アマゾン熱帯雨林は、南アメリカ大陸の大河アマゾン川流域に大きく広がる550万㎢におよぶ世界最大の熱帯雨林で、地球上の熱帯林の総面積のおよそ半分を占めます。
アマゾン熱帯雨林 NASAによる衛星写真
アマゾン川とそこに流れ込む1,000本以上の大小の支流は、地球上の全淡水量の15%にあたる700㎢もの巨大な水系を形づくっていて、豊かな水が森をもたらし、豊かな森が大地の潤いと川の流れを護ります。
アマゾン熱帯雨林
アマゾンの森は多種多様な生き物を育んでいて、昆虫が250万種、魚類が3,000種、植物は少なくとも4万種、427種の哺乳類、1,294種の鳥類、428種の両生類、378種の爬虫類が生息していて、アマゾンでしか見られない固有種も多く存在します。
コンゴウインコ
サシハリアリ
タマリン
コバルトヤドクガエル
植物は二酸化炭素を利用して光合成を行い酸素を放出しますが、アマゾンは二酸化炭素を吸い込む量が多いので「地球の肺」とも呼ばれてきました。しかし実際のアマゾン熱帯雨林は、若い樹木と比べて酸素を大量に消費する巨大な幹の大木や、有機物を分解する過程で酸素を消費する土壌の微生物によって、酸素と二酸化炭素の放出と消費が均衡しています。
熱帯雨林は1967年頃に比べて20%消失しました。2006年の国際連合食糧農業機関(FAO)の報告では、南アメリカでは毎年0.3%の森林が失われ、アマゾンの森林の伐採された土地の70%が放牧地や、飼料作物の生産など畜産に利用されてきました。
ブラジル国立宇宙研究所によってブラジル領の熱帯雨林で伐採の状況が調査されていますが、4,100,000 km²だった面積が2005年には3,403,000 km²にまで減少し、17.1%が失われていました。
熱帯雨林伐採
森林破壊によって引き起こされたと見られる木々の枯死が多発していますが、焼き畑や枯死が増えると二酸化炭素排出量が一気に増えて、二酸化炭素の排出量の方が多くなってしまいます。
アマゾンの森林の3分の2はブラジルに属しますが、同国で2019年1月に就任したボルソナーロ大統領は、大統領選でブラジル経済の回復に向けてアマゾンの開発を進める公約を掲げていて、この公約通りに環境規制を解除して監視体制を緩め、森林の伐採や農地の拡大、鉱物の採掘などが加速していると環境保護団体が指摘しています。
ブラジルでは1940年代に政府によるアマゾン開発計画が開始され、1960年代以降アマゾン縦断道路や横断道路が次々と建設されて、アマゾン開発が本格化しました。道路に沿ってまず木材伐採業者が入り、マホガニーやイペーなどの商業価値のある木を切り出し、有用でない木は焼き払い、裸地となった森の跡地に農地が次々と開かれていき、その多くが広大な放牧地を有する肉牛飼育牧場になりました。
1990年代以降のアマゾンは、輸出用大豆栽培のための大規模農業開発地へと変貌します。アマゾン南側のセラード地域で1970年代後半から始まった大豆開発が大成功で「大豆開発前線」がアマゾンへと北上したのです。
「法定アマゾン地域」は、農場面積のうち80%を森林として残さなければならないと法律が決めていますが、ほとんど守られていません。巨大水力発電所の建設や金鉱山開発などの国家規模のプロジェクトや、木材の不法伐採業者が森を破壊し、ガリンペイロと呼ばれる違法の金採掘者が水銀で川を汚すのも、深刻な問題となっています。
1988年に観測衛星を使った観測が始まって以降のブラジルのアマゾン森林累計消失面積は、2018年時点で日本の国土面積の1.1倍に相当する42万㎢で、消失率は8.4%に達しました。
大規模に森を失ったアマゾンは急速に乾燥化が進んでいます。熱帯林の土壌は緑を失えば、大地は強い日差しの下で急速に荒廃が進みます。アマゾンの環境に適応して進化してきた生き物たちは、森が破壊され、環境が変われば、生きてはいけません。水資源の枯渇は農業にとっても死活問題です。
アマゾン熱帯林の広がりは南米大陸の9か国におよびますが、アマゾン全体の面積の63%を占めている最大の保有国がブラジルです。ブラジル政府はアマゾンと、その周辺のセラード(熱帯草原)からアマゾンへと移り変わる部分を含めた地域を「法定アマゾン地域」と定め、開発と保護の両面の政策を進めてきました。法定アマゾン地域の面積は522万㎢で、ブラジルの国土面積の61%に及びます。
アマゾン熱帯林の保護は地球の種の多様性を守るだけでなく、地球規模の気候変動の抑止にもなります。また二酸化炭素排出権の国際取引市場では圧倒的に売り手の側に立つブラジルにとって、アマゾンの保護は経済的利益にも直接つながっています。
4月22日は「ブラジル発見の日」と呼ばれる記念日です。西暦1500年のこの日、のちにブラジルと名付けられる大地にポルトガル人がはじめて上陸しましたが、その大地には遥か以前から先住民族の暮らしがありました。
1500年当時の先住民族の人口は、ブラジル全土で300万人にのぼったと云われています。最近の研究では土壌に残された焼き畑などの人間活動の痕跡から推定して、アマゾン地域だけで800万人もの先住民族がいたという仮説も出されていて、アマゾンの森は森を壊さずに自然と共生して生きる知恵を持った人びとの活発な人間活動の場だったと云えるでしょう。
ブラジルの先住民族の人口は現在およそ90万人で、そのうち48%がアマゾンで暮らしています。国の人口に占める割合は0.47%と僅かですが、ブラジルの先住民族は305の民族、274の言語という民族的・文化的な広がりを持つ多様性に満ちた社会を形づくっています。
植民地化が進められた1500年以降、先住民族は入植者が持ち込んだ病気や入植者による虐殺で急速に人口を減らし、最も数が減少したとされる1957年には、全国でわずか7万人が残るにすぎませんでした。その後、先住民族全体の人口は回復に転じていますが、小さな民族や言語の消滅はいまも進行しています。
ブラジルでは1988年に軍事政権の時代が終わって民主主義の新憲法が公布され、ブラジルの先住民族が独自の固有文化を保持する権利が認められました。先住民族が居住と利用の権利を有する土地は、境界画定と呼ばれる認定作業によって決定されます。
先住民族保護区は全国に505か所あり、先住民族の57.7%がそこに暮らしていますが、保護区の総面積は国土面積の12.5%にあたる107㎢で、うち98.33%がアマゾンに集中しています。
2019年1月に発足したボルソナーロ政権はパリ協定からの離脱を示唆するとともに、アマゾンにおけるアグリビジネスの推進を重要政策の一つに挙げて更なる推進を表明、憲法で先住民族による土地の利用のみが認められている先住民族保護区内でも、農業や鉱山の大規模開発を認めていこうとして来ました。
ボルソナーロ政権は法務省の下部組織が担ってきた先住民族の人権保障プログラムを、女性・家族・人権省の下部組織へ格下げし、境界画定業務を、アグリビジネス振興を主要任務とする農牧供給省へ移管して、今後の動向が注目されていました。
2022年10月30日のブラジル大統領選挙で、2003年から2010年まで2期大統領を務めたルラ氏がボルソナーロ氏に僅差で勝利し、2023年1月大統領就任後に、アマゾンの森を護りぬくことを表明したのは明るいニュースです。
アマゾンの深い森にくらす先住民族は、森のめぐみと、森がはぐくむ川のめぐみを糧に生きています。畑で作物を育て、川で魚をとり、森のけものを狩る自給自足のくらし。森の中の焼畑では主食となるマンジオッカ(キャッサバイモ)が、家のすぐ裏の小さな畑ではサツマイモやカボチャなどがつくられます。
先住民族が行う伝統的焼畑は、じきに地面から木々が芽吹き始め、やがて森が再生する持続可能な知恵に満ちた農業です。シングー川流域の森を空から眺めると、川や湖の近くにぽつりぽつりと先住民族の村があるのが見えます。
村には円形の大きな広場を囲むようにして丸みのある家が丸く並び、その周囲には焼畑や、焼畑跡に再生した二次林が広がっています。ひとつの村の人口は最大でも500人ほど。妻の生家に夫が入って2〜4世代が同居するという女系家族の文化を多くの民族が持っています。
先住民族の生活の中で祭りはとても重要で、死者の魂を送る祭り、3日3晩歌い踊り続ける女たちの祭り、子どもから大人になる通過儀礼、リクガメの収穫祭などが行われます。祭りの日は、ボディペインティングと羽根飾りの正装で身を整えた人たちで、村は色鮮やかににぎわいます。
一方、先住民族社会と外の社会との間の人や物や情報の行き来が年々進みつつあり、都会の大学で学んで村に戻り、ITや法律などの知識を駆使して政府などとの交渉に臨む、新しい世代も少しずつ増えています。
アマゾン先住民の子供たち
彼ら新世代は先住民族としてのアイデンティティや、伝統文化と現代文明のいずれかを否定する立場には立たず、伝統文化に現代文明を加味したもう一つの途を、歩み出そうとしているのです。
2013年に始めた私のブログが満10年を越えました。これまで読んでいただいた多くの方々に、心から感謝申し上げます。