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国連憲章敵国条項

2015-12-23 06:24:08 | 日記

国際連合憲章(Charter of the United Nations)は第二次世界大戦終了後の1945年の秋に発効したので、国際連合は各国が平等に参加する国際的な平和維持機構だと思っている方が多いようです。 

英語のUnited Nationsを我が国では国際連合と訳していますが、本来のUnited Nationsは第二次世界大戦中に、日本やドイツなどの枢軸国を敵とした、アメリカ、イギリスなどの連合国のことです。 

ドイツが既に降伏し、日本が唯一の交戦相手国だった1945年の4月から6月に、第二次世界大戦後の世界平和を乱す国が再び現われないよう、連合国の50か国が憲章を作成して署名し、戦後の10月24日にもう1か国が加わって発効したのが連合国憲章です。 

したがって憲章の条文には、第二次世界大戦中に連合国の敵国であった枢軸国に対する措置を規定した第53条および第107条と、敵国について言及している第77条があります。敵国と交戦中に作成された憲章ですから、当然、敵国条項があって不思議はないのです。

我が国の国連加盟は日ソ共同宣言締結後の1956年12月18日の国連総会で、ソ連が他の東欧諸国と日本の加盟に賛成して実現しました。旧敵国が国連に加盟してから40年が経過し、加盟国が193か国に増えた1995年に、事実上敵国条項が死文化した状況を踏まえて日本やドイツなどが、第53条・第77条・第107条を憲章から削除する決議案を提出し、12月11日国連総会で賛成155、棄権3で採択されました。

しかしこの規定が削除されるためには、国連加盟国の3分の2以上による批准が必要です。我が国では批准が今日まで必要数に達せず、敵国条項は依然として憲章に記載されたままと云う国会答弁がなされていますが、必要数に達しないのではなく、すべての国にとってわざわざ批准することなど全く考慮に値しない問題なのです。

たとえ加盟国の3分の2以上の批准がされても、米国、英国、フランス、ロシア、中国の常任理事国の1国でも批准しなければ発効しません。外務省幹部が批准の目算は立っていないと話していると云うのが、本当のところでしょう。

第53条では、地域安全保障機構のいかなるenforcement actionも国際連合安全保障理事会(安保理)の許可が必要ですが、第二次世界大戦中に「連合国の敵国」だった国が戦争により確定した事項に反したり、侵略政策を再現する行動等を起こした場合、安保理の許可がなくても当該国に対してenforcement actionを課すことが容認されています。

第53条のenforcement actionは、日米対訳文では強制行動と訳されています。Charter of the United Nationsの原文中の、use of force(武力の行使)、use of armed force(武力の行使)、action by air,sea or land forces (空軍、海軍、陸軍の行動)の意味は明快ですが、enforcement actionのほかに、 military measures(軍事措置) 、enforcement measures(強制措置)とそれぞれの日本語に訳された言葉が、use of forceと同じ内容を指すと思われる文脈で使われていて、表現が明確さを欠きます。Charterに詳しい人の間では、第53条の旧敵国に対するenforcement actionは武力制裁と解すべきだとされています。  

第107条は旧敵国の行動に対して責任を負う政府(これも明確ではありません)が、戦争後の過渡的期間の間に行った各措置は、憲章によって無効化されないと云うものです。この措置の内容も明示されていませんが、休戦・降伏・占領などの戦後措置を指すものとされています。

第77条は「敵国」の語が含まれているために「敵国条項」の一部として扱われていますが、信託統治に関する条文で重要な意味は持ちません。

これらの条文は、敵国が敵国でなくなる状態について言及しておらず、その措置についてもなんら制限をつけていません。このため連合国の旧敵国との紛争では、連合国は「平和的に解決する義務すら負わされていない」と云う指摘さえあります。

敵国条項の対象国も国名を挙げていないので明確でありませんが、日本政府の見解では第二次世界大戦中いずれかの憲章署名国の敵国であった国とされており、日本ドイツイタリアブルガリアハンガリールーマニアフィンランドがこれに該当します。

ヨーロッパの枢軸国のうち連合国に降伏した国々は、その後枢軸国と交戦したり宣戦布告をしたりしていますが、これらの国々は連合国憲章への署名を許されず、連合国ではない共同参戦国として扱われています。イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランドは1947年に連合国と条約を締結し、領土の割譲や賠償金の支払いを受諾しました。これらの国の国連加盟は、日本が加盟する前年の1955年です。

ドイツの指導下でクロアチアスロバキアなどが建国され、日本はビルマなどを建国しました。これらの国も連合国に対して宣戦布告・戦闘行為を行っていますが、連合国はこれらの国を承認しておらず、現在その領域にある国もそれらの国の継承国として扱われていないため、敵国条項の対象にはなっていません。

敵国条項の特色は2点あります。国連の原則は平和の維持で、第2条で国連加盟国相互のuse of force(武力行使)は許されません。しかし第53条で旧敵国に対しては、国連加盟国や地域機構(例えば北大西洋条約機構)が例外的に安保理の許可なくenforcement action(武力制裁)を行使できます。もう1点は、第107条で旧敵国に対する第二次世界大戦終結の際の取り決めが、国連憲章に優先すると云うものです。 

我が国は北方4島の返還を求めていますが、サンフランシスコ平和条約で日本は千島列島を放棄する条約に署名しています。日本政府は平和条約国会で、ヤルタ協定の千島列島の範囲には国後島・択捉島が含まれると説明していましたが、1956年2月にこの説明を取り消しました。ちなみに、ソ連はサンフランシスコ平和条約に参加していますが調印はしておらず、日ロ間では平和条約が結ばれていないので国境問題は確定していません。 

北方領土に関してのこれまでのソ連の主張は、1945年2月ソ連のヤルタで米・英・ソ首脳が会談し、日本を早期に敗北に追い込むためにドイツ降伏の2、3か月後にソ連が対日参戦する見返りとして、日本の敗北後南樺太をソ連に返還し、千島列島をソ連に引き渡すとした戦勝権益を根拠に挙げていました。 

しかし1989年の日ソ平和条約作業グループ協議では、ソ連が初めて国連憲章の敵国条項を持ち出しました。第107条は「憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中の敵国との間で戦争の結果としてとり、又は正当と認めたものを無効にし、又は排除するものではない」ので、戦争の結果として占領した北方領土はソ連のものだと云う主張です。 

北方領土に関して法的有効性が文書で確認されているのは、平和条約締結後にソ連領の歯舞群島と色丹島を我が国に引き渡すことが記載されている、1956年の「日ソ共同宣言」をロシアが引き継ぐことが確認された、2001年の「イルクーツク声明」のみです。4島一括返還が我が国の希望であっても、返還を求める国際的な根拠はありません。 

国連の安保理は国際平和と安全に主要な責任を負う機関と理解されており、国際平和が脅かされると平和的手段による合意を当事者に勧告し、問題解決の特別代表を任命したり、事務総長にあっせんを要請したり、紛争が激化すると戦闘の拡大を防ぐため停戦命令を発することができます。さらに、平和維持軍を派遣したり、経済制裁、武器禁輸、渡航禁止、集団的軍事行動などを発動することもできます。

安保理は15か国で構成され、アメリカ合衆国イギリスフランスロシア連邦中華人民共和国の5か国が常任理事国で、それ以外の10か国は総会で2年の任期で選ばれる非常任理事国です。各理事国は1票を有しますが、常任理事国の1か国でも反対票を投じれば案件は否決されます。

安保理の目的は国際社会の平和の維持と回復のはずなのですが、国連設立後70年の現実の経過をみると、日本と云う共通の敵国を失った連合国の常任理事国間で、アメリカ、イギリス、フランスと、ロシア、中国の間で対立が続き、常任理事国同士の拒否権行使が続いて、国際社会の平和の維持や回復のためには機能していません。むしろこの五大国が世界各地で、局地的な軍事力行使の大部分に関与しているように見受けられます。

すべての国連加盟国は、安保理の決定を受諾・履行することに同意しており、国連の中で履行義務を伴う決定をなし得るのは安保理だけです。常任理事国の1か国でも反対票を投じれば、総会の決議は否決されて勧告的効力にとどまるため、安保理の構成や拒否権の扱いについては国連の改革の議論も起こっています。

我が国は2015年10月15日に5年ぶりで、2016年1月からの国連非常任理事国入りが決まりました。我が国が国連での発言権を求めるのなら、その前にまず敵国条項廃止の批准を各国に求めるのが先でしょうが、常任理事会を含む3分の2の批准が得られる可能性はありません。いくら死文化したとは云え、条項がある以上我が国は敵国条項の対象国なのです。

United Nationsを本来の連合国ではなく日本語訳の国際連合にし、各国が平等な資格で参加できる平和維持機関にするのが正しい姿でしょうが、安保理の常任理事国のすべてが自らの持つ拒否権を放棄して、国連改革が果たされることは望みえません。

したがって国連の場で、敵国条項の対象国である我が国の立場は消えるはずがないのです。我が国がこれまで国連に抱いてきた安易な期待感を捨てて、もう一度国連の現状を正しく認識しなおし、我が国の国連対応を客観性を持った外交戦略に改める必要があります。

 

 

 

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