耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

“土用の丑のウナギ”考

2007-07-30 08:02:35 | Weblog
 今日は“土用の丑の日”である。“ウナギ”を食べる日とされている。

 (参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E7%94%A8%E3%81%AE%E4%B8%91%E3%81%AE%E6%97%A5

 “土用の丑の日”に“ウナギ”を食べる習慣は「平賀源内」によるとされているが、吉野裕子著『ダルマの民俗学』(岩波新書)では、『陰陽五行説』から次のように説いている。

 <…土用とは「四立(立春・立夏・立秋・立冬)」の前18日間をさすので、年間、四回あるわけである。しかしふつう、土用といえば、それは七月、つまり旧六月・未月の夏の土用のことで、その「土用の丑の日」が、ウナギの日となっている。
 なぜ夏の土用が土用として意識され、またこの夏の土用中の「丑」の日がウナギの日とされているのだろう。>

 中国古代哲学思想の根幹をなす『陰陽五行論』については前に何回かふれた。この「陰陽」と「五行(木・火・土・金・水)」、それに「十干十二支」の組み合わせによる「宇宙循環論」の理解は簡単ではないが、古代日本の律令制下の中務省には『陰陽五行論』に立脚した「陰陽寮」という機関が置かれ、役職の一つに有名な「陰陽師」があり、政治に重きをおく役職だった。およそ1400年後のこんにち、その名残りが日常生活の中に鮮明に受け継がれている。「還暦」などはその代表例だろう。

 吉野裕子説を理解するためだけでなく、わが国の民族・風習の背景を知るためにもぜひ次を参照いただきたい。

 「陰陽五行説」:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E9%99%BD%E4%BA%94%E8%A1%8C%E8%AA%AC

 さて吉野裕子説にもどるが、年4回ある「土用」のうち夏(火気)の土用はカラカラに乾燥している「燥土」で、これに対し冬(水気)の土用は「湿土」である。カラカラに乾燥した暑熱の「土気」に当たれば、悪疫が流行し、人に害を与える。これを鎮めるためには「湿土」が必要となる。

 <旧六月(未)に対するものは十二月(丑)。この丑月の土用は前に述べたように湿土なので、この「丑」を重ね合わせればいいわけであるが、月を動かすことは不可能である。
 そこで丑月の代わりに、これを日でとって、丑日を重ね合わせる。つまり、夏の土用の丑日はすなはち「土用丑日」ということになるから、これで乾燥した土を、湿土で中和できるのである。

 丑日ということなので本来は「牛」を食するべきであるが、牛は農耕にとって大切な獣だったため、それはタブーだった。そこでウのつくものなら、「ウナギでもよかろう、万葉の昔からウナギは精のつくものとされていたから」という理由で、おそらく、「土用丑日のウナギ」という習俗が定着した、と私は思う。現にウナギのほか、ウメでもウリでもウの字がつくものが、この日の食物とされているところもある。…>

 「土用丑の日のウナギ」は平賀源内(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E9%99%BD%E4%BA%94%E8%A1%8C%E8%AA%AC)説が有力とされているが、私は「陰陽五行論」由来とする吉野裕子説に賛同する。中国医学(漢方)が「陰陽五行論」を基礎に成立していることからみても、この方が説得力があると思う。


 ところで、「ウナギ(鰻)」の性味・効用は、
・性味 温、甘
・帰経 脾、胃、肝経
・効用 体の弱っている場合に、よく補養して元気を回復させる。夜盲症や条虫を除くのに有効である。(山崎郁子著『中医営養学』)

 「民間療法」として以下の処方がある。(『漢方・鍼灸・家庭療法』:保健同人社)
・【目の疲れ】
 ヤツメウナギのかば焼きを食べる。または、そのくん製一匹を5日分とし、焼いて食べる。ウナギのかば焼き、ドジョウの柳川鍋なども、昔から推奨されている。
・【肺炎】
 ウナギをびんに入れ、酒の燗をするようにして、一時間沸騰させると、ウナギの脂がたまる。これをさかずきで一杯、塩をすこし加えて飲む。
・【胸膜炎】
 クマヤナギの葉、茎15グラムにウナギの頭三個をあわせて一日量とし、二合半の水で半量に煮つめ、毎食前30分に分服する。

 江戸時代の『日用食鑑』には「甘、温、毒なし、腰を温め、陽を起こし、食を進め、肉を長(こや)し元気を壮んにす。又痔疾、悪瘡(悪性のできもの)及小児の疳疾(栄養不良)を治す。あるいは味噌汁に煮て食えば、小児の雀目(とりめ)を治す」とあり、さらに「西瓜、ぼけ、梅酢、もち」などとの食い合わせが悪いとある。

 貝原益軒の『養生訓』には、銀杏(ぎんなん)とウナギの食い合わせが悪いと書いている。また、生きたウナギを一寸ぐらいに切り、熱燗の酒の中に入れ、冷やしてから飲ませると、酒飲みは酒がきらいになるという。

 劉大器著『薬膳』には「中国では昔から“精が尽きたらぬめりのあるものを食べよ。根(こん)が尽きたら根(ね)のある野菜を食べよ”といわれています。魚ではウナギ…、野菜ではヤマイモ(山薬)…。ウナギには強壮・強精作用があります。また、冷えによる痛みやはれを除くはたらきもあります。」といい、【よく効く食べ方】として「“動悸・息切れ”にウナギ1尾、ガーゼに包んだ黄ぎ15グラムをよく煮て、スープを飲み、ウナギも食べる」とある。

 近年、ウナギ生産量の減少、中国産ウナギの汚染問題など話題が多いが、夏ばて防止に「土用の丑のウナギ」を頂くのも悪くはないだろう。