団地小説短編集を歩く

団地小説短編集の舞台を歩きながら団地や地域の魅力をお伝えします。

小説タウンハウス 2 再録 小説タウンハウス 第1回 アカシザウルス

2017-04-07 06:42:49 | 日記
    小説タウンハウスは春から始まって秋祭りで終わる短編小説です。数回に分けてブログで再録します。

   分割掲載のため副題を付けています。石ヶ谷公園は明石市の西部、神戸市西区に接する大きな公園です。小説タウンハウス

  はここから始まる、2キロメートル四方の超ローカル小説です。地図を見ながらお楽しみ下さい。


         
       
       
   健太がのどを渇かして帰ってきた。もう明石ザウルスを5回は滑ったであろう。明石市の石ヶ谷公園の明石ザウルス

  は35mの長いすべり台を持つ巨大恐竜型の超大型複合遊具で、健太のお気に入りである。お茶を飲みながら、「お父

  さん。お母さんににた人見つけたよ。また会ったらお父さんにも教えてあげる」と言うと、また出かけて行った。

        

        

                     

   妻の京子は昨年の夏に亡くなった。健太はもう5歳。母の死がわからないわけでは無い。きっと母を忘れないために

  無意識に似た人を探しているのだと思うと、英一の返事はいつもあいまいになってしまうが、健太がここまで言うのは

   初めてだある。

   健太はすぐに帰ってきた。

   「おとうさん。こっちこっち」と手を引いて、「ほらあの人」と指さした。英一は思わず手をつないでごまかしたが、

  確かに、よく似ている。

   その時、相手も気が付いた。

   「もしかして本郷君?」

   英一は迷った。子供ずれである以上、姓は変わっていると思った。

   「やっぱり、山下さん」中学の同級生の山下恵子であった。

   中学を卒業して20年。姫路を離れてもう10年以上になる。明石で同級生に会うのは初めてだある。もっとも普通

  なら出会ってもお互いにわからないであろう。

   「理恵ちゃんご挨拶は?」恵子が言った。

   「山下理恵、4歳です」

   「本郷健太、5歳です」健太が答えた。

   「理恵ちゃん、良かったねお兄さんに遊んでもらいなさい」と恵子が言うと二人は飛び出して行った。

  

   順序から言うと、恵子が妻に似ているのではない。妻が恵子に似ていたのである。

   「本郷君、今日は奥様は?」恵子が聞いた。

   京子に癌が見つかったのは、妊娠がわかって間もなくの時であった。子供を諦めて医療に専念する選択もあったが

  京子は生むことを望んだ。子供のためにずいぶん頑張ったが昨年の夏に亡くなっていた。

          注 現在では出産と癌治療の両立の研究が進んでいます。

   「山下さんは?」英一は遠慮がちに聞いた。

   「私は、シングルマザー」

   美人で秀才であったあった恵子から意外な言葉が返ってきた。

   その時、健太と理恵が帰ってきて、恵子が言った。

   「次の日曜日は、おばさんがお弁当を作るからみんなで石ヶ谷の中央体育館にお花見に行きましょう」

        

                                                 つづく 
   
   小説タウンハウス他9話「団地小説短編集」

          明石市松が丘2丁目3-7

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