室内楽の愉しみ

ピアニストで作曲・編曲家の中山育美の音楽活動&ジャンルを超えた音楽フォーラム

心のつながり

2006-12-21 12:49:42 | Weblog
先週末の中野ゼロでのオーケストラのクリスマス・コンサート。お客様達から喜ばれ、細かい部分は兎も角、一応はまあまあ行ったかな・・。しかし、自分としては、何か満足の行かない、満たされないモノが残った。
 その1週間ほど前に、恒例の下妻でのコンサートのアンコールで、ゲストのコロラトゥラ・ソプラノの崔イェングァンさんの独唱の伴奏を一人でした時は、彼女の透明感のある美しい声を際だたせる事に細心の注意を払いながら、曲の雰囲気作り、透明で純粋な”生命”の風景を描くイメージで弾いた。ソリストご本人に大変喜ばれ、手招きされて、舞台の上手端のピアノの位置からソリストのいる前方中央まで呼ばれて拍手を受けた。そんな目立つシーンを持った事が喜びなのではなくて、本番中に”共に一つの作品を創った感覚”が持てたという事が最高の喜びなのだ。本番直後に楽屋で会った時は、彼女もまだ興奮していて、二人で手と手を取り合った。これが音楽上の”心のつながり”だ。
 中野ゼロでのゲスト「世界の車窓から」で有名なチェロ奏者(検索されて一発ヒットになると厄介なのでお名前は避けます)は、我々プロの目から見ても、常に音楽的な雰囲気を漂わせた、大変に素敵な方だ。作曲家としても素敵なメロディを書き、編曲もちゃんとした仕事をして、表情豊かな表現のできる楽器で、説得力のある演奏をし、ケチの付けようが無い。何よりも、素材の良さと相まって、自分というブランドのプロデュースが巧く行っている。その点が、私も含めて、そこらの演奏家との最大の差だと思う。この非の打ち所の無いソリストとも、ピアノだけで伴奏する曲が2曲入っていた。1曲は日本題”白い恋人たち”(原題は”フランスの13日”)もう1曲は、彼の最新CD のタイトルにもなっている”おぺら?”という曲だった。実はこの日のコンサートの準備として、このチェロ奏者のリサイタルを聴きに行ったのだが、共演者のピアニスト、ベーシストは、全くの”黒子”扱いの印象だった。
 一方、私の立場は微妙だ。オケ事務所からは「良いと思われる範囲で、思い切り主張して下さい」といつも云われている。この日のコンサート用にソリストとの協演の編曲もしている。それだけに、私の中でも重要なコンサートと位置づけしてきた。そんな中でのデュオ・シーンだった。当初、私は”黒子”に徹しようと思っていた。しかし、前日のリハーサルから続けて接しているうちに、多少何か、仕掛けてみたい気にもなった。と言っても、特別な事をする訳ではない。モノトーンに多少のパステル・カラーを塗った程度だと思う。しかし、結果は、何も無かった。
 ここで、ひとつ新たな発見があった。共演とは互いに心を向き合わせて”心のつながり”を持つ事なのだ。その為には、双方から触手を差し延べ合って、心を開き合う事が前提となる。”心のつながり”無しでは、只の”仕事”になってしまう。そんなに失敗だったとは思わないが、隙間風が吹いたような後味だった。