葉を修飾するのだろう。ううん。分からん。「構造」かな? でも、「文章構造」の意味が分らないからなあ。
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「係り受け」とは、文中の「主語と述語」、「修飾語と被修飾語」などの関係性を指します。
(p91)
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「関係性」って、近頃、よく見たり聞いたりするけど、単なる〈関係〉と、どう違うの? 無用の「性」は「スラング」だよね?
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構造上、単文・重文・複文の3種に分け、また、機能上、平叙文・疑問文・命令文・感嘆文の4種に分ける。
(『広辞苑』「文」⑤)
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これは「文」の構造の説明であって、「文章構造」の説明ではない。
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文よりも大きい言語単位で、通常は複数の文から構成されるもの。それ自身で完結し統一ある思想・感情を伝達する」
(『広辞苑』「文章」③)
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「自己完結的」(p82)という「スラング」は、この説明の誤読によって作られたのかもしれない。
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問題01は、「係り受け解析」の問題の一例です。
(p91)
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これは割と簡単な問題なのだが、「正答率は62・7%」(p91~92)だそうだ。私の普段からの感想だが、近代社会において約三分の一の人は、「シン読解力」が何だとしても、とにかく日常生活を営むのに十分なだけの読解力は身に付かないのではなかろうか。
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間違え続けると、「おじいさんは山にしばかりに、おばあさんは川へせんたくにいきました」という文を読んで、「川へいったのは( )です」にあてはまる言葉を探すような、とてもやさしい問題が出題されます。
(p93)
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『桃太郎』を知っているか知らないかで、正答率に違いがあるはずだ。
「山に」と「川へ」の「に」と「へ」の混用は、よくある。
男は、「山に」おいて芝刈りをするために、山へ行く。
女は、川において洗濯をするために、「川へ」行く。
〈山に着いた〉が正しいが、〈山へ着いた〉という方言はある。
「しばかりに」は〈「しばかり」をし「に」〉が正しい。「せんたくに」は〈「せんたく」をし「に」〉が正しい。しかし、口調の良さを優先させる場合、文法的に正しくなくても構わない。
「あてはまる」の前には〈の空欄〉などが必要だ。
「とてもやさしい問題」なら、「おばあさんは( )へせんたくにいきました」だよね。記憶できないと読解はできない。ただし、幼児に『論語』を暗誦させるのは過酷だ。
この問題文は、七面倒くさいのだよ。
「問題02」にも知識問題の一面がある。
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アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
(略)
セルロースは( )と形が違う。
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読解が不十分でも、「アミラーゼ」と「グルコース」と「デンプン」と「セルロース」に関する知識があれば、迷わない。
アミラーゼは「澱粉・アミロース・グリコーゲンなどを加水分解してマルトースやルコースなどを生じる」(『広辞苑』「アミラーゼ」)という知識と、グルコースは「澱粉・グリコーゲン・セルロース・蔗糖・乳糖などの構成成分をなす」(『広辞苑』葡萄糖)という知識と、セルロースは「グルコースが結合して生じた鎖状高分子化合物」(『広辞苑』「セルロース」)という知識があれば、読解力はほとんど不要だ。
問題文の「分解できない」の主語が分かっても、以上の知識がないと、迷う。
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この問題の正解は、①デンプンですが、なぜか、「アミラーゼ」を選ぶ人が多いことがデータでわかっています。
(p93)
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「なぜか」って、質問してみなさいよ。怠け者め。
返ってくる答えの多くは、〈化学が苦手だから、問題文を読みたくなかった〉だろう。〈片仮名、嫌い〉という返事もありそうだ。
この「アミラーゼ問題」(p93)は「係り受け解析」(p91)だから、「知識や親密度、好き嫌いなどに左右されない」(p91)という条件がある。だが、実際には「左右され」るはずだ。
(14終)