白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

Master対棋士 第8局

2017年01月26日 23時45分30秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日は第53期森ビル杯十段戦(産経新聞社)決勝、今村俊也九段余正麒七段の対局が行われました。

今村九段が見事な打ち回しで優勢を築いたと思いますが、余七段がしぶとく食らい付いて半目勝負になりました。
そして、最後は必死のコウ粘りにより、余七段の劇的な半目勝ち!
決勝に相応しい、素晴らしい戦いだったと思います。
井山裕太十段との五番勝負が楽しみですね。

本日の幽玄の間では、十段戦以外にも多くの対局が中継されました。
創意工夫を凝らした対局が多く、お楽しみ頂けるのではないかと思います。
ぜひご覧ください。


さて、本日はMasterと韓一洲五段(中国)の対局をご紹介します。



1図(実戦)
黒1、3の両ガカリを許しましたが、その代わり白2、4のカケを打てています。
左辺は3線に黒石が5つもあり、位が低いと見る事もできます。
どうも、Masterはこういう配石は黒が良くないと判断(?)している節がありますね。





2図(実戦)
黒1、3に対しては、私ならまず分断する事を考えます。
黒7までの形は、白石が多い所で遠慮したように見えるからです。
しかし、先手を取って白10に回りたいという事でしょう。

この三々入りに対してあっさり渡らせてしまう打ち方は、Masterの碁に多く現れました。
もちろん昔からある打ち方ですが、プロの碁では、序盤だと渡らせない事が殆どでした。
これがプロの碁にどんな影響を与えるのか、注目ですね。

ところで、途中何気なく白8と黒9の交換をしてありますね。
今打つ必要があるのか、疑問に感じましたが・・・。
それに関しては、しばらく後の進行で触れましょう。





3図(参考図)
黒の挟みに対して、白1とは打ちづらい所です。
上辺は白△と合わせて、3線に白石が6つ並んでしまいます。
これはいかにも白が悪そうに見えます。





4図(実戦)
そこで白1などと変化するのは、よくある発想です。
しかし、途中白7や9があまり打たれない手です。
棋聖戦で河野臨九段が採用した手と、少し似ていますね。
2目の頭をハネられていないので、さほどの違和感は感じませんが・・・。
とにかく先手を取って白11に回りたい、という事でしょう。





5図(実戦)
黒1がこの一手という絶好点で、こういう所を打てては黒悪くないと感じてしまいます。
ただ、よくよく考えてみると、左辺の黒模様との関係が問題です。
右辺の黒模様が盛り上がるのは良いのですが、白12まで石が来ると、左辺の黒模様にとってマイナスになるのです。

全体を見れば、これで白が十分なのかもしれません。
白12の後は黒A、白Bと進めば無難ですが、それでは黒が不満とみたのでしょう。
実戦は黒Bと仕掛けましたが・・・。





6図(実戦)
その後白1となって、さほど白にダメージを与えたとは言えません。
一方、やや黒の打ち方に無理があり、左辺の形が崩れています。
そこを白9で追及されました。

ここに来て、白△と黒△の交換が役に立って来ました。
ここまで都合良く決まったのは偶然でしょうが、AIにとっては偶然も計算の内と言えるかもしれません。

次に黒Aには白Bと追及されますし、黒Bには白Cの嫌味があります。
ぴったりした受け方がありません。
そこで、直接受けずに黒10で頑張ったのは気合の一手ですが、これは無理でした。





7図(実戦)
白1に対して、Aの傷を守る黒2は仕方ありません。
しかし、白3、5と打たれては決まりました。
次に黒Bと取るしかありませんが、白Cが先手になり、白Dの切りが成立します。
ここで黒投了となりました。

この碁では黒の明確な悪手は少なかったと思いますが、気付かない所で少しずつ差を付けられている印象です。
改めて碁の奥深さを感じますね。

ハネ出しの方向(問題解答)

2017年01月25日 23時06分12秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
明日は第53期森ビル杯十段戦(産経新聞社)決勝、今村俊也九段余正麒七段の対局が行われます。
50歳のベテランと21歳の新鋭が互角に戦えるというのは、囲碁の素晴らしい所だと思います。
井山裕太十段への挑戦権を獲得するのは、どちらでしょうか?
注目の対決は、幽玄の間で中継されます。
ぜひご覧ください!

さて、本日は昨日予告した通り、問題の解答を行います。



1図(テーマ図)
AとB、どちらのハネ出しが正解かという問題でした。
ここの形だけ見ればどちらでも同じようですが、実際には全く違った結果になります。

方針を定めるにあたって重要な事は、周囲の状況を確認する事です。
左下白〇はしっかりした構えですが、左上白△の構えには隙間が空いています。
手薄な左上を守るような展開を目指したい所です。





2図(正解1)
正解は白1と、下方へハネ出す手です!
当たりましたか?





3図(正解)
ハネ出せば、黒1~白6までが自然な進行です。
白は左上と繋がり、全体が強い石になりました。
こうなれば黒Aと打ち込んで来ても、白Bで何事も起こりません。
渡りたい方の逆にハネ出すという、1つのパターンです。





4図(正解?)
左上白と繋がりたい、という考え方に辿り着きながら、白1を選んでしまった方もいらっしゃるでしょう。
実戦もそう打たれ、白7までの進行になりました。
何だ、前図と対して変わらないじゃないか、と思われるかもしれませんね。

確かにこの図は白が成功しています。
しかし、これは黒が間違えたからなのです。





5図(失敗1)
白1、3には、Aではなく黒4という手があります。
この手は、知らないとなかなか打てませんね。





6図(失敗2)
白1と抜けば、黒2を利かしておいて黒4の打ち込みです。
左下の黒1子を切り離したものの、こちらに火が付いてしまいました。





7図(失敗3)
黒6までとすっかり荒らされた上に、全体の白の眼が無くなっています。
左下で得た僅かな利益では、とても釣り合いません。
白、大失敗と言えるでしょう。

何気ないように見えて、1局の勝敗を左右しかねないほどの場面でした。
戦いの最中のミスは大きな失点に繋がりますから、気を付けたいですね。

特殊コウ・命名決定

2017年01月24日 23時59分59秒 | 問題集
皆様こんばんは。
以前募集した、特殊コウへの命名ですが、ようやく決まりました。

まず、皆様からのご意見を全て発表します。

<シンプル系>
「隣接二段コウ」「二重劫」「多重劫」「4段コウ」「無限コウ」」「前後2段コウ」
「ダブル二段コウ」「一手寄せ二段コウ」「二段コウ残り二段コウ」「二階二段コウ」

シンプルに、形の本質を表そうという系統ですね。
にも拘わらず、多数の案を頂きました。

<一捻り系>
「無駄な抵コウ」「親不コウ」「親コウコウ」「番人コウ」「綱渡り二段コウ」
「くそ粘り二段コウ」「二化二段コウ」「ゾンビ二段コウ」「アゲイン・ツー ステップ・コウ」

一捻りが入って、インパクトの強い命名案ですね。
各々のセンスが表れて、面白いですね!

<大喜利系?>
「お線コウ」「柴咲コウ」

私を笑わせても、座布団はあげられませんよ?

<時事ネタ系>
「コウパイナッポーアッポーコウ」「ポケモン・コウ」

昨年は、どちらも大変なブームを巻き起こしましたね。
今後この形を見る度に、時代を思い出しそうです(笑)。


さて、この中で圧倒的に人気だったのが、「ダブル二段コウ」です。
他の案は1人ずつでしたが、これに限っては6人の方が候補に挙げられました。
実は、私も個人的にはそう呼んでいたのです。
ですから、ある程度予想できていましたし、実際にこれに決めても良いかなと思っていました。

ですが、ある案が目に付きました。
それが「二階二段コウ」です。
コメントをくださった方によると、
二回ではなく、二階建て構造という意味の「二階」で、「二階二段コウ」ではいかがでしょうか。
とのことです。
なるほど!

ダブル二段コウという命名には1つ引っかかる点がありまして、それは「コウが同時に2つできている訳ではない」という事です。
実際には、1つのコウの上に、さらにもう1つのコウが乗っかっているのです。
その点、この命名案はぴったりだと感じました。
当ブログでは、この形を「二階二段コウ」と呼ばせて頂きます!

せっかく命名したので、使う機会があると良いのですが・・・。
もし実戦にこの形が現れたという方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください!


さて、最後に次回予告をしておきたいと思います。



アマ高段者同士の実戦です。
白が左辺に打ち込みましたが、黒△とツケて来られました。
白の次の一手は、AとBのどちらでしょうか?
周囲の状況をよく見て判断してください、というのがヒントです。
解答は明日発表する予定です。

Master対棋士 第7局&棋聖戦結果

2017年01月23日 21時16分29秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
第41期棋聖戦第2局、凄かったですね!
井山裕太棋聖の構想も素晴らしかったですが、河野臨挑戦者の追撃も迫力がありました。
最後は差がついたものの、紙一重の勝負だったのではないでしょうか。
第3局も楽しみですね。

また、アンケートにご協力頂いた皆様、ありがとうございました。
今後の参考にさせて頂きます。

なお、この対局は幽玄の間にて、金秀俊八段の解説付きで中継されました。
また、囲碁プレミアムでもご覧頂けます。


さて、本局はMasterの棋譜解説、第7局です。
ようやくタイトルがすっきりしました(笑)。

なお、Masterの対局順や相手については、個人的に情報収集しています。
間違いがあるかもしれませんが、ご容赦ください。



1図(実戦)
Masterが黒、相手は喬智健四段(中国)です。
途中まで、第5局と同一の進行です。
第5局では黒1に対して白Aでしたが、本局では白2を急ぎました。
第5局とは多少の時間の開きがありましたが、十分な研究はできなかったでしょうね。





2図(実戦)
前図白Aを打たなかったため、黒1から閉じ込められる展開になりました。
非常にまずいパターンだと思います。
Masterは、こういった勢力の生かし方が非常に上手いのです。
ただ、それは60局見た人間だからこそ言える事ですね。





3図(実戦)
手順が進み、白△と繋いだ場面です。
ぱっと見では、形勢はまだまだこれからといった印象ですが・・・。





4図(実戦)
黒1のケイマが絶好点です。
白2は一見気分の良さそうな当てですが、黒7まで、あっさり2子を捨てました。
こうなると、右辺に取り残された白3子の存在が問題になっています。





5図(実戦)
白1から動き出すしかありませんが、黒8までと平凡に対応され、脱出できません。
右辺で生きるしかなくなりました。





6図(実戦)
白17まで、何とか生きる事はできました。
しかし、黒18、20と中央を囲われ、黒の勝勢は明らかです。
白が右辺で14手かけて2目作る事になっては、効率が悪いどころではないのです。
勿論黒はこんな展開を目指していた訳ではないでしょうが、気が付けばMasterの術中に嵌っていました。
黒完勝です。

さて、ここ数日はMasterの紹介ばかりやって来ましたが、ここらで他の題材も挟んで行きたいと思います。
候補としては、指導碁に現れた場面や問題などを考えています。

最近は解説会や、三村智保九段のブログでもMasterの対局が紹介されています。
棋士によって全く視点が違いますから、そこもお楽しみ頂けるのではないかと思います。

Master対棋士 第6回(第5局)&棋聖戦封じ手予想

2017年01月22日 18時55分12秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日から、棋聖戦挑戦第2局が始まりました!
1日目の流れとしては、まず黒番の河野臨挑戦者が意欲的な打ち回しを見せ、そこを井山裕太棋聖が強襲するという流れでした。
河野九段は手堅く受け流しましたが、井山棋聖がさらに仕掛けた所で1日目終了です。

さて、現在の形勢はどうなっているでしょうか?
私の判断は明日お伝えするとして、皆様がどう判断されているかをお聞きしてみたいと思います。
Twitterで個人的にアンケートを取っておりますので、ぜひご協力ください。
本来は幽玄の間など、公式な所でやると良いと思いますが、とりあえずという事で。

封じ手は右下以外考えられず、遊びの余地は少ないですね。
あまりにも無難な手ですが、右下星の伸びを予想しておきます。

なお、明日も囲碁プレミアム幽玄の間(解説・金秀俊八段)にて中継が行われます。
ぜひご覧ください。

また、幽玄の間ではシリーズの勝敗予想クイズ(本日まで)と封じ手予想クイズも行っています。
ぜひ、こちらからご応募ください。


さて、本日はMaster対於之瑩五段の対局をご紹介します。
於之瑩五段は中国最強の女流棋士です。
どのぐらい強いかと言えば・・・もし打って私が勝ったら、驚かれるぐらいですね。



1図(実戦)
白番の於之瑩五段の白△は、工夫した手です。
この手では白Aの飛びが定石ですが、黒Bに先行された後、下辺にぴったりした後続手段が無い事を嫌いました。

白△に対して、もし黒Cなら左上に先行して白満足できます。
黒Aと押さえても、下辺の幅が狭くなっているからです。





2図(実戦)
黒は手抜きして左上に先行しました。
白も先手を取って12にハネ、黒4子のダメが詰まって不自由な形になっています。
これが前図白△と這った白の主張です。

ここまでの進行と殆ど同じ布石が、Master相手に何局か打たれていました。
この布石なら、チャンスがあると見たものでしょうか?





3図(実戦)
白△と滑った場面です。
ここで私なら、
①黒Aと開いておいて、次にBの打ち込みを狙う
②黒Cのケイマで、左上白にプレッシャーをかける
③左下黒一団を補強する
といった発想が浮かび、どれを選ぼうかという事になります。





4図(実戦)
ところが、実戦は黒1、3!
プレッシャーをかけるというレベルではなく、強引に白を切り離しに行きました。
黒の形が悪くなる、所謂俗筋なのですが、有無を言わせない力強さがあります。
もし白Aなら、黒B、白C、黒Dの分断が厳しいという事でしょう。





5図(実戦)
そこで、実戦は白1とノゾキを打ちました。
これは上手い手で、もし黒が繋いでくれれば、黒Aの厳しさを緩和する事ができます。
悠々と白2と守って良いでしょう。

ところが、構わず黒2と分断して来ました。
白5と切られた形は、いかにも黒が酷いように見えます。
しかし冷静に眺めてみると、Aの所に穴が空いていますし、Bのツケから生きに行く狙いもあります。
黒が取り切られるまでには時間がかかります。

一方、左上の白にはそういった捌きの余地がありません。
黒6まで、こちらの方が苦しいとみているのですね。





6図(実戦)
結局、黒が左上白を取り、白は左下黒を取り込む分かれになりました。
そして、この黒△が見切りの一手です。
遠慮した手のように見えますが、白が黒△を取りに来ればあっさり捨てて、黒Aから上辺を盛り上げて十分とみているのですね。
その進行を私が作ってみた所、確かに黒が盤面10目以上リードしているようでした。





7図(実戦)
という訳で白1と反発しましたが、それなら遠慮なく、と黒2から助けに行きました。
黒16までと全部繋がり、これはこれで黒のリードがはっきりしています。
この後40手で投了に追い込まれてしまいました。

本局は人間が感覚的に避けたくなる手も平気で選べる、AIの強みが出ましたね。
また、形勢判断の確かさも示しました。

次回の対局者は中国の喬智健四段です。