いちごわさびの徒然草

アニメ大好き! ガンダム大好き! そんなこんなを徒然なるままに・・

<第61話>(SS-2)パブリク突撃艇! / ガンダム外伝サイドストーリー

2013-01-21 17:25:58 | [小説]ガンダム外伝

<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
<第55話>情報戦・・
<第56話>妄想と現実・・
<第57話>再会?!・・
<第58話>違和感・・
<第59話>ムサイ級ワルキューレ
<第60話>カマかけちゃおうよ♪
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「・・・ キング一尉にさ・・ 訓練宙域の変更を伝えるの・・
     というか・・ 訓練宙域までは想定航路の変更はなしでも良いのだけど、その地点での訓練は
     きな臭さを感じる訳だから、訓練はもっと先のL4に近い宙域にする・・ってのはどう?
     『地球連邦軍側の都合だから、ごめんね!』って でも、宙では常に状況は変化する!
     とか・・ 新しい訓練内容を適当にぶち込めば、グルじゃなければ、速攻で乗ってくる筈!
     でも、グルだったら、必要以上に計画宙域での訓練に固執するはずでしょ?
     僚機が敵か味方か、不明だなんて、精神衛生上よくないもん お肌だって荒れちゃうし!!
     とりま・・ カマかけちゃおうよ!!」

「チコ・・ お前、良い子だな♪ 奴らがグルだと、確かに嫌だな、確かめるか?」

「・・・ はい! 良い子で~す♪ やっちゃいましょうよ!」

「・・・ そうだね、やっても良いかもね♪ 内容は任せるよっワサビィ!」

「じゃ・・ ちょいと考えるか?」

「・・・ まぁ、疑われる内容でなければ、なんだって良い訳なんだから、ワサビィなら得意でしょ?」

「おいおい・・ そんなに褒めるなよ・・
 実は、皆が思っているほど得意ではないんだぞ・・ 得意だったら、もっと沢山のおねえちゃんに♪・・」

「・・・ 確かにね♪ こんな時に、あの艦長達が居てくれたら・・」

「そうだよな、マメハ大佐(戦隊長)とタゴサ艦長・・
 あのコンビだったら悪知恵も働くから即効だろうね♪」

「・・・ そんなに褒めちゃうと・・ 今頃2人で大きなくしゃみをしてるんじゃ♪」


・・・


<サイドストーリー(SS-2)「パブリク突撃艇!」>


ちょうどその頃、

第21独立戦隊であるグリフィンとヒポグリフは、ワッケイン司令が率いる連邦軍第3艦隊と合流し、
ワサビィ達が居る月から384,400kmも離れた、ラグランジュ5(L5)サイド4(ムーア)の残骸宙域を
第3艦隊と共にゆっくりと進行していた。
ワサビィ達がターゲットポイントとしている、L4 サイド6(リーア)とは、真逆の宙域になる・・

地球と月とラグランジュ5(L5)の3点を結ぶと、大きな正三角形になるわけだが
ラグランジュ4(L4)は逆方向での正三角形の頂点に位置する・・
だから月までの距離は、地球と月の距離とほぼ同じ距離だと考えれば解りやすい。

ちなみに、連邦軍の主力艦隊のティアンム提督(中将)率いる第2連合艦隊は、先行する第3艦隊と
同じラグランジュ5(L5)の、もう1つのサイドであるサイド1(ザーン)の残骸を盾にしひっそりと集結していた。
サイド1宙域には、今回のチェンバロ作戦のファーストターゲットである、
ジオン公国軍宇宙攻撃軍の拠点、宇宙要塞ソロモンが鎮座している。

そんな近い場所に主力の第2連合艦隊を気づかれず集結させるために、第3艦隊は囮となった。
幾度も姿を現しながらサイド1に近づいていく航路を取る・・ わざわざ遠回りになるサイド4の残骸宙域を
経由する理由もそこにあった。あくまでも囮であることが見破られないよう・・ それだけが理由だ。

サイド1もサイド4も、この戦争が開始された1週間戦争で大打撃を受けたコロニー群であり、
コロニーの残骸が浮揚する危険な宙域ではあったが、逆にコロニー残骸が艦隊の動きを隠す効果があった。
残骸は互いの質量で引き寄せ合い、幾つかの岩礁となってソロモン要塞の周りで浮遊している。
その一番大きな残骸の集まりが「マクナマラ岩礁」であり、第3艦隊はサイド4の残骸宙域から飛出し
その姿をソロモンにさらしながら、サイド1のマクナマラ岩礁に向かっていくことになる・・

ソロモンを攻防すると考えた場合、どの分析者も口を揃えて言った・・
軍事作戦上一番適しているのがマクナマラ岩礁であると・・ それはジオン軍も理解していた内容でもある。
第3艦隊が、そのように言われているマクナマラ岩礁に向かう事で、第3艦隊が本隊であると錯覚を起させる
ジオン軍が勘違いした事は当然の結果でもあり、連邦軍の思惑のまま事が進んでいった。

その結果、ジオン軍はをマクナマラ岩礁とソロモンとの中間宙域に幾本かの防衛線を引き
一番の激戦区になると考えていた・・ そんな場所が、我ら第21独立戦隊の戦場になる訳だが・・・

このような理由から、ソロモンに駐留するジオン公国軍宇宙攻撃軍は、連邦軍の主力である第2連合艦隊の動きを
察知することができず、既に接近を発見し捕捉していた、ワッケイン司令率いる第3艦隊だけを注意していた・・
ミノフスキー粒子の散布が無ければ、このような作戦は不可能でもある訳だが、逆に考えると、ジオン軍は
ソロモン要塞に対し、難攻不落であるとの絶対の信頼があった事が伺える・・

そのような驕りも作用し、発見していた第3艦隊だけ程度の戦力だけでは、ソロモンを堕とすには
戦力不足であると分析していたのだが、ジオン公国軍宇宙攻撃軍司令のドズル・ザビ中将は、
どこかで第3艦隊は囮である・・ との可能性を感じていたと言う、
政治家ではない軍人ドズルの野生の勘だったのかもしれない・・

結果として囮の第3艦隊の動きに惑わされたソロモン駐留ジオン公国軍宇宙攻撃軍は、
完全に連邦軍の主力である第2連合艦隊の動きをロストしていた・・
その時、第2連合艦隊はマクナマラ岩礁とは全く逆の位置に浮遊していた幾つかの中規模な残骸の陰に集結し、
ちゃくちゃくと新兵器「ソーラ・レイ」の準備を開始していたのだ・・


・・・


さて・・、我らグリフィン戦隊だが・・
まさにソロモン海戦(掃討戦)の準備に大忙しのてんやわんやの状態になっていた・・


そんなグリフィン艦内での、マメハ戦隊長だが・・

「へぇっっくしょん!! もぉ・・最っ低ねっ!・・ 風邪でも引いたのかしら?
 それともどこかの誰かさんが私の事を噂でもしているの? ほんとくっそ忙しいのにぃ!!」

「戦隊長、そりゃグリフィン戦隊クルーの全員が、文句の一つも言いたい状況でしょう・・
 この2~3日・・ ちょいとハードでしたから・・ だから、いい噂ではないでしょうね♪」

「そうねクロヒッツ・・
 きっと悪口よ! そんな事を言う奴って、へっぽこ某艦長とか、逃亡中の種馬あたりかしら?
 もう・・ 忙しいのにぃ・・ うっ・・  へぇっ・・ へぇっくしょん!」

「大丈夫ですか? で・・ワサビィ・・ いや、マスミン大尉との連絡は?」

「ないわ・・ ターゲットが特定できたって連絡が最後ね・・
 あちらはあちらで、アロー市軍の旦那が怪しくってね・・ 少々厄介な状態になっている訳・・
 こっちも忙しいのに・・ これ以上ややこしくなったら、こちらの作戦に支障がでそうよ・・
 だからマスミンにね『勝手にやっちゃっていいわよ~♪』って言ってやったわ
 でも、その忙しさも、今日で終わりよ! 絶対にこの作戦は成功させなくっちゃね!」

「そうですね・・ でも、戦隊の戦力不足が気になりますね・・」

「クロヒッツ・・ やはりMS隊は一つにまとめるべきかしら・・ 」

「戦隊長・・ そろそろタゴサ艦長が来られますので、中佐のご意見もご参考になれば・・
 あっ・・ 来られたみたいです・・」


「くしょん!!・・ もう、グリフィンについてから、くしゃみばっか・・
 きっとマメが、私の悪口でも言っているのよ、きっとそうだわ!」

「艦長・・ 戦隊長が居られますよ・・ もっと小さなお声で・・」

「うるさいわね! マサップ! これは地声なの!」

「あらぁ? 何を痴話喧嘩しているのかしら?」

「何?って あなた!ちゃんとお掃除しているの? グリフィンに着いた途端、くしゃみが連発よ!」

「はぁ? お掃除ぃ? お掃除できないあんたに言われたくないわよ!」

「ほんと、うるさいわね! ヒポグリフはマサップがお掃除してくれるから良いの!」

「まぁまぁ・・ 戦隊長もタゴサ艦長も、お二人とも今、くしゃみをされていましたよね♪
 くしゃみまでシンクロされるとは、仲が良い証拠では?」

(2人で同時に)「うるさいわよ! クロヒッツ!!」

「ほら・・ シンクロしているわ♪ というか、お二人が同時にくしゃみとなると・・
 やっぱり、どこかの誰かさんが、楽しげに噂でもしているのかもしれませんね♪」

「ん? 誰かさんって・・ やっぱ諸悪の根源・・ くそワサビィの事よね?
 チェンバロ作戦開始(ソロモン掃討戦)までには帰ってくるはずだったのに・・
 ほんと、役に立たない奴!」

「そうよっ!・・ 彼のせいで、グリフィンとヒポグリフを護衛するMSパイロットが不足で、
 2艦を分けて作戦行動ができないのよね!」

「それよ! タゴ・・ 私はMS小隊を1つの隊にして、2艦をまとめて護衛させる方が
 良いように思えるの・・」

「でも・・ そうしたら、グリフィンもかなり前線まで突出する形になるけど・・
 ヒポグリフが突出し、ヒポグリフの回収能力でパブリク突撃艇を1艇でも多く回収する・・
 グリフィンは後方から、ビーム砲などでヒポグリフを援護する位置に着き、
 ヒポグリフが万一の事態に遭遇しても、MSやパブリク突撃艇が帰艦できる母艦として
 機能させる作戦よね・・」

「そうよ・・
 確かに最初はそのような作戦だったけど、グリフィンを守備する予定だった第3小隊は
 ボールがたった1機・・ これではパイロットへの負荷も高く、護衛は不可能だわ・・
 だから・・って事で、第2小隊をグリフィンの守備に回すと、今度はヒポグリフの護衛を
 第1小隊だけで守るしかない訳で・・
 今回の掃討戦はかなりの長時間になる筈・・ 4度から5度ぐらい、推進剤や弾薬の補充、
 そして核融合炉の冷却を行わないと、ジムも使えなくなる事は承知の事実!
 やはり2個小隊相当の戦力ををヒポグリフ護衛に配置しないと、ヒポグリフが落とされると思うの・・」

「つまり・・ マメが言いたいのは・・ 結局グリフィンをボール1機で守る事は出来ないから、
 危険だけどヒポグリフの位置まで、グリフィンを突出させる・・って事よね?
 でも、防衛ラインを下げ艦が突出となると、十分な戦闘エリアの確保が難しく、
 防衛ラインを越えてくるジオン軍が想像以上に多くなると想定できないかしら?」

「解ってるわよ・・ でもね・・
 グリフィンも突出するしか、方法が浮かばないって訳!
 やっぱりYUKIKAZEのビーム砲の存在は大きかったわね・・
 丸腰ヒポグリフだけど、YUKIKAZEが居ると移動ビーム砲台を搭載した艦になる理屈だけど・・
 今回の作戦ではパブリク突撃艇には、かなり無茶な指令が出ているわ・・
 そんな彼らを1人でも多く回収しないと・・ それが私たちの使命よね?
 矛盾するよね~・・ ジムで作った防衛ラインを押し上げると、突撃艇の帰艦率があがるので
 本来なら押し上げるのがセオリーだけど・・ 防衛ラインを突破された場合、ジムが艦まで
 戻らないと艦を守れない・・ ヒポグリフとグリフィンが沈んじゃったら、突撃艇の
 回収もできなくなるから、絶対に艦を沈めてはダメ・・ 」

「そうよね・・
 でも、ジオンのザクやガトル戦闘機とか、確実に数機が防衛ラインを突破してくるわ・・
 クラスター弾頭のミサイルは、グリフィンの8発と、ジムB装備のバズーカ用があるだけ・・
 無線誘導機雷はミノフスキー粒子の散布で使い物にならないし・・
 一斉に来られ取りつかれたら、CIWS制御のガトリング砲だけでは心許ない訳・・
 やっぱり、MSで護衛してもらわないと・・」

「でしょ? でも・・ だからと言って防衛ラインを下げるのは、かなり勇気がいる事よね・・」

「マメがそこまでの覚悟なら・・ 突撃艇にはもう少し頑張ってもらって・・
 MS小隊は1つにまとめ、防衛ラインを引き下げ、グリフィンとヒポグリフを護衛する・・
 これしかないわね・・ でも、マメ!・・ 絶対に約束して!
 ヒポグリフが前よ、そしてジオンに取りつかれたら・・
 グリフィンは全速で後退する事! それだけは守ってね! それが私の使命だから!」

「タゴ・・ あんた・・」

「じゃ・・ マサップ! 今の話は理解できたわね? MS隊への命令事項をまとめ、
 ブリーフィングを準備して! で・・パブリクの艇長も集めてね♪」

「了解です♪ 艦長!
 オペレーター! ヒポグリフの艦内放送にもつなげ!」

「ラジャ! マサップ中尉、ヒポグリフにつなぎました! どうぞ!」

「アテーンション! 副艦長のマサップです。
 パブリク突撃艇の艇長に告ぐ、イチサンマルマルよりブリーフィングを開始します。
 全艇長は、グリフィンに移動しブリーフィングに参加せよ! 以上。
 グリフィンMS中隊に告ぐ、イチサンマルマルから開始の突撃艇々長ブリーフィングに
 全員参加せよ! 
 繰り返す・・ パブリク突撃艇の艇長に告ぐ・・・・」


グリフィン戦隊は、パブリク級の突撃艇を1個中隊(15艇)預かっていた。

そもそも、突撃艇は艦艇に属し、航続力もあることから単独行動も可能であり、
1艇で1小隊扱いとされていたが(艇長が小隊長扱い)時代の流れや今回の作戦の内容から、
宇宙戦闘機と同様な戦術を応用する事が決定し「5艇で1小隊」と定義され参加していた・・

パブリク級の前身である、ガボット級突撃艇では乗員が4~5人であり、
人事面や命令系統としても、1艇毎に艇長を頂点とした小隊として組織登録されていたが、
改装されたパブリク突撃艇では、最低乗員2名での運用が可能になっていることもあり、
軍部も宇宙戦闘機構成と同様に考える事が可能だと判断された背景もある・・

一年戦争前は宇宙を自由に飛び回る、駆逐艦的存在でもあった突撃艇は、汎用度の高さと
航続力や攻撃力からも、宇宙軍の花形でもあり、志願兵達の人気でもあった。
ちなみに突撃艇は艇番号で認識されているが、艇長の権限で、自由に艇に呼称を付ける事を
許されていたのも、花形であった時代の名残でもある。

しかし、一年戦争が勃発し、ジオン軍が新兵器であるモビルスーツを戦場に登場させた事から、
軌道が直線的な突撃艇は、ザクなどのモビルスーツに対抗することが出来ず、
月面都市のアロー市にあった、マスドライバー攻撃作戦以来、第一線から退いていた。

そのため、乗組員達のモチベーションも低下していたのだが、
今回の作戦での「5艇で1小隊」扱いは降格とも同意と捉えられ、更に追い打ちとなっていた。

そんな中での今回の作戦内容である・・ そのような感情を持った突撃艇の乗組員の30名を、
グリフィン隊が預かったのだ・・

現在の花形であるモビルスーツ隊との間に、いざこざが生まれるのも仕方がない事かもしれない・・

各突撃艇の艇長は15人、3つの小隊に分かれているが、その3小隊をまとめている中隊長として、
1人の古参大尉が居た。彼の名は、クラウドと言う・・
あとの艇長は、2人の小隊長である中尉を除き、全員少尉・・ 一年戦争前は、突撃艇の艇長は
少佐か大尉・・ しかし、1年戦争初期の1週間戦争で、在籍突撃艇の9割を損失した連邦軍には
ベテランの艇長も数少なく、ここにも人材不足を感じさせた・・

少尉と言っても、できる人材はMS隊に編入され、そこそこできる人材はボールやサラミス級など
艦艇の士官に配置され、突撃艇の艇長にアサインされた人材は、士官学校は出たものの、
若干いわくつきの面々が配置されている事も、中隊長として隊をまとめるクラウド大尉には、
屈辱でもあり、その恨みはMS隊に向けられてもいた・・

ようは、MS隊の中隊長であるワサビィ大尉が不在のなか、ヒロ中尉が中隊長代行として
MS隊をまとめていたのであるが、その素行などが鼻についた訳であるが・・
そんな背景まで理解できるようなヒロ中尉ではない・・ 事ある毎に、ヒロ中尉に対し
批判し、嫌がらせをするクラウド大尉に対し、毎回その挑発に乗ってしまい、非常に精神状態も
悪い状況に陥ってもいた・・

それに危惧したマメハ戦隊長は、ヒポグリフに全突撃艇15艇を集め、MS隊を全員グリフィンに
移動させることで、そのいざこざが発生しないように配慮していたのだが・・


・・・

「いよいよ決戦なのね~ つーか、クラウドの野郎・・ 会いたくねーな・・」

「ヒロ中尉・・ 今日は押さえてくださいよ、大事な決戦の前です・・ 怪我でもしたら・・」

「クマちゃん・・ そんなこたぁ解っちゃいるんだけどね・・ 気が重いや・・」

「そろそろ、時間ですね、先ほどの着艦シーケンスから、もうパブリクの艇長たちは到着していると
 思いますよ・・ 時間に遅れると、また・・」

「わ~った、わ~った・・ ほんとクマちゃんは大人だから・・」

「ワサビィ大尉だったら、きっと流しちゃいますよね・・ そういう方だと思います・・
 中尉も気にせず聞き流されたら・・」

「悪いね・・ 俺は隊長とは違うんでね・・ つか、隊長は今頃何をしてるのかなぁ・・」

「ちらっと小耳に挟みましたが、この混乱に乗じて、ジオン軍がコロニーを核攻撃するとか・・
 それを阻止するのが特務なんだそうです・・」

「へぇ・・ 俺も噂は聞いたけど、本来はグリフィン隊で特務に着く予定だったんだよね・・
 でも、ソロモン掃討戦と時期が重なっちゃって事だけど・・ 考えれば矛盾があるよね~」

「どのような?」

「そだね・・ 連邦軍が仕掛ける混乱の中・・ だったら、最初からグリフィン隊は
 特務に参加不可能だったんじゃ・・ ってね・・」

「それは・・ いや・・ でもですよ、グリフィンが最初から特務に着けないのなら、
 マスミン特務大尉の乗艦は無かったのでは?」

「ん? そっか・・ クマちゃん賢い! そだね・・ 計画が変わったって事かぁ・・」

「そうですよ! 良い知らせもありましたから!」

「オーリン准尉とチコちゃんだよね♪ リンちゃんも無事って、ほんとに良かった・・
 まさか月に降りていたとは・・」

「そうですよ♪、その吉報が届いてから、中尉は以前の中尉に戻られました、
 クラウド大尉と最初に会われた時は、精神的にも少々中尉も落ち込まれていましたから・・
 だから、今日はもう大丈夫ですよ♪」

「だよね♪ ちょっと大人になった俺様を、奴らに見せつけちゃおうかな♪」

「中尉♪ その調子でお願いいたします。」

そんな雑談を交わしながら、ヒロ中尉とクマ軍曹はブリーフィングルームに入った・・
案の定、パブリク突撃艇の15人の艇長たちは、既に静かに着座していたが、
いつものように、ミィ少尉を中心としたMSパイロット達のグダグダ話で盛り上がっていた。

そんなやりとりを、眉間にしわを寄せて睨んでいる一人・・ クラウド大尉が
今、ブリーフィングルームに入ってきたヒロ中尉に口火を切る・・

「おいおい・・ 今頃来たのか? さすがモビルスーツ隊の中隊長代行さまは偉いねぇ・・
 部下たちの統制もできてないのに、最後にご登場ですか?」

ヒロ中尉の顔が変わる・・

「中尉・・ ここは押さえて・・」

「解ってるよクマちゃん・・ ありがとね♪
 はっ! 申し訳ありません、クラウド大尉殿っ!
 私の統制力が無いため、部下たちが騒ぎまして・・
 私が責任を持って、粛清いたしますので、お許しくださいっ!
 尚、その粛清を行うに際し、どのようなご迷惑を誰が行ったのかをお知らせ頂きたく・・」

「ああ!迷惑なんだよ! 決戦前なのに遠足にでも行くのか?・・
 ちゃらちゃらしやがって・・ うるさいって事だ! うちの奴らは、みんな気合が入ってんだ!
 貴様らの軟弱な精神がうちの部下達に伝線したら迷惑なんだ・・って事が解らないのかぁ?
 まぁ、この若造の中隊長代行さまなら、それも無理がないかぁ・・」

「ヒロ中尉! 押さえて!」

「ん?軍曹ごときに意見を言われる中隊長代行さまって・・ 立派だよなぁ♪
 この隊長だから、部下もそうなるか・・
 パイロット記章を付けていると偉いと錯覚してやがる・・ クズの癖に・・」

「大尉殿・・ 私の事を言うのは構いませんが・・ ・・・ ・・・」

「何? 聞こえないが?」

「ぶ・・ 部下を侮辱するなっ!」

と、言うが早いか、ヒロ中尉がクラウド大尉に殴り掛かる・・
挑発してきたクラウド大尉は、計算済みなのか、軽くいなしヒロ中尉の胸ぐらを掴んだ!

「ア・テ~ンション!!」

海兵隊の掛け声とともに、ドアが開き、
マメハ戦隊長、タゴサ中佐、クロヒッツ少佐、マサップ中尉が入ってくる・・

「ほんとに、困った人たちね・・ 一体何をしているのかしら?」

「はっ! リクリエーションでありますっ!」

「まぁ・・ そうなの? 体力が余りまくっている様ね・・
 それじゃあ、タゴサ中佐のお部屋掃除でもお願いしようかしら・・ ♪」

「そ・・ それは・・ 便所掃除の方がまだましっすっ!」

「こらっ! ヒロ中尉! 私のお部屋がお便所より汚いって言うの?」

「肯定でありますっ♪」

殺伐とした空気が、一瞬で和んでしまう・・ これがグリフィン戦隊のカラーなのかもしれない・・
ただ、クラウド大尉には、それも気に食わない一つの要因でもある・・
戦隊長などグリフィン戦隊全体にも、文句を言いたいのだろうが、さすがに大佐に対しては、
暴言を吐くこともできず、結果としてヒロ中尉に絡んできている事は一目瞭然でもあった・・ 

憮然とした態度でため息をつき、席についたクラウド大尉に向かって、マメハ戦隊長が話しかける・・

「クラウド大尉・・ 今回の作戦の重要度はご存じよね?
 そろそろ、スイッチを切り替えましょう・・ 明日も皆が顔を合わせられるよう、
 戦隊全員のベクトルを、今回の作戦遂行に向けてほしいの・・ 解るわね?・・」

続けてヒロ中尉に顔を向け・・

「ヒロ中尉・・ 今日は突撃艇中隊の事は関係ないからぁ~ とか言わず、しっかりと聞くように・・
 同じ作戦に参加する仲間の事を、少しは理解しましょう・・ 良いこと?
 じゃ、ブリーフィングを開始するわね!」


マメハ戦隊長が今回の作戦について、パブリク突撃艇の装備から説明を始めた・・

「今回パブリク突撃艇に装備されている、大型ミサイルだけど・・ ヒロ・・ 弾頭は何か知ってる?」

「ん? 弾頭って・・ まさか核じゃねぇだろ?・・」

「そうね、核は南極条約で禁止されているわね・・ クラウド大尉・・ 正解を・・」

「ああ・・ ビーム攪乱剤だ・・ ミノフスキー力学を応用した新兵器さ・・」

「ありがとう大尉・・ そのビーム攪乱剤だけど、どうして必要なのか解る? ミィ少尉?」

「えっ・・ わたしぃ? えっとぉ・・ ビームが攪乱されるって事だから・・ そっかぁ!
 ソロモンの大型ビーム砲台からのビーム攻撃を避けるためですかぁ?」

「正解! 我々第3艦隊は、ソロモン前面に姿を露わに出し、進撃する計画なの・・
 ジオンも真正面から来るとは思ってない訳で・・
 その理由は、要塞化しているソロモンのビーム砲台があるから・・まさかと思うわね
 でも、そのビーム砲を無力化できると、我が艦隊はソロモンに向かう事が出来るのね・・」

「戦隊長! 質問です!!」

「何? ユカ少尉?」

「我々第3艦隊だけなんですか? ティアンム提督の第2連合艦隊も一緒なのでは?」

                      続く・・・

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<第60話>カマかけちゃおうよ♪ / [小説]ガンダム外伝

2012-10-24 01:44:19 | [小説]ガンダム外伝

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<第58話>違和感・・
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何という事だ! 全てのモヤモヤが払拭され、点と点が線で繋がった・・
嵌められた感もなく、全ての情報が連鎖し、アドレナリンが沸騰している・・
これは、神が私に与えた試練だ!
サイド6リボーコロニー、200万人の市民の命を救え!と、神が言っている。

(さて5分前か・・)

最初の射出はガボット級突撃艇で、そのあと2機のボールが続く・・
アロー市軍の訓練が終った後、YUKIKAZEの射出だ・・
(そろそろ、ジムコマンドに乗り込むか! 輸送機&貨物コンテナは準備できたのか?)
と、格納庫に向かった。

・・・

格納庫に入ると、オーリン准尉が私を見つけ手を振る・・

「どうだ? 輸送機は手配できたのか?」

「それがね・・ マスミン姐さん居ないんだよ・・
 何処に行ったんだろうね・・ 発進時刻なのに・・
 ただ、アロー市軍の訓練後にYUKIKAZEには推進剤の補給があるんだって・・
 ジムには注入口の形状の関係だとかで、無理なんだってさ。
 だから、YUKIKAZEとジムはくっついて飛べ!って事だよね・・
 YUKIKAZEのブースター上面にフックがあるよね・・ 無骨な奴・・
 そこにジムの脚部を架け、マニピュレーターで機体を掴むと、ホールドはできるかなぁ・・って・・」

「おいおい、私は振り落とされないようにしがみついとけ?ってか?」

「そうね・・ しがみつくしかないでしょ? ジムコマンドの推進剤は使いたくないでしょ?
 YUKIKAZEの推進剤を補給してくれるんなら、こっちは少々使っても大丈夫だし・・
 つうかYUKIKAZEのブースターって、大きすぎるなぁ・・とは思ってたんだけど、
 今、考えたら、MSのフライトシステムも試行上考慮してるんじゃないかな?とか思うのよ、
 妄想できるよね? 前から気になってた、あのフック・・ まぁ汎用的と言えば汎用的なんだけど・・
 はっきり言って、邪魔って思ってたわけ♪
 でも、ジムが乗るって考えたら、十分にフラットな広さが確保されているし、フックが
 足の位置に来る・・ そう思わない?」

「強度的に大丈夫だったら良いのだがな・・」

「完全にYUKIKAZEの機体とジムコマンドの機体を一体化して、慣性にズレが働かないようにすれば
 問題ないと思うよ・・ まぁ、それしか思いつく方法が無い訳だし・・
 YUKIKAZEをカタパルトに接続したら、女の子に乗っかるように、優しく乗っかってね♪」

「ああ・・ 解った・・ それは得意だ♪ 可愛い女の子だったらな・・
 でな、新たな情報を入手した・・ マスミンが居ないので相談も出来んのだが・・
 アロー市軍からの情報は99%ガセ情報と思う・・ やはり罠に嵌められているような・・」

「どういう事?」

そんな時、ヘルメット装着を指示するアラームが鳴り響く・・
ガボット級突撃艇の発進準備が終わり、いよいよ発進されるようだ・・
私はヘルメットを装着し、オーリン准尉のヘルメットに自分のヘルメットをくっつけた・・

「YUKIKAZEに搭乗して待っていてくれ、後で話す・・」

「了解♪ って・・ まさかと思うけど・・ クレジットの番号は伝えたよね?」

(・・・ しまった・・ 忘れてた・・ まぁ良いかぁ・・♪)

ジムコマンドの足元まで行くと、ジムのコックピットからリフティングワイヤーがぶら下がっていた
リフティングワイヤーのエンドリングに足を掛け、コックピットに潜りこむ。

「ご苦労!整備感謝だ! なにか引き継ぎ事項はあるか?」

と、傍らで整備モニターを見ている整備兵に声をかける。
階級章を見ると一曹だ・・ 聞いていた教育兵や曹候補生ではない、整備班の班長だろう・・

「はい、右脚部の反応が、左脚部に比べ悪くなっています。
 前の戦闘でのひずみだと思いますが、我々では調整する事ができません。
 あと、メインカメラで接続不良が発生する可能性があります。
 端子の交換を行っておきましたが、原因が端子なのか?は私達には解りません・・
 でも、現物のモビルスーツ、しかも新型の点検が経験出来、非常に感謝しております!!
 勉強になりました!」

「おう!
 慣れない機体の整備・・ ありがとう! さて、頑張ってくるかっ!
 一曹、ハッチを閉めるぞ、下に下りろ!」

「はっ! ご武運を!!」

と、敬礼し、リフティングワイヤーで、整備の一曹が降りて行く・・
完全に下に降りた事を確認し、ジムコマンドのハッチを閉めた。
前面のモニターをオンにすると真っ暗だったコックピットが明るくなる・・
モニター横に貼ってある、リン、ヒロ、そして私の3人の写真を一瞥し、苦笑した。

(L4方面警備中隊第7MS小隊に乾杯っ! やってやんよ!)

やっぱり、MSのコックピットは、意識が高揚する!
核融合炉グリーン、生命維持装置グリーン・・ 各種チェックを実施しながらヘルメットの通信機をオンにした。
すると、ガボット級や2機のボールのコックピットから会話が流れてくる・・

「・・・ というか・・ この子のコックピットって狭いよね・・」

「・・・ そうかな? 私は戦闘機よりは後ろのスペースもあって、広いと思うけど・・」

「・・・ 一人だから狭く感じるのかな・・ ぼっちなう、だぜぇ!」

「・・・ 無線があるじゃん、大丈夫だよ。そばに居るから・・」

「・・・ でも、宇宙空間に出てミノフスキー粒子が散布されてたら・・ ほんと、ぼっちなうだよね・・」

「・・・ だね、というか、お腹すいたな・・ どっかにおにぎり落ちてないかな?」

「・・・ 落ちてないよ、というか、実際に落ちてたらどうする?」

「・・・ こら! プラス! チロル!! 私語は慎め! ごちゃごちゃ言ってると、
     こちらに居るラム准尉とメロ准尉と交代させるぞ!」

「・・・ プラス三尉殿! 交代しましょうか?」

「・・・ にゃろめ! 交代しないよ~ん! 貴様はピカチューでもやってろ!!
     関係ないがチロルは俺の嫁だ!! まだまだ若いもんに譲る気はな~い!」

「・・・ ぴっかちゅ~」

「・・・ あざ~す♪」

「・・・ 本当に貴様らの話はいつも意味が解らん・・
     つうかこれ以上私語を続けると本当に交代させるぞ!
     今回はボール実機に乗るのは初めてだが、シミュレータの動きとは大きく異なるはずだ・・
     どちらかと言えば、突撃艇や戦闘機に特性が似ているかもしれん・・ その差を身体で感じ
     この機体をどのように活用すれば良いかを後でまとめ提出させるからな!
     カタパルト射出速度とブースタースロットルの連携部分には注意しろ!」

「・・・ ラジャ!」

「・・・ じゃ、こっち(ガボット)は先に宙に上がっているからな、
     メロ准尉、発進シーケンスに入れ!」

「・・・ ラジャ(だじぇ♪)・・
     管制塔・・ こちらガボット15メロ准尉です、発進許可願います!」

「・・・ こちら管制塔・・ ガボット15メロ准尉、シグナルオールグリーンです。
     カタパルトプレスゲージグリーン!
     ガボット15のタイミングでコンタクトください!」

「・・・ ありがとうございます・・・ 艇長(キング一尉)発進許可出ました。」

「・・・ よし、次・・ ラム准尉!発進時のメインスティックをやってみろ・・
     ラム准尉、レディ? ユーハブコントロール!」

「・・・ は・・ ハイ! アイハブコントロール・・ ブースターアクセルオンにします・・
     エンジンブースト70・・ 75・・ 80・・
     管制塔・・ こちらガボット15、カタパルト発進願います!」

「・・・ オーケイ! ガボット15カウントダウン! 3・2・1・・」

ズン!という振動とともに、ガボット突撃艇がカタパルトから射出され、ブースター全開で天空に上昇していく・・
アロー市軍は突撃艇を番号で識別しているようで、ガボットの15号機のようだ。

実は、地球連邦軍の突撃艇は番号ではなく固有の名称で呼ばれている・・
これは軍が命名した呼称ではなく、艇長が勝手に自分のコールサインと同様に突撃艇に名称を付けるのが慣わしだ、
それを管制塔も採用し呼称している・・(中には、その名前を機体にもペイントしていた艇も少なくなかった)
軍の中で、突撃艇の艇長にだけ与えられた特権なのだが、なぜそのような事が許されているのかは、
突撃艇の艇長に対するリスペクトが理由だ・・ 一番危険な軍務が突撃艇乗りだという意味でもあるのだが、
アロー市軍にはそのような特権は無い・・ やはり中立は平和なんだと感じる・・

というか、初々しくて気持ちが良い! これが慣れてきたら「出るぞぉ~」の一言だけで発進していく・・
何時までも、この気持ちを持っていて欲しいとも感じていると

「・・・ ボール21B1、カタパルト発進願います!」

「・・・ 21B2も連続で出してね!」

どうやら、機体番号は仮番号だろう、私達グリフィン隊で設定した番号がボール本体にマーキングされている
番号はそのままで使用しているようだ。
なぜか番号の呼称だけなのだが、聞きなれた番号に懐かしさを感じてしまう・・

2機並んでいるカタパルトから、2秒ほどの間隔を置いて連続でボールが射出された・・
2人とも、ブースターオンのタイミングが少し早い・・ 射出された直後に、MAX出力になるよう
今後も訓練が必要だな・・と感じる・・

「・・・ わぁ・・ ち・・ ちびる・・」

「・・・ え~、え~、え~っ・・ だ、だめぇ・・」

(ちびったな・・)

声だけを聞いていると萌えてしまうが・・ 後からの声がチロル三尉だろう・・
だとしたら、ちびったのは、プラス三尉か・・
というか、かなり大きなブースターなので、YUKIKAZEよりGが強いかもしれない、

カタパルトの台座が発射始点に戻ってきた、ロボットアームがYUKIKAZEをカタパルトに設置する・・

「・・・ ワサビィ! お待たせ! ゆっくり上に乗ってね!」

「了解・・ 女の子に乗るように優しくだよな・・ 私は乗られるほうが好きなんだが・・」

「・・・ あんたの好みなんて、聞いてないわよ・・」

「そうか? 覚えておいて欲しいものだが・・ 損はしないと思うぞ♪」

「・・・ 隊長! 私は覚えましたっ!」

「すまん・・ チコちゃんはまだ覚えなくて良い・・ 私が悪かった・・」

「・・・ そういえば・・・ 前にYUKIKAZEで帰艦したとき、
     ウーミンちゃんが隊長のひざの上に乗ってましたよね? あれって隊長の好み?・・」

「チコちゃん・・ もう勘弁してくれ・・ あの時は両艦長に散々絞られたんだから・・」

とか言いながらもYUKIKAZEの後部ブースター部分にジムコマンドを乗り上げ、脚部をフックに掛ける・・

ジムコマンドのメインカメラが、YUKIKAZEの後部座席を捉えていた
中でチコ伍長が手を振っている・・

「いいぞ、固定した・・」

「・・・ ラジャ!
     管制塔、発進許可願う、こちらESFSスペースファイターYUKIKAZE
     長期に渡り、滞在させていただきアロー市自衛軍には心から感謝をしている。」

「・・・ こちら管制塔、オーリン准尉殿! 我々も色々とご指導いただき、感謝しております。
     発進準備オールグリーンです。 チコ伍長もありがとうな♪
     カタパルトプレスゲージグリーン!
     スペースファイターYUKIKAZE、コンタクトください。ご武運を祈っております!」

「・・・ うん! ありがとう♪ カタパルト発進カウントよろ!」

「・・・ 了解です! YUKIKAZEカウントダウン! 3・2・1・・」

ズンという振動とともに、強烈なGが身体を襲う・・
地上基地に設置されたカタパルトの加速度は、やはりグリフィンなどの簡易カタパルトとは
比較にならない半端ないパワーだ・・
絶妙のタイミングで、YUKIKAZEのブースターが全開になった・・(さすがオーリン・・)
振動の音が大きすぎるのか、スピーカが何かを怒鳴っているのだが、何も聞こえない・・

しばらくすると振動が小さくなる・・ 慣性飛行に入ったのか?
メインカメラで前方を確認しようと、ジムの上半身を起こした・・

「・・・ っちょっと・・ ワサビィ!! 急に上で動かないでよ!
     思わず行っちゃいそうになったよ♪・・」

無線通信ではなく、接触通信(ふれあい通信)でオーリンが割り込んできた・・
一旦通常無線のマイクだけを切り、接触通信に切り替える・・

「悪い・・ まさかこんなに早く行っちゃうなんて・・ 若いわね♪ なんてな・・
 すまん、前が見たかったんだ・・ ずっとチコちゃんを見ているのもストーカーみたいだろ?」

「・・・ わぁ・・ ずっと見られていたんだ・・ えっちぃ♪」

「いつの時代の言葉だよ? チコちゃん年齢詐称してないか?
 というか、YUKIKAZEには、フライトシステムのソフトは組み込まれてないんだな?」

「・・・ かな、あるのか?ないのか?も解らないわ・・アドオンされていてもロードされてないと見えないし
     ただ、上でジムが動くと、モーメントをモロに受ける・・ って事は理解したわ・・」

「そうだな・・ ただ、急に上で動く事もあるだろうな・・ そう考えておいてくれ・・
 ジムがYUKIKAZEに乗っていると、YUKIKAZEをの上部半球方向に自由にビームガンを撃つ事ができるからな・・」

「・・・ そうだね、うまく連携しロールしたりすると、下部半球にも撃てるよね・・」

「ああ・・
 そう考えると、こいつはすごい機動性のある武器になるなぁ・・ 早く量産化に入って欲しいものだ・・」

「・・・ だよね? 今後は宇宙戦闘機乗りは、ほとんどがモビルスーツに機種変更し替わって行くし
     セイバーフィッシュのベテランパイロットがいなくなる前に、早く作って欲しいね 
     MSフライトシステムって確かに使えるかも!」

「さて・・ マスミンが指定した訓練宙域までは、2時間半ぐらいか・・ つうか、ボールにもブースターを
 つけているから、この速度でもガボット級と併走できる訳か・・ うまく考えているなぁ・・
 まぁ、奴らの訓練までは少し時間があるって事だな・・ じゃ、さっきの話の続きだ、チコも聞いてくれ・・」

と、チーフから聞いた話をオーリン、チコの両名に話す・・
マスミンからの最終的な指示が届いていないため、まずは当初の作戦通りサイド5方面に向かうしかない・・
しかし、サイド5に向かうと、チーフからの情報が正しい場合、YUKIKAZEでぶっ飛ばしても8時間以上かかり
距離的・・、いや時間的に間に合うかどうかが不明だ・・

あと、ザクⅡ/Cを搬入するランデブーポイントから考慮すると、まだヘルシング艦隊はランデブーポイントまで
移動できていないはず・・ というか、まだザクⅡ/Cを受け取っていない・・と考えられる・・

「どう思う?・・」

「・・・ ワサビィはどうなのさ?」

「私は、チーフからの情報が正しいと思う・・
 万一、マスミンの言う座標にパプアとムサイが居ても、そいつらは核弾頭は持っちゃ居ない・・
 ジャンク屋商会は商売だ、受け渡しの座標は間違いはない! そこにターゲットのワルキューレが居る!
 というか、今からそこでザクⅡ/Cを受け取ると考えている・・」

「・・・ そだね・・ ワルキューレは確かにサイド2宙域に向かっているだろうさ・・
     ただね、後からこの話を聞いた私が思うに・・
     ワルキューレに核弾頭が搭載された可能性はあるものの、100%ではない! て事ね!」

「ん? そうか?」

「・・・ そうだろ? ザクⅡのC型を搭載するのはワルキューレだが、核弾頭を搭載しているのは
     どの艦なのか?の情報が無い・・ 単発バズーカもワルキューレの可能性がある・・ってだけだろ・・
     違うかな?」

「確かに・・ 確かに言われるとそうだな・・
 でもな、この話をチーフから聞いた瞬間に、ビンゴだと思ったんだ・・ 直感だがな・・」

「・・・ ワサビィ得意の野生の感って奴ね♪」

「・・・ 隊長ぉ・・ いいかな?」

「なんだチコ?・・ 言ってみろ・・」

「・・・ マスミン大尉は言ってたよ・・ 最後は隊長の野生の感に任せるって・・ 違ったっけ?」

「・・・ そう・・ 確かにそう言っていたわね・・ 連絡は私が取ろうとしたけど、
     何故か何処にも居なかった・・ 今、考えると、これも不思議よね・・」

「ああ・・ 何かあったのかもしれんな・・
 とにかく、訓練ポイントは月とL4の中間点、つまりサイド6(リーア)と月の中間点だ・・
 そして、マスミンの言う座標は、L1のサイド5(ルウム)に近い位置・・
 チーフの情報の座標は、サイド6と同じL4にあるサイド2(ハッチ)の残礁宙域だ・・
 訓練場所はちょうどそのど真ん中・・ 訓練後にどちらに行くか? って事だな・・」

「・・・ あのね隊長・・ 提案があるんだけど・・」

「チコ?、いいぞ自由にしゃべって・・」

「・・・ 隊長♪、ありがと!
     えっとね・・ ジオンの最終ターゲットは、サイド6のコロニーだよね?
     だったらサイド5に居る? ソロモンも近くって、連邦軍もうようよ居るかもしれない宙域にだよ。
     でね・・、作戦が始まってから38万kmほど移動しないといけないんだよ? 馬鹿みたいだよね?
     訓練するL4の中間点ってのは、マスミン大尉の聞いた情報から訓練宙域を設定したと思うんだけど・・
     その情報が正しければ、待ち伏せで奇襲も可能なので、戦力差もカバーできるけど・・
     隊長の言う座標の方がもし正しかったら・・ 後追いになって戦術的にも不利になるよね?」

「ああ・・ 確かにそうだが・・」

「・・・ だからね・・ 訓練宙域を変えないと、まずいように思うんだけど・・」

「ん? 訓練後にルウム(サイド5)に行くと、待ち伏せと後追いの半々・・
 でも、ハッチ(サイド2)に向かうと奇襲になり、もしマスミンの情報が正しければ、待ち伏せも出来る・・
 って事ではないのか?」

「・・・ さすが隊長だね♪ でもね、私が言いたいのはそういう事じゃなくって・・
     なんか、訓練がね・・ 嫌な感じがするんだけど・・ だから場所変えない?・・」

「訓練場所をか?」

「・・・ さっき思ったんだけど・・
     どうして、ジオン軍の移動は、連邦軍のソロモンへの掃討戦の開始タイミングに合わせるの?
     というか・・ ソロモン掃討戦の開始時間をどうしてジオンが知っているの?
     おかしいと思わない? チコ達だって、さっき聞いたばかりでしょ?
     あとさ・・ ボールの宙域訓練だってさ・・ ボールにブースターを取り付けたばかりだし
     考えたら、パイロットの2人も、ボールに乗るのは初めてでしょ?
     月とL4の中間点までわざわざ出向く必要なんて、私には全然理解できないんだけど・・
     あと、さっき隊長が言ってたけど・・ ジオン側も作戦準備中で移動中なんでしょ?
     だとしたら、すごく近い場所に、ジオンが居るような気がして・・
     なんかね・・ 訓練最中にジオンの攻撃を受けるんじゃないかな?って・・
     チコがジオンだったらそう考えるよ・・ これってまずいよね・・」

「ああ・・ どこかマスミンの情報は違和感がある・・て事だよな・・
 アロー市軍のヒックス准将が、ジオンのスパイだったら・・ 」

「・・・ ちょっと、ワサビィ! だったら、キング一尉達もグルって事?」

「それは、解らんだろ・・ グルだとジオンの攻撃があったら、急に敵に回るだろうが、
 わざわざ、そこまで仕組むか? それだったら拘束中の私や、基地にいたオーリンを殺害すれば
 済むことだ・・ パイロットが不在だと、この作戦は実施不可能になるからな・・
 グルの可能性は低いと思う・・ ヒックス准将がスパイだったら単独だろう?」

「・・・ だったら・・ 自分の部下達を見殺しにする気?」

「まぁ・・ ジオンと繋がっていれば、アロー市軍には攻撃するな!ってなってるだろ?
 そのため、識別コードを・・ あっ! そうか・・ 今、私達の識別コードは Unkown だな・・
 逆に、アロー市軍の奴らは専守防衛だから、自らは攻撃を開始しない・・
 でも、奇襲されてたら、多分私達は、戦闘力の弱いアロー市軍を守ろうとするだろう・・
 もし、ジオンに情報が渡っていたら、奴らはアロー市軍への攻撃は行わないが、
 それが我々にはわからない訳だ・・
 そう考えると、ジオンの思うツボか・・ 考えると良く出来た作戦だ・・ 犬死にだよな!」

「・・・ じゃね? カマかけちゃおうか?♪」

「どうやって?」

「・・・ キング一尉にさ・・ 訓練宙域の変更を伝えるの・・
     というか・・ 訓練宙域までは想定航路の変更はなしでも良いのだけど、その地点での訓練は
     きな臭さを感じる訳だから、訓練はもっと先のL4に近い宙域にする・・ってのはどう?
     『地球連邦軍側の都合だから、ごめんね!』って でも、宙では常に状況は変化する!
     とか・・ 新しい訓練内容を適当にぶち込めば、グルじゃなければ、速攻で乗ってくる筈!
     でも、グルだったら、必要以上に計画宙域での訓練に固執するはずでしょ?
     僚機が敵か味方か、不明だなんて、精神衛生上よくないもん お肌だって荒れちゃうし!!
     とりま・・ カマかけちゃおうよ!!」

「チコ・・ お前、良い子だな♪ 奴らがグルだと、確かに嫌だよな、確かめるか?」

「・・・ は~い! 良い子で~す♪ やりましょうよ!」

「・・・ そうだね、やりますか♪ 内容は任せるよっワサビィ!」

「じゃ・・ ちょいと考えるか?」

<第61話>(SS-2)パブリク突撃艇!」続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第59話>ムサイ級ワルキューレ / [小説]ガンダム外伝

2012-07-29 19:06:46 | [小説]ガンダム外伝

<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
<第55話>情報戦・・
<第56話>妄想と現実・・
<第57話>再会?!・・
<第58話>違和感・・
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「そうだな・・ 深度はマイナスの方が良いと思う・・
 そこはワサビィの方が慣れているだろ、基地を発進したあとは、私との連絡も出来ない
 ワサビィに権限を委譲するので、適時判断で動いてくれ
 目的は、ジオンの核弾頭を搭載したパプア級輸送艦1隻だ! ジムコマンドで挑発し
 YUKIKAZEのメガ粒子砲で叩く! 具体的な作戦はワサビィに任せる!
 発進は30分後12:00だ、ソロモン掃討戦は、本日18:00に開始される・・
 機密だ、他言は許さん!
 その開戦の混乱に乗じ、ジオンは行動を開始するとの情報だ・・
 ボールのテスト訓練は15:00~17:00・・ その後、我々も作戦開始となる
 以上だ、何かあるか?」

「いや・・ なんか妙だな・・ その情報は、本当に正しい情報なのか?」

「ん? さっきも言ったと思うが・・ アロー市軍ヒックス司令からの情報だ・・」

「じゃ聞くが・・ 標的艦はパプア級なのか? そして伴艦は? チベ級か?」

「チベ級は無いだろ? あれはそんなに製造もされていない、パプアから核ミサイルとの事
 伴艦は護衛にムサイが1隻付いている可能性がある
 MSはザクが3~4機いるらしい・・ 多分3機だろ・・
 ただ、ザクが居るといろいろ面倒だからな・・ 
 標的のパプアから引き離すため、ジムが囮になる、解るな?
 ザクをしとめるのは、3対1では難易度が高いが、引きつけて時間稼ぎをするだけなら
 ジムコマンドの機動力があれば3対1であっても、性能面から優位だと考えている・・」

「ちょっと待ってくれ・・ 囮の話はきついがザクなら問題は無い、
 まぁ、トサカ付き(ゲルググ)だと、ビームライフルなのでかなり難易度は上がるがな・・
 だが、ジオン側の想定艦艇の話が合わんのだ!! 私が聞いた話だが・・ 良いか?」

「ああ・・ なんだ・・ 言ってみろ」

「グラナダで奪取された核弾頭は1つだ、その核弾頭の種類は不明だが
 その弾頭は、ヘルシング艦隊に搬送されたとの事だ。
 ヘルシングの旗艦は、チベ級のグラーフツェッペリンだろ?
 想定敵の艦隊構成にチベ級が居ないのはおかしい!」

「今度は私が同じ事を聞くが・・ その情報は正しいのか?」

「ああ・・ 更に艦隊はチベを含む3隻で、既にグラナダを出航している・・
 構成は、チベ級以外はムサイ級2隻だ、パプア級はいない、また数も3隻でないと合わない!」

「妙だな・・
 しかし、ヒックス司令からの情報は座標も明確でコースも適切なのだが・・」

「私が仕入れた情報を説明しようか?」

「ああ・・ ボインボインのおねぇちゃんの情報だな?」

「だな、さっきはチロル三尉がいたからな、
 グラナダで奪取された核弾頭は1つで種類は不明は良いな?
 さっき言ったように、核弾頭を搭載し、出航した艦船は3隻で
 艦隊長はフォン・ヘルシング大佐の艦隊・・ 旗艦はグラーフツェッペリン!
 そして、あとの2隻は艦の特定はできていないが、ムサイ級が2隻だ・・
 艦船の目撃情報があり、この3隻は他の3隻と合流し6隻になっている可能性がある
 それは、その宙域に6隻艦隊の目撃情報があるからだ・・
 だからこの2隻ってのは違和感がある・・
 更に、その目撃情報では、マスミンが言う座標ではなく、もっとサイド6に近い座標だ!
 最後にこの作戦の首謀者は、キリング中佐とかでギレン総帥の公国親衛軍直轄の参謀だ
 私軍として海兵隊を操っている・・ あのドクロマーク部隊が絡んでいる可能性がな・・
 合流した3隻が海兵隊・・ そう考えると辻褄が合うのだが・・」

「ほう・・ その座標というのは?」

「ああ・・ サイド5宙域からサイド2宙域に移動中だ・・
 サイド6には、サイド2の残骸宙域から攻撃をかけると見ている・・」

「全然方向が異なるじゃないか?」

「だろ?、もしこの目撃情報が正しければ・・ 待ち伏せ宙域には誰も来ず、
 ジオンの奴らのサイド6への核攻撃を成功させてしまうわけだ・・」

「難解だな・・ その情報の出所はどこだ? 信用に値する情報なのか?
 グラナダ出航は3隻で、なぜ、6隻に増やす必要があるんだ?
 そんな大艦隊では目立って仕方ないだろ? このジオンの作戦は秘匿作戦だよな?
 艦隊は少ない方が良いはずだ・・ そうは思わんか、ワサビィ?
 ちなみに・・・ その6隻の中に、パプア級は居たのか?」

「ああ・・ 1隻居ると聞いている・・」

「そうか・・ だったら3隻が6隻になったあと、
 2隻が艦隊から分離し、その4隻は囮としてサイド2に向かっている・・ と考えたら、
 我々は逆に罠に嵌められる訳だ・・ ちがうか?」

「まぁ・・ そういう事もありうるが・・ 普通は4隻側ではなく2隻側が囮だろ?
 囮だとしたら、挟襲もありうるよな・・
 こちらが奇襲のつもりでも相手に筒抜けだったら全滅するぞ!」

しばらくの間マスミンは、無言でスクリーンに表示されているサイド2宙域のマップを
睨んでいた・・ そして徐に・・

「どちらの情報を信じるか? は、私が判断する・・
 今は私がこの作戦の責任者だ! 私の指示に従ってもらいたい・・ 良いなっ!」

「まぁな・・ それは了解だ・・
 ただな、他に何か違和感があったら、その時は私の判断で動くが。良いな?」

「今は私の指示に従えよ! これは命令だ! ただな、最後の判断は貴様の野生の感で動け・・
 意味は解るよな?」

「解ったよ・・ お互いにな・・ とりあえず、そちら側も裏を取って欲しい・・
 戦うのは私達だ!・・ いいよな?」

「ああ・・ 裏は取ってみる・・ 確かに嵌められたとしたら大事だからな・・」

・・・

若干の違和感を残したまま、出撃の準備に入った。
ガボット突撃艇にブースターが取り付けられていたが、この形式は落下式で再生使用される小型の物だ
カタパルト射出後の数秒間の補助に過ぎず、月衛星軌道までは自身の推進力で月引力を振り切って
上昇するタイプだ。

月衛星軌道上には衛星基地があり、戦闘機や仮にMSがあれば、ガボット級での曳航は
この衛星基地から曳航開始となる。そのため、通常のパイロットであれば、ブースターを装着した
単なる発進は慣れた物でははあるのだが、このような訓練機会を見逃すアロー市軍ではない・・

チロル三尉やプラス三尉のボール射出訓練に合わせ、ガボット級のパイロットも現在士官候補生である
ラムとメロといった2人の准尉(士官候補生を卒業すると、自動的に三尉に昇格)が訓練として参加する。
また、この2名は、ボールの予備パイロットでもあるようだ・・

尚、今回のボール射出訓練は、ボール自身の推進力が弱い事から、宇宙戦闘機に使用されている
大型ブースターをボール本体の左右に接続し、カタパルト&ブースターでの射出となるようだ。
ボールに接続されたブースターは、ガボット級で使用される落下式ではない。
ブースターの前面に、9連装の小型ミサイルポッドが装備されているタイプで、左右で18発が実装できる。
左右に設置された大型ブースターの間には、これも大型のプロペラントタンクが設置されており、
完全に月軌道外活動をも視野に入れた改装となっているようだ・・
これは、連邦軍のボールの仕様とは大きく異なり、かなりの推進力が期待できるため、
今までのボールとは全く異なった特性を持つ武器に改装されたと判断される・・
ただ、非常に短期間での改装であるため、装着のやっつけ感は否めないのだが、
当初からボールを採用する計画があったとも推測もできる。
つまり、そのような想定された設計があるから、短期での改装が可能であったという事が論拠だ。

(ボール本来の小回りの効く挙動が、ブースター装着で宇宙戦闘機的な直線的な動きになるだろう
 私が思うに、それなら宇宙戦闘機や突撃艇で良いではないか・・と感じるのだ・・
 だから、実際の配備時にはブースターは脱着式に変更し、戦闘時はブースターを外して
 本来の機動力を生かしたボールの運用を行うべきだと・・と考えている・・ が・・
 武装にミサイルポッドを装備している事から、ブースター使用の突撃艇的な運用方法で
 ボールを使用する考えだと読める・・
 それだと運用パイロット数を減らすことは出来るが、武器としてはガボット級とは変わらない・・
 アロー市軍とすれば、現存武装のガボット突撃艇との連携を考慮して・・と判断されるが、
 ボール本来の持ち味である自由な機動性を殺すことは適切ではないと感じている・・
 まぁ、そのような変更が選択されない事を祈ってはいるのだが・・ 時として軍の決定事項には
 不可解な事が良く発生する事も事実だ・・
 今回の訓練は、そんなテストも兼ねての訓練なんだろうな・・ と、推論する・・ )

つまり今回のボールの射出訓練は、万一の有事を想定した
「ブースターを使用した月面基地からのインターセプト訓練」と
「ブースター装着機体での無重力宙域での擬似戦闘&ガボット突撃艇との連携訓練」と理解した。

アロー市軍側の準備は万全だ・・
しかし、我々側の準備は、全くと言って良いほど行われていなかった・・
YUKIKAZEのカタパルト使用許諾は取り付け、既に数回の射出訓練をオーリン准尉が行っている。
これは、オーリンの訓練ではなく、アロー市軍の月面基地クルーの訓練となっている感が強いが・・
まぁ。YUKIKAZEについては問題なく射出されるだろう・・

しかし、問題はジムコマンドである・・、既にビームガンはエネルギーCAPも100%補填され、
どこから仕入れたかは不明ではあるが、予備としてビームスプレーガンが1丁
シールドの裏に装着されていた・・ 
武装は問題がない。そして、バーニアの推進剤も満タンに補給されてはいるのだが・・

月には大気はないが、引力はあるわけだ・・

連邦軍は、モビルスーツの配備がやっと行き渡ったかな・・という状態であり、
モビルスーツの有効な運用体制までは、まだまだ整備されている状態ではなかった。
つまり、連邦軍のMSフライトシステムなどは、確立されているはずがない訳だ・・ 

ジオン軍には、重力が強い地球上であっても、巨大な推進力を誇るドダイ型爆撃機を改良し、
MSフライトシステムを確立させている。宇宙空間においても然りで、やはりMSの運用については
連邦軍よりジオン軍の方が一日の長がある・・

そしてアロー市軍の軍事システムは連邦軍のコピーであり、ジオン軍配下では無いため、
アロー市軍にMSフライトシステムなどは存在しないし、現時点では必要性も低い

いや・・ 早い話が、無い!

そのような背景が原因とも考えられるが、要は私達は
フライトシステムを使用せず、どのようにして月の引力圏から脱出することができるのか
正直あまり考えてはいなかった・・


「オーリン・・ ちょっと気になるんだけどな・・ 私はどうやって宙に上がるんだ?」

「さっきマスミンが言ってたよね・・ YUKIKAZEをブースターにして・・ってさ・・」

「いや・・ それは解っているんだが・・ 実際にはどうするんだ?」

「あれ? 方法があるんじゃないの? YUKIKAZE使いのワサビィが知ってるって思ってた・・」

「えっ? オーリンが知っているんじゃ・・」

「そんなの知る訳ないじゃない!
 私は2回カタパルトを使ってのテストをしただけだし、そのまま宙に上がれるから・・
 ジムコマンドの事は考えてなかったわ・・ 宙に上がった後なら、YUKIKAZEの背中に
 貼り付けばいい訳だけどさ・・」

「おいおい・・ まさかカタパルトから射出されてから、ジムコマンドのバーニアを使う・・
 なんて言わないだろうな・・ 折角満タンにしてもらった推進剤が空っぽになるぞ!」

「そうだね・・ ガボット級にでも曳航してもらう?」

「いや、掴まる場所がないだろ? 曳航ロープに引かれてってのは、無重力宙域だったら可能だが
 月引力圏からの離脱には、曳航ロープは無理だろ、挙動を制御できない。
 ミサイル懸架装置にぶら下げる事は出来るかなぁ・・」

「ワサビィ・・ それは無理でしょ・・ ガボット級のミサイル懸架装置は小型だからね
 パブリク級に改装されていれば、大型ミサイルの懸架装置に変換されているけど・・
 でも・・ あったとしても、まさかね・・ ミサイルにしがみつくの?
 馬鹿みたい・・ やっぱ無理でしょ?・・ 」

「あぁ・・ そうだよな・・ じゃあ、私はどうやって上がればいいんだ?」

「今の準備状態だと・・ ジムコマンドをカタパルトから射出してもらい、
 バーニアで落下を阻止しつつ、YUKIKAZEの射出を待つ・・
 YUKIKAZEに曳航ロープを装着し、YUKIKAZEをカタパルトで射出後に加速し、
 ジムコマンドを追い抜く際に、曳航ロープにコンタクト・・
 そうするしかないでしょうね・・
 しかしさ・・ 速度を合わせるのが難しそうよね?・・
 時間がかかると推進剤も浪費するし・・ あまりお勧めとはいえないわね?」

「確かに良策とは言えんな・・ マスドライバーがあれば問題ないのだが、
 せめて、月引力圏からの脱出までは、自機の推進剤は使いたくはない・・」

「とは言ってもね・・ ガボット級の機体にMS用の接続フックでもあればさ・・
 ジオン軍だとフライトシステムを持っているんだよね・・
 アロー市軍にそれを期待するのは無理な相談でしょう!
 わがまま言わず、ジムコマンドのバーニアで・・」

「あのね・・ 隊長・・」と、横で聞いていたチコ伍長が話に割り込む・・

「どうして、MSを操縦して・・ って考えるの? 操縦しなかったら、良いじゃん♪」

「ん? チコ・・ どういう意味だ?」

「荷物になっちゃえば? 衛星基地まで、荷物は毎日運んでるよね?」

「おう! 貨物コンテナか! すごいぞチコ!
 私が貨物コンテナに入り、衛星軌道でリリースするんだな? いけると思わないか?」

「なるほど♪ チコちゃん偉い!・・ ジムを荷物にすれば良いのね、これ、いけそう♪
 そうなると、貨物コンテナ輸送機の手配が必要だよね・・ ちょっとマスミンに聞いてくる!
 ただ・・ 準備できるかな? ワサビィだけは、後発になるかもしれないね・・
 あっ・・ チーフに連絡した? 私もチーフと話したかったけど・・
 よろしく♪ って伝えておいてね!」

「おう! すっかり忘れていた・・ 時間は大丈夫か?」

「まだ、大丈夫じゃね? あっ、チコちゃん・・YUKIKAZEの発進確認、先にやっといて!」

「はーい♪」

「じゃ・・今から掛けて来るかな? 輸送機(コンテナ)の手配は頼んだぞ!」

・・・

オーリンが思い出してくれなければ、すっかり忘れていたチーフへの電話
困った顔のチーフの顔を思い出しつつ、食堂に設置された公衆電話からチーフの店に電話をかける・・
(クレジットのパスワードだっけ・・)

「・・・ はい、セカンド・ルナです・・」

「なんだ! 奥さんじゃないのか? 非常に残念だ・・」

「・・・ おっ!中尉・・ いや、ワサビィ大尉殿! 嫁さんは駄目だって言ってるよね?
     つうかジャストタイミング! すごい情報が入った、点と点が繋がって・・ あっ、公衆回線か?」

「ああ・・ そうだ・・」

「・・・ じゃ、悪いけど、今から言う番号にかけなおしてください・・・ コード3で!」

「解った・・ メモするから待ってくれ・・」

コード3とは、ルナ・ツー防衛隊時代に良く使った、仲間間の合言葉のようなもので、
番号の場合「3」を引く・・ 『4番目の子は俺が頂く!コード3でな♪』とか、何にでも応用できる

チーフが伝える電話番号は携帯キャリアの番号だった・・
その番号から「3」を引いた番号に電話をかける
(何の情報だ? ジオン側の動きが解ったのか?)焦る気持ちを押さえ、電話のコール音を聞く・・

「・・・ 手数を取らせ悪いね、この番号は盗難電話だから1回だけの番号、すぐに捨てるので・・ 
     というか、トムが用意してくれたんだよ・・ ほんと気が利く奴だ♪
     で・・、グラナダの軍港で、核弾頭を積み込んだ可能性がある艦名がわかった
     ムサイ級の『ジークフリート』と『ワルキューレ』!」

「ほう!2隻に絞れたのか・・ で、どちらに積んだか解ったのか?」

「・・・ ん? 忘れた? どっかで聞いた名前はない?」

「ん? どういうことだ?」

「・・・ ワルキューレ・・ ヴァルキューレって発音かもしれない・・
     フォンブラウン工科大学のザクⅡのC型・・ どこに搬入するか覚えてないか?
     実は、俺もうっかりしてたんだけど・・
     ザクⅡのC型は、核バズーカを装備できる核攻撃型じゃなかったか?
     開戦当時は、あの核バズーカで、サラミスなんか一発で轟沈させられた・・」

(な・・ なんだ・と!!)

「すごいぞ!チーフ! 繋がった!繋がったぞ! やっぱり真実は矛盾なく1つに繋がるよな!!
 ザクⅡのC型かぁ・・ なんであの時に気付かなかったんだ! くそぉ!!
 この時期にわざわざ調達する必要が発生したのは、MSが足りないからじゃないんだ!
 そうか・・ C型でないと、核攻撃が出来ない・・ ポンコツでもC型が必然だったんだ!
 核弾頭も核バズーカ用は、核ミサイル用より小型だ・・ グラナダでの移送時も
 小型であるため、目立ちにくいから、目撃情報も入らなかった・・
 全てが繋がるじゃないか!!」

「・・・ だろ? あと補完情報だけど、C型用の単発バズーカを1丁、
     ジャンク屋商会が発注を受け納品してた履歴が見つかった・・ 納品場所はグラナダのF埠頭・・
     この時間にF埠頭に駐留していた艦の中にワルキューレが居たとの情報も確認済みだ!
     どうだ? ビンゴだろ? 報酬を頼むぜ♪」

「こりゃ、確定だな! ワルキューレか・・ 確かに核弾頭はバズーカの単発式でないと発射出来ない・・」

「・・・ で・・引渡しの座標は覚えているか?」

「サイド2宙域だっけ?」

「・・・ そう! サイド2の残礁地域で、ワルキューレという名前のジオン艦とランデブー・・
     って事だっただろ。
     実はその場所は、あの8番コロニー『アイランドイフィッシュ』があった場所・・
     なんか、嫌な場所だね?
     俺も思い出したくはないんだが・・ 逆に因果を感じるよ! こいつは阻止しないと・・
     ちなみに、ワルキューレは後期型、ジークフリートとの見分けはコムサイ接合部の形状だ!」

「おう! 後期型のムサイなんだな・・ 艦橋の形が違うのでは?」

「・・・ いや、艦橋は改装されている可能性がある・・
     でも、コムサイの接合部は改装できない。確実な方で見極る方が良いだろ?」

「ああ解った・・ 本当にありがとう! これで目処がついた! 他には何かあるか?」

「・・・ いや・・ というか、本当にジャストタイミングだとおもうぜ♪
     何とか連絡をつけようと考えたが、方法がなくてさ・・ イライラしてた訳だ
     これは運だ! 成功するパターンだね♪ 期待しているよ!」

「ああ・・ なんとしてでも成功させる!  おう!そうそう・・ オーリンも居るぞ!」

「・・・ おっ?・・ 姉御、MIAだったんじゃ? そうか生きてたか・・ 元気にしてるのか?」

「すこぶる元気さ、さっさと終らせて、すぐに帰るから『ムサカ』を作って待っててくれ!」

「・・・ ラジャ! 通信終わり! お二人のご武運を祈っています!」

「ああ! 期待に添えるよう、やってやるさ! 吉報を待っていろ! 通信終わり!」


何という事だ! 全てのモヤモヤが払拭され、点と点が線で繋がった・・
嵌められた感もなく、全ての情報が連鎖し、アドレナリンが沸騰している・・
これは、神が私に与えた試練だ!
サイド6リボーコロニー、200万人の市民の命を救え!と、神が言っている。

(さて5分前か・・)

最初の射出はガボット級突撃艇で、そのあと2機のボールが続く・・
アロー市軍の訓練が終った後、YUKIKAZEの射出だ・・
(そろそろ、ジムコマンドに乗り込むか! 輸送機&貨物コンテナは準備できたのか?)
と、格納庫に向かった。

<第60話>カマかけちゃおうよ♪」に続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第58話>違和感・・ / [小説]ガンダム外伝

2012-06-22 01:32:40 | [小説]ガンダム外伝

<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
<第55話>情報戦・・
<第56話>妄想と現実・・
<第57話>再会?!・・
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「では・・ リンは? リン少尉はどうした? どうなったか聞いているだろ!?」

と、マスミンに詰め寄ると同時に、フロアにグリーンランプが点滅し、
立ち入り禁止が解除になる・・
私は、急ぎ足で2人の所・・ YUKIKAZEの所に駆け寄った・・
(リンは? リン少尉は? どうなった?!)

YUKIKAZEに近づくにつれ、YUKIKAZEの後ろにある、地下基地の天井を支える太い柱の影から
白い巨体が現れてきた。(な・・ な・んだ・・と!!)

言葉が出ず、立ち止まって巨体を見上げる! 肩のかじったいちごの部隊マークが鮮やかだ!

「ジムコマンド・・ 213号機・・」

MIAになった、リン少尉の搭乗機だ! そして、目の前にはパイロットスーツに身を包んだ
オーリン准尉とチコ伍長・・ この2人もMIAだ・・
あまりにも、突然の事態に、理解のスピードが追いつかず放心状態になる・・

そんな私にオーリン准尉達が気がついた・・

「あれぇ? 整備兵だと思ったら、ワサビィじゃないの?」

「あっ!本当だ!!
 隊長ぉ~♪ どこ見てるんですかぁ~! チコですよ~!」

その声に我に返る・・

「お前達・・ すごいぞ! やっぱり生きていたんだな! うん・・すごい・・」

思わず、涙腺が全開になり視界が曇る・・(本当に良かった・・)

「あれ? 隊長? 泣いているんですかぁ?」

「泣いてなんかいないぞ! これは、汗だ♪・・ バカ野郎・・
 で・・ リンは? リンはどこに居る?」

「リン少尉は、フォン・ブラウンの病院にいるよ!」

「なに? 病院だと? やばいのか?」

「いや・・ ちょっとね、頭を打っているのと、酸素欠乏症かな・・
 万事を考え、病院に送ったんだ・・ 連邦系の軍事病院に入れたかったけど・・
 搬送に時間がかかると嫌な感じがしたんだよね・・ 一般人の旅行中の救急入院って事で
 大学病院に入っている・・ まぁ・・ 保険が効かないけど命の方が大事だからさ!」

「で・・具合は? 意識が無いのか?」

「いんや・・ 意識はしっかりしてたよ! 大丈夫と思う・・」

「そうか・・ いやぁちょっと安心した・・
 ほんと、良くやってくれたよ、いつか前にもあったように、オーリンが助けたんだよな・・
 って、勝手に想像したら駄目だな・・
 あの戦闘中の離脱から、どのようにして今に至るのか、報告してくれ!」

「だね・・ でも、後で良いよね?
 ワサビィの後ろで次のミッションを進めようと、特務殿が待っているからさ♪」

との、オーリンの言葉に、後ろを振り返る・・

「ということだ!、想定外であったが、
 我々が自由に使えるグリフィンの機材が運よく調達できたって訳だ・・
 整備はアロー市軍に、裏ルートで依頼し、何とか確保した・・
 だがな、肝心のパイロットが足らん・・」

「リン少尉が作戦参加不可能になった・・ だな?
 いや・・ パイロットなら、私がいるじゃないか!」

「ああ・・ スパイ容疑がかかった、使えないすけべ野郎がな・・」

「また、スパイ容疑か・・ あのくそったれ主計中尉め!」

「くそったれでも、はなたれでも良いが、正式ルートで容疑をかけられている、
 そのため容疑が晴れるまでは、監禁する事になるのだが・・」

「やぱり、軍法会議は避けられんのか・・」

「そうだな・・ 避けられん・・
 ただ、大きな作戦の直前でもあるので、ワッケイン司令と話ができていない状況だ・・
 だから、戦隊長と相談し、その指示に従う事にした・・
 結果は『特務中で連絡取れず(って事にしちゃって)、
 そのまま特務を実施せよ(だよね)』との事
 特務が終ったら『グリフィンの独房にぶち込むから、絶対につれて帰ってね!』との
 暖かい助言付きだ!
 良かったな、マメハ大佐に見捨てられずに・・」

「つうか、独房にはぶち込むつもりだよね・・ 大佐の楽しそうな顔が目に浮かぶぜ・・」

「まぁ・・ そういう事から、実は貴様を放置していたのだが、
 急遽呼び戻す必要が出たわけだ・・ だから最初は独房に入っていただろ?
 その後、特務実施の方針が決定し、貴様を選から外した
 独房はかわいそうだから・・と ヒックス司令と相談し、自由にさせること事にしたんだが
 リン少尉がジムに搭乗できれば、貴様はそのまま放置されたままで
 自由に特務ごっこを継続していたわけだ・・」

「なに?・・ そういうことか・・ 話が変わり、急に扱いが良くなったって・・」

「そういうことだ、全て私の手のひらの上で踊っていた訳だ・・
 つまり・・ チロル君も私の配下ということだ! 解ったか?、鈍感君♪」

「えっ?」と、チロル三尉を見る・・

と、テヘっと笑い、ペロっと舌をだした・・(てへぺろ♪って・・ おいみんなグルかよ・・)

「ただな・・
 本来、この特務はジオン側の動きが解った段階で、我ら21独立戦隊で対処予定だったが
 時期がな・・ ソロモン掃討戦と重なってしまった・・
 そのため、この戦力で作戦を行う事になる・・
 グリフィンからの援護はこれ以上期待できない・・ と言うことだ・・」

「この戦力? ジムコマンド、YUKIKAZE・・ あと・・ ボールは? ボールはあるのか?」

「良く考えろ、パイロットが足りんと言っただろ?」

「ん? オーリン、チコ・・ そして私・・」

「そうだ、ジムに貴様、YUKIKAZEにオーリンとチコだ! ボールのパイロットが不足だろ?
 補給の燃料や弾薬・・ 整備経費・・ 無料では無い、ましてやここは月だ!
 月には月のルールもある。ジャンク屋商会経由で、アロー市軍に売却した訳だ・・
 マメハ大佐には、破損がひどいので・・ と伝えた処分する事に合意を得た・・
 ただ、事前にオーリンから大佐に行った報告とには差異があるのだがが・・
 まぁ、そこは適当に大佐が・・」

「おい・・ それこそ軍法会議もんだろ?・・」

「見つからんなら、大丈夫だ・・ まぁ、それで、ジムもYUKIKAZEも整備できたんだ
 文句は言うな、結果と成果が全てさ!」

「この、悪徳商人め・・ まるで越後屋だな・・」

「なんとでも言え!、軍務を優先する!
 ということで、1時間後にブリーフィングを実施する、そこの会議室に集まってくれ・・
 おい! オーリン、1時間後に集合だ!」

「アイサ! マスミンっ!
 チコ? シャワー浴びよっか? また、ワサビィが覗くかもしれないけどさ♪」

「おっ! その緊張感、久々ですなぁ~♪」

「な・・ なに? 何を言ってる?」

「え~っ! グリフィンでは有名だったんですよ~ シャワーや着替えの時は、
 隊長がどこにいるかを確かめてからって! 覗きの常連だって話で・・」

「誰がそんな話を・・」

「ヒロ中尉が・・」

「あのバカぁ・・」

「え~? 覗いてなかったんですかぁ? もったいない♪」

「覗いても良いのかよ?」

「別にぃ・・ でも、みんな覗かれているって思いながら入ってたんですよ
 そっちの方が、楽しいじゃん!って♪」

「というか、貴様らがそういう目で私を見ていた事が、良くわかった・・」

「やっぱり・・ 否定しないよね・・ オーリン隊長!」

「だろ・・ 昔から、そういう奴なんだよ♪
 さて、種馬さんはほっといて汗を流すぜ! いくぞチコっ!」

「は~い!」

・・・

地下基地の施設は、岩盤を削った中に構築されている・・
チロル三尉に、その施設の中の士官用の個室に案内される。

「ベリー三佐・・ いや・・ワサビィ大尉ですね♪
 狭いところですが、こちらでノーマルスーツにお着替えください。」

見ると、連邦軍のパイロット用ノーマルスーツが用意されていた・・

「チィロは全て知っていたんだな・・」

「えっ・・ あの・・ 途中からなんですよぉ・・
 司令のお部屋での粗相は、全く関係なく、あれはガチでした
 その後、ワサビィ大尉と面識が出来た事から私に護衛に付け・・と命令され・・」

「護衛だと?」

「はい・・ そのよう聞きましたが・・ どうやら、私も監視されてたみたいで・・」

「そうか・・ だから監視って気配がチィロに全く無かった訳だ・・
 マスミンの考えそうな・・ って、監視されていたぁ?」

「はい・・ 私を大尉に貼り付け、その私と大尉を監視するために、
 もう1人連絡要員が配置されていたようで・・」

「どういうことだ?」

「はぁ・・ 私が襲われたら、すぐに邪魔に入るとか・・ かな?・・」

「素晴らしい発想だな・・ 参ったぜ・・ となると、今も監視されているのか?」

「いいえ、もう監視されていないと思います・・」

「そうか・・ だったら・・ 今、この部屋の中には2人きりっって事だよな♪」

「えっ? あの・・ いや・・ そんなつもりは私には全く・・
 というか、マスミンさんに悪いし・・」

「はぁ? なんでマスミンが出てくる?」

「えっ? だって、ラブラブぢゃないですかぁ!!」

「どこがだ?」

「・・・ 鈍感なんですね・・
 じゃ、着替えてブリーフィングに遅れないようにしてくださいね♪ ではっ!」

と、チロル三尉が部屋を出て行った・・ ラブラブだとぉ? 私・・ そうなのか??
ただ、嫌な気がしない事だけは事実だった・・

・・・

シャワーを浴びて、ノーマルスーツに着替える・・ やはりパイロット用がしっくり来る!
時計を見ると少々早いが、ブリーフィングルームに向かうため部屋を出た。

廊下を進んでいくと、オープンスペースになった休憩所に、チロル三尉が居るのを発見した。
アロー市軍のノーマルスーツに着替え、同じノーマルスーツを来た同僚らしきメンバーと
楽しげに会談している・・

「おう! チィロ!」

「あっ! 大尉っ! 紹介します、この子が私達を監視してたんですよ♪」

「はじめまして!
 宙空防衛隊MS中隊 第2MS小隊パイロット候補のプラス三尉です!
 このたびは、命令とはいえ、申し訳なく・・ 以後お見知りおきを!
 宜しくお願いいたします!」

「ほう・・ 君が? さっきチロル三尉から聞いたが・・
 そんなに私は危険だったか?」

と、販売機から飲料水ボトルを購入し、ボトルを空け水を口に含む・・

「はぁ・・ 危険な会話は随所に・・ というか、私は男性に免疫が無く・・
 そのぉ・・ ドキドキしてしまい・・ 」

「ん? 会話を聞いていたのか? 通信機は持ってなかっただろ?」

「いや・・ 女なんで・・ その・・ 」

「女か・・ まるで諜報部員だな・・
 で・・ もしやばい展開になったら、どうするつもりだったんだ?」

「それは・・ 僕のチロルは僕が守るし・・ 」

「えっ?」

「ワサビィ大尉ぃ! 私達、ラブラブなんですよ~♪ てへっ」

「って・・ 君達、女の子同士じゃないか?」

「何をおっしゃいますか? 可愛い女の子は正義です!」

「いや・・ プラス君だっけ・・ その思想は正しく、私は否定しないが・・
 そうか、そっちだったのか、やっと頭の中の整理がついた・・
 そっか・・ そういう事か・・ うん私は否定しないぞ♪ 頑張れ!」

「はっ! ご理解いただき、感謝です♪ 大尉は思った通り、ヤサ男ですね!」

「ヤサ男?」

「優しい男って意味です。」

「まぁ、何でも良いがな・・ このジオンとの戦争で沢山の男性が戦死した・・
 そのため、男社会だった軍に、女性が大挙して従事するようになって来た訳だ
 この1年で大きく変わったのは、男社会の軍が女社会に変わってきた・・ということだ・・
 私の所属する戦隊も、女性比率が高かったりする・・ 戦隊長、艦長、参謀と・・
 1週間戦争前は、男女比率は、最前線で男性9に女性が1、多くても男性7に女性が3だ
 それより多くすると、規律が乱れるとの見解だったのだが・・
 それが、戦争で原則が崩れたわけだ・・
 だから『チロルは俺の嫁』ってのも良いと思うぞ♪」

「あは♪ こういう人が隊長だったら良いのにね~!」

「おいおい・・ 隊長になったら、話は違う・・
 戦場に色恋は持ち込むな! 死ぬぞ!! 死亡フラグが必ず立つ!・・」

「そうなんだ・・」

「ん? チィロ? なにが、そうなんだ?」

「鈍感だからかぁ・・ だから生き残ってエースになれるんだね・・」

「はぁ?」

「いえ、こっちの話です。 すごくためになるお話、ありがとうございました♪
 あっ・・ そろそろブリーフィングのお時間ですよ、一緒に行きましょう!」

「ん? 君らもブリーフィングに参加するのか?」

「はい! だからノーマルスーツです♪ 戦闘には参加できませんが・・」

・・・

ブリーフィングルームに入ると、既にオーリン、チコが席に付いていた、
その横に並ぶ・・

「オーリン・・ 作戦の内容は聞いているのか?」

「大体ね・・ ワサビィは囮だよ・・ 死なないでね・・
 私とチコが、YUKIKAZEで敵艦を落とす・・
 奇襲でさ・・ それしか勝機はないみたい・・」

「あいつらは?」 と、アロー市軍のチロルとプラスをあごで指す・・

「知らない・・ でも、戦闘には参加できないよね、中立だから・・」

「そうだよな・・ しかし、ここに居る・・ なぜだ?」

「わかんない・・ チコ? 聞いてる?」

「私も聞いてないよ・・ なにも・・」

「そうか・・ じゃ、全てマスミンの手のひらの上・・って事だな・・」

「だね・・」

と、雑談をしていると扉が開く・・

「ア、テ~ンショ~ン!!」

マスミンに続き、上背のあるアロー軍の士官が一緒に入ってきた・・

「着席!」

「だれだ?」

「知らん・・」

「ごちゃごちゃうるさいぞ、そこ!!
 紹介する、アロー市軍、宙空防衛隊MS中隊の中隊長キング一尉だ、
 今回の連邦軍の作戦をカモフラージュするために、訓練飛行を計画し、
 その責任者として、対処して頂く・・
 そこに居る2人のパイロットの上官になる訳だ・・」

「カモフラージュだと?」

「うるさいと言っただろ? いいから聞け!」

「訓練は、新しくアロー市軍が調達したボールの試験飛行だ・・」

「おい! ボールって・・」

「ほんとに貴様は頭が腐ってるな、耳は飾りか?・・ 最後まで聞け!・・
 まだ、アロー市軍にはモビルスーツの配備が出来ていないのだが、
 それに先立ち、ボールを2機調達した・・
 現在、ブースターを装着し、月環境に合わせた改修が行われている・・
 今回は、そのボールのテスト飛行になるわけだ・・
 パイロットは、プラス三尉、チロル三尉の2名!
 中隊長のキング一尉と、予備のパイロットは、ガボット突撃艇で随伴する・・
 テストコースは・・ 前を見て欲しい・・
 このマップからも解るように、月とL4、つまりサイド6との中間点で訓練を
 実施する・・ 月圏内だと、引力の影響もあるため、この地点まで進む・・
 ここで、訓練を実施するが、その補助として、連邦軍として協力する訳だ・・
 ボール正規パイロットのチコ伍長! 協力してあげてくれ!
 YUKIKAZEで随伴する、パイロットはオーリン准尉だ・・ いいな!」

「おい! 私は?」

「主役は最後に登場だ・・ 早漏は嫌われるぞ!」

「いや・・ 商売女にゃ好まれるがな・・」

「ふん♪・・ その早漏野郎だが・・
 ジムに搭乗し、YUKIKAZEに接続する・・ というか、YUKIKAZEをブースターにし
 宙に上がるわけだ・・ ガボット級やボールは識別信号をアロー市軍で発報するが、
 YUKIKAZEは、信号を殺してくれ・・ もちろんジムもだ・・ 偽装は条約違反だからな
 核融合炉は稼動させるが、起動はそこで止めてくれ・・ 解るな・・
 アロー市軍の訓練にあわせ、そこに紛れて月基地から発進する・・
 ジオン軍のレーダー網を潜り抜けるためだ・・ だから、L4中間点まで異動する・・
 ここまでは良いか?」

「ボールの訓練は? ダミーなのか?」

「いや、正式だ・・ 訓練を補助して欲しい・・
 それが我々連邦軍がアロー市軍の協力を得られる条件だ・・
 じゃ、ボールの訓練内容に対し、キング一尉から説明がある、では一尉・・」

キング一尉から、訓練内容についての話が続く・・
私達は、要はアロー市軍の訓練に紛れ、月基地を発進し、
その後、分かれて特務に入る訳だが・・
しかし、良くここまで中立のアロー市軍の協力が得られというのが、
月都市いや、ルナリアンの不思議なところでもある・・
(ようは金でカタが付く訳だ・・)

アロー市軍側の訓練計画の話が終わり、アロー市軍の関係者が
ブリーフィングルームから退席した・・ 

「さて・・ 本題だ・・ その前に、ワサビィ、チーフに電話しておいてくれ!
 クレジットのパスワードを伝えてないだろ? エレカーの精算が出来ないそうだ・・」

「ああ・・ そうか・・ 解った、後で電話しておく。公衆使用可能だな?」

「多分な・・ まぁ、貴様のクレジットだ、盗聴されても問題はない♪」

「逆だよ、公衆からの発信だと、誰が掛けているか特定できないから安心なんだ!」

「そういうものか・・
 じゃ! 本題に入るぞ・・
 アロー市軍ヒックス司令から、ジオン軍の核弾頭を保有した艦船の座標が送られてきている
 その潜んでいるポイントが、ここだ・・ 非常にルウムに近い位置だな・・
 ジオン軍はこの位置から、連邦軍のソロモン掃討戦をトリガーにその騒ぎに紛れ異動する、
 そしてサイド6を叩く作戦だと聞いている・・ クリスマス作戦だと、ふざけるな、だ!
 だから、その中間点である宙域で、ボールの訓練を行い、アロー市軍が退却したあと
 その場に残り、待ち伏せする・・ 戦術として追うのは分悪いが、迎え撃つのは
 効果があり、奇襲要素を追加することで、勝機は十分にあると考える・・ どうだ?」

「待機するのは、深度はプラス2ぐらいか?」

「そうだな・・ 深度はマイナスの方が良いと思う・・
 そこはワサビィの方が慣れているだろ、基地を発進したあとは、私との連絡も出来ない
 ワサビィに権限を委譲するので、適時判断で動いてくれ
 目的は、ジオンの核弾頭を搭載したパプア級輸送艦1隻だ! ジムコマンドで挑発し
 YUKIKAZEのメガ粒子砲で叩く! 具体的な作戦はワサビィに任せる!
 発進は30分後12:00だ、ソロモン掃討戦は、本日18:00に開始される・・
 機密だ、他言は許さん!
 その開戦の混乱に乗じ、ジオンは行動を開始するとの情報だ・・
 ボールのテスト訓練は15:00~17:00・・ その後、我々も作戦開始となる
 以上だ、何かあるか?」

「いや・・ なんか妙だな・・ その情報は、本当に正しい情報なのか?」


<第59話>ムサイ級ワルキューレ」に続く・・・

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<第57話>再会?!・・ / [小説]ガンダム外伝

2012-05-31 20:17:27 | [小説]ガンダム外伝

<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
<第55話>情報戦・・
<第56話>妄想と現実・・
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「ああ・・ 頼む・・
 って・・ 店の裏ってこの辺だよな・・ どこに止めれば良い?」

と、バギーを店の裏の空き地に止めると同時に、裏口のドアが開き人影が飛び出してきた。

「もう!! どこに行ってたのよぉ!! 私を置いてぇ!!!」

チロル三尉だ・・ かなりのオカンムリの様子だが・・
彼女は私達とは関係無く、この作戦に巻き込むわけには行かない・・

「ああ・・ すまんすまん♪ そんなに怒ると可愛い顔が台無しだぞぉ♪
 こいつと2人でちょっとな♪ チィロちゃんが寝ちゃったんで、お約束の1発もできないし
 暇だからな・・ ちょいと、素敵なお姉ちゃんがいっぱい居るところにな♪
 いやぁ・・ あの、お姉ちゃん、ホント良かったよな? なっ!? なっ!!!」

「えっ? あ・・ ああ・・ そりゃもう♪
 ボインボインで、おっぱいがいっぱいで、最高でしたよね♪」

チロル三尉の目がまん丸になり、顔がみるみる赤くなる・・
こういう、純な表情が可愛く、妙に萌える♪

と、その時、聞きなれた声が・・ 

「そうか・・ 本隊では大事な決戦が開始されるという大事な局面だというのに
 特務という事を傘に着て、貴様は綺麗で可愛いボインボインのおねいちゃん達と
 あんなことやこんなことを楽しむ、リクレーションをしてたって訳か?
 本当に最低な種馬だな?・・ あきれて物も言えん!」

「えっ・・ マ・・ マスミン?・・」

「なんだ、そのお化けを見るような目は? 足はあるからな!
 というか、奇跡の再会で感激した振りをし、ドサクサにまぎれて私に抱きつこうなどと
 人間の風上にも置けないような卑怯な事を考えている疾しい目かもしれんな?」

「ひょっとしたら・・ この方が噂の特務大尉殿で?」

「ああ・・ その通りだ・・」

「ん? 何が噂だ? 容姿端麗、才色兼備、純粋無垢・・
 軍隊に置いておくにはもったいない美貌の持ち主との噂か?」

「中尉・・ 納得です・・ 中尉にはぴったりだ♪」

「おい! どこがだ!それはないだろ? こいつの何処が私に・・?」

「何をそこでごちょごちょしゃべっているか? 女の腐った奴みたいに・・
 とにかく、気絶している事をこれ幸いに、私の胸をまさぐり、更に唇をも平気で奪うような卑怯な輩が、
 この大変な時期だと言うのに、おっぱいがいっぱいの不純な貴様ら畜生もどきには非常に楽しい場所で、
 夢と希望で、胸をあそこを膨らませていたんだろ? ん?」

「え~! え~!! え~!!! 唇を奪われたんですかぁ!!!」

またぁ・・・ ややこしい奴が話に割り込んできた・・

「おい!チィロ! 奴の話は信じるな!」

「なんだと? あの出来事は全て嘘だというのか?
 ああ神様!!・・ か弱き私の操はこうやって汚されていくのですか・・
 私の純な心は、ぼろ雑巾のようにズタズタに引き裂かれ、
 そしてそれらの事象がまるで無かったかの如く
 爬虫類脳と暴れん棒将軍と化した下半身でのみ行動する、この腐れ野獣は、
 飄々と次のターゲットに狙いを移していくのでしょうか・・ 」

「そうなんですか?
 やっぱり、狙われていたんですね!
 やっぱり、野獣さんだったんですね!!
 やっぱり、私も襲われる所だったんですね!!!」

「おお! か弱き乙女よ・・ 貴様も種馬の毒牙にかかるところだったのか?
 うんうん・・ よく頑張ったぞ! お姉さんが来たからにはもう大丈夫だ♪」

「そこで永遠に喜劇でもやってろ・・ おい、チーフ・・ 店に入るぞ・・」

「えっ・・ 良いんですか? この修羅場を・・」

「何処が修羅場だ・・ 奴の減らず口が絶好調の時は、機嫌が良い証拠なのさ♪ 行くぞ!」

と、マスミンとチィロに背を向け、店の通用口に向かった・・
すると・・

「おい・・ この状況で放置プレーに移行できるとは、変態力を更に向上させたようだな・・
 短期間で、素晴らしい成長だ! わが軍にとっては全くメリットもクソも無いがな・・
 おい! そこの変態! 店には入らなくても良いぞ・・ すぐに出発だ!
 というか、店の中の奥さんに、用事でもあるのか?」

「なに? 出発だと?・・ つうか、一言二言多いがな・・」 振り返りマスミンを直視する・・

「ああ・・ 時間が無い・・ で・・奥さんにはまだ手は出していないのか?」

「まさか、グリフィンに戻るのか? ・・ って、私の戦友の奥さんには手は出せんだろ?」

チラッとチーフに目をやり、マスミンが続ける

「軍機だからな、ここでは話せないが、今回の決戦には参加できそうもない・・
 今は、特務が優先だ! 話は移動中に車の中で聞く・・ チロル君も一緒だ! いいな!
 で・・ 大好きな人妻だぞ?」

「人妻でも、戦友の奥さんは駄目だろ・・」

「戦友の奥さんで無ければ、他の人妻は良い訳だ・・」

「ずっと言ってろ・・」

ふと、気付く・・ マスミンの制服もアロー市自衛軍の軍服だ、
2本線に星2つ・・二佐殿という訳だが・・
やはり、B-25でトムが言っていたように、ヒックス司令は全てを把握していた・・と言う事か?
しかし、なぜ隠蔽しようとした? 悶々とした疑問が残る・・

「で・・ 貴様は? 数日前に通信した際に交信した、ワサビィの元同僚だな?」

「ハイ♪ 申し遅れました、元ルナ2防衛隊チーフです。
 本名はチャイコフスキーって高尚な名前なんですがね、元階級も曹長(チーフ)って事もあり
 なんか、あだ名か階級かわからないまま「チーフ」って呼ばれています。
 この足は1週間戦争で、ザクにやられちまって・・
 でも、リザーブ(予備役)なので、また、声をかけてください」

「そうか 曹長なのか!! 歴戦の勇士だな♪ 
 そんな勇士にお願いするのは、本当に申し訳ないが、1つ聞いてくれないか?」

「なんでしょうか?」

「このへたれ変態野郎が乗ってきた、アロー市のエレカーだがな、
 フォンブラウンのエレカー回収センターにリターンしておいて欲しいのだが・・」

「了解であります。ただ、リターン時には中尉・・ いや、彼のカードが必要ですが・・」

「おい! ワサビィ・・ すぐに出撃だからな、カードは不要だ、曹長に渡しておけ!」

「って、出撃なのか? どこに出撃なのだ? 機体はYUKIKAZEか?」

「命令は後で伝える・・ 早くカードを渡しておけ!
 ということだ・・ すまんが曹長、宜しく頼む!・・ おっと・・忘れ物だ・・」

と、マスミンがポケットから封書をだし、チーフに手渡した・・

「連邦軍の正式な委託依頼書だ・・ 中には作戦指令のコード番号がある・・
 そのコード番号で連邦軍に請求書を送付してくれ・・ ロハじゃ動かんのだろ?
 送付先はルナツー司令本部宛で、悪いがカーボンコピーを私とワッケイン司令宛で頼む・・」

「アイサぁ~! てか、中尉の事を宜しくお願いしますよ♪」

「ん? どういう事だ?」

チーフが目を三角形にし、上目使いで、私を見る・・
(こりゃ、また酒でも奢らないと駄目かもしれんな・・)

・・・

少し離れた場所に、アロー市軍の月面バギーが駐車していた。
マスミンに言われるまま、バギーに乗り込み、規定のノーマルスーツを着用する
パイロット用ではないノーマルスーツは非常に動きにくく好きではないが・・
運転席に座り、バギーをスタートさせた・・

「さて・・
 私を放置し、一体今まで、何処で何をしていたのだ?」

月面を進むバギーの中で、マスミンがこれまでの事を聞いてきた・・
拿捕され収容されたこと、アロー市に移送されヒックス司令に会ったこと、
チロル三尉とフォンブラウンに来たこと、そして、チーフに会ったこと・・ それまでを
包み隠さず話をしたが、チロル三尉が同乗している関係からB-25での情報収集については
話すことが出来なかった・・

「ほう・・ そしてボインのお姉ちゃんか・・ 最低だな♪・・」

「ああ・・ そういう事にしておいてくれ・・」

と、目をチロル三尉の方に流す・・
マスミンはその目の動きを捉えていた・・

「そうか・・ では、後でボインのお姉ちゃんの話を聞かせてくれ・・
 ああ・・ そこの丘を越えたら、南にルートを変えてくれ・・」

「ああ・・ 南だな・・ 
 で・・ 何処に連れて行く気だ? そろそろ教えてくれても良いと思うんだが・・」

「早漏は嫌われるぞ・・ 」

「私は違う・・」

「嘘つき・・」

「ん? 知らんくせに、よく言う・・」

「まぁ、知りたくもないがな!
 そろそろだなチャネル6でビーコンをオンにしてくれ、誘導波をキャッチできるはずだ・・」

「おう・・ チャネル6だな・・ おっ・・ 来てるぞ、11時方向3000だ・・ 」

「じゃ、そのビーコンに進路を合わせてくれ・・
 良かった♪・・ キャッチできなかったら迷子だ・・」

「って、 おい! そんなので大丈夫なのか?」

「大丈夫だろ? そのためにチロル三尉が居る・・」

「ん? ということは、目的地はアロー市軍の施設なんだな?
 つうか・・ 何も無いじゃないか・・ 合ってるのか?」

「まぁ・・ 間違いないだろ・・ チャネルが合っていればな・・」

と、話の最中にビーコンゲージの色が変わり、ランプが点滅する・・
すると、500メートル先の月面が急に盛り上がり、基地の地下に入る出入り口が開口した・・

「おお! すげぇ! 地下基地だな?」

「ああ・・ アロー市軍宙空防衛隊教育中隊の訓練宇宙港だ・・ 」

「ここに、私が使う武器があるんだな? ひょっとしたら、YUKIKAZEだろ♪?」

「貴様に情報がどこまで入っているか?は知らんが、私とYUKIKAZEはずっと一緒だった・・
 情報を隠蔽していたのだが、どこまで知っている?」

「ああ・・ アロー市軍に問い合わせると、機体が消えた・・ と・・ そして・・」

と、チロル三尉を見る・・

「かまわん、言ってみろ!」

「いいのか? チーフの情報網からだが、ジャンク商会に回収されたのに、
 何故か売りには出ず、どこかに搬送されたらしい・・ までだ・・ 」

「あとは?」

「その筋の情報で、純度の高い推進剤と60mmバルカンをアロー市軍に納品した・・
 らしい・・
 ひょっとしたら、ジムがあるんだろ? 今回の特務用か?」

「やはり危険な奴だな・・ 貴様は・・
 まぁ、その答は基地の中にある・・ というか、特務の内容も把握できているのか?」

「ああ・・ 条約違反の核弾頭だろ?
 その使用を阻止する! 私はそのように理解している!」

「・・・」

返事が無いのでマスミンを見る・・
いつもの険しい顔ではなく、なにか嬉しそうな表情で、笑いを堪えながらうつむいていた
その表情を見ただけで、私の考えが全て当たっている事を瞬時に理解することが出来た・・

月面バギーは、基地の地下に入る出入り口に入り、更に2層ほど地下に降りた階の駐車場に
停止させる。と、照明が赤色(オレンジ)に切り替わり、パトランプ点滅しだした・・

「あっ・・ ヘルメット着用ですね・・」

と、チロル三尉が言う・・

「発着があるんだな? 滑走路を開港するため、気密対策か?」

「そうです、この信号は着陸です・・ 多分、突撃艇や輸送機とか連絡機かと・・」

「見れるのか?」

「ハイ、ここは保管庫ですので、着陸後に誘導路からこちらに入ってきます・・」

3人はバイザーは開けたままだが、ヘルメットは着用し、バギーを降りた。
そして誘導路のが見える位置に移動する・・
暫くすると、誘導員の団扇指示に従うように、誘導路から機体が姿を現した・・
ガボット型の突撃艇が1機・・ 2機・・ 

「ほう! 突撃艇の訓練か?」

「です、ここは教育中隊の基地ですので、ひな鳥たちの訓練です♪」

「おう!言うじゃないか・・ チィロちゃんもつい最近までここに居たんじゃないのか?」

「まぁ・・ それに近いですが・・ 彼らは曹候補生です。私は士官学校だったので・・」

とチロル三尉が返答したとき、見慣れた感じの機首が誘導路の先に見えた・・

「おおっ! ガボット級だけではないんだな! セイバーフィッシュとは・・
 しかし、アロー市軍も大胆な事をするんだな・・
 ジオンに狙われたりはしないのか? 連邦軍の現役戦闘機だぞ・・ ん?」

(あれは・・ セイバーフィッシュじゃない? あ・・ あれは!! YUKIKAZEっ!!!)

「おい! マスミン!! あれは・・ ま、まさか・・」

「うっるさいなぁ・・ 見ての通りだ、そのまさかだ・・」

「だ・・ 誰が乗っているんだ!!」

「もう・・ 耳元で怒鳴るな! つうかバイザーを閉めろ! 唾が飛ぶ!!」

「だからぁ・・ 誰が乗ってるんだ?って聞いている!!
 というか、YUKIKAZEは軍機ではないのか?」

「連邦軍のエースパイロットだ! 文句あるのか? つまり貴様は用無しってことだ♪」

「ちょっと待て・・ あの機体はそう簡単に扱えるものではない!」

「そうか? そうとは見えんかったぞ、すごく簡単に、楽しげに操縦してた・・」

「くっそう! 一体、どんな奴だ?」

(あの、有名なスレッガー中尉か? いや奴は13独立部隊だ! こんな所には居ない・・)

基地内では機体が完全停止するまで、立ち入り禁止区内には、誘導員など以外立ち入ることが
出来ない・・ すぐさま駆け寄りたい衝動を堪え、パイロット席を凝視する・・

機体が停止位置に止まり、整備兵などがエンジンオフなどの作業に取り掛かる
キャノピーが開き、パイロットが見えた・・ しかし、ヘルメットのため誰かは識別不可能・・

だ・・ だが・・

(ん? あの腰周り・・ 女? 肩の線、そして癖のある動作・・)

「お・・ おい!! ま・・マスミン・・ あれは・・ おっ・・オーリンじゃないのか?」

「ほう♪ 解るのか?
 さすが種馬だなぁ・・、女なら一度見ただけで影でも誰かが判別できるという噂は
 本当なんだ・・ びっくりしたぞ♪」

「いや、びっくりするのはこっちの方だ! どうしてオーリンがここに居る?
 というか、そんな噂は聞いたことがないぞ?」

「噂は私が今作った・・ というか、その特殊能力だと後部座席は解るか?」

「ん? 後部座席か? あっ!! あの体格・・ ち、チコちゃんじゃないのか!!
 ああ・・ 2人は生きていたんだな! ああ・・ よかったぁ・・」

「やっぱり解るんだな・・ (このスケベ・・)
 全く連邦軍には貢献できない情けない能力だが、
 技能章でもあれば特級クラスだな・・ 非常に残念だ・・」

「おい、バカを言うな、何が技能章だ・・ というか女性だから解る・・って事ではない!
 彼女達は私の部下達だ! どんな状況でも識別出来んと中隊長などはやっていくことは出来ない!
 しかし、MIAになってたんだぞ? どうやってここに来た・・」

「まぁ、オーリン准尉も苦労したようだぞ・・ ただ、仕方なく月に着陸した際に
 あの通信の事や私との会話を思い出し、アロー市軍にコンタクトを取ったようだ・・
 まぁ、貴様がグリフィンを発進したあとに、グリフィンとは連絡を取れて、
 その時、マメハ戦隊長から特務につくよう命令が出たらしく、私とのコンタクトを待っていた・・
 それがここに来た理由だ・・」

「では・・ リンは? リン少尉はどうした? どうなったか聞いているだろ!?」

と、マスミンに詰め寄ると同時に、フロアにグリーンランプが点滅し、
立ち入り禁止が解除になる・・
私は、急ぎ足で2人の所・・ YUKIKAZEの所に駆け寄った・・
(リンは? リン少尉は? どうなった?!)

<第58話>違和感・・」に続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第56話>妄想と現実・・ / [小説]ガンダム外伝

2012-04-09 23:45:54 | [小説]ガンダム外伝
<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
<第55話>情報戦・・
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「解ったトム! ホットラインも使うけど・・ 報酬はどうする?」

「ワサビィ・・ 情報提供料が発生するが・・ 良いか?」

「ああ・・ 幾らか解らんが、報告にはあげておく・・ 特務であれば経費は出るはずだ・・」

「よし! 決定だな! 我々だけじゃ、足りん、休みの奴らにもエマージェンシーで集めてくれ!」

「おっ? やっちゃいますか?」

「ああ、情報戦の開始だ! 始めてくれ!」

「了解っ!!」

そんなこんなで、私とチーフはジャンク屋商会の情報中継局になっている『B-25』を後にした・・
とにかく、確かな情報が足りない・・ そして、武器(機体)も無い・・
今は彼ら専門家に託し、情報を待つしかない訳だ・・

足が悪いチーフの代わりに月面バギーを運転しながら、現時点で解っている情報を整理してみる・・

ジオンの情報は
・グラナダの核弾頭が消えた(消えた数や種別は不明)
・グラナダのルーゲンス司令が射殺された
・ヘルシング大佐の艦隊、3隻がグラナダを出航
・行き先は「サイド6」、目的は連邦軍の新型MSの破壊
・ヘルシング艦隊の旗艦はチベ級の重巡グラーフ・ツエッペリン
・他の2隻はムサイ級と推測(艦名は調査中)
・核弾頭を搭載した艦名は不明
・艦隊のルートは不明(ルートを索敵中)
・裏で手を引いていると考えられるのが、キリングというギレン側の公国親衛軍直轄の参謀

連邦軍の情報は
・ワッケイン司令などへの連絡は作戦期間に入ったらしく途絶
・L4駐留軍との連絡も不明(調査中)
・アロー市軍の、軍事的協力は不可能
・YUKIKAZEらしき機体が回収されている可能性あり(調査中)
・マスミン特務大尉は依然として行方不明
・それ以外に使用できる武器があるかは不明(調査中)
・チロル三尉は可愛い♪・・ (この情報は重用だ!)・・

あと補足事項が
・YUKIKAZEが使用可能の場合、チーフがペアを組んでくれる予定
 (奥さんにはまだ言ってないが・・)

まさに四面楚歌である・・ ジオン側の情報は少しづつでも解っていく可能性はあるが、
困った事は、何も武器が無いことだ・・ せめてYUKIKAZEがあれば・・
というか、戦略は全く無く、戦術的にもYUKIKAZEで突っ込む事しか思いつかない・・

それでは駄目だ! 頭の中を白紙にして、考察する・・

もし、ガボット級の突撃艇があったら、どうだろうか?
訓練が行き届いた1小隊(5艇)があれば、可能性は低いが止めること出来るかもしれないが
それには条件がある・・  核弾頭をどの船に搭載したのかが重要な情報だ!
そして、その艦を特定できる、なにかの目印なども必要だ・・
また、訓練が行き届いた突撃艇パイロットも15人は必要だ!
(ガボット級は1艇3人だが、もし2人で飛ばしたとしても10人必要・・)
そんなに、大勢のパイロットなど集める事は限りなく無理に近い・・
せめてアロー市軍の軍事的介入が許されるのであれば、実現できる可能性も出てくるが、
中立を宣言しているだけに、これは本当に不可能に近い。
そのような背景から、アロー市軍には、何もお願いすることは出来ない。
というか、アロー市軍にはモビルスーツすら、配備されていないのだ!

でも・・ やはりモビルスーツが欲しい・・

「アロー市軍や、フォンブラウンにモビルスーツでもあればなぁ・・」と、
口から独り言がこぼれる・・

「ん? モビルスーツかぁ?・・ あるんじゃないかな?
 先日MS用の推進剤とか、バルカンの弾丸とか、アロー市軍から裏ルートで発注があったぞ」

「なに? それは本当か? 私が見た軍ファイルには、MS配備は1機も無かったぞ!」

「ああ・・ 表向きにはだろ? 完全に裏ルートでの引合だよ・・
 俺が当番の時に受注受付したからね・・ 間違いは無い
 純度の高い推進剤だったし、普通に考えるとMS用だろ?
 バルカンの弾丸は60mmだったから・・ ザクじゃないよね・・」

「ああ・・ 60mmは連邦軍の規格だな、ジムの可能性がかなり高い・・
 あのヒックスのクソ親父! なにか隠しているかもしれんな・・ 一度、アロー市に戻るか?」

「どうだろ? アロー市軍に正面からぶつかっても、シラネ?って言われちゃ終わりだろ?
 今はこっちで、情報を待つほうが良くねぇか?」

時計を見る・・ 日付は既に24日に変わっていた・・ 時間がない・・

「そういや・・
 フォンブラウンの工科大学に、研修用のザクがあったんじゃなかったっけ・・」

「なに? ザクがあるのか?」

「ああ・・ 機械工学の学生用に1機・・
 不要になったザクⅡをグラナダから輸送した奴がジャンク仲間に居る・・
 前に飲んだ時に言っていた・・」

「不要になったザクだろ? 旧ザクでなく、ほんとにザクⅡなのか?」

「だよな・・ ちゃんちゃんバラバラやっている最中だもんな、
 1機でも多くのMSが必要だ・・ ジオンが放出する訳がないか・・」

「だろ? ガセネタじゃないのか?」

「だよな・・ でもさ、こちとら、だるまさんなんだろ?」

「ん? 手も足も出ない・・ ってか?」

「ああ・・ 聞いてみる、って事は無駄じゃないだろ? ちょっと寄るか?」

「無駄じゃないか・・ 確かに・・ 近いのか?」

「ああ・・ すぐそこだ♪ 配送業だからこんな時間でも誰かがいるはずだ・・」

チーフに言われるまま、数分バギーを走らせ、大きなトレーラが並ぶ駐車場に入っていき、
こじんまりとした建物の前にバギーを止めた・・

「ちょっと行ってくる・・」 とチーフが建物の中に入っていった・・

さて・・ 今まで考えていなかった選択肢だ・・
もし、ザクⅡがあったら・・ と思考をめぐらせる・・

ヘルシング艦隊の居場所さえ解れば、ザクだと接近は安易だと思う・・
戦争にもルールはある・・ ジオンに化けて奇襲することは、いくら戦争でもルール違反だ!
まぁ、容易という表現が正しいかどうかは不明だが、ジムで連邦軍の識別コードを出しながら
接近するのと、条約違反にならないよう、ジオンの識別信号は発信せずunknownで接近することを
比べた場合、容易との表現になるだけなのだが・・
あとはバズーカなどの武器の調達とそこにいくまでの曳航船などの手配をすればよい・・
ジオン艦隊に接触する時は、ザクのシステムをOFFにして、流れていけば良いだろう・・
ジオンのザクなどが出てきて、拿捕されるだろうが、核弾頭を搭載した艦に近づいたとき
システムをONにして、ザクを振り切り、艦のどこかに取り付けば・・
敵艦にさえ取り付けば、ジオンもむやみな攻撃はできない!

そこで南極条約違反を訴えれば・・

敵艦と接触通信を行えば、艦長だけでなく、士官、下士官、兵までも、艦に乗艦している全員が
私の訴えを聞くことになる・・
艦内で騒動が起きるだろう、そしてフォン・ヘルシング大佐は正道の軍人であるとも聞いている。

私だってスペースノイドだ! 誠意を伝えれば、阻止できる可能性がある!
まぁ、私はそのまま投獄されるだろうが、阻止できるのであれば、私の事などどうでもよい!

(本当にザクⅡがあれば、なんとかなるかもしれんな・・)

と期待が膨らんできた所で、建物からチーフが出てきた・・ 浮かない顔だ・・

「どうした?」

「残念・・ はずれだよ・・ 奴は2日前から仕事でいないそうだ・・
 それも、よりによって、フォンブラウン工科大学のザクを運んで、ジオン艦隊に引き渡すって・・
 つまり、目的のザクは、もう無いって事さ・・ 」

「くそぉ! 振り出しに戻ったか!
 かなり期待したんだが・・ そうか、無いのか・・
 ほんと残念だ・・
 仕方が無いな、じゃ・・ 帰るか・・」

と、申し訳なさそうな顔をしているチーフをバギーに乗せ、駐車場を後にする・・

「中尉・・ ほんと申し訳ない・・ 奴がいれば酒でも奢らすんだけど・・
 ザクを引き渡すために、サイド2の残礁地域でワルキューレってジオン艦とランデブーするとか・・
 だから今頃は宙に上がっているんだとさ・・」

「確かに残念だ・・ ザクがあれば、何とか戦術を立てれると思ったんだがな・・
 というか、フォンブラウン工科大学のザクは、本当に稼動してたんだな・・ 勿体無い・・」

「だね、学生の整備だけど、ちゃんと稼動状態だったようで・・
 でもさ、鈍足のC型だってよ・・」

「そうかC型があったのか・・
 まぁ旧ザクよりは頑丈だが、C型の機動力は旧ザクと変わらんからな、ジムの敵ではない・・
 しかし、F型やS型ではないザクまでも集めるって・・ ジオンも切羽詰っているって事か・・
 まぁ・・たらればがは言いたくないが、本当に残念だな・・
 ザクがあったら、ジオン艦隊には不審に思われず、確実に艦に取り付けると思ったんだが・・」

「って・・ 取り付いてどうするつもりだった?」

「ん? まぁ、どうだろ? ノープランだが・・『南極条約を守ろう!』って叫ぶつもりかな?」

「ほんと、無鉄砲なんだから・・
 つうか、ジオンを騙してザクで近づき、突然バズーカを放つ! なんて言ったら、軽蔑したけどね!
 やっぱ、種馬ワサビィは変わってないな♪」

「ああ・・ 人間なんて、簡単には変わらんさ♪」

「惚れ直したよ♪」

「じゃ、嫁さんを貸してくれ♪」

「それは絶対駄目だ!・・」

「じゃ、下だけでも・・」

「こら! 下が大事じゃないの♪」

「そうか? じゃあ上で我慢する・・ 上だけならOKだよね?」

「どうして話がそうなる・・ 駄目って言えば全部駄目なんだよっ!」

と、バギーの中でバカ笑いをしていた時、搭載していた無線機からコールがあった。

「もしぃ! チーフだ・・」

「・・・ 今、良いかな?」

「ああ・・ 大丈夫だ! ワサビィに代わる」

「・・・ サイド5宙域からサイド2宙域に移動する艦隊の目撃情報があったんだけど、
     詳細を聞いたら軽巡ムサイが2隻とパプア級のミサイル巡洋艦が1隻・・って・・
     まぁ、パプア級は給油艦か輸送艦だよね?・・
     チベ級の重巡ではなかったわけで・・ 対象とは違うなぁ・・ って・・」

「そうだな、対象はチベ1隻とムサイ2隻の艦隊だ・・
 チベとパプアは素人でも見分けは付く・・ それは違う艦隊だな。」

「・・・ でね・・ その他の情報では、3隻の艦隊の目撃情報がないのよ・・
     でもね・・ 聞いて欲しいのはここからで・・
     時間的には、さっきの情報から半日後の情報なんだけど・・
     さっきと同じサイド5からサイド2への移動宙域に6隻艦隊の目撃情報があって
     その6隻の中にチベ級が1隻あるんだよね・・
     後の5隻はムサイ級が4隻にパプア級が1隻・・
     どう思う? 3隻の艦隊2つが合流した可能性ってあるのかな?」

「チベ級が1隻居るんだよな?・・ チベ級の製造隻数はそんなに多くはない!
 グラナダ配置でも3隻ほどだ!、それ・・艦名は特定できないのか?」

「・・・ そこまでは無理だよ~・・
     遭遇した奴が軍事ヲタクだったら、艦橋の形などで識別できるんだけどね・・」

「そうだよな・・ 解った・・ 可能性が高いって事だな・・
 他に、特定できる情報などは無いか、聞く事はできないか?」

「・・・ どうだろ?聞けるかなぁ・・
     奴さん、かなり怒ってたからね、情報提供料も吹っかけてくるし・・」

「何があったんだ?」

「・・・ えっとね・・ ジオンの奴らから接近してきたのに、ザクで脅された・・ってさ、
     この情報を聞き出すだけでも、すんごい剣幕でさ・・
     つうか、ドクロマークのザクって、趣味が悪いよね~♪」

「なに? ちょっと待て・・ ドクロマークのザクだと?!」

「・・・ ああ・・ そう言っていたよ・・ 何か知っているの?」

「いや・・ 数日前に戦った嫌な奴が、ドクロマークのザクだった・・ 海兵隊だそうだ・・」

「なぁ中尉!、横から悪いがいいかな? 俺の記憶違いだったら言ってくれ・・
 さっき、ジオンなんちゃらって参謀の話の時、その参謀の配下に海兵隊が居る・・って
 言ってなかったっけ?」

「ん? キリングとかいう公国親衛軍(ギレン側)直轄の参謀の事か?・・
 いや・・  そうだな・・ 確かに・・
 チーフ! やっぱり貴様は頼りになるぜ! その通りだ!!
 おい! 聞こえるか?・・ その6隻が今回のターゲットだ!!」

「・・・ やっぱりね・・ グラナダの出航時刻から推測すると、
     出航した3隻はこの辺に居てもおかしくないんだけど・・
     ただね・・ サイド6に向かうと考えると、ちょっと寄り道の航路になるんだよね・・
     単なる偽装航路かな?」

「まぁ、真っ直ぐ向かう事も無いだろう、少々ロスするが、途中で転舵することは常套手段だろ」

「・・・ だよね! じゃ、この6隻を第1ターゲットとして追跡するね・・
     で・・ 他の3隻とか、チベ級とかも継続で目撃情報を探すから、そこは安心してね♪
     じゃ!」

「ああ・・ ありがとう! また情報が入ったら教えてくれ! で、トムに1点伝えてくれ・・
 実は、フォンブラウン工科大学に研修用のザクがあるって話を聞き向かったんだが・・
 残念な事に2日ほど前にジオン軍に接収されたようで、今は無いそうだ・・
 ザクだと手が打てたんだがな・・ ということで、武器の調達は、まだ苦慮している・・
 そう伝えてくれ、頼む!」

「そうそう! 前にさ・・」 と、再度チーフが口を挟む・・

「俺が純度の高い推進剤と60mmバルカン砲の弾丸をアロー市軍から受注したよね?
 それって、誰が納品した? ちょいと調べてくれない?
 ひょっとしたらさ、アロー市軍に連邦軍のジムがあるんじゃないかな?って・・」

「・・・ 了解! 60mmバルカンかぁ・・ 言われてみると確かにそうだよね・・
     忘れてた・・ 調べてみるね! じゃ、また後で!!」

「ああ・・ ありがとう、連絡を待っている! じゃ!!」

「どう?中尉? ジャンク屋商会情報網見直した?・・
 まぁでかい艦船は透明にはなれないから、広い宇宙でもどこかで誰かに見られているって訳で・・
 多分、これビンゴだよな!」

「ああ・・ ドクロ野郎の話が出たときに、当たりだと胸騒ぎを感じたな!」

「野生の感!って奴ですね♪」

「そうかもな・・ いや・・ なんか繋がるんだ、今まで私が聞いた情報が、妙に繋がる・・
 こういうときは当たっているもんさ・・
 あの相対性理論を確立したアインシュタインが言っていただろ
 『分野を越えて真理には、常に互換性がある』ってな、話がつながる時は、当たりさ♪
 しかしなぁ、だとしたら、ヘルシング艦隊だけでなく海兵隊の対処も考えないといけないか・・」

「ターゲットが3隻から6隻に増えちまった・・ってことですね・・」

「いや、5隻だろ? 1隻はパプア級の輸送艦だから・・ ん?」

「どうしました?」

「ちょっと待て・・ パプア級って、元々はミサイル巡洋艦だよな・・」

「ですね・・ あっ!」

「気がついたか?」

「核弾頭はミサイル?」

「だろ? ミサイルはチベ級やムサイ級にはあったっけ?」

「チベ級は改装前の古いタイプだと、ミサイルは12門あったと思いますが、
 ミノフスキー粒子の発見で、実弾砲はビーム兵器に、ミサイルはMS射出口に改装していますね。
 あと、ムサイ級は、最初からミサイルは装備していない・・」

「ああ・・ 私達の情報が間違ってなければな・・
 すっかり、核弾頭という言葉だけに踊らされていた・・
 核弾頭をどうやって発射するのか? その方法を考えると、
 発射できるのはパプア級だけじゃないか?」

「いや・・ 中尉・・ 落ち着きましょう・・ ちょっと違和感がないですか?
 それだったら、海兵隊だけで作戦を決行できますよね? どうしてヘルシング艦隊が必要なんですか?」

「そりゃ、囮だろ? 情報が漏れたときに混乱させるためさ・・」

「いや・・ もう少し考えると・・ パプア級も戦争前に大改装されていますよね・・
 無用になったミサイル発射管を残っているでしょうか?」

「ん~・・ そうだよな・・ ちょっと当たりかな? とか感じたんだけど・・
 核弾頭を搭載している艦が特定できれば・・ って事がな、これ課題だよな・・ 」

「そうですよね・・ あと盗まれた核弾頭のタイプが解れば、また何か見えるかも・・」

「やっぱり、方法はコロニーに取り付け、時限装置で爆破かな・・ 設置はザクでな・・
 破壊対象がコロニーだから、小さな核爆弾でも、一発あれば破壊できるし・・
 今更、核ミサイルみたいな大型の武器は使わないか・・」

「盗まれた核弾頭のタイプに関する情報が無いかを、トムに聞いておきますね・・」

「ああ・・ 頼む・・
 って・・ 店の裏ってこの辺だよな・・ どこに止めれば良い?」

と、バギーを店の裏の空き地に止めると同時に、裏口のドアが開き人影が飛び出してきた。

「もう!! どこに行ってたのよぉ!! 私を置いてぇ!!!」

チロル三尉だ・・ かなりのオカンムリの様子だ・・
ただ、彼女は私達とは関係無く・・ この作戦に巻き込むわけには行かない・・

「ああ・・ すまんすまん♪ そんなに怒ると可愛い顔が台無しだぞ♪
 こいつと2人でちょっとな♪ チィロちゃんが寝ちゃったんで約束の1発もできないし
 暇だからな・・ ちょいと、お姉ちゃんがいっぱい居るところにな♪
 いやぁ・・ あの、お姉ちゃん、ホント良かったよな? なっ!?」

「あ・・ ああ・・ そりゃもう♪
 ボインボインで、おっぱいがいっぱいで、最高でしたよね♪」

チロル三尉の目がまん丸になり、顔がみるみる赤くなる・・
こういう、純な表情が可愛く、妙にに萌える♪

と、その時、聞きなれた声が・・ 

「そうか・・ 本隊では大事な決戦が開始されるという大事な局面だというのに
 特務という事を傘に着て、貴様は綺麗で可愛いボインボインのおねいちゃん達と
 あんなことやこんなことを楽しむ、リクレーションをしてたって訳か?
 本当に最低な種馬だな?・・ あきれて物も言えん!」

<第57話>再会?!・・」に続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第55話>情報戦・・ / [小説]ガンダム外伝

2012-01-31 08:12:43 | [小説]ガンダム外伝

<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
<第54話>特務の内容・・
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「少々トラブルがあって、コンタクトが遅れたが・・ 例の・・ グラナダに新たな動きがあるか?」

「あるある♪・・ 
 今、裏を取ってるんだけど、ちょっとやばいよん
 まだ、キシリア少将の『パープル・ウィドウ(チベ級)』は、帰ってきてないんだけど・・
 キシリア不在の中、ルーゲンス司令が射殺されたって情報が入電・・ 反乱かな? これ調査中!
 そして、今日は定期便や輸送艦以外に3隻の戦闘艦船がグラナダを出航してるね
 この3隻の戦闘艦については行き先を調査中だけど・・ まぁ後情報は無いかもね・・
 ただね・・ その中の1隻はフォン・ヘルシング大佐の『グラーフ・ツエッペリン(チベ級)』なんで
 こりゃ、何かありますよね!」

「なに、ルーゲンス司令が? それは本当か?」

「俺っちが嘘ついて誰得ぅ? って、あと、劇ヤバなのが、もうひとつあんだけど・・ 」

「なんだ?」

若者が私を見た・・

「ん? ああ・・ ワサビィか? 彼は大丈夫だ・・」

「了解! 劇ヤバって情報は・・
 ジオンは、南極条約を破るつもりかもね・・ グラナダ保管の核弾頭が消えたってさ・・」

「何だって!? 核弾頭だとぉ!!」

おもわず、話に立ち入ってしまう・・
私達、スペースノイドにとっては、毎日のように、あの1週間戦争の惨事が記憶上で蘇るからだ・・
若者はちらっと私を一瞥し、話を続けた・・

「うん・・ これは、ルーゲンス司令の射殺と関連ありそうだね・・
 というか、地球でもオデッサから脱出する際に、マ・クベ大佐も使っちゃってるよね・・
 運よく阻止されたそうだけど・・ あっ・・ これ裏情報だったよね・・
 あと、連邦軍のオーストラリアの核貯蔵基地に対しても、核弾頭奪取計画があるって噂だし・・
 ジオンというより、ギレン総帥の公国親衛軍の直轄というか、私兵というか・・
 危ない奴らが最近好き勝手している・・って、情報もあってね
 きっと焦りを感じている・・というか 元々戦争大好きって奴らばかりなんんだけど、
 奴らって、ほんと何をやらかすか想像できなくなってるから・・」

「ま・・ まさか・・ サイド6への攻撃か?」

トムが私の問いに答えるように言う・・

「だな・・ 私もそれを感じた、核のチョイスはある意味適切だからな・・
 戦艦やMSで攻撃しても、あの巨大な構造物は、そう簡単には破壊できるものではない
 破壊するには時間がかかるからな・・ その時間の間に目標物が脱出できてしまう・・
 しかし、核弾頭だと1発でコロニーは崩壊し、お陀仏・・ 新型MSも脱出不可能だ・・
 良い作戦だろ?・・」

「おいおい! 良い作戦って・・
 新型MSの1機を葬るために、150から200万人の市民を・・ 戦争とは関係ない命を奪うってのか?
 それが良いのか? もう、1週間戦争の二の舞は見たくない!」

「悪かった・・ 言葉が過ぎた・・
 今の情報だけで考えると・・
 ヘルシング大佐の艦隊がその可能性があるが、ヘルシング大佐は筋金入りの軍人だ・・
 そんな卑怯な手を打つ武将ではないのだが・・
 キシリアがグラナダに戻ってくる前に、発進させられた・・ ということも考えられるか・・
 一体何が起こっているか解らんな・・
 とにかく、情報を全て私の所に回してくれ! 些細な情報も・・ 全てだ!」

「了解! こりゃ勤務交代どころじゃないですね~ 苦いコーヒーでも入れましょうか?」

「ああ・・ 苦い奴を頼む しかし、砂糖は4つだ♪」

・・・

苦いが甘いコーヒーを飲みながら、次々と入ってくる情報に目を通していく・・
数時間が経過し、コーヒーも3杯目になっていた・・
情報は断片的だ・・ しかし、トムの知識、特にグラナダの組織や体制などの情報から
断片的な情報を繋ぎ、提示してくれる・・
その情報に対し、私達の感情的な意見や、憶測、論理の飛躍が無いか、などの検証を行うのが
私とチーフの2人の仕事になっていた・・

そんな中、私の知識が役に立つ事象もあった

「キリングとは誰だ?」

「おう・・ その名前・・聞いた事があるぞ!」

「いや、あの有名な、キリング・J・ダニガン中将ではないぞ・・ 違うキリングだ・・」

「解っている、キリング中将は宇宙攻撃軍第2制宙師団の司令官だろ? 彼はドズル配下だ・・
 聞いたと言ったのは、キリング・・ 確か中佐だっけ・・
 グラナダに来た、ギレン総帥の公国親衛軍直轄の参謀だと聞く・・
 最近捕虜にした、ジオン軍補給部隊の士官から聞いた名前だが、同名だったから覚えていた・・
 奴はギレン総帥の私軍をも自由に使える立場にあるようだ・・
 ジオンの中では嫌われ者だそうで・・ かなり厄介な奴でもあるらしい・・
 中佐だが二階級特権だと言っていた・・ 少将の権限を持っているのではないか?
 そのギレンの私軍らしき、海兵隊というか・・ そんな部隊と戦った事があるのだが・・
 そいつらも、実に嫌な奴らだった・・ 」

「そうか・・
 このキリングって奴は、キシリア配下ではなくギレン側の参謀かぁ・・
 キシリア少将は留守・・ 
 ルーゲンス司令が射殺・・
 消えた核弾頭・・
 少将相当官・・ ヘルシング大佐より上の権限・・ 
 ヘルシング艦隊の出航・・ 」

そして・・
断片的な複数の情報が繋がり整合性が合ったとき、単なる仮定は1つの重要な情報に変化していた。

「繋がったな!
 こいつが、ルーゲンス司令を射殺し、核弾頭をヘルシング艦隊に積んで出航させている・・
 ワサビィの推測通り目的地は、サイド6だ!
 実は、新型MSの奪取作戦の責任者がこのキリングなんだ! まだ作戦は終ってないということさ! 
 よし! この情報を検証するぞ! あくまでもまだ仮説の段階だ! 1つづつ検証する!
 情報をツリーにして関連で繋いでいってくれ! 発生時刻の検証も忘れるな!」

既に情報の文章は事実のみの簡潔な言葉になっており、そこには「思われる」や「だろう」などの
憶測の内容は削除されていた。
分析員は、それらの言葉を時系列につなぎ、事象の変化に飛躍が無いかの検証が行っていく・・
私のように先入観や感性で判断する輩には、絶対に出来ない高等な作業であり、
全て事実のみから構築されたツリーを見ると、素人目にも仮説の正しさを読み取る事ができた・・

「さて・・ この仮説を見て・・ どうする、ワサビィ大尉?」

「まずはワッケイン司令に連絡だ!
 そして、ヘルシング艦隊の位置情報を特定する! できるか?」

「すまん・・ それは難しいだろう・・ 何らかの情報がないと難しい・・
 月からサイド6への航路など、無限にあるからな・・」

「ああ・・ そうだな・・ しかし、この月からサイド6に向かっている事は事実だ!
 途中で網を張る・・ というか、サイド6の手前で待ち伏せる!」

「連邦の艦隊が・・ か? 今それどころではないのでは? おい!そうだよな?」

「そうっすねぇ・・ 昨日から情報統制が掛かってて、連邦との交信は全く出来ない状況ですね・・」

「なに? そうなのか? ワッケイン司令とは連絡が付かないって事か?」

「多分ねぇ・・ 一方的にこちらからの電文を、連邦軍が受信する事はあるかもしれないけど・・
 その場合は秘匿通信じゃなくなるから、みんな聞けちゃうね・・
 まぁ暗号コードを知っている場合だけど・・ もちろんジオンは知っているよ♪」

「なんだと? 連邦の暗号コードが・・」

「だから・・ さっき言ったよな・・ 情報はジオンにも連邦にも、だだ漏れなんだって・・
 ただ、その情報は断片的だったり、偽装情報だったりするから分析に時間がかかり、
 時間が経過すると意味の無い情報に変化する・・ 情報は生物ということだ・・」

「つまり・・ ここからではワッケイン司令に伝える事は、難しい訳だな?」

「どうやら、状況を飲み込めたようだな・・
 さて・・ もう一度聞く・・ ワサビィ大尉・・ どうする?」

「解った・・ ちょっと時間をくれ・・」

「ああ・・ いいぞ・・ だがな、さっきも言ったが情報は生物だ・・
 この情報を生かすも殺すも、ワサビィ・・ 貴様の考え1つで運命が変化する・・
 200万人の市民の命と共にな・・」

トムのその言葉を聞いて、重圧のあまり体が鉛のように重くなっていった・・
『私は一介のMSパイロットにすぎない・・』などの言い訳も脳裏に浮かぶ・・
しかし、私がここに居る理由・・ そして、重要な事実を知った理由・・ それらを考えると
そんな言葉を発する事は出来なかった・・

(考えろ! ワサビィ!! 策があるはずだ!!)

自分自身に問いかける・・ 自分にも出来ることがあるはずだと・・
ジオン艦隊の所在が判明したとしても、核弾頭の使用を阻止するためには、ジオン艦隊に攻撃を
かけダメージを与えるか、内部反乱などを引き起こし、内部で阻止させるかのどちらかだ・・
内部にスパイがいれば、ミサイル発射装置の故障などを工作する事もできるだろうし、
そのスパイがグラナダやサイド3に居るのであれば、ジオン上官からの中止命令も工作できる・・

しかし、スパイ工作は練りに練った計画が必要で、今からでは多分間に合わない・・
何らかの手段で、敵艦にもぐりこむ事が出来れば・・ いや、それは最後の手段に近い・・
そうなると・・ 出来ることは、ジオン艦隊の所在を明らかにし、何らかの手段で攻撃をかける・・
多分この方法しかないだろう・・

攻撃をかけるのは連邦軍が適任だが、現在はソロモン決戦のため、サイド5からサイド4の残骸が広がる
宙域に展開しているはずだ・・
そして、その位置は、サイド6が位置するラグランジュポイントL4とは真逆で、地球と月との距離よりも
遠い位置になる・・ そうなると、L4駐留軍か・・

「すまんが、隠密で展開しているL4駐留軍との連絡ルートはあるのか?」

「ああ・・ L4ね・・ サイド6は・・ 今はちょっと無理だと思うよ・・
 だってね、数日前のコロニー内の戦闘で、サイド6の世論が高まってさ・・
 L4駐留軍は追い出された可能性もあって・・
 数日前からトレースできてないというか、情報が全く入ってないのね・・」

「追い出された・・って? それは憶測だろ? なにか情報が無いか、悪いけど調べてくれないか・・」

「そだね・・ ちょっと調べてみるね・・ 」

「なぁ・・ 中尉・・」

と、チーフが話に割り込んだ・・

「中尉が乗ってきた戦闘機って、どこかに無いのか? というか探さないのか?
 今、ジオンの艦隊に一番近い場所にいるのは俺達だ・・
 我々には、戦闘機やモビルスーツは無いけど、もし中尉が乗ってきた戦闘機があれば・・
 って、言っても1機だけじゃ、蛙の面に小便かもしれんが、指をくわえているよりマシだろ!」

その話を聞いて、トムが思い出したように言う・・

「おお!・・ そうだったなチーフ! B-17だっけ?
 おい! L4駐留軍の件より先に、昨日、宇宙戦闘機を回収したか、確認してくれないか?
 ジャンク品も含めてだ・・ 頼む!」

「ん? 依頼内容の変更ね? そこのアローの旦那・・ それで良いよね?」

「おう・・ そうだな、すっかり忘れていた・・ 実は私の搭乗機なんだ・・ 頼めるか?」

「了解♪ で・・ 戦闘機って、セイバーフィッシュ?」

「いや、もっと大型のプロトタイプだ・・『YUKIKAZE』と側面にペイントしてある・・」

「もっと大型ね・・ 了解っ!!」

「チーフ・・ もし私の機体が見つかったら、本当に何か出来るかも知れんぞ!」

「ん? たった1機の宇宙戦闘機でか? プロトタイプって言ったよな・・ モビルアーマーか?」

「ああ、それに近い・・ 軍機だがな・・
 実は、巡洋艦クラスのメガ粒子砲が搭載されている・・
 ザクなどMSをなんとか回避すれば、ムサイ程度なら仕留めることは装備的には可能だ♪」

「へぇ! そりゃすごい!! それだったら本当に何か出来るかもな!」

「まぁ、見つかれば・・って事だがな・・
 というか見つかっても、もう1つ問題がある・・」

「なんだよ? 問題って・・」

「その機体なぁ、とんでもないジャジャ馬でな・・ そのため複座になっている・・」

「ん? ペアが必要なのか?」

「ああ・・ 単座でも、ある程度の攻撃はできるよう、簡単な改造はしたんだが・・
 機体の性能を100%引き出すには、やはり優秀な砲術士が必要なんだ・・」

「なんだ・・ 水臭いな! 俺ッちが乗ってやるよ♪
 戦闘機の操縦は、この足だから難しいが・・ 俺の射撃の腕は知っているだろ?」

「おいおい・・ 所帯持ちだろ? そんなリスクを・・ というか退役者に・・」

「まだ、リザーブさ! 予備役の登録はしてある!
 特務への参加を、中尉が確実に記録に残してくれれば、俺っちの年金も上がるさ♪」

「本当にいいのか?」

「ああ♪ いいさ! 実はな、退役してから無くなった足がむずむずしてたんだ♪」

「そっかぁ・・ いいのか?・・
 万が一、奥さんが未亡人になったら、私が慰めてあげるって事でいいんだな?」

「ちょっと待て! 種馬ワサビィ!! それは違う♪」

思わず二人で笑いあう・・ 戦友の絆って永遠なのかもしれない・・ そんな時

「これかなぁ・・」

情報を検索していた若者が言葉を発した・・

「B-17の昨日分の回収記録には、戦闘機の回収は無いんだけど・・
 ほらこれ・・ 『小型の武装偵察艇』という表記がリストにあるよね・・
 なんか表現が変だよね・・ 普通は『武装』なんて表記しないもん
 戦闘機って書くとなにか問題があるのかもしれない・・
 機体の大きさは、小型偵察艇という表現からすると、大型の戦闘機って事にもなるから
 ひょっとしたら、こいつがアローの旦那の機体かもしれないね♪」

「そうだな・・ ワサビィ?、機体の大きさは20メートルを越えていないか?」

「ああ・・良くわかるな・・ 20メートルは軽く越えてるぞ・・」

「だったら、可能性が高い!
 この『戦闘機』や『宇宙艇』の区分分けは機体を移動する際の基準でもあるんだな・・
 戦闘機やMSであれば、ジオン製のトレーラー、サムソンで移動可能だが、
 それよりも大きい時は特殊なトレーラーが必要だ・・
 お得意さんが物資を購入する際に、物資の名称で大まかな諸費用も解るように記載する・・
 それが我々の通例だ・・」

「そうなのか・・ だったら、登録された日付なども考慮すると、可能性は高いわけだな?」

「ああ・・ そうだな・・
 すぐにB-17に連絡を入れ、その機体の詳細を調べてくれないか・・
 そして、他の市軍や武器マニアが入札する前に、仮押さえも忘れずに、な!」

「いや・・ それがね・・ 既に売約フラグが立ってるんだけど・・
 最悪は、移動されちゃっているかもしれないね・・」

「なにぃ? もう売れちゃってるのか? 幾らで誰にだ?」

「それがさ・・ 価格とかの情報が未入力みたいでさ・・ わかんないんだけど・・
 売りには出せない事情がある時って、入札されないよう売約フラグを立てるんじゃなかったっけ?
 これ・・ そういう状態なんじゃないのかな?」

「情報だけでは解らんな・・ 至急、B-17との回線を繋いでくれ!
 あと、何か使えそうな機体が他に無いかも、ついでに探してくれないか?」

「おい・・ 何か使えそうな機体って・・
 戦争には参加していない月都市で、武器や戦闘機などが、ジャンク品で存在するのか?」

「何を言っているんだワサビィ・・
 ちょっと頭を使って考えてみてくれ・・ 月には引力があるだろ・・ そして大気はない・・
 宇宙で損傷した物が引力に引かれて月に落下する
 大概の物は破損が大きくなるが、大気で燃え尽きる訳ではない・・ ということ!
 壊れていない部品は、いくつかを組み合わせると立派な機体になる事がある・・
 ザクなども、数体はジャンク屋で組み立ててグラナダに納めた事があるんだぞ♪」

「おいおい・・ 貴様らは連邦軍側じゃあないのか?」

「確かに私達は連邦側だが、ジャンク屋商会全体が連邦側では無い・・
 そして商売をして生計を立てている・・ 解るよな? 商売となれば、どちらもお得意さんさ♪
 だから、必要であればザクを手配する事も可能だ!
 まぁ昔は高値で売れたが、時代は変化するもんだ
 今は連邦は新型MSがあるからな・・ もう高額では売れなくなってしまった・・」

「そういうことか・・」

「ああ・・ そういうことさ♪
 じゃ・・ 俺は商会長と話をしてくる、訳を話せば、安くなるかもしれないからな・・
 ただ、この機体がワサビィの『YUKIKAZE』って機体であれば・・ の話だがな・・」

「そうだな・・ そう考えると、違った場合も想定すべきだな・・
 さっきトムが言ったように、使えそうな武器があれば、洗い出してほしい、
 忙しいとは思うが、私からの正規のお願いだ・・
 作戦を考えるにしても、機体が無ければ策も無い・・ 本当に何も無ければザクⅠでも良い・・」

「ザクⅠ? 旧ザクか? どうする気だ?」

「解らん! ただ、ジオンパイロットに化け、艦内に入ることが出来れば・・」

「そうか・・ そんな手も考えているんだな・・ ワサビィの覚悟が解った・・
 チーフ! ワサビィを連れて一旦店に帰ってくれ・・
 商会長との話は、時間がかかるかも知れん、連絡があるまで店で待っていてくれ!」

「あいよトム、任せるぜ! じゃ、中尉! いや、ベリー少佐殿♪
 嬢ちゃんも待っていると思いますんで、『YUKIKAZE』である事を願って帰りましょうか?」

「そうだな・・ あとは専門家達に任せるしかないな・・
 あとな・・ 本当にお願いばかりで悪いんだが・・
 ヘルシング艦隊の想定航路などが解れば、合わせて調べておいてはくれないか・・
 そうそう・・、核弾頭を積んでいると思われる、艦艇の情報・・ 名称や特徴だな・・
 それもあれば欲しい・・ できる範囲でかまわん・・ 悪いがお願いできないだろうか?
 待ち伏せできると勝機があるが、追う展開になると全く勝ち目が無いからな・・」

「そうだね・・ 解った♪
 グラナダの同志に、情報が無いか聞いてみるね・・ あとは・・」

「目撃情報でもあればかなり有効だな?
 ジャンク商会に出入りしている、一匹狼の連中にもホットラインで問いかけてみろ!
 奴らは、いい獲物が無いか、ラグランジュ近辺を流し、ジャンク品を回収しているからな・・
 意外と、ジオン艦隊や連邦艦隊と遭遇している事も多い・・」

「解ったトム! ホットラインも使うけど・・ 報酬はどうする?」

「ワサビィ・・ 情報提供料が発生するが・・ 良いか?」

「ああ・・ 幾らか解らんが、報告にはあげておく・・ 特務であれば経費は出るはずだ・・」

「よし! 決定だな! 我々だけじゃ、足りん、休みの奴らにもエマージェンシーで集めてくれ!」

「おっ? やっちゃいますか?」

「ああ、情報戦の開始だ! 始めてくれ!」

「了解っ!!」


<第56話>妄想と現実・・」に続く・・・

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<第54話>特務の内容・・ / [小説]ガンダム外伝

2011-12-13 08:10:34 | [小説]ガンダム外伝
<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
<第53話>スパイ容疑・・
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「そこだ!・・ 事実かどうかは不明だろ? 敵ソドン艦は武装していた・・ それが事実だ」

「いや・・ 確かにそうかもしれん!
 しかしな・・ 現実に低軌道上を見ると、随所で戦闘の炎が光るんだ!
 解るか? 宇宙で戦闘する武装などを、全く持って無い丸腰のHLVを・・
 何百人が1機に乗っていると思う? 無抵抗のそれを、連邦軍は撃ち落としているんだぞ!
 戦争にはルールがあるだろ?
 そういう事実を知っていると、単機で、自らの危険も考えず、
 自分達の仲間を助けに行こうとするソドン巡航船を撃つことが出来なかったんだ・・ 」

「なるほど・・ 気持ちは解る・・
 しかしな、連邦軍のアースノイド達が、それを聞いたら、どうだろう?」

「そ・・ それは・・」

「軍法会議では、有無を言わさず確実に、有罪・・ つまり死刑!になる訳だ・・」

「ああ・・ そうだろうな・・ そうか・・そういうことなのか・・
 しかし、逃亡中とはなんだ? 私は特務を受けて・・」

「特務だよな?・・ 特務は秘匿性があるからな・・命令した人物しか把握していない
 また、命令した人物も特務が終るまでは口外しない・・ これは運が悪かったな・・」

「そうか・・ 知っているのは、ワッケイン司令とマメハ戦隊長、
 そして、今私が探しているマスミン特務大尉の3人だけだ・・ 」

「そうだな、逃亡中については、その3人が生きていれば軍法会議でも白になるが、
 敵艦に対する攻撃拒否と敵前逃亡は免れん訳だ・・
 というか、大きな作戦があるんだろ? そのうち、2名は最前線ではないのかな?
 1名は行方不明だし・・」

「ああ・・ 良く知っているな・・ この数日中に大きな作戦が実行される・・
 しかし、その2人が戦死するなど・・」

「戦争だ、ありうるだろ? どうやら、やっと今の立場がご理解いただけたようだ・・」

「・・・
 そうだな・・ そういうことだな・・ では、私をどうするつもりだ?」

「なにか?勘違いをしているようだが・・ ワサビィ大尉・・ さっき何と呼んだ?」

「何? 何と・・ ?」

「私は『同志ワサビィ大尉!』 と呼んだはずだが?」

私は思わずトムの顔を覗き込んだ・・ 先ほどまでの鋭い眼光は消え
包み込むような暖かいまなざしに変わっている事を見て取った・・

「えっ・・ どういうことだ?」

「私もスペースノイドだ、そして特務の件も知っている・・ つまり知っている4人目だ♪
 偽名の件、了解した ワサビィ大尉・・ いや、ベリー三佐!
 どうしても、スパイ疑惑だけは解消しないといけなかったのでな、疑った言い方で悪かった!」

「ふぅ・・ 寿命が縮まったぞ♪
 しかし、ソドン巡航船の件は何か正当な理由を考えておいたほうが良いかもしれんな・・
 そのスパイ容疑の情報・・ 後で原文を見せてくれないか・・」

「そうだな、逃亡した事は、スパイ容疑が原因となっているからな・・
 特務があった事を証言できれば、あとは正当な理由があればOKだ・・
 ソドン艦が病院船だった・・ とかで良いのでは?」

「いや・・ その記憶はない・・ 協定で決まっている赤十字のマークは無かった・・」

「奴らが見てた訳では無いのだろ? 解らんよ♪ というか低軌道に救助に向かっていた訳だ・・
 病院船と変わらん・・ 言い通せば良い!」

「駄目だ・・ 思い出した・・戦闘記録の録画データコピーが高軌道艦隊にある・・
 多分それがこのスパイ疑惑の発端なんだろう・・
 宇宙戦闘機隊のな、いけ好かないアースノイドの小隊長が言い出したんだと思う・・」

「嫌われたのか?」

「ちょいとな・・ まずったかな・・」

「コピーと言ったよな・・ 原版はあるのか?」

「それもお手上げだ・・ その機体で月面に着陸はしたのだが、機体が消えた・・
 画像を見ることが出来ない・・」

「そうか・・ 月に来たのはその機体なんだな?・・ まぁ、仕方が無い部分もあるが
 時間もあるだろ? なにか良い、誰もが理解できる正当性がある理由を
 考えておく必要があることだけでも解って良かったじゃないか!」

「ああ・・ そうだな、プラス思考って奴だな♪」

「だな♪ では、本題に移るぞ! 良いか?」

「ん? 本題って?」

「特務の内容だ・・」

「いや・・ 私はマスミンを・・」

「よっぽど良い女みたいだな? 惚れているのか♪ だが、こちらにも都合がある・・
 先日の通信で、こちらでお願いしたからワサビィ大尉がここに居る訳だ・・」

「ん? どういうことだ?」

「マスミン特務大尉は、ルナツーのワッケイン司令とコンタクトしたかった事から
 我々の組織にコンタクトしてきた、それはワサビィ大尉とチーフとの繋がりからだが・・
 本当にそれは偶然だったのか、必然だったのか・・ 私にも分からない・・
 まだ、説明をしてなかったが、我々の組織は、ジオン軍基地のグラナダから流れてきた
 情報をルナツーに連携している組織だ・・ つまり、ワッケイン司令にだ・・」

「な・・ なんだと! 本当に偶然なのか?」

「ああ・・ 事実は小説よりも奇なり・・とは良く言ったものだ・・
 ただ、グラナダはソロモンなどには興味が無いのだろ・・ まぁ、キシリア・ザビの性格だが
 そのため、現時点での重要な情報戦は、ソロモンとサイド3・・そしてア・バオア・クーだ・・
 グラナダは、それらの動きには全く連携もなく、独自に動いているように見えている・・」

「まぁ、キシリアは良い女だとの噂はあるが、兄弟との仲は悪いと聞く・・」

「それは事実だ・・ かなり良い女だ♪
 だがな・・・、仲が良ければ、とっくにジオンに世界は制覇されていたぞ・・
 今の混戦はザビ家の不協和音も原因だからな・・ 連邦にとっては美味しい話さ!
 ギレン総帥の公国親衛軍、ドズル中将の宇宙攻撃軍、キシリア少将の突撃機動軍・・
 この3軍がバラバラなのは周知の通りだ・・
 でな・・ そのグラナダで、不穏な動きがいくつか観測された・・
 それで、その内容に対して判断できる士官を隠密で派遣してほしい・・ との願いを出した・・」

「ん? どうして派遣なんだ・・ その内容を伝えれば良いじゃないか!」

「だから言ったろ? 情報は双方に漏れるんだ・・って・・
 だから、媒体を通さず、直接情報を聞き、自分で判断し指示が出せる士官に来てほしいと
 依頼した訳だ・・」

「それが、マスミンなのか?」

「ああ・・ それと、ワサビィ大尉・・ 貴殿もだ・・ だから、三佐でもある・・」

「ん? アロー軍も?・・」

「なんだ、やっと気がついたのか? 連邦軍の軍服ではフォン・ブラウンでは都合が悪いからな、
 まぁ、これは偶然だが、アロー市軍の軍服がスパイ容疑からもカモフラージュする効果も出た、
 ただ、逆に、連邦軍に捕まると、特務の事を証明できない場合、完全にスパイ容疑は強くなる
 だから、特務の内容を知り、それに従事するしか道は無いということにもなる。選択肢は無い!
 そしてワサビィ大尉・・ ヒックス准将に『相方は女です』と言ったか?」

「いや・・ 言ってない・・ でも、確かに・・・ ヒックス司令は、女だと分かっていた・・
 くそぉ! あの狸親父め!・・」

「まぁな・・ そう考えたら、色々とつじつまが合うだろ?
 ただヒックス准将は特務の内容までは知らん、知っているのは先ほども言ったように4人だけだ・・」

「いや・・ 妙にすっきりした、点と点の情報が繋がり、それが一気に面になったような感じだ・・」

「うん・・ 良い顔つきになってきたな・・ 」

「さて、特務の本題に入るか?
 というか、そろそろ、交代の時間になる・・ 場所を変えるぞ・・」

「えっ? どこに行く?」

「ここはフォンブラウン市の中だからな、電波等を発すると色々と厄介だ・・
 通信センターは別の場所にある・・ 敷地はアロー市の管轄内だが、市のドーム外にある
 ジャンク屋の回収品備蓄倉庫施設だ・・ ベースの意味から「B」と呼ばれ、番号を付けている
 行くのは、B-25だ・・」

「おお!、知っているぞ、 いやB-25は知らんが、地図にB-17とか書かれていた
 実は、その近くに不時着したんだが・・
 そうか、ジャンク品の回収基地か・・ ひょっとしたら機体を回収しているかも知れんな!」

「B-17か? ではB-25に行ったら、連絡を取ってみよう・・
 本来我々はジャンク屋だからな、なんでも回収する・・ それが我々の本業というか性だ♪
 ただ・・ 機体があっても安心するなよ」

「ん? なぜだ?」

「回収した物は、我々の資源だ・・ 売ることは出来るがな♪」

「なんだと! 自分の機体でもか?」

「まぁ・・ ただでは無い・・ ということだ・・ 売れる価格の3割が相場かな♪」

「一体、幾らで売れるかなど解らんじゃないか! 信じられん・・」

「まぁ、あるかないかは知らん・・ とにかく移動するぞ、チーフも来てくれ、
 続きの話しは車の中で・・ 」

とトムは立ち上がり、部屋を出る・・
部屋の外に居た、サンダース少年にいくつか指示をし、建物の外に出た・・

「ん? あれは?」

「ああ・・ 俺の女房と旦那の連れだ・・」

「そうか・・ 時間がかかるなぁ、チーフは店に帰るか?」

「いや・・ 乗りかかった船だ! 付き合うよトム♪
 店に帰っておくように言ってくる、ちょっと待っててくれ・・」

と、チーフは自分のバギーに向かって走り出した・・


・・・


「ところでな・・ ワサビィ大尉・・ 」

3人が乗った月面バギーが、フォンブラウンの地下からトンネルを通り、月面に出ると
トムが話し出した・・

「現在も情報の収集中ではあるのだが・・
 グラナダでキシリアの突撃機動軍の意向とは、異なる動きが観測されていたんだ
 単刀直入に言うと、連邦軍の新型MSを奪取、または破壊する計画なのだが・・」

「新型MSって? ジムの新型か?」

「いや、量産型ではなくプロトタイプだ・・『連邦の白い奴』と恐れられているMSの新型だ・・」

「・・・ うっ・・ そうか・・」

「知っているのか?」

「いや・・ 多分だがな・・ ガンダムって呼ばれているMSではないかな?」

「さすがだな・・ そのような呼称でも呼ばれている・・ RX-78-NT と言うらしい・・
 ジオンはそのMSに脅威を感じている・・ たった1機のMSなのにだ、
 『連邦の白い奴』には、甚大な被害をこうむり、その機体はまだ生きている・・
 それの新型だ・・ 旧型でも手に負えないのに、新型が前線に配置されるとなると
 これは大きな問題になるわけだ・・
 だから、ジオンは特殊部隊を地球に送り、奪取作戦を実施してきた・・
 奪取のポイントとしては、移送の中継点などが狙い目だろ?
 だから、最初の強襲作戦は地球の北極基地からの、宇宙への打ち上げ時点で実行されたんだが・・
 この、北極基地強襲作戦は失敗し、ジオンは新型MSの行方をロストした・・」

「でも・・ その機体のありかを、実はジオンはつかんでいた・・
 そして、その場所を強襲した・・ 違うか?」

「知っているみたいだな? その場所は?」

「それは・・ 軍機にはならんのか?」

「いや・・ 確認したかっただけだ、その場所は、中立コロニー群のサイド6だ・・」

「ビンゴだ・・ なんでもご存知のようだな・・
 この数日の間に、サイド6がジオンに強襲されたのは、2回だ!
 1回目はその標的になっている新型MSをサイド6のとあるコロニーに搬入した時・・
 今考えるとピンポイントだ! 実はその時、私はそこに居た・・
 そして、その数日後に、そのコロニー内部でMS同士の戦闘があったそうだ・・
 これは、サイド6からのニュースで聞いた訳だが・・」

「そうだろう・・ 我々が察知した情報から、2つのチームが動き出していると聞く・・
 グラナダから、その作戦に対する支援や補給を絶つ部隊、グレイファントム隊と言ったっけ・・
 MSを運用できる新型のペガサス級強襲揚陸艦で、指揮官はスチュアート少佐だ・・
 そして2つ目は、グレイファントム隊と連携をとり、直接コロニーを守る部隊・・
 グリフィン隊という、コロンブス級をMS運用艦に改修した艦で、指揮官はマメハ大佐・・
 その配下に・・ そう、マスミン特務大尉が配置されている・・
 というか、その部隊から、3日前に直接通信が入った時は、私も肝を冷やしたぞ♪
 まぁ、これで、大尉がここに居る必然性も、少しは見えてきたと思う・・」

「なんてこった・・ なんでも知っているんだな・・ だが数点違っている・・
 グリフィン隊は・・ 私の隊だ・・ グラナダとの補給や支援を絶つ側だぞ・・」

「それは知らん、この話は連邦軍から入った情報だ、
 その後、何らかの問題が発生し、任務が入れ替わった可能性もある・・
 ひょっとしたら、ジオン側もその情報を入手し、おとりなどの任務も入れ替えたかもしれん・・」

「まぁ・・ 良くあることだがな・・ でな、私がここに居る必然性だが・・」
 実は私は代役だ・・ 本当はオーリンという准尉が飛んでくるはずだった・・」

「そうなのか?
 まぁ、我々からすると、要求したスキルを持つ者であれば、誰でも良い訳だが・・」

「まぁ・・ 何を連邦軍に要求したのか?は、知らんが・・ トムが言っている事は、
 概ねその通りだ・・ ただな・・ その2つのチームだが・・ 役に立たないかもしれんぞ?
 マメハ大佐・・いやグリフィン隊は、知っていると思うが、次の大きな作戦に配置されている・・」

「ああ・・ 何もなければ、その『大きなな作戦』を優先する・・
 それはワッケイン司令の考え・・というか条件だと言っていた・・
 しかし、タイミングが悪いのか、2つの事が重なってきた・・って訳だ・・ 」

「2つとは・・ 大きな作戦と、サイド6の動きか?」

「いや、大きな作戦と、グラナダの動きだ!」

「グラナダの動きが? 何かあったのか?」

「2日前の情報だ・・ その新型MSの奪取計画が失敗した・・との情報だ・・」

「失敗だったら、何が悪いんだ?」

「ああ・・ 何も無ければ問題無いのだが・・ 今度は3度目の攻撃をかけるとの噂が出てきた・・」

「そんなに固執するのか? たった1機のMSだろ?
 それだけの理由で一般市民が住む、コロニー内でドンパチとは! 外壁に穴が開くだけなら
 まだ防ぎようもあるが、構造体に歪みが出ると、コロニーは崩壊する・・
 一体、何を考えているのか!」

「ああ・・ ジオンにはそれだけ重要な事なんだろう・・ 連邦の白い奴・・別名『白い悪魔』・・
 それの新型だ・・ 無理も無いだろ・・」

「ちょっと待て! 戦争とは関係ない一般市民を撒き沿いにするなど・・
 というか、あの機体の性能が高い訳ではない! 私が乗っていた新型ジムとスペックは変わらん!
 あれは、搭乗しているパイロットがエース級をも越える、特別なスキルの持ち主だ!ってことなんだ!!
 だからMSを破壊しても意味が無い・・」

「そうなのか? まぁ、そんな事はここで言っても仕方が無い・・ 言うならジオンに言え・・」

「くっそぉ・・」

「ただな・・ 怒る気持ちは解るが・・ 連邦にも、またサイド6自身にも落ち度がある・・
 次の大きな作戦までに、その新型MSを、旧型を扱う部隊に引渡しするためには、
 サイド7やルナ2では遠く、サイド6でないと間に合わないってのは、連邦軍のわがままに過ぎん!
 というか、サイド6もサイド6だ・・ どうして場所を提供した?
 まぁ、多分・・ 金が動いたんだろうが・・ アースノイドのやることは姑息で気に入らん!」

「すまんな・・
 そうか・・ その、とばっちりなんだな・・ 連邦は自分で撒いた種だったのか・・
 確かに、新型を引き渡したい、旧型ガンダムの部隊は、サイド6近辺に居た・・」


と、話している間に、月面の小高い丘の斜面に大きく『B-25』と書かれた文字が見えた・・
バギーがその文字に近づいていくと、その『B-25』の文字は、大きなハッチに書かれている事がわかる

「ほう・・ 回収・備蓄倉庫施設というから、大きなドーム型の施設だと思ったが・・」

「そんなお金は我々に無い・・ 確かにドーム型施設の箇所もあるが、大概は地下施設だ・・
 地下を掘って空洞を作り、その中に機密性を持ったコンテナを組み立て施設にしている、
 宇宙線や小型の隕石から守るには、月面の岩盤が必要だ・・」

しばらくすると、ハッチの下部にある、小さなドアが開き、トムはその中に月面バギーを滑り込ませた
月面バギーから降り、気密室に入る・・ 気密室にエアーが充填されたことを知らせるランプが点灯し
奥の扉が開いた・・
廊下をしばらく歩き、ある小さな部屋に入ると、そこには通信機器やコンピュータが並ぶ
まるで、潜水艦の戦闘指揮所(CIC)のような、いでたちであった・・

「やぁ! トム、交代の時間にはまだ早いけど・・ 誰? お客さん?」

と、その部屋の中に居た1人の若者がこちらを見ながら言う・・

「ああ・・ 例の件で連邦軍から秘密裏に派遣された、ワサビィ大尉だ・・
 少々トラブルがあって、コンタクトが遅れたが・・ 例の・・ グラナダに新たな動きがあるか?」

「あるある♪・・ 
 今、裏を取ってるんだけど、ちょっとやばいよ・・
 まだ、キシリア少将の『パープル・ウィドウ(チベ級)』は、帰ってきてないんだけど・・
 キシリア不在の中、ルーゲンス司令が射殺されたって情報が入電・・ 反乱かな? これ調査中!・・
 そして、今日は定期便や輸送艦以外に3隻の戦闘艦船がグラナダを出航してるね
、この3隻の戦闘艦については行き先を調査中だけど・・ まぁ後情報は無いかもね・・
 ただね・・ その中の1隻はフォン・ヘルシング大佐の『グラーフ・ツエッペリン(チベ級)』で
 こりゃ、何かありますよね!」

「なに? ルーゲンス司令が? それは本当か?」

「俺っちが嘘ついて誰得ぅ? って、あと、劇ヤバなのが、もうひとつ・・ 」

<第55話>情報戦・・」に続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第53話>スパイ容疑・・ / [小説]ガンダム外伝

2011-11-11 07:57:38 | [小説]ガンダム外伝
<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
<第52話>セカンド・ルナ
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「まぁ・・ なんとなくですがね・・ 裏があるな・・ プンプン臭うぜ! ってね・・
 というか、返答の結果次第では、ちょっと困った事にもなる可能性もあるんですがね・・」

と、チーフはおもむろに隠し持っていたハンドガン(拳銃)を、私に突きつけた・・

「お・・ おい チ・・ チーフ!・・」

「中尉、大事にはしたくない・・ 正直に俺の質問に答えてください・・」

「わ・・ 解ったから、その物騒な物は下ろしてくれないか・・」

「質問はたった1つです、お答えください。中尉はスパイですか?・・」

「なんだとぉ!! どこでどんな格好をしていても、私はワサビィだ! 仲間は裏切らん!!」

チーフの顔が緩む・・ ハンドガンを下ろし、内ポケットのホルダーに格納した・・

「ですよね・・ 種馬ワサビィにそんな器用な事が出来る訳ないか・・
 実はね、
 俺が銃を突きつけて、もし中尉が冷静にいろいろと言い訳をしたら・・ 黒・・
 でも、言い訳も糞もない場合は・・ 白・・ ってね♪ 中尉は昔から単純だから♪」

「訳が解らん? 一体なんの事だ?」

「実はですね、連邦軍の通信の中に、スパイの指名手配があって、
 そこに中尉の名前を見つけたんです・・『ワサビィ大尉』って書いてありました・・
 容疑の内容までは解りませんが、連邦軍内部で指名手配になっています・・」

「はぁ? 私がスパイだと? 一体誰が?」

「そんなの解りませんよ・・ まぁ、女関係で訴えられるんだったら理解できますが♪
 3日前でしたっけ、突然の通信で中尉とお話しし、
 それで、今日の朝に、このスパイの指名手配通信を見て驚いて・・
 そしたら、目の前に現れるんだもん! びっくりもしますよね!
 更に、偽名で、アロー市軍の制服まで着ちゃって・・ 誰が見ても完全にスパイです・・
 というか、俺が中尉の性格を知らなかったら、とっくにあの世行きでしたぜ!」

「おい・・ それはどういう意味だ?」

「良い意味で褒めてんですよ♪
 ところで・・、何の用で来たのかは教えてくれますよね?」

「当たり前じゃないか! それが目的で来たんだ!
 実はな、3日前に通信をしただろ? その後、私は不在だったが、
 オーリンと一緒に通信した相手が居たはずだ・・」

「ああ・・ 偉そうな姉ちゃんですね、確か・・」

「マスミン特務大尉・・」

「へぇ! 偉そうだと思って聞いていましたが、特務大尉さまかぁ・・ 中佐相当官ですな・・」

「そのマスミンからの命令で、2人でアロー市に来たんだが・・ 着陸に失敗してな・・
 マスミンが行方不明なんだ・・ 機体も消えた・・ 私は特務の内容を知らん・・
 が、奴がチーフと話しをした事はオーリンから聞いていた・・
 だからここに来た・・ 論理的だろ? どうだ?、何か知らんか?」

「そういうことですか・・ 中尉は任務の内容をご存じない・・ と・・
 じゃ、もう1つ質問に答えてください・・ その服は?」

「ああ・・ これか? 着陸に失敗し、アロー市自衛軍に拉致されてな・・
 ただ、アロー市自衛軍の司令が連邦軍からの出向らしく、特務である事を知っていた・・
 まぁ、私と同様に特務の内容は知らんようだが、任務遂行にはこの格好が良いとの判断らしい・・」

「なるほど・・ アロー市軍がインターフェースなんですね・・ じゃ、制服の件はクリアですが、
 なんか、おかしいですね・・」

「何がおかしい?」

「中尉にスパイ容疑がかかっている・・って事は、アロー市軍も知っている・・
 いや・・ 正しくは、連邦から出向しているアロー市軍の司令が知っているはず・・」

「ん? 意味が解らんが・・
 ちょっと待て・・ 逆にどうしてチーフが連邦軍の通信内容を知っているんだ?」

「まぁまぁ・・ それは後でお話ししますよ・・
 というか、スパイ容疑の人間を、そのまま軍服まで調達しフリーにしますか?
 なんか、おかしいですよね・・」

「そう言われると、そうだな・・ 」

「中尉! その場で立ってください! 服を調べます!」

「ああ・・」

私は上着を脱いでチーフに渡し、チーフの前に手を上げて立った・・
チーフは上着のポケットの中も含め、チェックする・・ そして、私の体もくまなくチェックした・・

「ひとまず安心か・・ 通信機らしきものはありませんね・・ そうか! あの嬢ちゃんは?」

「彼女とはステーションで偶然に会ったから問題ないだろ?」

「本当に偶然ですか? 監視って事もありますよ・・
 あとは・・ エレカーで来ましたよね・・ そのクレジットは?」

「しまった・・ アロー市自衛軍のIDカード(身分証明書)だ・・」

「ですよね・・ この近辺に居ることまではバレている・・ って訳です」

「おい! 駐車場の親父は?」

「大丈夫ですよ♪・・ あの親父は何も言いません、それがこの街の決まりです・・
 まぁ、普通で考えると、スパイ容疑の人物をそのまま泳がせている・・ って事なんでしょうね」

「泳がされているのか? 特務の内容も知らんのに・・ で、チィロが私の監視者なのか?」

「いや・・ 可能性・・って事です、というか、寝てもらっていますが・・」

「な! なにぃ!!」

「ほら・・ 厨房からは何も音がしないでしょ?」

「一体・・ なんなんだ・・ 」

「そろそろ気づいてください、確かに3日前に私と通信でコンタクトしたことは偶然かも
 しれませんが、一介の居酒屋の親父が『ルナツーとの回線』を繋ぐなんて事ができますか?」

「いや・・ それはそうだが、チーフならば・・という期待はあったがな・・
 ビンゴだったとは、自分でも驚きだ・・」

「本当に、やっぱり野生の感なんでしょうね♪ 種馬ワサビィは伊達じゃねぇ!てか?」

「おいおい、褒めても何も出んぞ♪」

「まぁ、そういうことです。 ただ、不審な点が多かったので、嬢ちゃんには寝てもらいました
 エレカーは、親父の所に置いといて、ちょっと場所を変えましょう!
 で・・ オーリンは元気にしていますか?」

「いや・・ すまん・・ オーリンは・・ あの後にあった戦闘で出撃し、MIAだ・・ 」

「えっ! あのオーリンが・・ そ・・ そんなぁ・・・」

「ただな、理由は無いのだが、なんか生きているように感じている・・」

「また野生の感ですね♪ 昔から中尉の感は当たりますから、
 うん・・ まだ生きている・・ 俺もそんな気がします  まぁ、殺しても死なない奴ですから!
 じゃ行きますか?
 ・・・
 おーい! オールクリアだ!! ちょっと中尉と出てくる! 後は頼む!」

「あらら・・ 問題は無かったのね? 良かったわ♪」と、厨房からチーフの奥さんが顔をだす・・

「ああ・・ この旦那は大丈夫だ、嬢ちゃんはそのまま寝かしておいてくれ・・」

「いや・・ ここは危なくないか? 連れて行くことは出来んのか?」

「ん? 危ないか・・ そうですね・・ じゃ、連れて行きますか
 おい!、一応、通信機やGPSが嬢ちゃんに付いてないかは調べてくれないか?」

「もう、調べたわよ、下着の中までね♪ 女は隠すところが男より多いから・・
 というか・・ あの娘・・ 中々の上物よ♪ 噂通りに見る目は良いわね♪」

と私の方を見てウィンクする・・

(やはり、この奥さんも只者ではないな・・)この周到ぶりに私はあきれるしかなかった・・

・・・

私達3人と眠り姫1人は店の裏に止めてあったバギーに乗り、店を後にした・・

「どこに行くんだ?」

「俺達の拠点です・・ まぁ悪役だったらアジトとでも言いましょうか・・
 ご存知の通り、フォン・ブラウンの下層では、キタがジオン寄り、ミナミが連邦寄りですが、
 キタのジオンもジオン公国というより、ダイクン派という方が正しくて・・
 最近はスペースノイドのたまり場となりつつあります・・」

「この月でか?」

「ですね、ルナリアンからすると、アースノイドもスペースノイドも別人種ですから・・
 というか、連邦とかジオンとかでなく、スペースノイドの街・・と言った方が解りやすいでしょ
 だから、今はジオンでも、サイド3出身者以外のスペースノイドは連邦に協力的だ・・
 って事なんです・・」

「協力的って・・ 具体的にはどんな協力なんだ?」

「まぁ・・ 物理的な協力は難しいですが、情報の提供は出来ますよね・・」

「そういうことか・・ ここだとグラナダからの情報が入ってくるわけだ!」

「その通り♪ ただね、逆も多いんですよ・・ 連邦の情報もジオンに流れる・・
 数ヶ月前までは、ほんとに多かったんですよ
 ただ、その逆に流れる量が、最近は少なくなってきた・・ って事だそうで
 そろそろ連邦軍の勝利で戦争が終わるだろう・・ って、ルナリアン達も言ってますね」

「そうか・・ ルナリアン達の分析通りになれば良いのだが・・」

そんなこんなの会話の中、チーフが運転するバギーはフォン・ブラウンの外縁に差し掛かった
外縁の道路に入ると、更に1層地下の最下層、通称ボトムズに降りていく・・
最下層に入り、数分も走っただろうか・・ チーフはジャンク屋らしき建物の前でバギーを止めた

「さて・・ お前は嬢ちゃんとバギーに残っていてくれ・・ 中尉と2人で入る・・
 こっちです中尉・・」

バギーに2人を残し、私は言われるままチーフに続き、建物の中に入っていく
地下に降りる階段を進むと、奥に小銃を構えた少年が立っていた・・

少年は私達に銃口を向け

「後ろの野郎は誰だ!・・  って、あれ? エレカーの・・ あのアロー軍の少佐さん?」

「ああ・・ 君は、確か・・」

「サンダーズです♪ なんだ・・ 少佐も同志なんですね!」

「なんだ、もう知り合いだったのか? というか、少佐かぁ・・ 確かに階級章は少佐・・
 アローは自衛軍だから、三佐だよな・・ そして正しくは大尉で、俺は中尉と呼んでいる・・
 う~ん ちょっとややこしい・・」

「別に良いじゃないか。呼称など・・」

「いや、不要な誤解をまねきそうだ・・
 ただ、本名のワサビィも指名手配中・・ 別名は何だっけ?」

「ああ・・ ベリーだが・・」

「じゃ、今から『ベリーの旦那』で統一だな♪
 おい! サンダース、
 奥のトムに伝えてくれ!『チーフが友人のベリーの旦那をつれて来た・・』と・・」

少年のサンダースは笑顔を見せながら奥のドアをあけ、中に入っていく・・
しばらくすると、一人の男がドアから出てきた・・

「客人とは、珍しいなチーフ・・ ん? アロー市軍の士官か?」

「ああ・・ 今はアロー市軍だが、昔の俺の戦友だ、ルナ2で戦闘機に乗っていた・・
 パイロット仲間のベリーの旦那だ♪・・」

「ほう! ルナ2か? 宇宙軍だね? 出身は・・ 地球?」

「いや、スペースノイドだ・・ サイド1生まれのサイド1育ちさ・・ 」

「すまん・・ 不躾な質問をして、悪かった・・ 家族などもサイド1で・・
 現在はアロー市軍に出向中ですな・・
 私はここのリーダーをしてます、トムです・・」

と、トムと名乗るリーダの男が、手を差し伸べた・・
笑顔ではあるが、眼光が鋭く、心が貫かれるような感が体を襲う・・
(ここは・・ やっぱり戦場なんだ・・)
少し浮ついていた気持ちが一瞬で覚醒した!
その差し出された手と握手する。

「お察しいただき、ありがたく思っている、ベリーだ!」

「で・・ ご用件は?」

「実は、連邦の特務でアロー市に来たのだが、特務内容を知るペアが行方不明になり
 その手がかりがないか? 調べている・・ 」

「特務の内容ではなく、仲間のペアを探している・・と・・」

「そうなんだ、トム・・ 実は、3日前に連邦軍の士官と通信しただろ?
 その相手、マスミン特務大尉が、旦那が探しているペアなんだ・・」

「えっ? ・・ ちょっと待て!・・ それで私に会いに来たのか?
 というか・・ 廊下で立ち話も、なんだから、そこの部屋で待っていてくれるか?」

「ああ・・ 解ったトム! 旦那、こっちだ・・」

と、チーフに誘導され、1つの部屋に入った・・

「おい・・ あのトムとか言う奴・・ 」

「ああ・・ ここのリーダだ! まぁ、真面目そうに見えるが、
 三度の飯より女が大好きだから、中尉・・ いや、旦那とも話しが合うぞ♪」

「そうではない・・ 笑顔だが眼光が鋭いのは戦士の証だろうが
 その温厚そうな顔が、マスミンの名前を言い出した後、急変した・・
 いや、私を睨んだ? そんな感じだ・・」

「そうか? 信頼出来る良い奴なんだけどな・・ いらん事を言ってしまったかな?」

「チーフは、その時の通信内容は知らんのだな?」

「ああ・・ というか、中尉もだろ?」

「通信内容には、触れないよう、単にペアが心配だ・・ の方針を貫いたほうが良さげだな・・」

「なんか、やばかったのかなぁ・・ すまん中尉・・ 」

「そうだな、外にはチーフの嫁さんもチィロもいる・・ 面倒は避けよう!」

「了解だ・・」

しばらくすると、先ほどのトムが部屋に入ってきた・・
ひょっとしたら、武装した数人の登場も予想していたのだが、入ってきたのはトム1人だった・・

「同志チーフ!・・ そして、ベリー三佐・・ 本当の事を言ってほしい
 つまり、隠し事は裏切り行為だと認識してくれ・・ 裏切り者は銃殺だ!
 ベリー三佐・・ 連邦軍にはそのような登録名称は無い、本当の名前は? 貴様は誰だ?」

思わず体が硬直する、チーフを見ると、名前を言え!大丈夫だ・・と顔で答えていた・・

「悪かった・・ 地球連邦宇宙軍 第21独立戦隊MS中隊、中隊長のワサビィ大尉だ・・」

トムの目が私の目を射抜く・・ 無言のまま数分が経過した・・

「了解・・ 間違いは無いようだ、ワサビィ大尉であることを認識した。
 もし、ここで嘘でもつかれると、本当に困った事態になるところだった♪
 ようこそ!フォン・ブラウンへ! 『同志ワサビィ大尉!』」

「ふぅ~ ありがとう♪」

「俺もだ! 金玉が縮みあがったぜ!」

思わず、安堵の思いが体を駆け巡ると同時にため息が出てしまう。
が・・ (なぜ?ワサビィと解っているんだ?)

「さて・・ 本題に入る前に、もう1つ、私には確認したいことがあるのだが・・
 大尉は先日、ルウム-地球航路上でジオン艦艇と遭遇したが、攻撃することなく
 そのまま逃亡を許した・・と、記録が上がっている・・
 その事実を確かめるため、原隊へ問い合わせを行ったが、原隊には帰艦することなく
 逃亡中との事。そのためスパイ容疑で指名手配となっている・・
 これは確かな事か?」

「な・・ なにぃ!! おい!チーフ! 貴様も言ってたよな・・
 そのスパイ容疑って何だ?」

「だから、俺はスパイ容疑で指名手配、としか知らん!」

「大尉! 質問に答えてくれ・・ 正直に・・ 
 今、伝えた通りだ・・ ルウム-地球航路上でジオン艦艇と遭遇したのか?」

「ちょっと待て・・ その内容は軍機になるのだが・・
 先に、そちらの素性を確かめたいものだが・・ 」

「さすがですね ワサビィ大尉・・
 自分の立場を守るために、ぺらぺらと何でもしゃべるチキン野郎では無いようだ・・
 逆に信頼することが出来る。
 我らの最大の敵は裏切り行為・・ チキン野郎とは仕事は出来ん・・」

「お褒め頂き、感謝するが? 私の質問は?」

「横からすまん・・ 旦那・・ トムの素性は俺が保障する・・
 それでは駄目か?」

「チーフ・・ ありがとう♪
 それでワサビィ大尉が了解だと、嬉しいが・・」

「そうだな・・ 軍人でもない訳だ・・ 第三者的に証明するような物も無く
 人として信用しろ! ということだな・・
 チーフ・・ 私はチーフを信用している、だから貴様が信用しているトムも信用しろ・・と・・」

「そうなんだ、それがここの唯一のルールかな、信頼だけで繋がっている・・」

「解った、郷に入れば郷に従え! かぁ・・ 了解だ・・ それが一番大事だからな」

「ありがとう、大尉! では、先ほどの質問に答えてくれ・・ ジオン艦艇と遭遇したか?」

「ああ・・ 今、思い出していたんだが・・
 そういえば、空の曳航策を引いた、ソドン級の巡航船に遭遇した・・」

「ジオンの?」

「多分な・・ 識別コードはイエローだったが、武装していたからな、ジオンだろう・・
 でも単機だぞ・・ そして奴には攻撃意思は無かった・・
 想像するに、地球連邦が制圧している低軌道に単機で乗り込み、
 地球から打ち上げられた、仲間達・・ 脱出したHLVを回収しようとしていた・・
 いや・・ そうだと私は解ったんだ!
 同じ宇宙の民じゃないか・・ 戦闘能力の無い奴を撃つことが貴様達に出来るか?」

「そこだ!・・ 事実かどうかは不明だろ? 敵ソドン艦は武装していた・・ それが事実だ」

「いや・・ 確かにそうかもしれん!
 しかしな・・ 現実に低軌道上を見ると、随所で戦闘の炎が光るんだ!
 解るか? 宇宙で戦闘する武装などを、全く持って無い丸腰のHLVを・・
 何百人が1機に乗っていると思う? 無抵抗のそれを、連邦軍は撃ち落としているんだぞ!
 戦争にはルールがあるだろ?
 そういう事実を知っていると、単機で、自らの危険も考えず、
 自分達の仲間を助けに行こうとするソドン巡航船を撃つことが出来なかったんだ・・ 」

「なるほど・・ 気持ちは解る・・
 しかしな、連邦軍のアースノイド達が、それを聞いたら、どうだろう?」

「そ・・ それは・・」

「軍法会議では、有無を言わさず確実に、有罪・・ つまり死刑!になる訳だ・・」

<第54話>特務の内容・・」に続く・・・

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Copyright ichigowasabi

<第52話>セカンド・ルナ / [小説]ガンダム外伝

2011-09-29 06:26:58 | [小説]ガンダム外伝
<ここまでの話>
【第1部】
<第1話> から <第24話>までのリンク
【第2部】
<第25話> から <第46話>までのリンク

【第3部】
<第47話>月面着陸・・
<第48話>敵か味方か?
<第49話>アロー市自衛軍
<第50話>大丈夫だよね・・
<第51話>フォン・ブラウンへ・・
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「よし♪ じゃぁ出発だ・・ まずは第4層に降りよう、私が運転するからな
 あとは口と耳があれば大丈夫だろ、聞いて回ればいいさ・・」

「そうですね♪ 行った事が無いんで、ちょっと楽しみでもあります♪
 マップは私が見ますので、運転はお願いいたします
 というか、軍に入ってからエレカー免許を取得したので、まだペーパー免許なので・・」

「なんだ、プチモビルスーツは180時間も乗っているのに、エレカーはペーパなのか?」

「てへっ♪」

と、ペロッと舌を出し、笑うチロル三尉の顔に癒される自分が居た・・

・・・

フォン・ブラウンの第4層、フォース地区へ下る道は、市を覆うドームの周回淵に設置されていた、
貨物用の大型車両がたまに通過する、フォース地区は上層とボトムズを繋ぐインターフェースの
役割を機能として持っている郡で、中央部にジャンク屋商会の会社などがあり、その北と南の両端に、
飲み屋や風俗や賭博場などの繁華街が構成されている街だ・・ 

(エレカーで来るんじゃなかったか・・)

私達のエレカーが目立つ・・ ここでは乗用エレカーが非常に少なく、あっても旧型だ・・
そして多くのエレカーは、貨物用にも使用できる月面バギーが大半だった・・
ひょっとしたら、このフォース地区にはドーム外の月面に直接出れるトンネルがあるのかもしれない 

「どこか、ちゃんとした所に駐車しないと、エレカーが盗難にあうかもしれんな・・」

「そんなぁ・・ 取られちゃうんですか?」

「ああ・・ そういう目をしている奴らばかりだ・・」

「確かに・・ アロー市の下層とは全然雰囲気が違います・・ シャフトが無いからかな?」

「まぁ・・ それもあるだろう、市の面積がアロー市の数倍はあるからな・・
 アロー市は直径が小さいから、最初から4層で構築されているが、
 直径の大きな、フォン・ブラウン市の設計は、元々第3層までだと聞いていた・・
 というか、実際に第3層まででフォン・ブラウン市の機能が全て構成されているだろ?
 その下の層は・・ 勝手にできたのかもしれんな・・ 人間の力は凄い物だ・・」

「勝手に掘っちゃった・・ って事なんですね・・」

「ああ・・ そう言う事だろう・・ 上層には空気があるからな、コロニーより安全だ
 コロニーからも流れてきている奴らが多いんだろう・・  で・・ここからがサウス地区か・・」

サウス地区の文字が路肩にある標識に書かれている・・
道の先には、繁華街のネオンがまぶしく光っていた・・
3層までは、人工太陽などで昼夜の自動制御が行なわれているが、それより地下には昼間は無い、
常に夜であり、ネオンが明るい・・繁華街のサウス地区は不夜城という表現がピッタリだ・・

「となると、サウスエンドはこのあたりだな・・」

と、駐車場のマークのネオンが見えた、椅子に腰掛ける初老の男が「P」と書いた旗を振っている
その店の前でエレカーを止め車外に出ると、ムッとした鉄くずの錆びた匂いと湿気に包まれた・・

「泊まりかい?」と初老の男がにやけた顔で覗き込む・・

「いや、店を探している、数時間だが預かってくれるか? 軍務だ・・」

「なんだ、お家に帰らないといけないのか? さては、かぁちゃんが怖いのか?
 そんな娘っ子みたいな、おなごと・・ わざわざアローから来るんだ、訳ありだろ?」

と、私の軍服や階級章、そしてチロル三尉をちらちら見る・・

「だから軍務だと言った! 訳ありだと高くなるんだろ?」

「逆さ 訳ありならお安くしておくさ、軍務だと2倍だね♪」

「そうか・・ さすがマスターは鋭いな・・ 秘密にしてくれよ・・ 司令がうるさくてな・・
 というか・・ 中々いい娘だろ? 士官学校出立てのピチピチだ♪・・」

「だろ? 訳ありだろ♪
 そうじゃないかと見たんだ、 なら、泊まりだね! 安くしておくが
 現金で前金だ! クレジットはダメだ、信用ならんからな!」

「分かった・・ 幾らだ?」

「3000ルナ貰おうか?」

「な・・なにぃ? さ・・ 3000ルナだとぉ! お、女が買えるじゃないか!!」

「嫌なら良いよ、ミナミじゃどこでもこんなもんさ、もっと高い店もあるからね・・
 と、いうか、盗難にあったらエレカーの賠償金はもっと高かったんじゃないかな?
 ほら・・ そこのガキ達が、綺麗なエレカーを見てるよね・・ ひっひっひっ♪」

道の反対側で5~6人ほどの子供達が、ジッとこちらの様子を伺っているのが見えた・・

「分かった分かった・・ マスターの言うとおりにするよ・・
 で・・ 店を探しているんだが?」

「やる前に腹ごなしか? 女の食欲と性欲は同じって言うモンな! 良い店があるぞ♪」

「いや・・ 知人がやっている店なんだが・・
 確か・・ ルナ2・・ いや ルナセカンド・・ セカンドルナだっけ?」

「ああ?・・ それってチーフの店か?
 それなら、その路地を入って右に折れた先にあるぞ、セカンド・ルナだ・・」

「そうか! ありがとう・・ 探すのに手間がかかると思ってたんだ、助かった!
 じゃ、3000ルナだな・・」

「いや・・ 300でいいよ・・ チーフの友人からは、ボッタくれないからな♪」

「おい・・ そういうものなのか?」

「ああ・・ そういうもんさ で・・ これを持っていけ!
 ホテルの割引チケットだ! これがあると、ボッタくられないはずさ、安く泊まれる
 じゃ、楽しんで来てくれや ひっひっひっ♪
 そうそう! チーフに会ったら、また酒を頼むって言っておいてくれ♪・・」

と、駐車場の初老の男が指を1本立てたサインを頭上に差上げ、店の中に入っていく・・
先ほど道端でエレカーを見ていた男の子達が、ジャッキを持って駆け寄ってきて
手際よくエレカーを駐車スペースにロックした・・

(なんだ、このガキ達・・ 爺の手下じゃないか・・)その中の年長らしき子が・・

「旦那! 確実にお預かりします! ご安心ください♪」

と、言いながら手のひらを私に見せて突き出す・・

(チップか・・ 小銭が無いな・・)

私は100ルナ紙幣を彼の手に乗せ、ウインクした・・

「す! すげぇ!!!  まいどです!! 俺、サンダースって言います。
 困ったら何でも言ってください! 次回もご指名を! サンダースです♪」

と、深々とお辞儀をし、ニコニコしながら紙幣を高々に差し上げ、子供達の方に走っていった・・

「5ルナから10ルナですよ・・ 普通は・・」

「そうなのか・・ 小銭が1枚もなくてな・・
 まぁ3000ルナ払う事を考えれば、安い物だし、こんな場所だ・・
 味方を作っておくことも大事な戦術さ・・ じゃ・・ 行くぞ・・」

「というか、先ほどのおじいさんとの会話・・
 一体、何を言っていたのですか? 私には何がなにやら・・ もう、信じられない!」

「そうか? このような場所での会話だ・・ 全て冗談だって解らんか?
 だから、言葉の遊びだと思って慣れろ・・」

「言葉の遊びだけだったら、どうしてホテルのチケットを受け取るんですか? 
 それって、お泊り決定じゃないですか? そんな・・ もう・・ 心の準備も・・ 」

「だからぁ・・ 大丈夫だって言っているだろ? 
 まぁ、仕方なく一緒に泊まったとしても、何もしなかったらいいんだろ?」

「やっぱりぃ!! 一緒に泊まるんだ!
 食事も性欲と一緒って何の事? もう、ほんとに・・」

「ん? やっぱりその気なのか?
 ・・・ 
 なんてのは、ほんと冗談さ
 ただ、こんな街だ、ホテルはビジネスタイプじゃない事は解るよな、
 だから2部屋などリザーブできん・・ だからと言って、あれをする訳でもない・・」

「本当ですか? 約束ですよ・・ 本当ですよ・・ 三佐ぁ・・」

「ん? 『三佐ぁ・・』って言ったな・・ やっぱ1発は必要かなぁ?・・♪」

「え~ え~ え~ え~ え~ !!!!!」

「約束を破ったチィロが悪い♪ 行くぞ!、 それとも、ここに残るのか?」

「えっ、待ってくださいよぉ・・ さ・・ 三佐ぁ・・ 」

「あっ・・また言った♪・・ これで2発か・・
 やっぱ、したいんだ・・ まぁ私は、いつでも受けて立つがな♪」

「え~ え~ え~ え~ え~ え~ !!!!!!」

相変わらずうるさく言いながらも、私の服のすそを掴んで付いてくる・・
色々と言葉で攻めた事が功を制したのか、話し言葉がごく自然になってきた・・
全く想定外ではあったが、結果として女性連れになったことが有利に働いている。
というか、むさいオッサンが他市の軍服を着てうろうろしていると、非常に目立つのだが
それが同じ軍服を着ていても、女性連れだと何故か溶け込み目立たないのだ・・
木を隠すのなら森に、繁華街で隠れるのなら女性連れ・・ って事かもしれない・・

・・・

駐車場の親父に教わったように、路地に入って右に折れ、先に進むと
「セカンド・ルナ」と書かれた看板が見えた・・

ドアを開け、中に入る・・ レストランとバーとが合体したような店だ・・
テーブルが6つに、8人掛けカウンターが1列の小さな店だが、
客の入りはほぼ8割がたという感じで、繁盛して事が読み取れる・・

「はーい♪ いらっしゃい・・ ちょっと待っててよ・・ すぐ行くから・・」

と、カウンターの中から懐かしい声がした・・ チーフに間違いない・・
奥の空いていたテーブル席の椅子に腰をかけ、横の席にチロル三尉も席についた・・
暫くすると、カウンターの中から声の主が、ガチャガチャと義足の足音と共に出てくる

「どうもお待たせして済みません、アロー軍の旦那・・
 いつも居る、店の娘が休んじまって、また、こんな日に限って忙しくなるってもんで・・
 って・・ あれ?・・ あれ??   ちゅ・・中尉? ♪」

「元気そうだな? 来ちゃったよ♪」

「おいこら!、そこの金も持たずに、ただ飯を食いにきやがる雑魚ども!
 邪魔なんだよ とっと席を空けろぉ!!」

と、カウンターの端で食事をしていた2人を掴み、席を無理やり空けさせる・・

「おいおい・・ 乱暴な・・ 良いのか?」

「いいってモンよ! ここは俺の店だから、俺様がルールブックだ♪」

「相変わらずだな♪」

とカウンターに付くと、ジョッキに注いだビールを2つ出してきた。

「いやぁ! 嬉しいですね、本当に来てくれるとは♪ マスドラ破壊作戦以来ですから・・」

「そうだな・・ あの時は貴様は死んだと思ったぞ・・」

「まぁ・・ 閻魔さんに嫌われちゃったみたいで・・ おかげさまでまだ生きてます・・
 この足と引き換えになっちゃいましたが・・
 で・・ 中尉どの!、その格好(制服)はどうされたんですか?
 いや、3日前だっけ、オーリンが『大尉』って言ってましたよね、
 なのに、2本線(佐官)って?」

「まぁ、色々あってな、呼称は中尉でいいが、今は2本線だ、そしてこいつが今日の相棒だ♪」

「さっすがと言うか、ジオンの野郎どもとドンパチしている最中だってぇのに、
 こんなピチピチのお嬢ちゃんと・・ 相変わらずお盛んですなぁ♪
 まぁ何はともあれ、来てくれて嬉しいですよ中尉♪ あっ・・ 今は少佐殿っすね・・」

「三・・ いや・・ あの? 中尉って?」

「あっ? 嬢ちゃん ごめんごめん・・というか、嬢ちゃんも少尉さんなんだね♪
 実は、俺と一緒の隊の時、少佐殿は中尉だったって事で、つい口癖でね♪
 この店の名前も、中尉と同じ隊に居たときの基地名から取っている・・
 だから、この店に来る奴は、何がしかの関係で連邦軍と関係ある奴ばかりさ♪」

「なるほど・・ ルナ・セカンドと聞いた時、ルナ2を思い浮かべたからな・・
 やっぱり、ルナ2で間違いではなかったんだな♪
 で、チィロ・・ 連邦軍ではそうだった・・って事だ・・ 気にするな・・」

「中尉ぃ・・ 連邦軍では? ・・って?」

思わずチーフを目で威嚇し首を左右に振る・・ (ややこしそうだと解れ!)

「まぁ・・ ・・ どうでも良いか・・ じゃ、旨いもんでも食ってください!
 そうだ! ムサカを食ってください! 女房の郷土料理なんですがね、俺の一番のお勧めです。
 ポテトとなすびをスライスして、トマトソースとホワイトソースで挟んだグラタンって事かな」

「それは旨そうだな♪ じゃ、それを2つ・・ そして、美味しい水も2つだ!」

「おっ! 実は地球のキリマンジェロで取れた極上の天然水を入荷したんですよ! 旨いですよ♪」

「そいつはいいなぁ! 合成水じゃないんだな! 是非それを貰おう!!」

「了解であります中尉♪  お~い! ムサカ2つだ!・・」

「はいよ~♪」

厨房の奥から女性の声がした・・

「嫁さんか?」

「まぁね、いつまでもチョンガーで右手が恋人って年でもないし・・
 この街に流れ着いた時に知り合ったんだけど・・ いい娘でね・・ 俺が押し倒したんだ♪」

「そうか・・ それは、おめでとう! 幸せそうで私も嬉しいよ♪ あとで紹介しろよ」

「嫌だね♪ 中尉は手が早いから・・ 穴さえあれば人妻であろうが関係ないし♪」

「いやいや違うぞ・・ 手さえ繋がなかったら妊娠はしないから大丈夫だ♪」

「え~?そうだっけ・・ 目を見ただけで妊娠するんじゃなかったんすかぁ? ♪」

横できょとんとするチロル三尉を放置し、昔に騒いだバカ話の内容で2人で大笑いになる

(これだけバカ笑いするのも久々かもしれんな・・)と、平和がいかに大切であるかを実感する。

暫くすると、チーフの奥さんが出来立ての料理を持って厨房から出てきた

「あら? チーフとお知り合いなの?」

「ああ! この前も話しただろ? 『種馬ワサビィ』の通り名を持つ連邦のエースさまだ!」

「始めまして奥さま・・
 アロー軍のベリー三佐です、芸名が連邦のワサビィ中尉って事かな・・」

と、手を差し出す・・ すると、チーフが手で制止した・・

「だめですぜ! 握手すると妊娠しちゃうんで・・ ♪」と、また2人で馬鹿笑いする・・ 

「そうそう! 俺の活躍の話を女房にもしてやってくださいよ、
 俺の言う事なんか、これぽっちも信用してくれなくって・・ 」

「そうだな・・ チーフもエースだったからな・・ あのザクも落としている♪」

「へぇ・・この人がぁ? 嘘じゃなかったんですね♪ 信じられないけど・・」

「まぁ、旦那の言う事は、素直に信じてあげる・・ これが夫婦円満の秘訣だよ♪
 さて・・ おいしい料理が冷めないうちに、ご馳走になろうか!」

「そうそう! 食べてください! 絶対に美味しいんだから♪」

この所、戦闘食続きであったこともあり、久しぶりの暖かい出来立ての料理に舌鼓を打つ・・

「このお料理・・ めちゃくちゃ美味しいですよね♪」

と、半分放置され、少々不機嫌気味だった、チロル三尉も絶賛する

「そうだろ? 美味しいだろ? 俺の女房が作ったんだ、まずい訳はないさ♪」

「これ・・ レシピとかは企業秘密なんですか?」

「企業だと? 面白い事言うね♪ 嬢ちゃん少尉・・ 知りたいか?」

「あっ、チロル三尉です、チィロでいいです・・
 レシピ知りたいです!! 教えてくれますか?♪」

チーフが奥さんの方を見る・・ と・・

「そうね、この子可愛いし素直そうだし・・ 気に入ったわ♪
 こちらにいらっしゃい、教えてあげる♪」

「わーい! 三佐ぁ! 行って来ます♪」

「おい! チィロ!!・・」

「はい?」

「3発だぞ・・ 覚悟しろよ♪」

「え~ え~ え~・・ まだ、続いてたんだぁ・・」

「早く行って来い!」

「は~い・・」

と、しょげた感じでチロル三尉が厨房に向かう・・
チーフは気をつかってか、食事が終わった店の客に対し、『今日はもう閉店だ!』と、
どんどん追い出していく。
30分もすると、あれだけ繁盛していた店内は我々だけになっていた・・

「で・・ この後はどこに行くご予定ですか?」

「まぁな、今日の用事は貴様に会うことだったからな・・ その後は・・ ここに行くのかな♪」

と、駐車場の親父からもらった割引券をチーフに見せた・・

「ほう・・そこですか・・ ついに中尉もAV出演するんですね? 通り名は伊達じゃねぇ!って」

「ん? どういうことなんだ?」

「そこのホテルは盗撮カメラが設置されているって有名なんですよ♪
 俺としては、嬢ちゃん少尉殿のお姿は拝見したいところですが、
 中尉の、いや、種馬ワサビィのマッスルスティックは見たくねえなぁ♪」

「おい・・ 今はその名はやめろ・・
 というか、親父が言ってたぞ、ぼったくられないって・・」

「そりゃそうでしょ・・ いくら宿代が安くても、映像が高価で売れますからね・・
 というか、その割引券、お連れが素人娘でなかったら、入手できません・・
 可愛くて、うぶそうで・・ 映像が高値で売れるな・・ って思った場合に、
 あの親父が出すんですよ・・  確かに嬢ちゃん少尉だったら、買い手が付きますからね♪
 まぁ・・ここは、そういう街なんすよ♪」

「そうか・・ あのクソ親父・・ そういえば貴様に酒を頼むと言っていたが・・」

「そうでしょ? 画像が売れて金が入るから酒を注文できるって構図です。」

「さすが、やり手の親父だな・・ というかチーフ、さすがだ、良く知っているな・・」

「そりゃ、そうでしょう! この街で生きていくには、いろんな情報を掴んでおかないと・・
 というかね・・ 実は俺が女房を押し倒した時の奴が、市場に流れちゃって♪
 女房の親は激怒して、傷物にした!って、かなり絞られましたが、
 結果として嫁にすることができ、ある意味被害者ですが、ある意味感謝でもあります。」

「なんだチーフ!、貴様盗撮されたんだ♪ その画像データは今もあるのか?」

「中尉・・ この世界です、削除しても削除しても裏ネットから消える事はありません・・
 店に来る客の何人かは、女房の顔を見に来て居るんですがね・・
 きっとおかずにするんでしょう・・
 でもね、女房の奴は開き直っています。俺との分だから、見たかったら見てよね♪って・・
 いい娘でしょ?  女は開き直り、それで男は勃ち直る♪ ってね」

「いや・・ ほんと、貴様にはもったいないな♪」

「ということで、黙ってた方が良いかな?とも思ったのですがね・・」

「いやいや、ありがとう ここまで知ってて画像が流出したら、私の確信犯って事になる
 ただ、記念に一本欲しいかもしれんがな♪」

「なんとなく解ります、というか中尉らしいや♪・・
 で・・ そろそろ、本音に入りませんか?
 邪魔者はいないし・・ 3日前の急な連絡から、急な訪問・・
 そして、アロー軍の制服に、正式な少佐の階級章・・ そしてあの子・・ 突然すぎて・・
 そして、名前もワサビィではなく、ベリーと・・ 」

「だよな・・ というか、さすがだチーフ・・ あの子の前では話を合わせてくれて・・」

「まぁ・・ なんとなくですがね・・ 裏があるな・・ プンプン臭うぜ! ってね・・
 というか、返答の結果次第では、ちょっと困った事にもなる可能性もあるんですがね・・」

と、チーフはおもむろに隠し持っていたハンドガン(拳銃)を、私に突きつけた・・

「お・・ おい チ・・ チーフ!・・」

「中尉、大事にはしたくない・・ 正直に俺の質問に答えてください・・」

<第53話>スパイ容疑・・」に続く

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