goo blog サービス終了のお知らせ 

ヒルネボウ

笑ってもいいかなあ? 笑うしかないとも。
本ブログは、一部の人にとって、愉快な表現が含まれています。

腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 28 受話器

2021-12-30 17:17:39 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

       28 受話器

久しぶりに夢を見た。

……飛ぶ夢。

でも、前のとは違う。前は飛ぶのが怖かった。夜更けの、あるいは夜明け前の、あの夢は怖くなかった。浮かぶようで、滑るようで、流れるようで、ほどけるようで、漂い、揺らめき、捧げ、溶けるようで、届けるようで…… 

嘘。

譬えは嘘。いつだって、そう。

飛ぶ夢なんか見なかった。飛ぼうとしたら電話のベルが鳴った。電話は夢じゃなくて受話器の感触は本物。

話を聞きながら眠り込んだ。何の話だったか、思い出せない。相手が誰だったか、思い出せない。

じゃあ、あれは夢? 

じゃあ、何、今、握っている、これは? 肘掛け? 靴? 幼い頃、斜面を下りるときに縋った、あの撓う横枝? 杖? もしかして、ピストル? 

軽くなりたい。薄くなりたい。消えてしまいたい。

眠りたい、夢など見ずに、光に花が運ばれるように。

(終)