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歳を取らないと分からないことが人生には沢山あります。若い方にも知っていただきたいことを書いています。

アスベスト

2016-01-27 06:22:48 | 日記

石綿耐熱性絶縁性、保温性に優れていて、断熱材、絶縁材などに用いられ、「奇跡の鉱物」として重宝されてきました。しかしこの奇跡の鉱物が塵肺肺線維症肺癌、悪性中皮腫(ちゅうひしゅ)など、人体への健康被害を起こすことが分かったのです。

石綿(いしわた、せきめん、アスベスト)は、蛇紋石角閃石繊維状に変形した天然の鉱石で無機繊維状鉱物の総称です。古代エジプトではミイラを包むとして、古代ローマではランプとして使われていました。中国では、の時代に西戎からの貢ぎ物として石綿の布が入ってきて、火に投じると汚れだけが燃えてきれいなることから火浣布(火で洗える布)と呼ばれ、珍重されていました。

日本では1764年明和元年)に平賀源内秩父山中で石綿を発見し、これを布にしたものを「火浣布」と名付けて幕府に献上しました。この源内の火浣布は京都大学図書館に保存されているそうです。

石綿の産地としてはカナダ南アフリカが有名ですが、我が国にも産地は多く第二次世界大戦直前から各地で石綿資源の開発が始まり、北海道富良野市山部地区は国産石綿産地として大規模なクリソタイル鉱山が操業していましたが、1969年に採掘が中止されました。

アスベストの繊維1本は髪の毛の5,000分の1程度の直径0.02-0.35 μmで、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などに非常に優れ、安価であるため重宝されて建設資材電気製品自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきました。

1938年ドイツでアスベストが肺癌の原因となる可能性が新聞に載り、ドイツ政府はすぐにアスベスト工場への換気装置の導入、労働者に対する補償を義務づけました。1964年には空気中の大量のアスベストが、人体に有害であると指摘した論文が発表されました。

世界で最初にアスベストの製造物責任を追及されたのは、世界最大のメーカーであったアメリカジョンズ・マンビル社です。1973年に同社の製造者責任が認定されると、1981年の段階で被害者への補償金額が3,500万ドルを超え、最終的な賠償金の総額が20億ドルに達すると推定され、1982年倒産しました。類似の訴訟1985年までに3万件に達し、世界的にアスベストの使用が削減、禁止される方向に向かいます。

空中に飛散した石綿繊維を長期間大量に吸入すると、肺癌中皮腫の誘因になりますが、アスベストへの曝露から発病までは30年から40年と云われます。アスベストの被曝は職業上のものが圧倒的ですが、アスベストを取り扱う事業所の近隣住民や、アスベストを取り扱う労働者の家族にも患者が出ます。

中皮腫の主な発生部位は胸膜(70%)と腹膜(20%)です。初発症状に乏しいことが多く、症状としては胸水の貯留による呼吸困難が多く現れます。浸潤は瀰漫(びまん)性で横隔膜を伝う形で腹膜に浸潤したり、縦隔を通って心膜に腫瘍を形成することもあります。腹膜中皮腫は進行すると腹部膨満、腹痛悪心嘔吐腹水などの症状を示し、末期には腫瘍が腸管に癒着し腹腔内臓器が一塊となります。

多くの場合胸部X線C Tで胸膜外兆候や胸水貯留を認め、通常は片側性です。生検はきわめて重要で確定診断の根拠になります。手術適応症例は胸膜肺全摘術、放射線治療化学療法が行われますが、診断時にすでに根治手術が不可能なことが多く、化学療法はある程度の効果を挙げていますが、予後はきわめて不良で1年生存率は50%、2年生存率が20%です。

我が国では1970年代に、胸膜中皮腫が稀な症例の出現として注目を惹き、アスベストとの関連が分かると、学校を始め公共の建築物にアスベストが広範に使用されていたため、どれ程の範囲に患者層が広がるのか大変心配されたものです。

1975年9月に吹き付けアスベストの使用が、まず、禁止され、その後、労働安全衛生法で作業環境での濃度基準が決められ、大気汚染防止法特定粉じんとして工場・事業場からの排出基準が定められます。廃棄物の処理及び清掃に関する法律でアスベストの飛散防止を図りました。

肺胞の入口は直径数十μmと小さいため、一旦気管支から肺胞に入ったアスベスト繊維は排出されません。肺胞に入った生物由来の繊維状物質の綿、羊毛、紙などは、白血球の一種マクロファージによって分解されます。しかし鉱物であるアスベストはマクロファージが分解出来ず、鉱物繊維の周囲を取り囲んだマクロファージが死滅し、肺がんや中皮腫発生の誘因になるとされます。

 アスベストは繊維なので、空気中のアスベスト濃度は本数で表されます。アスベスト工場で500本/リットルの環境で50年間労働すると、肺がんリスクが2倍になるとされます。喫煙の相乗作用もあります。

1989年に行われた大気汚染防止法の改正で、労働安全衛生法に基づく工場内石綿粉塵管理濃度は150本/リットル、大気中アスベスト敷地境界基準は10本/リットル以下と定められました。2004年までにはアスベストを1 % 以上含む製品の出荷が原則禁止され、2005年には関係労働者の健康障害防止対策の充実を図るため、石綿障害予防規則が施行されました。水道水中には多量のアスベストが含まれていますが危険性はないとされています。

2005年6月にクボタ旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺の一般住民に被害が及んだことが伝えられ、1999年度から2004年度の間に石綿による肺癌や中皮腫の労災認定を受けた労働者のいた事業場の一覧が、2005年7月29日付けで厚生労働省から公表されています。

2006年2月3日「石綿による健康被害の救済に関する法律」と被害防止のため石綿の除去を進める関連3法が成立しました。アスベストによる健康被害で死亡した被害者の遺族には、特別弔慰金280万円と葬祭料約20万円、治療中の被害者には、医療費の自己負担分と月額約10万円の療養費が給付されることになりました。

この法律は、中皮腫と肺癌を救済の対象にしていて対象の範囲が狭く、石綿肺や瀰漫性胸膜肥厚については、2010年7月1日に著しい呼吸機能障害を伴うものに限り対象に追加しました。

2012年には我が国で、1,400名の中皮腫による死亡が発生しています。過去の石綿汚染の健康被害が本格的に顕在化し始めたとみられますが、アスベストが原因の死亡者の大半はアスベスト製造工場の粉塵の中で長い年月労働した人たちで、アスベストの製造が例外なく禁止されている現在、アスベストの環境への排出量はゼロとなり、あらたな粉塵吸引の問題はなくなりました。

残された大きな問題は現存する建物の中に大量にアスベストが使われていることで、学校病院等の公共建造物ではアスベストの撤去作業を進めていますが、建物を解体しない限り危険性はないと云われ、解体工事時にはアスベストが飛散する恐れがあるので、撤去するかどうかは意見が分かれます。

環境省では既存の建築物の解体によるアスベストの排出量を2020年から2040年頃をピークに、年間10万トン前後と予測しています。アスベストを無害化する研究は盛んに行われていて、建築物の壁などに断熱材などとして吹きつけられた繊維状の飛散性アスベストについては、壁から剥離しない状態で赤外線によって短時間加熱し溶融無害化する技術が、2008年に産業技術総合研究所から発表されています。 

専門業者による建物の解体作業は、解体業者や廃棄業者の暴露防止対策として労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則が定められ、解体時の大気への飛散防止対策も大気汚染防止法に基づく措置、廃棄時も廃棄物処理法で溶融処理等の無害化対策が規定されています。したがって計画的な既存建築物の解体作業は問題がないと見做されます。

一方自然災害では一挙に多くの建物が破壊されますから、飛散防止の対策なしに大量のアスベストが空中へ散布されることが想定されます。しかし高濃度のアスベストの粉塵に長期間暴露されない限りアスベストの公害病は発生しませんので、頭の痛い問題ではあっても、近い将来におこることが想定される東南海、南海地震では、あまり心配する必要はないと思われます。

 


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食料自給率

2016-01-20 06:37:01 | 日記

 食料自給率は、国内で消費される食料のうち、どの程度が国内産かを表す指標です。品目別自給率は、などの品目別の自給率のことで、品目の重量を使います。国内の生産量割ることの国内の消費量になります。

カロリーベース自給率は、国民1人1日当たりの国内生産カロリーを国民1人1日当たりの供給カロリーで割ったものです。国民1人1日当たりの供給カロリーは国産供給カロリー、輸入供給カロリー、ロス廃棄カロリーの合計です。

生産額ベース自給率は、価格×生産量で個別の品目の生産額を算出し、合計して一国の食料生産額を求め、国内で消費する食料の総生産額で割ったものです。

農林水産省が推計した1965年から2007年までの主要国の食料自給率は、生産額ベースでオーストラリア128%、カナダ121%が高く、アメリカ92%、ドイツ、スイス、日本が70%です。カロリーベースでは、オーストラリア205%、カナダ258%、アメリカ127%、ドイツ92%、スイス57%、日本39%となります。

日本の2010年の品目別自給率は、穀類27%、いも類75%、豆類8%、野菜類81%、果実類38%、肉類56%、卵類96%、牛乳・乳製品67%、魚介類54%、砂糖類26%、油脂類13%でした。

2010年度の米、麦、とうもろこし等の穀類の国内の総需要は、3,476万トンで、国内生産は932万トンでした。総需要の内訳は飼料用が1,516万トンと非常に多く、加工用514万トン、純食料1,196万トンとなっています。大豆などの豆類では総需要404万トンに対し国内生産32万トン、需要の内訳は飼料用12万トン、加工用270万トン、純食料108万トンとなっていました。

魚介類の総合自給率は54%と報告されていますが、国産漁獲は531万トンでその内訳は沿岸漁業129万トン、沖合漁業236万トン、遠洋漁業48万トン、海面養殖111万トン、内水面漁業8万トンとなっており、自給率の1割弱は遠洋漁業によるものです。

各都道府県のカロリーベース自給率では、100%を超えるのは北海道と青森県、岩手県、秋田県、山形県のみです。北海道は192%と全国一を誇り、一番低い東京都は1%となります。

穀物自給率は28%で、米・小麦・トウモロコシ・大豆の4大穀物のうち、米以外はほぼ全量を輸入に頼っています。我が国のコメは生産過剰で輸入の必要はまったくありませんが、778%というコメの高関税を維持する代わりに、これまで毎年一定量の外米を無税で輸入するのを余儀なくされてきました。

コメは生産調整で減反政策がとられて休耕田が増え、小麦・大豆・トウモロコシには連作障害の問題があり、飼料用のコメの生産が勧められていますが、休耕田の利用はままなりません。  

肉類や卵などの国内自給は必ずしも低くないものの、畜産のために大量の穀物を輸入していて、油脂を生産する原料の輸入も大量です。国土が狭いための飼料自給率の低さが、畜産製品の自給率の低さに影響しています。畜産物・油脂のほかに、輸入に依存している割合が多い食料は小麦や砂糖です。 

一般の国民に知られていないのは、日本の農産物のうち高関税品目は1割に過ぎず、9割の品目は極めて低い関税のため高い対外開放度になっていて、カロリーベースの日本の食料市場の海外依存度が6割を占める理由になっていることです。また日本は低関税率のほかに、輸出補助金ゼロ、価格支持政策廃止と農産物の保護水準が低いことです。 

これに対し欧米諸国は、高関税、農家への直接支払い、輸出補助金など、価格支持政策の組み合わせによる政府からの保護で高自給率となっています。ちなみに、農業所得に占める政府からの直接支払いの割合は、フランスでは8割、スイスの山岳部では100%、アメリカの穀物農家は5割前後であるのに、日本では16% 前後(稲作は2割強)です。このことも知られていません。

食料自給率の計算の分母となる供給カロリーは2,573kcal(2005年)ですが、日本人が一日に摂取する平均カロリーは1,805kcalで、768kcalは食べることなく廃棄されたカロリー数です。日本の食料自給率が、国際的に本当に低いのかどうかには疑問の余地があります。

食料自給率の向上を求める主張では、カロリーベース自給率の39%が根拠に挙げられますが、生産額ベースではドイツ、スイスと並んで日本も70%の自給率があるのです。海外から安く手に入るのに、わざわざ、割高な農産物をつくるのはナンセンスだと云う意見もあります。

我が国の食料自給率に、今後、最も大きな影響を与えるものとして現在騒がれているのが、昨年秋大筋合意されたTPPです。TPP交渉は秘密交渉であるとして初めから終わりまで、その経過を国民に知らされることはありませんでした。その内容がまったく漏れて来なかったのですから、政府関係者ですら知らない人ばかりだった筈です。

農水省はTPPの大筋合意を受けて、多くの品目で影響は限定的だとしました。農林水産物の中でも特に影響が懸念されているのが、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の5項目です。わが国ではこの5項目を重要項目と位置付け、将来にわたって生産が維持できるよう、交渉段階では関税撤廃の対象から除外するよう求めていたことだけは知らされています。

安倍総理は大筋合意を受けた記者会見で、5項目の重要品目を関税撤廃の例外とすることができたとした上で、国内農業への影響を最小限に抑えるため、政府内にすべての閣僚をメンバーとするTPP総合対策本部を設置する考えを示しました。

TPP協定は英語、スペイン語、フランス語を正文とし、日本語の正文はありません。TPPの大筋合意は2015年10月5日ですが、TPP協定全文の英語版は11月5日ニュージーランド政府のウェブサイトに公開されました。日本政府のTPP対策本部からTPP協定の暫定仮訳が公表されたのは、遅まきながら年を超えた平成28年1月7日付です。 

農水省や安倍首相のTPPの説明を通じて明らかになったたことは、日本の農業の現状維持にしか関心がないことです。敗戦直後の日本では復員軍人、引き揚げ者、疎開した人達などが一斉に農業に加入して、1947 年の農業就業者の割合は53.4%になり、戦後経済が復興すると1980年代の初期には10%台に低下しました。 

2009年の林業・水産業を除く日本の農業の国内総生産は、5兆3,490億円で全産業の1.13%です。就業人口は236万人で、建設業に次ぐ国内産業二位の3.7%ですが、農業従事者の平均年齢は65.8歳で,35歳未満が5%の数字が示すように後継者不足が明らかです。 

食の多様化が進んでコメの消費量は1963年の1,300万トンをピークに年々減少し、今や、800万トンほどになっています。大幅なコメの生産過剰により1971年度に始まった減反政策で、減反政策に参加した農家には10アール当たり15,000円の補助金を一律に支払ってきました。 

老齢化して自給自足の農業しかやっていない農家は、土地の税金が安く相続税がかからない農地を所有し続け、実際には耕作放棄された農地が年々増えています。一方で新規に農業への参入を目指す人々は、農業の実績がないと農地を取得できず、企業が効率化を目指して農地を集約しようとしても進みません。農家1戸当たりの農地面積は2007年でEUの9分の1,アメリカの99分の1,オーストラリアの1,862分の1で,耕作面積の極端な狭さが生産性を引き下げているのは明らかです。 

TPP協定の中で最も問題が深刻だと云われているのがISDS条項ですが、政府は農業以外の問題には触れません。農業だけを問題にするにしても、現状維持ができるかどうかだけが課題ではないでしょう。我が国の農業の仕組みを根本的に変えなければならない必要性は、農家でなくても切実に感じています。 

補助金をばらまくことでしか票田を確保できない政治家が、国に頼らない強い農家や食品事業者が増えるのを妨げていると云われるようでは困るのです。昔ながらの人手による、規模の小さい、重労働、低収入のイメージの農業では、若者が参入するのをためらうのは当たり前です。 

日本の農産業、食産業に足りないのは関税なしで買う自由、政府の指示なく作る自由、誰でも農業をする自由(新規参入の自由)の3つの自由だと云う指摘もあります。 

一般社会にITがこれだけ浸透しているのに、農業界にだけは導入されていません。これからの時代は人の職場が、ロボットに奪われると云われるほどITの活用は進んでいますが、農業のやり方が従来のままではIT を活用する余地も限られます。 

露地栽培を行うにしても耕作地を集約して耕作機械の導入を容易にするとか、ITを活用して気象変動に左右されず、台風の被害も受けない大規模な植物工場を稼働するとか、まったく新しい農業に変えていかなければ、日本の農業に未来はありません。 

農業を高収入のやり甲斐のある、余暇の楽しめる農業に変えてはじめて、若者の参入も望めます。日本の農業が根本から変われば、結果として食品自給率の向上も、国産農作物を世界へ安定供給する輸出産業の確立も望みうるでしょう。

 

 

 

 

 

 


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大気汚染

2016-01-13 06:16:43 | 日記

 COP21がパリで開催されている最中の2015年12月7日、北京では大気汚染が深刻化して、最高位の赤色警報が初めて出されました。小、中学校はすべて4日間の休校、車の交通量はナンバーの奇数と偶数に分けて半減され、工場の閉鎖も求められました。この最高位の赤色警報は、12月19日に再び発令されましたが、クリアな青空は戻りませんでした。

これまで北京で行われる国際的なイベントの間は、一時的にきれいな青空が演出されてきましたが、遠くのビル群がかすんで見えない大気汚染は、ますます、ひどくなっているようです。中国の大気汚染は石炭を大量に燃やすことによりますが、温室効果ガスの大量排出を伴う点では、大気汚染と地球温暖化は同根です。

大気汚染は人類の経済的・社会的活動が主因ですが、自然に発生する火山の爆発や山火事なども原因となることがあります。1883年のインドネシアのクラカタウ島の火山の地質学史上5番目の大噴火では、成層圏にまで達した噴煙の影響で、北半球の平均気温が0.5~0.8℃下ったことがありました。

WHOによると2011年には年間130万人が大気汚染で死亡し、室内の空気の汚染による死者は200万人だったと云われます。先進国では室内汚染のリスクは低いのですが、発展途上国ではの利用が多いことなどから室内汚染のリスクが高く、これに屋外汚染が加わる形になります。

地表へ石炭が露出していた国柄もあって英国では石炭の使用が早く、9世紀半ばにはすでにロンドンで空気の悪さが知られていて、1273年には人体への影響から石炭の使用が禁止されました。しかし代替燃料が無いため長続きせず、産業の発展や人口の増加とともに汚染は深刻化していきます。

19世紀に入ると大気汚染はさらに深刻になりますが、1952年12月には二酸化硫黄を多く含んだ濃いスモッグが5日間にわたって停滞し、約4,000人の死者を出し、これを契機にイギリスでは大気浄化法が制定されました。

1990年代の北京上海の大気汚染物質濃度は、1960-1970年代の東京と同程度でした。しかしこれ以降、中国国内の石炭火力発電所、自動車保有台数の急速な増加によって大気汚染は悪化の一途をたどりました。一党独裁の強力な政治体制を持つ中国政府が、どうしてこれまで大気汚染の規制に乗り出さなかったのかは理解に苦しみます。インドもニューデリーを中心に、局地的には中国以上の大気汚染があるようですが、我が国では直接の影響を受けないので中国ほどには注目されていません。

産業革命以降の大気汚染の主役は、石炭の燃焼に伴う「黒いスモッグ」でした。日本では1970年頃からこの対策として、高い集合煙突による煤煙の拡散を目指しましたが、発生源近くの汚染度を引下げたに過ぎず、煤煙を回収する集塵装置が普及した後、排気ガス処理が進みます。

20世紀中頃から先進国では、燃料の主力が石炭から石油に替わり煤煙は減少しましたが、石油に由来する硫黄酸化物が新たに問題になりました。日本では1970年頃から脱硫装置の設置が進んだため、東京の二酸化硫黄濃度は1960年代後半の60ppbが1970年以降5分の1に減少、現在先進国では最も濃度の高かった時期の6分の1に減っています。

現在開発途上国では、先進国ですでに削減に成功している煤煙や二酸化硫黄主体の大気汚染が大問題です。開発途上国と先進国の大気汚染物質濃度を比較すると、窒素酸化物の濃度には差がなく、粒子状物質は開発途上国が先進国の約3.5倍、二酸化硫黄は約2.5倍です。

日本では1970年頃から「黒いスモッグ」に代わって、車から排出される窒素酸化物や炭化水素由来の光化学オキシダントによる「光化学スモッグ」が発生しました。光化学オキシダントは大きな削減ができずに、現在、先進国の大気汚染の主体となっています。

国境を越えての環境汚染も問題化しました。カナダとアメリカの間では1970年代に酸性雨が越境汚染として問題となり、スウェーデンでは1994年の時点で硫黄酸化物の93%、窒素酸化物の87%が国外から運ばれてきたものとされています。

東南アジアでは1980年代から森林火災や泥炭火災の煙が大規模な煙霧となり、周辺国にまで広がる越境汚染が深刻化しました。1997-1998年には9万km2に及ぶインドネシアの森林火災により、東南アジアの6カ国に過去最大の煙霧が発生、2006-2007年にも4カ国で大規模な煙霧が発生しています。

東南アジア諸国越境煙霧汚染ASEAN協定を2003年に発効させましたが、地表に露出している泥炭火災の多いインドネシアが条約を批准しておらず、農地開発のために行う森林の焼却や自然発生的な森林火災で、2015年にも深刻な越境煙霧汚染を起こしています。

1950年代から1970年代に先進国では、大気汚染物質の環境基準が設定されました。1987年にWHOヨーロッパ地域事務局が"Air Quality Guidelines for Europe"を策定して、27種類の物質の基準を定めました。1999年にはこれを拡張して全世界に適用できるよう調整した"Guidelines For Air Quality"を発表、その後2000年に37物質、2005年に4物質の基準を変更・追加しています。

植物が二酸化硫黄や二酸化窒素の高濃度汚染を受けると、黄斑・褐変や大きな斑点を生じ、オゾンでは小さな斑点、葉の湾曲、落葉がおこり、多環芳香族炭化水素では横縞状の大きな斑点が現れることが知られています。硫黄酸化物は石材との反応性が高く、オゾンは有機高分子と、硫化水素は塩化水素は鉄や鋼との反応性が高く、腐食や劣化を促進します。

日本では明治の初期に製鉄所ができた八幡釜石で高炉からの煤塵による大気汚染が起き、栃木・群馬の足尾銅山では精錬所から排出される二酸化硫黄が植物に被害を与えています。愛媛の別子銅山でも、二酸化硫黄が農業被害を起こし紛争となりました。

1883-1884年(明治16-17年)には大阪市で煤煙による広域汚染が問題となり、大阪市は「煙の都」と呼ばれてきました。同様の汚染は京都や兵庫、東京や神奈川、福岡でも生じ、工場周囲での汚染、煤煙による広域汚染に車の排気が加わり、大気汚染は拡大していきました。

第二次世界大戦後は我が国の産業が復興軌道に乗るにつれて、大気汚染が深刻化しました。工業地帯では煤煙が空を覆い、洗濯物が汚れ、視程が悪化するなど生活に影響を与えました。こうした汚染に対して1949年(昭和24年)に東京都、1950年(昭和25年)に大阪府、1951年(昭和26年)に神奈川県で、それぞれ公害防止条例が制定されています。

また1962年(昭和37年)には煤煙の排出の規制等に関する法律が制定され、京浜工業地帯阪神工業地帯北九州工業地帯などの煤や粉塵等の規制が開始されました。この法律では電力・ガス事業が対象外とされたほか、硫黄酸化物を考慮しておらず、1960年頃から三重県四日市ぜんそくの被害が深刻化し始め、後に四日市ぜんそくが四大公害病の一つに認定されます。

1967年(昭和42年)には公害対策基本法、翌1968年(昭和43年)には大気汚染防止法が制定されました。1970年(昭和45年)に大規模な法改正が行われ、窒素酸化物、炭化水素、鉛などの有害物質が規制対象に加えられ、電力・ガス事業も対象となり、工業地域に限定されていた規制が国内全域に拡大されました。

この結果1970年代を境に集塵装置や脱硫装置の開発・普及が進み、煤塵や硫黄酸化物の濃度は低下して、20年間で5分の1程度になりました。2010年の時点で硫黄酸化物の濃度は、測定地点の99%以上で環境基準を達成しています。二酸化窒素の濃度は1970年代に減少して以来横ばいが続き、2000年代からは緩やかに減少しています。

しかし自動車の排ガスに由来する光化学スモッグが深刻化して、注意報の発表延べ日数は1973年(昭和48年)に300日を超えてピークに達した後、1984年(昭和59年)に100日以下に減少しましたが、その後100-200日前後を推移し、2000年と2007年には200日を超えています。

2006年から2010年の5年間で、光化学オキシダントの濃度が環境基準を達成している地点はほとんどなく、また2000年前後から対馬西日本日本海側などで、大陸(主に中国)から越境してきたと推定される光化学オキシダントの高濃度事例が発生しています。冬季には北西季節風により、中国からの寄与度が全体の半分以上になるという解析もあります。

地球温暖化は身の回りの実感としては認識できませんが、大気汚染は発展途上国で遠くの建物がかすみ、日中、車がライトをつけて走るまでになり、目、のど、鼻、呼吸器などに障害を起こして明らかに人体が悪影響を受けるほか、生態系や環境にも大きな被害を与えています。 

地球温暖化も大気汚染も発生原因は同じですが、先進国と開発途上国の事情が大きく異なる現状では、両者を区別して扱った方が対策を立てやすいように思われます。いずれにしても、今後、人類が地球上で生き残っていくためには、地球温暖化も大気汚染もゆるがせにできない大問題です。

 

 


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謹賀新年

2016-01-06 06:14:50 | 日記

 

明けましておめでとうございます。 

正月も6日になって遅めのご挨拶になりましたが、みなさまお元気で新年をお迎えのことと存じます。我が国の平均寿命、健康寿命は男女とも世界一ですが、昨年の敬老の日には百歳を超えた長寿の方が6万人になったそうです。テレビで観る百歳超の先輩たちは、みなさん矍鑠(かくしゃく)としていて、長生きは元気でなければできないのだなと思わされます。 

昨年は日本国中の反対を押し切って、安保関連法案が強行採決されました。その過程で戦後70年間、アメリカによる我が国の占領状態がそのまま続いてきたことが明らかにされ、国民がようやくそのことに目覚めたのはよかったのかも知れません。 

我が国はポツダム宣言を受諾したのですから、平和条約締結までは無条件の占領下であって当然です。しかしそれ以降は、たとえアメリカと安全保障上の約束をするにしても、主権国家として対等の立場での約束であるべきでした。70年間に渡って被占領状態を唯々諾々と受け入れてきたのは、世界史の上でも異常です。 

安保関連法案の陰で、国民生活に大きな影響を与える法案も数多く通過したようです。マイナンバーもその一つですが、秋には財務省が消費税の値上げに際し、すべて、一旦、10%で徴収し、食品についてはマイナンバーを利用して年間で軽減分を払い戻すが、返還額に上限を設けて所得で差をつける案を提示しました。 

これほど国民を馬鹿にした案には政府も悪乗りできず、暮れも押し詰まって低減税率の財源を1兆円まで増額し、外食と酒類を除くすべての食品を対象にすることに落ち着きました。ここまでは、まだ、納得の範囲ですが、軽減税率の対象に新聞を含むことが出てきました。 

食品の軽減税率では、やれ煩雑だとか、やれ準備が間に合わないとか、見え透いたやり取りをさんざん国民に見せつけたのに、理由も示さずに新聞に軽減税率適用とはどう云うことでしょう。メディアの中心はすでにITに移行し、アナログの新聞の購読者は激減しているのに、新聞が政府広報紙であることの見返りでしょうか。 

新聞の軽減税率に頭が回るのなら、すべての消費税を8%に据え置くことに頭が回ってもよさそうです。もし消費税をすべて5%に戻すことにまで頭が回れば、安倍内閣は国民から最高の評価を受けるでしょう。 

トヨタの2014年3月期連結決算では、グループの販売台数が世界で初めて年間1000万台を突破したそうです。売上高は前期比16.4%増の25兆6919億円、営業利益は6年ぶりに過去最高を更新して73.5%増の2兆2921億円。税引き前当期純利益は73.9%増の2兆4410億円の好決算で、世界一の自動車メーカーになったと云います。トヨタの社長が「就任以来はじめて税金が払えるのは喜びだ」と語り唖然とさせられましたが、広報部もこの5年間、国内で税金を払っていなかったと認めています。

我が国の法人税は高すぎて世界に伍していけないと、財界も政府も声を大にして云います。企業の所得にかかる法人税、法人住民税、法人事業税の合計の「法定実効税率」は、2013年度の資本金1億円超の場合、一律、38.01%の筈でした。しかし大手各社は、租税特別措置による優遇税制や国際的な節税スキームを駆使し、実際に払った税金は国民の想像を絶した少額で、「実効税負担率」は「法定実効税率」の何分の一、何十分の一と云う企業が多いのです。

2013年3月期の税負担率が低かった大企業の上位5社は、1位:三井住友フィナンシャルグループ、2位:ソフトバンク、3位:みずほフィナンシャルグループ、4位:三菱UFJフィナンシャルグループ、5位:みずほコーポレート銀行です。

第1位の三井住友フィナンシャルグループは、税引き前純利益1,479億8,500万円、法人税等支払額は300万円、実効税負担率は0.002%にすぎません。2位のソフトバンクは税引き前純利益788億8,500万円、法人税等支払額は500万円、実効税負担率は0.006%で、他にも税負担率の低い有名企業が目白押しです。

かつて一億総中流と云われた我が国で、現在、子供の貧困が深刻化し、6人に1人が貧困と云われます。2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が作られ、2014年に教育支援、生活支援、保護者の就労支援、経済的支援の4つの大綱が示されましたが、実際には名ばかりの教育支援のみで、貧困家庭の経済対策には予算が付きませんでした。

政府は2015年10月に、「子どもの未来応援国民運動」の発起人会を首相官邸で開き、寄付を呼び掛ける決議をしました。法律を作るほどの認識があるのに、政府がお金を出さず民間の寄付に頼る道理はないでしょう。この不条理は12月22日現在、644万円しか寄付が集まらないことで単的に表現されています。

子供の貧困問題は、子供の自己責任ではないのです。おめでたいはずの新年に、こんなブログしか書けない日本を早く終りにしたいと云うのが、残念ながら、今年の年頭の所感です。

 


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