『冬のソナタ』を読む
「影の国へ行った人」(上p33~59)
2 眠り姫
少女よ、急ぎなさい。
「眠るなよ!」
(上p40)
眠りなさい。急いで眠りなさい。
そして、遅刻しなさい。
通学時間が長いせいで、毎回バスの中で居眠りをしてしまうユジンは、その日も座ってすぐうたた寝をしてしまった。
ユジンが隣に座っている男を意識し始めたのは、しばらく過ぎてからだった。
(上p40)
眠り姫は、眠ることによって「男を意識し始めた」のだ。
ユジンは、まるでこの現実はすべて彼のせいだと言わんばかりに、しばらく怒った足取りで歩き、突然立ち止まると自分をきょとんとした眼で見ている男にまた言った。
(上p41-2)
眠り姫が目覚めると、二人だけの「この現実」が始まる。
「早く来て。何してるのよ。一緒にタクシーに乗ればタクシー代も半分ですむでしょ」
(上p42)
「半分」の始まり。
若干長く感じる前髪が額を半分ほど覆っている整った顔に浮かぶ憂愁を、ユジンはそのとき感じることができなかった。とても長い歳月が流れたあと、ユジンはやっとそれが彼の本当の姿であることを知ったのだった。
(上p42)
「感じること」によって「知った」のではない。「知った」から「感じること」ができるようになったのだ。
ユジンは驚きのあまりに眼を大きく見開き、思わず叫んでしまった。
「あの子よ!」
(上p43)
眠り姫を発見した「男」だけが彼女に発見してもらえる。
(終)