■「自由に吸える」のではない

 たばこ規制をめぐる最近の議論で「スモークフリー」という言葉をしばしば目にします。スモーク(Smoke)は言うまでもなく、たばこの煙のことですが、フリー(Free)は「自由」ではなく、「〜〜がない」という意味です。「バリアフリー(障壁のない)」や「ストレスフリー(ストレスのない)」などと同じ用法です。

 「自由に吸ってもよい」という正反対の意味に誤解される恐れもあってか、日本で禁煙キャンペーンなどに使われることは従来多くはありませんが、医学論文を検索すると1980年代の後半には登場しており、広く使われている言葉です。「スモークフリー・ソサエティー(たばこの煙のない社会)」、「スモークフリー・ホスピタル(たばこの煙のない病院)」などの「スモークフリー○○」といった表記のほか、「たばこフリー○○(たばこのない○○)」という言い方もよくされます。

■WHO事務局長からの手紙

 日本のたばこ規制の強化を求める世界保健機関(WHO)事務局次長らは4月上旬、マーガレット・チャン事務局長が厚生労働大臣にあてた手紙を携えて来日し、2020年の東京五輪を見据えた「スモークフリー・ポリシー(たばこの煙のない政策)」推進を訴えました。

 事務局長は手紙の中で、近年開催された各五輪において「たばこフリー」の方針が採られてきたこと、2015年時点で公共の場を禁煙としている国はレストランやパブ、バーで63か国、職場については64か国に広がっていることなどを説明。さらに、WHOなどの研究によると、たばこフリーの政策は売り上げや雇用にマイナスの影響はないとされていることを強調しました。

 厚労省で記者会見したダグラス・ベッチャーWHO生活習慣病予防部長も、「受動喫煙を防ぐには、部分禁煙(分煙)では効果がなく、完全禁煙にすることが必要である」ことを、各国の例やデータを基に繰り返し述べました。

■たばこ規制枠組み条約を批准

 公共の場所における受動喫煙対策は、日本も批准している「たばこ規制枠組み条約」において定められており、各国に法律の制定をはじめとする対策実施を義務づけています。同条約は、喫煙による健康被害を防ぐためには地球規模での取り組みが必要であるとして、2003年のWHO総会で採択され、05年に発効しました。たばこ広告の原則禁止や、たばこの箱に一定面積以上の健康被害の警告を載せること、未成年の喫煙を防ぐための価格・税金の引き上げなど、包括的なたばこ対策が盛り込まれています。

 日本の成人男性の喫煙率は2000年当時、50%超と先進国の中で際立って高く、「たばこ天国」そのものでした。そんな中で、03年に公共の場所の禁煙化をうたった健康増進法が施行されました。病院や学校などの禁煙化が進んだことや、自動販売機の販売規制、禁煙治療の普及など、たばこ対策が進んだことを背景に、喫煙率は近年、成人男性で30%程度にまで減少しました。

■東京五輪を絶好の機会に

 こう見ると、この15年ほどで日本のたばこ対策はかなり進んだように思えます。ところが残念ながら、日本のスモークフリー政策は、世界各国の取り組みを4段階に評価したWHOのまとめで、最下位グループとなっています。WHOによると、公共の場所がすべて禁煙となっているのは2014年時点で49か国あり、アフリカなどの中低所得国も含まれています。

 日本国内のたばこ対策がある程度進んだと言っても、世界ではそれを上回るスピードでたばこ規制を強めており、世界的に見れば依然、日本は「たばこ天国」と言われても仕方ないでしょう。2020年の東京五輪は、「たばこフリー・オリンピック」を実現することで、世界基準に一歩近づく絶好の機会と言えます。(田村良彦)

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受動喫煙被害防止に関して、日本は世界水準から大幅に遅れています。タバコ権益まみれの政治家たちが邪魔するからです。世界の人びとは、ロシアや中国を含めて、そんな時代遅れの日本のことをあざ笑っていることでしょう。

一日も早く受動喫煙被害がなくなるように、公共屋内の全面禁煙化を日本は急がねばなりません。