団地小説短編集を歩く

団地小説短編集の舞台を歩きながら団地や地域の魅力をお伝えします。

小説タウンハウス 16 山田川頭首工跡から第四隧道 淡河川・山田川疏水(淡山疏水)7

2019-03-22 08:44:21 | 日記

       山田川疏水事業の再興

  小説タウンハウス 12 淡河川頭首工 淡河川・山田川疏水(淡山疏水)4(2018.8.17)で淡河川疏水が当初山田川疏水とし

 て計画されたこと及び淡河川に変更された理由について書いていますので詳しくはそちらをごらん下さい。

     山田川の特徴       

       淡河川疏水及山田川疏水通水量表  大正12年~昭和15年  

  

  青い棒グラフが淡河川疏水、赤い棒グラフが山田川疏水を表します。単位は坪立法でメモリは20万~220万です。山田川

 の取水量が多いことが判ります。淡河川頭首工水利使用標識によれば最大取水量は毎秒1立方メートル、対して山田川頭首工は

 毎秒1.3立方メートルであったようですが年間の取水量は大きく違っています。

       呑吐ダムの集水面積  呑吐ダム管理事務所(正式名称はとても長い)

  

  呑吐ダムの集水面積は49.8k㎡で山田川頭首工は約2km上流になりますので狭くはなりますが、形状から考えて40k㎡

 位は有ると思います。神戸電鉄の大池あたりが有野川→武庫川との分水嶺になります。志染川は神戸市に入ると山田川となりほ

 ぼ有野川と並行して六甲山を上ります。現在は神戸市北区山田町下谷上の山田川と箕谷川の合流地点まで志染川となっていま

 す。

       六甲山の降水量  県立六甲山ビジターセンター

  

  六甲山は急峻な地形で、標高差が大きいこともあって、山麓と山頂の気温差が約6℃、年間降水量の差が600mmも有りま

 す。大阪湾の北に位置し太平洋から紀伊半島を経て吹き込んでくる暖かく湿った南風を受け止めます。このため六甲山地は温暖

 小雨を特徴とする瀬戸内海気候区に属しながら多雨地となっています。


  工事の困難さから断念された山田川疏水事業ですが、淡河川疏水供給地域での開墾に伴う水需要の拡大に伴い、明治29年復

 活が決議されますが、この時は、借入金の返済中(明治38年完済)のため測量のみが行なわれました。

  また周辺地域の参加希望の要請も高まります。特に明石郡神出村外一箇村(岩岡村?)普通水利組合がその創設の際将来合併

 の内約があり要請を拒否できない状況となりました。

     蒸気機関による揚水か水路の建設か

  この時すでに、加古郡神野村(JR加古川線に神野駅があり其の付近です)で加古川からの潅漑揚水機が設置されており、淡

 河川と山田川の合流地点、つまり、御坂サイフォンの位置で蒸気揚水機により揚水、淡河川疏水に流すことが考えられました。

  御坂サイフォンについては、

  小説タウンハウス 13 御坂サイフォンと御坂神社 淡河川・山田川疏水(淡山疏水)5(2018.9.14)をご覧下さい。 

  調査の結果、揚水機による揚水は可能であり、揚水設備、淡河川疏水の水路改修費で19万円、山田川疏水を建設した場合

 24万円で5万円安くなるが、15~17年で機械の交換、港からの石炭の輸送コストが膨大となり、また故障のリスクもあり

 山田川疏水の建設が優れているとの結論になった。

  山田川疏水による新規加入を加え明治41年1月加古郡母里村外四箇村普通水利組合は淡河川・山田川普通水利組合と改組し

 明治44年2月山田川疏水の起工式を挙行します。

       兵庫県山田川疏水平面図 縮尺一万分の一  淡山疏水東播用水博物館蔵       

  

  今回は、山田川頭首工跡から第四隧道入口までとなります。

       いなみ野台地を潤す水の路 淡河川山田川疏水       新しい地図

  

  いつもの地図です。⑤が山田川頭首工  鳥居の付近が神戸市休養村管理センターになります。左の⑥のすぐ左が3号隧道

 となります。


       山田川頭首工跡

  山田川頭首工は大正4年に竣工しましたが、平成3年11月13日に山田川疏水の水源が大川瀬導水路(国営東播用水)に

 切り替えられたため呑吐ダム南側以東の山田川疏水幹線は廃止され山田川頭首工は撤去されました。

  山田川疏水の水は篠山川の川代ダムから川代導水路を通り大川瀬ダムへ、さらに大川瀬導水路通り、呑吐ダム内サイホンを

 通り山田川疏水幹線に送れることになりました。これについては回を改めて書きます。

   

  写真 左 完成当初の山田川頭首工。淡山疏水東播用水博物館蔵

  写真 右 昭和32~33年の県営改修後の山田川頭首工。いなみ野ため池ミュージアム

  

  県道85号線(神戸加東線)新坂本橋から見た山田川頭首工跡です。上流の橋が坂本橋になります。

   

  写真 左 坂本橋から見た山田川頭首工跡です。「山田川をきれいに クリーン作戦実施中 山田川を美しくする会」の

       のぼりが立ってます。実は昭和36年架橋の坂本橋では山田川、昭和56年架橋の新坂本橋では志染川となって 

       います。志染村は昭和29年三木市に合併します。志染村は播磨国、山田村は摂津国になります。神戸市北区山

       田町の住民としては、山田川の名称は絶対に譲れないものでしょう。ちなみに三木市にある御坂サイフォン橋の

       正式名称は淡河川疏水御坂噴水管架載志染川弧石橋でした。

       ずでに廃止されたため山田川頭首工の看板はありません。山田川愛に溢れる皆様、高々と山田川頭首工跡の看板

       を建ててはどうでしょうか。

  写真 右 山田川頭首工跡から下流の河原は平成10年に親水空間として整備されました。(利用上の問題から閉鎖中)大

       きな岩の上の建物はカフェ&レストラン「ヴィレッジハウス桂林」です。下流には大きな岩山もあり奇岩・岩柱

       の景勝の地、桂林にちなんだ名でしょうか。山田川疏水の工事の困難さが想像出来ます。


       水路跡

   

  山田川頭首工から谷間に入るまでは痕跡は残っていませんが、谷筋に入ると道路の反対側に水路跡を見ることが出来ます。

   

  入口は多少平地がありますが、崖にへばりつく形となります。 

   

  放置されていますので、荒れるに任せてこれ以上は進めませんでした。


       衝原付近

   

  神戸市自然休養村管理センターです。昭和62年の呑吐ダムの完成に合わせて整備されたと思いますが現在は廃墟状態です。

 トイレはつくはらサイクリングターミナルを利用できますが、トイレのみで自転車の貸し出しは行なっていません。老の口分

 水所まで神出山田自転車道が整備されています。バス停は衝原(箱木千年家)で箕谷駅前から1時間に1本程度のバスがあり

 ます。

  国の重要文化財の箱木家住宅です。呑吐ダムの建設に伴い水没する32戸の住宅とともに移設されました。現在は観光シーズ

 ンのみ公開されているようです。

   

  管理センターの前の県道の反対側に水路跡があります。土管はおそらく呑吐ダム建設に伴う県道の整備時に敷設されたもので

 しょう。


       第三隧道から第四隧道

   

  つくはら湖沿いの県道85号線彌谷橋の上流側に2輪車なら止められる程度の空き地があります。下りるための簡単な階段

 があります。 

   

  下りたところが第三隧道の出口になります。第三隧道の内部で、短い隧道です。第三隧道の内部ですが型枠にコンクリート

 を流し込んだように思われます。当初は岩盤の素掘りで県道の建設のため後から補強したのかも知れません。

   

  第三隧道を通って上流側の入口です。さらに上流側は竹等が折り重なりこれ以上は進めませんでした。   

   

  第四隧道に下っていきます。(勾配は無いに等しいですが)崖にへばりつくように造られています。23年前の淡河川疏水

 の時代ではこの工事が出来なかったのでしょう。

   

  谷を越える石塁です。この水を堰き止めて疏水に流せば良いと思いますが、大雨なれば疏水を破壊する力になるのかも知れ

 ません。

   

  第四隧道の入口と内部です。内部はコンクリートブロックを積んでいます。


       混凝土(コンクリート)の時代

  難読漢字ですがコンクリートと読みます。淡河川・山田川疏水五〇年史によれば、三木町(現三木市)にコンクリート製作

 工場を置き、製作に着手し、明治44年10月6日県知事が巡視せらるとあります。当時はコンクリートミキサー車はあり

 ませんので生コン工場ではなく、コンクリートブロックを作っていたと思います。

  小説タウンハウス 12 淡河川頭首工 淡河川・山田川疏水(淡山疏水)4(2018.8.17)で 淡河川疏水が、測量術・煉瓦

 ・鉄管の外国の最新技術で建設可能となったと、ありましたが山田川疏水では国内で大量に生産され安くなったセメントとコ

 ンクリートの技術が大きな役割を果たしたと思います。

  山田川疏水では石積み、煉瓦積みが小さな工作物を除いてコンクリートブロックに置き換わります。立派なトンネルの入口

 も実は石ではなくコンクリートブロックです。工事費が各段に安くなります。また急峻な岩肌にへばり付く水路の建設もコン

 クリートで可能となりました。

   

                写真はいずれも淡山疏水東播用水博物館蔵

  写真 左 コンクリート制作工場。隧道では129516箇のコンクリートブロックが使われました。

       内部巻立用189939箇、入口用2577箇。

  写真 右 隧道断面図。硬い岩石隧道は素掘り、その他の隧道はコンクリートブロックにより巻立が行なわれました。

       ご注意

  つくはら湖沿いを走る県道85号線は交通量はたいして多くはありませんが、約7kmに渡り信号が無いのでスピードが速く

 なりその上カーブが多く道路上は非常に危険です。また水路跡は30年近く放置されていますので劣化と荒廃が進んでいます。

 特に谷側への転落には十分注意をして下さい。水路は見かけ以上に深く下りたら登るのが大変です。

  隧道と水路跡は、ほぼ残っているようですが見られたのはここだけでした。


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