白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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要石(林名誉天元-高梨八段戦)

2016年11月05日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日も幽玄の間で中継された対局をご紹介します。
林海峰名誉天元(黒)と高梨聖健八段の対局です。
林名誉天元は74歳ですが、今も時間を目一杯に使って対局されています。
本局では、いかにも林名誉天元という、柔軟さを見せてくれました。



1図(実戦黒9~黒11)
黒1、3は、左右の白を分断して攻めようという作戦です。
これは重要な事ですから、覚えておいてください。





2図(実戦白32~黒39)
戦いが続いています。
白1から中の黒に働きかけたのは、一種のモタレ攻めです。
本当の狙いは下辺にあるのですが、黒は8まで、平然と受けました。





3図(実戦白40)
ここで、白1の割り込みが炸裂!
見本のような手筋で、要石の黒△が助からなくなりました。
林天元、まさかのポカ?

※要石=相手を切り離している石





4図(実戦黒41~45)
もちろん、そんな事はありません。
2子を捨て、黒5と足早に展開する構想でした。

最初にご説明した通り、黒は白を分断して攻める作戦でした。
にも拘わらず、白を切り離している要石を捨て、白を繋がらせてしまいました。
黒大失敗と思えますが、そうとも言い切れない所が碁の深い所です。
黒としては、白は安定するまでに手がかかり過ぎている、と主張しているのです。





5図(実戦黒71~白72)
手順が進み、また右下方面で戦いが始まりました。
黒1に対する白2は手筋です。
白Aのアタリが先手で打てるので、黒は反撃できないだろう、と主張しています。





6図(実戦黒73~白78)
ところが、黒は構わず反撃!
白6と打たれて、両当たりですが・・・。





7図(実戦黒79~黒85)
白2と、またしても種石を抜かせてしまいました。
しかし黒3となってみると、よく見れば黒石が外回りになっています。
黒7までと白△を取り込み、右上一帯が大きな黒地になりそうです。
なるほど、黒がポイントを挙げたように見えます。





8図(実戦白108~白110)
さらに手順が進み、今度は左下方面での戦いになっています。
白1、3と左下の黒を切り離しに行った手は、白Aの当たりがある事を頼りにしています。
白Aが先手なので、黒は反撃できないだろうと主張しているのです。





9図(実戦黒111~白114)
ところが、ここも構わず黒1、3と反撃!
白4と、またしても要石の黒△を抜かせてしまいました!





10図(実戦黒115~黒121)
しかし、黒7までとなってみると、黒石は外回りになり、左下の黒も安泰です。
左下にできそうだった白地が無くなっているだけに、黒成功しています。





11図(実戦白122~126)
白3は中の黒2子を狙っていますが、構わず黒4と右上を囲いました。
当然、白5の切りが来ますが・・・。





12図(実戦黒127~黒129)
黒1と大石をしっかり生き、またしても白2と要石を抜かせました!
これで白石が全部繋がってしまいますが、もはや地だけの問題と見切っています。
黒3と右上の黒地を万全にして、勝利宣言しました。

林名誉天元が、4度も要石を抜かせて快勝しました。
通常、相手の石を切っている要石は、捨ててはいけないものですが、林名誉天元は結構捨てています。
林名誉天元は非常に柔軟な棋風ですが、それをよく表しているのではないでしょうか。

ただし、アマの皆さんが真似すると、痛い目に遭う事が多いでしょう。
皆さんは、林名誉天元ではないのですから・・・。