白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第1回(第6局)

2017年01月17日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
突然ですが、今回からブログの運営方針を変更します。
当面は毎日更新を維持しますが、分量は半分ぐらいになる予定です。
頑張り過ぎても良い事はありません。

さて、週刊碁などをご覧頂くとよく分かりますが、AI囲碁ソフト「Master」の新手が、棋士の公式戦に登場し始めていますね。
私にとって、AIは自分の仕事を脅かす敵なのですが、世間でこれだけ注目されている以上、避けては通れません。

それに、自分も棋士の端くれです。
Masterの碁を見ていなかったせいで負けた、という事にでもなったら目も当てられません。
という訳で、止む無く調べているのですが、折角なので皆様にも1局ずつご紹介しましょう。
全60局のご紹介が終わるのは、何か月後でしょうか。

ちなみに、1/22(日)、1/29(日)にMasterの解説会が行われます。
ご興味がおありの方は、ぜひご視聴・ご観覧ください。

また、3/26(日)には一力遼七段AIと対局します。
最適な人選でしょう。
大変な戦いになるでしょうが、ぜひ勝利を収めて欲しいですね。

さて、前置きが長くなりました。
本日ご紹介するのは、Master(Magist)(黒)と李翔宇(Li Xiangyu)二段三段の対局です。
アルファベット表記に慣れないので、対局者名が合っているかどうか、あまり自信がありませんが・・・。



1図(テーマ図)
この碁は大橋拓文六段のブログでも紹介されていましたね。
右上一帯の分かれは、明らかに黒良しです。
何故なら・・・。





2図(形勢判断)
碁では、序盤から1線や2線に石が並ぶことは、なるべく避けるべきです。
石の効率が悪くなってしまうからです。
しかし、この局面はどうでしょうか?

黒石が2線に1つ、1線に1つ、抜かれている石が1つ(これに関しては最も大きなマイナス)です。
一方の白は、2線に9つも石があります。
これは石の効率が大差である事を示しています。

形勢判断には様々な要素があり、この考え方だけでは足りない事もあります。
しかし、重要な判断基準にはなるでしょう。

碁盤全体を見た上での言い方をすれば、このようになります。
「碁盤の右半分は白の石数が多いが、さほど白有利になっていない。
しかし、碁盤の左側は黒石が多く、見た目からして黒が有利な状況。
よって、形勢は黒有利。」





3図(実戦)
白1、3と入って行きましたが、見るからに白が苦しそうです。
白Aと逃げるのでは足が遅いですし、BやCと足を伸ばすのも薄い形で心配です。





4図(実戦)
打つ手に困って選んだ白1、3は、「下手(へた)の両ヅケ」などと言われる悪い打ち方です。
黒8までとなった形は、白1の石が痛み、白3、5、7の所も「空き三角」の愚形です。
何か事情があってこの進行になったのでしょうが、形勢はさらに悪化しました。





5図(実戦)
その後、左上黒△と打った場面を見てみましょう。
白△に注目してください。
この集団、殆ど何の役にも立っていません。
その間に黒は右下、左下でしっかり地を確保し、左上の黒地も大きく盛り上がっています。

ここでも石の効率が大差で、形勢は大差になりました。
この後白Aから暴れましたが、最終的には全て仕留められて投了です。

この碁の白はAI得意の展開にはまり、良い所が無かったですね。
尤も、トップバッターですから止むを得ない所でしょう。<追記>6局目でした。
後から登場する棋士ほど、対策を用意する事ができる分有利です。
長期戦に持ち込む棋士も現れ出すのですが・・・結果はご存知の通りです。