白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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井山王座、防衛!

2016年11月18日 23時59分59秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は、第64期王座戦挑戦手合五番勝負第3局が行われました。
結果は、井山裕太王座余正麒七段に白番中押し勝ちを収め、3連勝で王座を防衛しました。
それでは、早速振り返っていきましょう。

なお、この対局は幽玄の間にて、三村智保九段の解説付きで中継されました。
万人が楽しめる名解説だったと思います。
解説付きの中継は、対局場からは既に流れてしまっていますが、幽玄の間ホームページ上でご覧頂けます。



1図(実戦黒17~黒23)
黒1に対して、受けずに白2~6と好点に回ったのが、気合の入った打ち方です。
ならばと黒7と連打したのも、また気合です。
ここで白の選択肢は、通常はAからCの3通りです。





2図(実戦白24)
ところが、実戦は白1!
白Aに石がある時なら、左辺の黒を閉じ込める意味で、時々打たれます。
しかし、何もなしに白1とは・・・。
新手ではありませんが、非常に珍しい手です。
これを大舞台で披露できるのが、井山王座らしいですね。

この手の意味は、なかなか形容しがたいのですが・・・。
あえて言うなら、「相手を迷わせる手」でしょうか?
例えばこの手で白Bなら、相手は迷わず黒Cと、三々に入って来ます。
しかし、この手ならば、黒にぴったりした手はありません。
井山王座は、相手を迷わせる手を好んで打つ印象がありますが・・・この手もそうかもしれませんね。





3図(実戦黒25~黒27)
それに対して、黒1、3のツケ切りは、目一杯の打ち方です。
緩まない棋風の余七段らしいですね。
井山王座も、こう来ると予想していたのではないでしょうか。





4図(実戦白46)
左下は、見た事の無い分かれになりました。
色々な変化があるものですね。

さて、白1の打ち込みは、白がずっと狙っていた手です。
黒を孤立させて、攻めようというのです。
このために、白△と力を蓄えていました。
戦闘開始です。





5図(実戦黒47~黒49)
黒は1、3と柔軟に対抗しました。
白Bと攻めさせておいて、黒Aと渡ってかわそうというのです。
となれば、何とかして渡りを止めよう、というのが普通の発想ですが・・・。





6図(実戦白50~白52)
ここでなんと、遠く離れて所で白1、3!
全体の白をつなげて、これ以上なく手厚い打ち方です。
そしてスケールも大きいです。
黒Aと、低く渡る程度じゃ勝負にならないよ、という井山王座の声が聞こえてくるかのようです。
自信に溢れた打ち回しです。

この手は、名人戦第1局の、左下白50の曲がりと似ていますね。





7図(実戦黒53~白56)
それに触発されたかどうか?
余七段、黒1、3と強く白に迫りました。

この打ち方は、「攻めたい石にツケるな」の格言に反していると思われるかもしれません。
実際白4の後、黒A、白B、黒C、白Dとなると、白を進出させるお手伝いをした形になっています。

しかし、実はその格言には例外があるのです。
それは、「相手を閉じ込められる時はツケても良い」という事です。
つまり、余七段の作戦は・・・。





8図(実戦黒57)
出ました、黒1!
全体の白をやっつけてしまおうというのです。
黒にも薄みがありますが、躊躇せずやっていけるのが、余七段らしいですね。
確かに、かなり厳しく見えます。





9図(実戦白58~黒61)
白は1、3とツケの連発で、サバキに出ました。
黒4には、右辺の白3子を捨てて、白Aと打つのかと思っていましたが・・・。





10図(実戦白62~白66)
白1から、一転して右辺の白を動き出しました!
なるほど、白△は全て陽動部隊でしたか・・・。
井山王座の考える事は、本当に読めません。

そして、白5と狭い所からノゾいた手にも注目です。
形構わず黒の退路を断とうという、井山王座の気迫が表れた一手です。





11図(実戦黒67~白72)
そして、白6となってみると、明らかに黒が苦しくなっています。
白を攻めていたはずなのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか・・・。
井山王座の強さを、思い知らされます。





12図(実戦黒91~白92)
黒1まで、右辺の黒を凌いだのは、流石余七段という所です。
しかし、中央が真っ白になり、形勢は大きく白に傾きました。
まず白2と、左辺の黒に迫り・・・。





13図(実戦黒93~白98)
黒1、3と守らせ、一転して右上に手を付けていきました。





14図(実戦白104~白110)
かと思えば、白1から、また左辺の黒の攻めに回りました。
厚みを生かして、白はやりたい放題です。
白7の後、黒は生きを図れば無難ですが、右上の白を動かれると勝ち目がありません。





15図(実戦黒111~白112)
そこで、黒1と右上に回ったのは、玉砕覚悟の勝負手です。
しかし、井山王座の対応は乱れませんでした。
白2からついに牙を剥き、難なく黒を仕留めて勝ちを決めました。

恐らく、序盤のどこかで差が付いていたのでしょう。
余七段が酷い手を打ったようには見えなかったのですが、井山王座が完勝しました。

七冠こそ崩れましたが、やはり井山王座は最強の存在ですね。
当分はトップに君臨する事でしょう。
しかし、第1局、第2局では余七段に十分勝つチャンスがあったように、無敵ではありません。
次は1勝1敗となっている、天元戦に注目しましょう!