いちごわさびの徒然草

アニメ大好き! ガンダム大好き! そんなこんなを徒然なるままに・・

(第15話)悪魔と天使・・ / [小説]甘い誘惑

2011-05-21 23:02:14 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
【第1部】
(第1話) から (第9話)までのリンク

【第2部】
(第10話)存在・・
(第11話)期待・・
(第12話)不倫温泉・・
(第13話)男のロマン・・
(第14話)浮気?不倫?・・
------------------------------------------------------------------------------

「ハイ♪」

と、急いでドアをあけると、そこには2課の課長が立っていた・・

「ちょっと早かったでしょうか? お時間大丈夫ですか?」
                             
一気に妄想世界から現実社会に引き戻された・・
仕事で来ているのだから、仕方が無いのだが、テンションは一気に下降する・・

(なんだ・・ 貴様かよぉ・・) 露骨に気持ちが顔にでる・・

「どうされました?」

「いや・・ 大丈夫だ・・ 飲みすぎたのかもしれん、少々疲れた・・」

「あっ! 申し訳ありません、やっぱりお疲れですよね・・
 打ち合わせは、明日の朝にしましょう!
 朝食は6時から10時まで、1F食堂で用意されています
 副社長とのアポは11時ですので、時間は十分にあると思います。
 現在までの議事録や報告書はお渡ししておきますので、あすの朝食後にでも・・
 いかがでしょうか? 一応、私は8時頃に朝食をとる予定です・・」

「そうだな・・ そうするか・・
 8時だと、他のメンバーも同席で打ち合わせができるよな・・」

「いいえ・・ 明日は私だけです・・ 連絡したのでご存知だと思ってましたが
 他のメンバーは『技術交流会に参加させよ!』との本社指示でしたので調整し、
 メンバーだけは技術交流会に参加させるよう帰らせました・・
 ですから、この部屋もメンバーが居なくなったので確保できたのですが・・」

(何だって? 言っている意味が解らん・・ えっ? 技術交流会だと?)

「技術交流会へ参加しろ!って指示は・・ ひょっとしたら、私が発信した奴か?」

「そうです!・・ まぁちょっと息抜きも必要かな・・と思っていた時期でも
 ありましたし、メンバーも『他の仲間達と会いたい!』とか言うものですから・・」

「分かった・・ その話はもういい・・
 一つ教えてくれ・・ 明日、副社長と会ったあと、宴会の企画はしているのか?」

「えっ・・ 宴会ですか?
 そのような物は企画していません・・ というか席を設けるべきでしょうか?」

「いや・・ それで良い、副社長とは雑談で・・と考えている、宴の必要は無い・・
 では、後は明日の朝、8時にしよう!」

「解りました、明日の朝ですね、8時にお待ちしております。
 では・・ おやすみなさい・・」

「ああ・・ おやすみ・・」

と、部屋のドアを閉めた瞬間、全ての勘違い部分がリセットされ、勘違いから発生した
疑問が解消して行く・・ 全ての情報が、驚くほど綺麗に繋がっていくのだ・・
ただ、頭が綺麗に繋がると同時に、身体の力が急激に抜けていった・・

(くそぅ・・ 神様・・ そうか、今回は私の負けか・・)

ベッドに仰向けに大の字で寝転ろがる・・
天井を見上げ、整理した・・

(自分の都合の良い様に、勝手に判断していたんじゃないか・・
 そして、彼女は私がこの温泉地に来ていることなど、多分知らないんだ・・)

彼女が言った『駅』は彼女の自宅に近い駅・・
『明日会える』は、技術交流会での事で、技術交流会も温泉地での開催・・
『宴会』とは、交流会での夕食・・ つまり大宴会・・
彼女は技術交流会に参加することで、私に会える・・
いや、私ではなく、会社の同期などの友人達と会える・・
私はその友人達の中の一人に過ぎないんだ・・

後は推測だが、私の部署が発信した通達文書がきっかけになって、
欠席と報告していた交流会に、急遽参加することができるようになったので
単に私に連絡してきた・・ そういう事だろう・・

(まるで厨二病だな・・、いい大人が勝手に舞い上がっていたなんて・・
 まるでピエロじゃないか・・)

自分の思いと彼女の思いが同じだと、自分勝手に決め付けていた事に気付く
テンションが一気に下がり、頭が冷静になっていった・・

(そんな美味しい話は無いか・・
 さて、仕事だ! 議事録でも目を通すか!!)

と、気持ちを仕事モードに切り替えた、
すると、先ほどのやや困惑した課長の顔が目に浮かぶ・・

(奴には悪い事をしたな・・ なんて言ってたっけ・・)

と、課長が言った言葉を順番に思い出していく・・

(ん? 『この部屋もメンバーが居なくなったので確保できた・・』って?)

男と言う輩は全く勝手な生き物である
ジェットコースターのように急降下した気持ちが、またグングンと上昇する!

(こ・・ この部屋って・・ 昨日まで彼女が使っていた部屋では?)

そう気付いた瞬間、今までただ清潔だな・・とだけ感じていたこの部屋が
すごく価値のある聖域に思えてくるから奇妙な物だ・・

背中に感じるベッドからの暖かさに、彼女の体温を感じ
ほのかに香る芳香剤の香りも、彼女の匂いと錯覚する・・

(なんだろ・・ いい気持ちだ♪・・)

思わず目を瞑り、その甘美な感覚にしばらく身を委ねていた・・

・・・

(そうだ! 忘れていた! 留守番電話だ!)

あわてて携帯電話を取り出し、彼女からの留守電メッセージに耳を傾ける・・

「・・・ 夜分すみません・・ 私です・・
     先ほどは電車の中からでしたので、途中で切れてしまい
     申し訳ありませんでした・・
     えっとぉ・・ あ~ん 何、言ってるんだろ・・
     え~・・
     ・・
     あっ! 宴会をこっそりと抜け出す作戦を思いついちゃいました♪
     誰にも気付かれず脱出可能ですので、私に任せてくださいね!
     抜け出して飲みにいくなんて・・ ワクワクしています♪
     2時間もかかっちゃったんですよ! 宴会の場にも違和感無く
     そのまま、飲みに行っても変じゃない服装って・・
     意外と悩んじゃって、明日の私のコーデも楽しみにしててくださいね
     では、明日♪ おやすみなさい・・ ・・・ 」

(な・・ なんだとぉ!!)

先ほど一旦は否定した、彼女の気持ちと私の気持ち・・ 
その否定を、この留守電の内容が完全に消し去ってしまった・・
というか、この内容を先に聞いていても、勘違いは継続していたとは思うが
今でなら、勘違い無く100%完全に、彼女の意思が伝わってくる!
と、同時にコミュニケーションの難しさも痛感しつつだが

(明日の朝は早い集合だからな・・ もう寝ているだろう・・)

既に課長との会話で主な矛盾点や疑問が解消したことから、彼女に電話をかける口実は
私側には無いのだが・・ 今度は彼女側の誤解を解いてやる必要があるのでは? と
思い始めていた・・ 要は口実さえあれば、堂々と電話できる!という小心者の考えだ・・

(違いに気が付かず技術交流会に行って、ショックを受けるだろうか・・
 というか、間違いに気付いたのに、どうして教えてくれなかったのだろう?って
 彼女が思うのではないだろうか?・・)

心の中で悪魔と天使がささやいてくる・・

『早く電話しろよ! 電話したいんだろ?』

『いや、もう疑問は解決したんだから、これでおしまいだよ・・』

『終わってないよ~、彼女は知らないんだぜ!』

『ダメだよ・・ 自分の意思でこの先に進むのかい?』

『前に進むかなんて、わからないだろ?、ただ教えてあげるだけさ♪』

『良いのかな・・ 危険だな・・ 後戻りできなくなるよ・・』

『ぐじゃぐじゃ言わないの! 電話は今しか出来ないよ! 理由もあるじゃん!』

(そうだな・・ 教えてあげるだけ・・ ただそれだけだもんな・・)

と、手に持っていた携帯電話の、留守録への返信通話ボタンを押す・・
耳元から、コールする音が、聞こえる・・ 1回、2回、3回・・
コールの回数に比例し、胸の鼓動が高くなっていく・・

悪魔が天使に勝った瞬間であった・・

                                  続く・・・
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Copyright ichigowasabi

(第14話)浮気?不倫?・・ / [小説]甘い誘惑

2011-02-28 01:12:09 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
【第1部】
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【第2部】
(第10話)存在・・
(第11話)期待・・
(第12話)不倫温泉・・
(第13話)男のロマン・・
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(何かがおかしい・・) 

大きな違和感を感じた事から、前を歩く課長の背中に声をかけることも出来ず
無言で後をついていくが・・ 頭は混乱している・・

(酔っているのか?・・ 彼女が言った『駅』とは何だ・・ 聞き違いか?
 え~い! 解らん!!)

「あの白い建物がビジネスホテルです・・ 駅から近いでしょ? 客先もその先なので・・」

「そうか・・ 駅まで行かなくても良いんだな・・」

「はい・・ 朝なども歩いて5分もかからないので、良いロケーションです♪」

「メンバー全員がこのホテルなのか?(他のホテルは使っているのか?)」

「そうです! 他のホテルは遠いですし、かなり古くて人気も低くって・・
 ここは築2~3年で綺麗でネット設備も完備されていますから、最適なんです!
 私は3階の部屋ですが、もう1つ確保している5階のシングルルームをご利用ください
 メンバーの野郎どもは、私と同じ3階にツインルームで押し込んでいますが
 女性は1人なのでシングルにし、野郎どもとは別フロアにした事から
 3階と5階に離れてしまった・・ と言う事です・・
 私とフロアが分かれ申し訳ありません・・」

(えっ! か・・ 彼女と同じフロアって? )別の意味で混乱する・・

「いや・・ 君と別フロアでも問題ないが・・」

(逆に問題だろう! 一体・・私は何を言っているんだ・・)

ホテルの玄関をくぐり、ホテルのロビーに入る・・

「予約は会社名でしていますが、フロントでチェックインだけをお願いします・・」

「ああ・・ 解った・・」

フロントで書類にサインし、チェックインを完了させると、
シングルルームのキーカードを受け取った・・ 501号と書かれている・・
(5階の角部屋か・・)
そのまま、2人はエレベータに乗り3階と5階の着床ボタンを課長が押した
ゆっくりとしたスピードでエレベータは上昇を開始する・・

(彼女は何号室なんだ? 気になるが・・ 聞き出す口実が見つからない・・)

「明日の件について、簡単な打ち合わせを行っておきたいと思っています
 後で、部屋に伺いますが・・ 何分後が良いでしょうか?」

エレベーター内で課長が問いかけてきた時、3階に着きドアが開く・・
考える時間も無い・・

「そうだな、早く済ませよう・・ すぐで良いぞ!」

「了解しました、では5分後に伺います。」 

と、返答を聞くと同時にエレベータのドアが閉まり、再び上昇を開始した・・
心臓の鼓動が早くなっている・・ 
というか、恐怖心にも似た何か大きな違和感が私を包み込んでいた・・

・・・

501号室の部屋に入り荷物を置く・・ 清掃が行き届いているのか
清潔に保たれていて、ほのかに良い香りがする・・

(さてと、まずは状況整理だ・・)

思考を巡らす・・
矛盾点は、彼女は確かに『駅に着く』と言った事だ
しかし、顧客からホテルへの途中には駅はなく、徒歩数分だ・・
そして、思考を邪魔している疑問が他にも数点ある・・
まず、彼女は何号室だ?・・ と考えた時、新たな疑問が湧き出した!

(ちょっと待て・・ 彼女は・・ 今、このホテルに居るのか?)

単純な疑問である

もしこのホテルに居ないのなら、電話の『駅』も納得できる
が、しかしだ! そうなると今度は『明日会えますね?』の言葉が矛盾する!
そして、なにかもう1つ話していたような・・ 彼女との電話での会話を
思い出そうとするが・・ 思い出せない・・ 引っかかる・・

(え~い! 考えていても埒が明かない・・ 彼女に電話しよう!)

と、時計を見ると深夜の12時を回っていた・・

(こんな時間に非常識かもしれんが・・ このままでは寝る事も出来ない・・
 しかし、電話に出なかったらどうする? いや・・ そのまま『着いたよ』と
 留守番電話に入れればよいじゃないか・・
 いや・・ ひょっとしたら・・ 隣の部屋にいるのかも・・
 『着いたよ・・ 部屋番号は何号室?』と言おうか・・
 いや・・ それはやはりダメだ! これでは不倫温泉そのものではないか!!
 ん? 不倫なのか? それとも単なる浮気心?・・
 ダメだダメだ! 自分勝手な自己中じゃないか!!
 良く考えると、私の考えと彼女の考えが同じと言う保障はない! 
 というか・・ 『同じ考え』って何だ? というか『保障』って一体・・
 私は彼女に一体何を求めているんだ!)

彼女が私に対し抱いている感情などは、勝手に私が妄想し、決め付けた設定で
あるのだが、それを否定する根性は無く、またそれを確認する勇気も持ち合わせて
いない・・ 第三者的な視点があれば、これが一番大事な事であることが解るのだが
それに気が付かず、その疑問を勝手に封印する・・ 良くある事象だ・・

そして、考えは自分で解決できる内容に向かっていく
大きな勘違いをしてる自分を自覚したのだ・・
浮気はドロドロしたイメージで、行ってはいけない行為と感じているのに
『不倫は文化だ!』 などという言葉で、どこか美化したイメージをもっていたのだ

浮気という言葉には複数の意味がある・・ 使い方でその意味は異なるのだ、
1つの事に集中できず他に興味をもつことなど、恋愛以外の心変わりも浮気と表現する・・
しかし、色恋事で使用する場合は、特定の相手が居ながら他の異性に気が向く事を言う
つまり、読んで字の如く『浮ついた気持ち』が語源であることが解る・・
ポイントとしては、男女の色恋以外でも使用される事があることだ・・

そして不倫は、同じように読んで字の如く『倫理から外れたこと』全般を言うのだが、
最近では結婚制度から逸脱した男女関係を指す事が多い・・
いや!、男女関係以外で『不倫』という言葉を使用することは皆無と考える方が良い・・

気持ちの中で、不倫はOK、しかし、浮気はNGと勘違いしていたのだ!

(論理的に考えると、どちらも同じじゃないか!!
 そして今の私の心境は・・ 間違いなく彼女に気持ちが行っている・・
 そうだ・・ これはNGだと思っていた『浮気』なんだ・・ )

と、新たに自覚した・・ つまり、気が付かない間に『浮気心』が発生し
それを自覚した・・ そして・・ 浮気心を自覚しているのに、この先に進んだ場合が
人の倫理から外れる行為となり、それが『不倫』という事を意識する・・ 

ただ、自覚したからといって、疑問が解決するわけでもなく、
現状が変化するわけでも無かった・・

つまり(やはり彼女に電話すべきだろう・・)の結論は変わらない・・

悩みながら携帯電話を取り出すと、着信があった事を知らすランプが点灯していた
着信履歴が入っている!! 慌てて携帯電話を広げ、履歴を見る・・

(か・・ 彼女からだ! 一体、私は何していたんだ!
 もっと早く気づけよ!! ん? る・・留守番メッセージが録音されている!!)

高鳴る胸を押さえつつ、留守電を聞こうとすると、ドアをノックする音が・・

(まさか? か・・ 彼女か?♪)

(第15話)悪魔と天使・・」に続く・・・
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(第13話)男のロマン・・ / [小説]甘い誘惑

2011-02-01 07:43:39 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
【第1部】
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【第2部】
(第10話)存在・・
(第11話)期待・・
(第12話)不倫温泉・・
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小さな料理屋だが、席の8割ほどが客で埋まっていて繁盛していた
店の主が勧める料理を注文し、まずはビールで乾杯はするが
ビールは舐めるだけで、すぐに旨い地酒にスイッチする・・
やはり出張はこうでなくっちゃ♪

店では、てきぱきと動く陽気で元気な娘さんが、お酒や料理を運んでいた・・
先ほど言っていた娘さんなんだろう・・ なかなか可愛い娘だ・・
また、高校生とは思えないほど、上手く酔っ払いの客をも扱っていた

一度来ただけの店なので、私の事を覚えているはずもないが、
まぁ、オッサンのお約束というか・・ 娘さんを捕まえて会話する・・

「前に来た事があるんだけど・・ 覚えている?」

「えっ? お客さん、前にも来られたんですか? ありがとうございま~す♪」

「うん・・ まぁ2回目だけどね、君に会いたくてさ♪ また来ちゃった・・」

「そんなぁ♪ お世辞を言っても、何も出ませんよ♪」

「ええっ? サービスはないの?」

「ちゅうかぁ♪・・ お客さん、ほんとに2回目なんですか?
 怪しいなぁ♪ 私は覚えてないんだけど・・」

「ああ・・ まだランドセルをしょってたけどね♪」

「なんだぁ♪・・ ずっと前じゃないですかぁ! お客さんたらぁ!
 私に会いたいなんて、嘘ばっかり♪」

「いや・・ 本当に覚えていたんだよ 赤いランドセルに
 キティちゃんの手提げを持ってたよね・・」

「うわぁ!感激!! キティちゃんの手提げバック、私、使ってました♪
 本当だったんだ!!」

「だから、インディアン嘘つかないって♪」

「おとうさ~ん! このお客さん、前に来た事があるんだって!
 私の事を覚えてくれたんだよ 超うれしい♪
 じゃ、お客さん・・ 再会を記念して、私が漬けたお新香でも、いかがですか?」

「おう! お新香か・・ いいなぁ1つもらおうか・・」

「ありがとうございま~す♪ お新香一丁追加ぁ・・」

「ん? サービスじゃないのか?」

「ハイ! サービスは私のスマイルちゅう事で♪」

娘さんと他愛の無い会話をするのだが、笑いながら主は見ているだけだ
これもご主人の人柄が伺える・・ 互いに信頼している仲の良い親娘なんだろう・・ 
気持ちが良い時間が過ぎていく(なんか良い感じだ・・ )

このような公共の場所・・というかお酒の場所では、やってはいけない事がある
それは意外とも思われるが、顧客に関する仕事の話だ
特に顧客の地場などでは、絶対に顧客名も出さないし仕事の話はしないものだ
どこで誰が聞いているか、わからない・・
コンプライアンスとして徹底している事項でもあるのだ
まぁ後輩などに仕事の進め方や相談に乗ることはあるが、
そのような場合でも社章を外し、ビジネスに絡む部分の話はご法度としている
そのため、話し相手の課長も仕事の話は切り出さない・・

「というか、さすがですね・・ 若い女性の扱いがお上手です
 私にそのような話術があれば、もう少し楽しい人生も送れたのでしょうが・・」

「そうなのか? 君は中々弁が立つと思うぞ・・
 さきほどの論理的な解説など、説得力もあるしな・・」

「それは、相手が男性だからです・・ 女性の前に出るとダメですね・・
 まぁ、仕事でのお話なら全く問題は無いのですが・・」

「そうは見えんが・・ 意外だな・・」

「まぁ・・ 堅物では無いって事だけは、お伝えしておきたくって♪」

「それは、先ほどの話でなんとなく分かったから問題はない♪」

「で・・ 到着されたら、ひとつ聞きたい事があったんです・・」

「ほう?それは何だ? 仕事以外だよな?」

「実はですね・・ 浮気でもされているのでは?って疑惑が出ているんですが?」

「それはない! 浮気は・・」

と即答したのだが・・(ん? 浮気?)心拍数が急激に増加する・・
もしこの言葉が『不倫』だったら、即答できただろうか?
この時点では『不倫』という言葉には無意識に反応するようになっていたが
『浮気』という言葉には反応しない自分を自覚していた・・
そもそも、浮気と不倫は異なるのだろうか? 新たな疑問が私の脳内を駆け巡る・・
まさか・・ 不倫はOKで浮気はNGと考えているのだろうか・・

「というか、そんな戯言・・、一体、誰が言っているんだ?」

「言った相手が気になりますか?」

「ああ・・」と言いながらお猪口に入った地酒をグイっとあおる・・

「今回のプロジェクトに紅一点のメンバーが居るのですが・・
 その彼女がね、『怪しいですね~』って言っていましたよ♪
 彼女とはお知り合いだそうで・・ 」

(な!!・・ なんだって!!!)

という言葉を飲み込んだ瞬間に、
まさに飲み干そうとしていた地酒が気管に飛び込みパニックになってしまった・・

「ゴホッゴホッ・・」

「だ・・ 大丈夫ですか?」

「すまん・・ゴホッゴホッ・・ 酒が気管に飛び込んだ・・」

「申し訳ありません・・ 冗談です♪
 まぁ、彼女が言った事は事実なんですが・・
 昔、同じ部署だったそうですね・・ 昨日聞きました・・」

「いや・・ そうだが・・
 同じ仕事をした事は無いのだが、同じ部署だった・・」

(一体・・ この課長は・・ 何を聞いているのだ・・
 うかつな事をしゃべると墓穴を掘りそうだ! 話題を変えよう!)

「ところで・・ さっきの話だが、ここは混浴だったっけ?
 混浴はさすがにまずいだろ?」

「そうですか? 最近は流行っているんですよ♪
 まぁ、残念ではありますが、女性は混浴用のアンダーウェアを付けています・・
 旅館で売っていますから・・」

「なんだ・・ そうなのか、ちょっと興ざめだな♪」

「まぁ、各地でも昔のような自然な混浴はめっきり少なくなりましたね
 今では、逆に女性も安心して入れる混浴を武器として前面に打ち出している
 旅館などが多くなりました・・ 温泉も戦略がないと勝ち残れない時代です」

「まぁ、家族連れには良いだろうが・・ ロマンが無くなったな・・」

「ですね、勝手な男のロマンですがね♪」

「そう言うな・・ でも一度でも経験したら、いい思い出になるぞ・・」

「経験されたのですか?」

「ああ・・ 露天でな、月明かりにボヤ~と浮かび上がる真っ白な姿をな・・」

「それはすごい! 正に男のロマンですね! しっかりとご記憶に?」

「まぁ・・ ぼやけてな・・ 風呂に入るときってメガネは外すだろ?
 だから余計にロマンチックな記憶だ・・ まるで白い妖精だった♪」

「それって、良いですね~ はっきり見えないのが、逆に萌えますね♪」

「だろ?♪」

「じゃ! 男のロマンに乾杯です♪」

と調子に乗って、乾杯する・・

「他に何か無いのか?」

「他にですか?・・ う~ん・・
 そうそう!良くある家族風呂ってのがありますよね・・
 ここの温泉では、部屋に温泉を引いて個室の家族風呂にしている旅館が多いらしく、
 それが先ほどの方々の目的にもなっているそうです・・」

「そういう実態を言われると、健全だったこの温泉地も穿った目で見ちゃうな・・」

「いや・・ 健全ですよ!
 他の温泉地みたいにコンパニオンの艶物宴会などを武器にしている訳ではないし
 風俗もありません、あっても場末のストリップ小屋ぐらいで、温泉地としての風情も
 保持されています・・ 例の素人のマッサージさんも居ないそうです♪」

酒が入っている事もあるのか、課長は饒舌になりあらぬ方向に話が行く
これも男同士の会話としては、特に逸脱したことではない・・

「素人のマッサージさんって・・ 上手い表現だな♪ 頼んだのか?」

「そんな・・ 頼みませんよ♪
 言いたい事は・・ そんな不埒な輩は来ないって事です・・ ねっ健全でしょ?」

「しかし・・ どのように言っても、結果『不倫温泉』なんだろ?」

「それは裏の話・・ 見た目は
 仲の良い夫婦が安心して旅の疲れを落とせ、癒される旅情豊かな街なんです♪」

「貴様・・ ここの温泉大使なのか?♪」

「いえいえ・・ これも、さっき言った旅館の仲居さんの受け売りですって♪」

「怪しいな? その仲居さんと・・ 怪しいぞ?
 というか、女性と話が出来なかったんではないのか? ん?」

「そんなぁ! 私の母親と同い年ぐらいですよ~ 普通に話はできます」

「おいおい! 女性に年齢差別はダメだぞ♪
 しかし、世は熟女ブームと聞く・・ 熟女だったら君の課題も克服できるかもな
 どうだ、その仲居さんを口説いてみたら?」

「えっ!! そんな事を考えた瞬間から、話が出来なくなっちゃいますよ~」

「そういうものなのか?」

「そういうものです、純真無垢な好青年と言う事にしておいてください♪」

「よく言う♪ それが女性の前で言えたらな♪」

「さて・・ お腹もいい感じになりましたし・・ 時間も・・ こんな時間です・・
 そろそろホテルにチェックインしましょうか?」

「都合が悪くなると、話題を変えるんだな♪ いいだろホテルに行くか!」

都合が悪くなって話題を変えたのは、私が先なのだが
そんな事は棚に上げ、郷土料理屋を出た、ほてった身体に夜風が適度に気持ち良い・・
ふと見ると、課長は駅の方向と逆の方向に歩いていく・・

「おい・・ 駅に行くのではないのか?」

「いえ・・ ホテルはすぐそこです・・」

(何ぃ? 電車で異動ではないのか? 彼女が言った『もう駅に着くので』の意味は?)

(第14話)浮気?不倫?・・」に続く・・・
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(第12話)不倫温泉・・ / [小説]甘い誘惑

2011-01-17 20:16:08 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
【第1部】
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【第2部】
(第10話)存在・・
(第11話)期待・・

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小さな温泉がある田舎の駅なのだが、降りる人達の数は意外と多い
そんな人達の中で、仲が良い夫婦連れが何故か目立っていた・・

(夫婦水入らずの温泉旅か・・ それも良い物だな・・)

などと考えながら、留守電でもよいので、一言『着いたよ♪』と彼女に電話を
しておこうと携帯電話を取り出したとき、手を振る見慣れた男と視線が合った・・

「遠路はるばる、お疲れ様です!」

「おう、ご苦労様・・ わざわざ出迎えてくれなくても良いのに・・
 忙しいのでは無いのか?」

と、言いながら携帯電話を上着の内ポケットに押し込む・・

(さて・・ 仕事モードに切り替えないと・・)

「いや、そんな事はありません、今週分の作業は終了していますから♪」

「そうか・・ ありがとう♪ しかし、ここは久しぶりだ! 変らんな・・」

「そりゃ都会とは違います・・ ここでは時間もゆったりと進んでいます・・」

「そうだな・・
 というか、この温泉街って・・ 意外と人気スポットなんだな・・
 あのような夫婦連れを沢山見かける・・
 週末利用の温泉旅行だろう・・ 流行っているのか?」

「いや・・ 夫婦じゃないです・・ あれは・・ あちらも違います・・」

「ん? 違うって? 夫婦じゃないのか? 仲もよさげだぞ?」

「よくご覧になってください・・
 男性も女性も、それぞれ大きなバッグを持っていませんか?」

「そりゃ旅行だったら着替えなども要るだろう・・ バッグも必要では?」

「まぁそうですが・・
 ではちょっとイメージください・・ 奥さんと2人で旅行・・」

「すまん・・ バッグだよな・・ イメージができん・・
 最近は、家族全員で車で移動だからな、適当に分けてトランクにポイだ・・」

「そうですね・・ では、車じゃなく電車であれば、荷物はどうされます?
 荷物は極力小さくしようと考えませんか?」

「そうだな・・ 着替えも少なく最小限の荷物にするだろうな・・」

「そうなんです♪・・
 そして、良くある旅行用のかばんって大き目ではないですか?
 荷物を少なくしたのに、バッグは大きくて・・
 だったら、着替えなどは一緒にしてと考え、2人分の荷物を
 1つにまとめてしまいませんか?」

「まぁ、そうなる事もあるだろうな・・」

「意外とそうなるようですよ、
 奥様方は自分の小さなバッグは持ちますが、着替えなどは大きなバッグに入れ
 旦那さんに持ってもらう・・ 夫婦だったらそういうものなんだそうです・・」

「そうか・・ 1人づつ別の大きなバッグって事は・・
 同じ家から来たのではない!・・ って事になるのか!」

「そうなんです・・ 十中八九、あれは不倫旅行ですね♪
 よくご覧になってください 男も女も別々に大きなバッグを持っています・・
 そして・・ 夫婦って、あんなにベタベタするものでしょうか?
 年も見たら離れているようにも・・ ちょいと不自然に見えませんか?
 というか、本人たちは気付かれてはいないと思っているのでしょうが
 客観的に見ると、意外にバレバレなんだと言う事です♪」

「鋭いな・・ そうか・・ ふ・・ 不倫なんだ・・」

「そうなんです、間違いなく不倫です!
 まぁ不倫なんて私が見たら一目瞭然ですね♪
 普通に考えても、夫婦で旅行するなら土曜日出発なんですよ♪
 それが、金曜の夜からって・・ ちょっと考えただけでも不自然なんですよ」

2課の課長の口から思わず出てきた、不倫という単語にドキっとし、心が騒いだ・・

(不倫というのは、他人から見たらバレバレな物なのか?
 というか、この課長・・ 要注意だ!
 それとなく彼女の事を聞きたかったが・・ それは危険かもしれない・・
 いや・・ ちょっと待て・・ 私は?・・ 私は不倫なのか?)

「不倫はそんなに解り易いのか?」

「そうですね、まぁ都会の中であれば、木を隠すには森に・・って感じで
 解りにくいですね、特に人が多い事で、常に見られる危険性から
 不倫している人は警戒し演技している事も多くなりますので・・
 でも、このような場所では開放感や知人も居ないって事が作用し
 モロに行動に出てしまいます」

「そうか、油断大敵ってことだな?」

(さっきまでの私と同じかもしれん! 浮かれていた事は事実だ・・
 人の振り見て我が振り直せ!か・・ 昔の人はいい事を言う・・)

「人の多さや、活動エリア内などは関係なく、リスクを伴う行動である限り
 どこに居ても注意が必要であるはずなのに・・
 開放感からか、リスクヘッジが甘くなるのは人間の性なんだと思います」

「言うなぁ・・ 君は評論家だな♪
 先ほどもバッグで判断したし・・ 理由も論理的で妙に説得力がある」

「いえいえ・・ バッグの話は、この街に最初に来たときに宿泊した
 旅館の仲居さんから聞いた話なんです、評論家なんて事はないですよ♪」

「しかし・・ そう言われて見ると・・ あの二人もそれっぽいな・・」

「ビンゴです♪、男性はネクタイにビジネススーツ・・
 夫婦の旅行ならありえない格好です、それと女性の髪形・・ 盛っていますよね
 完全にお水と思われます」

課長の口調が徐々に柔らかくなってきている・・

(こいつ意外と楽しい奴かもしれんな・・)

「そう言われるとほんとに多い・・」

「ですからホテルや旅館も、金曜の夜はどこも満員なんです
 この温泉街は別名『不倫温泉』って呼ばれているそうで
 都市部からも鉄道1本なので、週末の旅行には最適なんでしょうね・・」

「ほう・・不倫温泉なのか?・・、週末はそんなに混んでるのか?
 って・・ おい! 私の宿はあるんだろうな?」

「大丈夫です、ご安心ください、まぁ急だったんですが
 私やメンバーが宿泊しているビジネスホテルで、なんとか確保できました・・
 本来であれば、露天風呂や混浴がある旅館でも取れれば良かったんですが
 申し訳ありません・・ まぁ公共温泉に浸かることは出来ますが・・」
 
(何っ! 彼女と同じホテルなのか!!)

突然、彼女の姿や濡れた唇、そして手のぬくもりなどのイメージが浮かび上がる
課長の話を聞きながらも、脳裏では彼女との不倫温泉での妄想が暴走し
素敵な週末になる期待感で胸がどんどん膨らんでいった・・

(しかし、この切れ者課長と一緒だと、うかつな態度は危険だ
 話が合うとついつい余計な事まで口を滑らせてしまう・・
 この場に彼女が居なくて良かった・・ が・・ こ・・混浴ぅ?・・
 彼女と混浴かぁ♪・・ いや・・ やっぱりそれは・・ いかんいかん・・)

あらぬ妄想で胸が膨らむばかりでなく股間も・・ 悲しい男の性だ

「いや、うん、私はビジネスで十分だ・・」

(まぁ、何であろうと
 彼女と不倫温泉で、同じ宿って・・ こりゃ最高じゃないか♪)

「ほんと、ビジネスで申し訳ありません・・
 では・・ 立ち話も何ですから・・ ホテルはちょっと離れていますので、
 荷物を預けるより先に、ちょいと一杯引っ掛けますか?
 お腹もお空きでしょうから、この近所で食べていきましょう!」

(そういえば・・ 彼女は電話で『駅に着いた』と言っていたな・・
 ビジネスホテルへは電車で異動なのか?
 まぁ・・ この辺は旅館や観光ホテルが主だから仕方がないか・・
 電車の本数も少ないだろうし・・ タクシー利用も往復では無駄だな・・)

「解った、ビジネスホテルだと期待した郷土料理にもありつけんしな
 チェックインして、またここまで戻るのも大変だし・・
 なにか美味しい店が近くにあるのか?」

「任せてください! お客さんに教えてもらった店があります!
 地酒もあって、安くて美味しくて、週末は娘さんが店を手伝うので
 大人気ですよ・・ ひょっとしたら部長さん達も来ているかもしれませんね・・」

「そうか! 地酒が旨い店か?・・ ん? ひょっとしたら駅裏の・・」

(明日、彼女と行こうと思っていた店なんだが・・ まさか・・)

「そうです! 駅裏です! 既にご存知でしたか? 良く行くんですよ!」

(危なかった・・ ばったり出会ったりすると言い訳も出来ない・・
 彼女と行く別の店を探さないといけないな・・)

頭で考えている事とは全く別の話が出来る・・ 人間とは不思議な動物だ・・

「5年前に行った事があると思う・・ 娘さんって・・ 小学生だった娘か?」

「今、高校2年生って言ってましたから・・ 多分間違いないですね♪」

「そりゃ楽しみだ♪」

何とか不倫の話から他の事に話題をそらせ、地酒の旨い郷土料理屋に向かった・・

(さて・・ 彼女への電話は様子を見つつだな・・
 メールアドレスを知っていたら・・ ごまかしながらでも連絡できるのに・・)

などと考えている事は秘密だが・・

(第13話)男のロマン・・」に続く・・・
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<目次> 【第1部】(第1話) から (第9話)までのリンク / [小説]甘い誘惑

2011-01-17 20:03:49 | [小説]甘い誘惑
[小説]甘い誘惑 「最新話は、こちらをクリックください♪

【第1部】
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
(第7話)電車・・
(第8話)携帯電話・・
(第9話)神様のバカ!・・

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(第11話)期待・・ / [小説]甘い誘惑

2010-12-19 22:48:51 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
【第1部】
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
(第7話)電車・・
(第8話)携帯電話・・
(第9話)神様のバカ!・・

【第2部】
(第10話)存在・・

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【2度目のご挨拶】
前回の10話「存在・・」を1年ぶりに書いたのに、その後少々色々ありまして(汗;)
また執筆が止まっていました・・(また1年開いちゃいました・・ 全力で反省中・・)

ということで、ぼちぼち再開しますね(^^)ゞ 
(書き出す動機に何かあったのか? は、秘密で~す♪)
[小説]ガンダム外伝ともども、よろしくお願いいたします(^O^)/
                                 ichigowasabi
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技術交流会の欠席者に対し、再度明確な欠席理由を上長(課長)に
確認させる指示を出し、数日が経過したが、彼女の部署からの返答は
まだ届いていなかった・・

(仕事が大変なんだろう・・
 久しぶりに会いたい気持ちもあるが、業務優先は仕方が無いか・・)

と大人の考えもあるのだが、どこかに子供のように残念に思う気持ちを
消し去る事は出来ていなかった・・

そんなある日・・
技術交流会が週末に予定されている週の水曜日の朝の事だった
私は営業部長に呼ばれ、部長室を訪れていた・・

「部長・・ 朝からなんですか? 急ですね・・」

「おお!待っていたよ・・ 確か君は5年ほど前に大きなプロジェクトを
 担当したよな・・」

「ハイ・・
 まぁ顧客は片田舎の温泉町の会社でしたが、最近のインターネットの普及で
 都市部に居なくても大きな商売ができるようになり・・ あの案件の成功で
 業績も大きく伸ばされていると聞いています・・
 地方にも優良企業があるって事例の代表格ですね!」

「そうなんだ! その顧客なんだけど、次期プロジェクトの草案が立ち上がっている
 その企画段階から我が社に引き合いがあってな・・ つまり君の業績が評価されて
 の引き合いだ・・」

「ほう! それは嬉しいお話ですね♪」

「でな、先月から2課に担当をまかせ、対応させているのだが・・
 顧客要件が複雑でな、ステークホルダーも多いらしい・・
 今、2課の課長自らも参画させているのだが・・ 多忙でな・・
 メンバーもホテル住まいで対応中だ、技術交流会も欠席になる・・」

(2課? 彼女の課だ・・ 課長が出張っているって・・
 だから交流会欠席の状況報告も遅延しているのか・・)

「そうなんですか・・ 2課は技術交流会の欠席者が多く、また再確認の返答も無く」

「そりゃそうだろ・・ 君には悪いが優先順はプロジェクトだからな・・
 今、このメンバーが行っている・・ 課長も貼りつきだ・・」

と名簿を手渡された・・

(2課の課長は彼か?・・ まぁ若いがやり手なので問題はないか・・)

などと考えながら目を落としていくと・・
見慣れた文字列を名簿に見つけた・・ 彼女の名前だ!・・
鼓動が早くなる・・

(そうか・・ だから技術交流会も欠席なのか・・ )

「でな・・ 君を呼んだのは他でもない・・
 技術交流会のスタッフ部門の君にお願いするのは辛いのだが・・
 今週末に、この顧客を訪問してくれないか?
 5年前のプロジェクトマネージャだった部長がな、今は副社長になっていて
 今回のプロジェクトの統括責任者でもあるんだ・・
 先ほど2課の課長から副社長のスケジュールを入手した・・
 技術交流会とダブルブッキングになってしまったが・・ どうだろ?
 申し訳ないが、行ってくれないか?」

「は? い・・今、何と・・」

高ぶる声を抑え、たったそれだけしか言えない自分がそこに居た・・
(なんて事だ! これも神様のいたずらなのか♪
 だったら、そのいたずらに乗ってやろう!! 神様め!覚悟しろ!!)

「ん? やっぱり都合が悪いか・・ 君の部署が技術交流会の担当部署だからな・・
 でも・・ 私の立場も解るだろ? 出来ないだろうか?」

「いや・・ そんな事はありません! 技術交流会の担当は部署全体で担当します
 私1人が居なくても、他のメンバーが居ますので大丈夫です。
 でも、このプロジェクトのお話は、私しかできません!優先順は明確ですよ!」

「おお!そうか!行ってくれるか!! では、金曜の夕刻にこちらを発ってくれ!
 2課の課長が駅まで迎えに来る・・ ホテルで休んで、土曜日の午前から
 副社長との会談だ・・ 頼んだぞ!!」

「了解です・・ 昔話に花が咲きそうですが、話題は新しいプロジェクトの話ですね
 現時点の問題点などもまとめ、腹を割って話し合ってきます!」

「だな! そうそう! 日曜は用事がなければ現地でゆっくりしてくれ、
 技術交流会が開催される立派な温泉街ではないが、
 あそこも小さいながら老舗の温泉街だ・・」

「そうですね、お言葉に甘え、世相の垢でも落としてきましょうか♪」

「じゃ・・ 詳細は2課と詰めてくれ!」

「ハイ! 解りました・・」

部長室を後にする・・ なんだか気分が最高だ!
ひょんな事から出張だ・・ それも温泉に泊りがけ・・
いや・・そんな事より、その出張先に彼女が居る♪ これが最大限に重要事項だ!

期待と妄想で、私の思考回路はパンク寸前になっていった・・

・・・

金曜日の夕刻・・ 私は車中の人となっていた・・
技術交流会の前日から1泊・・(いや2泊)の出張だ!

(彼女に会える! でも、会って何を言おうか?)

と、悩んでしまうが、そんな悩みを考える事も楽しい時間になっていた♪
気分が軽くなると、身体も軽く感じる♪(いい感じだ♪)

そんな時、携帯電話のバイブが振動する・・ (ん?電話?・・ 誰だ?)
表示された電話番号にすばやく全身が反応する!

(か・・ 彼女からだ!)

慌てて席を立ち、車両の連結部に異動しながら電話に出た・・

「も・・ もしもし・・」

「・・・ あっ私です! 覚えておられますか? 今、電話・・大丈夫ですか?」

「もちろん、覚えてるに決まっているだろ♪・・」

「・・・ 良かったぁ♪ なかなか電話が掛けにくくって・・ご無沙汰しています
     で、久々に明日会えますね! すっごく楽しみにしています♪」

(おお!・・もう、私が行く事を聞いたのか♪)

「そうだね・・ 私も君に会えるのを楽しみにしてる・・
 そうだ! 夜に一杯引っ掛けようか? 君が良ければだが・・」

(ドキドキ・・ 一体・・ 私は何を口走っているんだ!!
 変な風に思われたら・・ ダメじゃないか!! )

思わず自分の口から出てしまった下心がある言葉に躊躇する!

(一体、彼女はなんて答えるんだろう・・)

そんな私の心の葛藤などとは関係なく、彼女が即答する・・ 

「・・・ ええっ・・良いんですか? じゃあ、宴会が終わったら抜け出しますか?♪」

(おお! やはり彼女は思った通りの良い娘だ・・ 良かった♪
 で・・ なにぃ? 宴会を予定しているのか? そんな事をしなくても良いのに、
 あの課長は律儀だから、まぁ良いか・・)

「そうだな・・ 抜け出すか?」

(ドキドキ・・)

「・・・ ですね♪ 良いお店があったら良いですね♪」

「うん、あの温泉街は前に行った事がある・・ 店はあるぞ♪」

「・・・ じゃあ、お願いしますね・・ 美味しい奴、楽しみにしています♪」

「任せろ! で・・ そっちの状況はどうなんだ?」

「・・・ まぁ・・ 進展しそうでしないと言うか・・ 課長任せですね」

「そうだな・・ あいつはできるからな・・」

「・・・ あっ・・ すみません、もう駅に着くので・・ では、明日♪」

「おう!明日な♪ おやすみ・・」

「・・・ おやすみなさい・・ じゃ切りますね♪」

もっと話したい・・と、逸る気持ちを抑え、電話を切る・・
本当に久々の彼女の声を聞いた・・ 元気そうでよかった!

(というか、今日の出迎えは課長だけか・・ まぁそれは仕方が無いな・・)

少し期待していただけに残念でもあるが、今は耳に残っている
心地よい彼女の声の残響を楽しんでいた・・
明日には声だけでなく、彼女の顔も見ることができるんだ!
連結部のデッキから座席に戻る間に、にやけている顔に気づき
年甲斐もなく、はしゃぐ心を自覚する
少々赤面している自分にも苦笑し、思わず周りを見渡す自分がそこに居た・・

そうこうしている間に、列車が目的地の駅に近づき減速する、
彼女が居る町の明かりが、私を迎えてくれている!
清楚で平凡な田舎町なのだが、大きな期待感から
私の目には別世界のように素晴らしい町並みに、輝いて見えていた・・

(第12話)不倫温泉・・」に続く・・・
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(第10話)存在・・ / [小説]甘い誘惑

2009-11-30 23:02:19 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
(第7話)電車・・
(第8話)携帯電話・・
(第9話)神様のバカ!・・

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【ご挨拶】 (;^_^A

 ども、今年の6月から1年ほど放置していましたブログを再開し、
[小説]ガンダム外伝は再開したものの、こちらの方がまだ放置状態で・・(^^)ゞ

 [小説]ガンダム外伝の1話は9000文字以上ありますが、こちらは4000文字程度で
量的には、かなり少ないのですが・・
 実は、書くのには「倍」の時間がかかっちゃいます(笑)
(赤く塗って、ツノをつければ3倍に(゜_。)\(--;バキ)

 でも、完全復帰とするには、こちらも連載を開始しないと駄目!って
考えていまして・・ あれこれと妄想するうちに、数ヶ月が経過しちゃいました

  本当に申し訳ありません  (;^_^A

ということで、 [小説]甘い誘惑・・ 再開しま~す(^O^)/  ではでは♪
(忘れていると思いますので、また、過去分を読んでくださいね(汗;))

                          by いちごわさび
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(第10話)存在・・ / [小説]甘い誘惑


着信があったその日は、かかってくる電話が全てが期待はずれの相手に感じ
少々イライラするような対応になっていた・・

「どうしたんですか? 今日は言い方きついですよぉ~」

と、事務の女子社員が話しかけてくる・・

「えっ・・ そうか? 普通にしているつもりだけど・・」

「そんなことないですよね? 先輩?」

「そうね・・ この子が言うように、今日は口調がきつく感じます・・」

「あ~ぁ! 何かあったんだぁ! 喧嘩したとかぁ♪」

「いや・・ そんな事は、何も無いって!」

「そうね・・ 不倫相手に振られたぐらいかしら・・」

「な・・ 何を言い出すんだ!!」

「あら? 反応が早いですね♪」

「ええっ! 不倫ですかぁ!! すっご~いっ♪」

「こら! 声が大きいって! というか不倫ってどこから出てきたんだ!!」

「特に他意はありません・・、ただ、だったら面白いわ?って・・」

「でも・・ あるかもしれませんよ~♪
 だって、今日は朝から携帯を気にされていて・・
 取るのもはやいですよ~♪」

「そうね・・ 確かに早いですわね♪」

「って・・ それ、何の話だ? いつも一緒だろ?」

「実は、男の浮気を見つける方法!ってあるんですよ・・
 結構有名で、女の子はみんな知っています。」

「へぇ・・ そんなのがあるのか?・・ 例えば?」

「ああぁ! 食いついてくるんですか? やっぱりあやしいですよ~」

「ばか! 一般的な知識として、巷ではどのような常識があるのか
 知っておくことも大事な事だと思っただけだ!・・  で?・・」

「もう・・ バカって言ったぁ~」

先輩と呼ばれた女子社員が笑いながら説明をはじめた

「ご興味があれば、サイトなどで検索されれば出てきますけど・・
 幾つかあるのです・・ でも一番多いのが・・
 行動がいつもと異なる、というのがあります
 これは、新しい事を始めると、いつもの作業に影響しちゃいますから
 同じように行動しようと意識しないと隠せません・・
 コミュニケーションの道具である携帯電話などの扱いが大きく変ることが
 ポイントみたいですよ・・ 今みたいに・・♪」

「そうなんだ・・ 携帯電話ってポイントなのか・・」

「そうですよ! 現代社会の重要なアイテムだけに
 敏感に反応が出ちゃうようです。
 そして、次ですが・・
 返事の仕方が変わるとかがあります・・♪
 まぁ、最初の行動の変化と同様かもしれませんが・・
 聞いてないのに、色々とで説明する・・とかが要注意です
 心にやましい事があると、それを隠そうとする心理が働いて、
 正当性を主張したいのか、いつもは言わない事まで言っちゃうとかぁ・・」

と、話ながら、小首を左に傾け上目遣いで私を見ている・・ なんだ?
こ・・ これは、明らかに疑いのまなざしでは?・・ やばい・・
こういうタイプの女の子は、妙に感が良い・・ 細心の注意が必要だ!

「そっかぁ・・ なんか今日の私みたい・・ということか?
 まぁ・・ そんな風に見える事もあるだろうが・・
 今の話は、私には不要な情報だ・・ 縁がないからな!」

「なんだぁ・・ 違うんですか?
 もしそうだったら・・ 大スクープだったのにぃ ねっ、先輩っ♪」

「バカ! そんな事ないし・・ 逆にあったら嬉しいぞ!
 というか、相手になってくれるのか? 私は口は堅いぞ ♪」

「やだぁ! 想像できませんよぉ! セクハラだしぃ♪」

「だろ? と言う事でこの話はこれで終わり!・・
 はいはい! お仕事お仕事ぉ!」

(ふぅ・・ なんとかその場を切り抜けたか・・
 どうやら怪しい行動になっていたようだな・・ 反省しないと・・

 しかしだ・・ 電話を待っているだけで・・ 不倫なんだろうか?
 いや、不倫の定義は明確だ、姦通罪と同じ基準で考えれば良い。
 そう考えれば、偶然ではあるが、手を繋いだ事は不倫には相等しない。
 不倫にはならない相手からの電話を待つ・・ 問題は無いはずだ・・

 ただ・・ 法的な定義と、個人個人の考え方は千差万別であり
 捕らえ方の基準は無限にある・・ それがやっかいだ・・
 ある人が見たら、不倫だと答える人も居るだろう・・
 誰の基準であろうが「不倫」とのレッテルを貼られた場合・・
 社会人としての、いや会社内でのコンプライアンス的にも問題に発展する・・)

女の子との些細な会話がきっかけとなり、私は「不倫」に近づく第一歩を
踏み出している事にはじめて気がついたのだった・・

何か期待している自分が居て、その期待している事に罪悪感を感じつつ
その罪悪感から行動に変化が出ているのであるならば・・

もう忘れる事が、得策なのではないか?と、考える自分がそこに居た・・

・・・

人間という生き物は、非常に良くできている。
忘れるという機能が存在している事だ。忘れる機能が無ければ
人間はストレスに押しつぶされ、死んでしまうという学説があるぐらいだ。

一旦忘れよう・・というベクトルに思考が傾いた事から、
自分から、電話をかける口実を考える事がなくなり、気分は楽になっていた
ただ、ちょっと残念な気持ちもあることは事実であり、
たまに、電話がかかってきたら・・などの妄想をする事もあったことは
事実ではあるが・・ 時間というものがその頻度を低くし、また、多忙な
毎日から、楽しかった記憶だけが残って、妄想する事も少なくなっていた・・

季節は変わって秋になっていた・・ 時間の経つのは早いものである。

秋といえば、わが社には大きな行事がある。技術交流会・・
1年の締めくくりとして、この1年の間に功績のあったプロジェクトの
発表と表彰などが行われるのだが、年に1度のイベントだけに、
毎年、温泉などのホテルを借り切って、1泊2日で実施されるのが通例であった。

今年も、その時期がやってきた・・

私の部署では、表彰するプロジェクトを決定する権限を持っていた事から
技術交流会に関する全ての情報が集まってくるようになっていた・・
既に、優秀プロジェクトなどの表彰すべきプロジェクトの選考は終了し、
あとは、交流会のスケジュールなどの雑務に追われていた・・

ふと・・ある1枚の資料が、なにげに目に留まった・・ 何だ?

それは、あの彼女の名前・・ 忘れていたはずの彼女の名前・・
そう!偶然なのか、それとも神のいたずらなのか・・
何気に名前の文字列が目に飛び込んできたのだった。

「おい・・ その表は?なんだ?・・」

「あっ・・ これですか? 今回の欠席者リストです・・
 今年は長期出張者なども多くって、業務都合での欠席者です・・」

「ふ~ん・・ ちょっと見せて・・」

と、女子社員から手渡されたシートを、再度確認した・・
間違いない・・ 彼女の名前だ・・ 名前の横には業務都合との理由があった・・

「なんだ・・ これは? 理由が理由になってないじゃないか!
 技術交流会は会社行事だぞ! 動員率はマネジメントデプスだ!
 業務都合じゃ解らん! 詳細な理由を提示させろ!」

(あれ? 私は一体何を言っているんだ?)

と、シートを女子社員に突き返しながら、知らない間に指示を出していた。

「えぇ~・・ 毎年、理由はこれだけですよ?・・ 」

「だからぁ・・ それじゃ駄目なんだ! よく考えたら、この時点で甘いから
 参加しない奴が出て、だんだんと参加しなくても良いように思うようになって
 そういう我がままが増えてくると、それが組織を腐らせるんだよ・・
 毎年、同じだから・・ は、もうやめて
 今、気がついたんだったら、それを改善すべきだろ?」

(と、良いことを言ったように繕ってはいたものの・・
 大きな罪悪感が私を襲っていた・・
 私は・・ 私は一体・・ 単に彼女の現在の動向を知りたいだけなのでは?)

時間の経過ともに、すっかり忘れていたはずの彼女なのに・・
突然、巨大化して襲い掛かってきたのだ・・

忘れていたのでは無かった!
私の深層心理の隅っこで、時間という栄養素を一杯に吸い込み、
ドンドン成長していた彼女という存在を、再認識している自分を発見していた・・

(第11話)期待・・」に続く・・・
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(第9話)神様のバカ!・・ / [小説]甘い誘惑

2008-06-17 12:49:45 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
(第7話)電車・・
(第8話)携帯電話・・
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私の手帳に彼女の電話番号をメモしてから、既に数日が過ぎていた・・

通常なら、人の電話番号などを手帳にメモしても、後で「この番号・・誰のだ?」と
解らなくなるのが常であり、今回も日にちが経つ毎に気持ちも薄れ、忘れていくものだと
考えていた節があったのだが・・ しかし・・  しかしだ・・
日に日に気になり、どうしても押さえが効かなくなっている自分を自覚していた・・

通常は手帳を開くのは、今週と来週程度だ・・ 過去のページを開く事は滅多にない・・
そう・・ 滅多に無い事なのに・・ 私は毎日のように彼女の電話番号が書かれたページを
開いてメモされている番号を目で追っていた・・

(やばいぞ・・ この状態は・・)自分で自覚はしていた・・ 

そして、この状況を脱出する方法が、2つしかないことも理解していた・・
1つは・・ 電話番号の事は忘れてしまう事・・ そして、もう1つは・・
彼女に電話をかける事・・ 単純な事である。

そんな、単純な二択なのに、どちらも選べない、なさけない自分がここに居るのだ・・
今日も一日が終ろうとしている・・ 私に対する課題は、今日も解決する事も無く、
ただ無駄に日数だけが過ぎていった・・

良く考えると「忘れる事が出来ない事が本当の問題」であるのに
「電話をかける理由が無い事」が、自分の中で一番大きな課題に膨らんでいたのだ・・
そんな単純な事にも気が付かない自分がいた・・

(上手く行ったのだろうか・・ その事を聞こうか?・・
 しかし・・ 聞いてどうなるんだ? 何か私にできるのか?・・
 いや・・ 私がするべき作業なのか? ・・
 というか、突然電話をかけて、彼女の邪魔にならないか?
 逆に気を使わせてはいけないだろう・・ というか、鬱陶しいと思われないだろうか?
 いや・・ そんな事はないぞ・・ きっと彼女は私からの電話を待っている!・・
 本当か? 本当に待っているのか? そんなに待っているなら、電話をしてくるはずだ・・
 彼女は言ったじゃないか! また報告しますと・・ それを待つのが筋だ・・
 でも・・ 一体、何時になったら・・ そうか! ひょっとしたら、忙しくて報告を
 忘れているのでは・・ いや・・ 忘れているのではなく、連絡する暇もないとか・・)

私の頭の中で、意味の無い自分勝手な妄想が渦巻いている・・
ただ、自分の仕事も忙しかった事から、妄想する時間が短かった事が救いではあったが、
ちょっとした隙間に「電話をかける妥当性のある理由」を考えている自分がそこにいた・・

・・・

そんな毎日が、数週間過ぎていた・・
そんなある日、私は社内のある会議に参加していたのだが、外からの帰りであったため、
携帯電話のバッテリーが危うくなり、帰社と同時に携帯電話の充電を開始していた。
つまり、電話は自分の机上においたまま、会議に参加していたのだが・・

神様は本当に罪作りである・・

会議が終わり自分の机に帰って来た時、事務の女の子が

「あっ・・ 携帯が鳴っていましたが、電話を開いたら登録されていない番号からの着信
 でしたので、そのままにしておきました・・」

「ああ・・ そう・・ ありがとう・・」

自分の携帯ではあるが、緊急の電話も入る事から、電話が鳴ってかけて来た人が
判明する場合は、電話に出て伝言を聞いておくように指示しているのだ・・

いつもの事である・・  (誰からだ?) 私は充電中の電話を取り、開いて見た・・

開いた瞬間に目に飛び込んだ数字の並びを見たとき、私の鼓動が数倍に大きくなった
事務の女の子に聞こえるのではないか?と思えるほどに・・

見間違えるはずも無い!
毎日目で追っていた番号が、携帯電話の液晶に表示されていた・・
あわてて廊下に飛び出て着信履歴の電話番号に電話をかける・・(今かけないと・・)

「・・・ ツー ツー ツー ガチャ・・」

「あっ! もしもし!・・ 私だけど・・ 電話をくれたみたいで・・・・」

「・・・ ただ今、お繋ぎすることはできません、発信音のあとにメッセージを・・」

(しまった・・ 遅かったか・・ )

私は電話を切って、しばし電話の画面を見つめていた・・

(落ち着け・・ 落ち着いて考えろ・・ 留守番電話に伝言を残すか?
 いや・・ すでに、私の着信履歴が残っているだろう・・ 何度もかけるのは
 おかしいだろう・・ うかつだったか・・ 電話を切るのではなかったか・・)

一体、何をしているのだろう、情けない・・ 中学や高校生でもあるまいし・・
ただ、心地よい高揚感が全身を駆け巡ってはいた。

・・・

その後、仕事が終るまでの間、電話が鳴ることは無かった・・
正しく言えば、電話は鳴ったが、彼女からでは無かったという事だが・・
電話が鳴るたびに、あわてて電話を取ってしまう・・
そんな私の行動に対し、事務の子が不審に思ったのか・・

「どうしたのですか? 緊急の用事でもあるのですか?
 いつもは鳴ってっても、出ないことも多いのに・・ なんか変ですよぉ♪」

「あ~っ! ひょっとしたらぁ・・ い・い・ひ・と? ですかぁ?♪」

「え~っ♪♪ そうなの?」

「おいおい・・勝手な推測をするんじゃないの! おしゃべりは後にして 仕事仕事!」

とは言ったものの・・ 女の子はやっぱり敏感だ・・ (行動は注意しなくっちゃ・・)
少し冷静になった自分がいた・・ 女の子達に感謝だ!

しかし・・ 実は仕事も手に付いてはいなかったのだ・・
何度も社内のネットワークでの電子メールで、「電話の内容はなに?」と打っては
メール発信する直前で消している自分がいた・・
(電話もメールも同じだ・・ ここは男らしく彼女からの連絡を待つべきだ・・)
と・・考える自分がいた・・


帰宅途中も電話が気になる、いつもなら上着の内ポケットに入れているのだが、
マナーモードにしているのが常である事から、かかって来ても気付かない時がある
そのため、帰宅の最中は電話を手に持っていた・・

ふと、電車の中を観察すると、意外と手に持ったままの人が多いことに気が付いた・・
(そうか・・ みんな電話やメールを待っているのかな?・・)
つい、最近までは、携帯電話の依存症じゃないか! と思っていた自分がいて、
絶対に、そのような事態にはならない自負もあったのに・・ 今は、こちら側の世界に
自分が居る・・ ちょっと情けなくも感じ、つい、ほほが緩んでいた・・
(ほんと・・ バカだよなぁ・・)
そんな事を考えつつ、家の前まで帰って来てしまった・・
玄関の前で携帯を開く・・ やはり着信は無い・・ 

そのまま、電話の電源を切って、玄関の扉を開けた・・

・・・

次の日の朝、いつものように家を出た・・ 電車を待つ間に携帯を開く・・
・・・・ 着信あり・・・ やはり・・ 彼女からだ・・・

「神様のバカ!」私は小声でつぶやき、空を見上げた・・
空は、今にも泣き出しそうな曇り空だった・・・

(第10話)存在・・」に続く・・・
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(第8話)携帯電話・・ / [小説]甘い誘惑

2008-04-09 19:46:41 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
(第7話)電車・・
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携帯電話を手に持って廊下に出た私は、周りに誰も居ないかの確認を行っていた・・
本来であれば、部屋を出る必要性は無いじゃないのか?という疑問もあるのだが、
そのときの私は、慌てて廊下に飛び出していたのだ。
(やましい事があるわけではない。)と自分自身に言い聞かせるものの・・
心のどこかに、就業倫理としての罪悪感があったのかもしれない・・

そんな小さな心の動きを証明するように・・
私の心臓の鼓動は若干ではあるが、いつもより早くなっていた・・

「あっ・・ はい! 今、大丈夫ですよ・・」

「・・・ もしもし、お仕事中にすみません・・
     あっ・・ この番号・・調べちゃいました(てへっ)・・
     勝手に調べて、申し訳ありません!」

「あっ・・ いや・・ 良いんだよ・・ 営業の子達はみんな知っているし、
 緊急連絡網なんかにも書いているからね・・ オープンの番号さ・・」

「・・・ 携帯にお電話を差し上げたのは・・
     オフィスにかけると、誰が電話に出るか解らないし・・
     また、その場に誰がいるかも、解りませんから・・
     直接、ご本人に繋がる携帯が良いかな?って・・」

「あ・・ そうなんだ・・ で、周りがうるさいけど・・ 今どこなの?」

「・・・ すみません、うるさいですか? 移動中なんですよぉ・・ 
     で・・ この前のお話から内部監査が実施され、その結果から、
     私が 対策立案担当 になった事をお伝えしておくべきだ・・
     と思いまして・・ お仕事中、申し訳ありませんが、
     まずは一報と・・」

「それは、良かった・・ じゃ!やりたいような対策立案提示が可能なんだね?
 うん・・ 良かった!良いプロジェクトになるよう頑張れよ! 期待しているから・・」

「・・・ ハイ♪ ありがとうございます。 また結果が出ましたら、
     ご迷惑でなかったら、連絡いたします・・」

「いやいや・・ 迷惑だなんて・・
 掛けたい時に、いつでも掛けて来ていいよ 24時間365日で待ってるぞ(笑)・・
 私も、可愛い声が聞けると嬉しいから・・ ♪ 」

急に自分の鼓動が早くなった・・
あれ・・ 私は今・・ 何を言ったんだろう・・ 彼女からの返事が怖い・・

実際には、ほんの少しの時間がその場を流れただけなのだが・・
私にはと途轍もなく長い時間が経過したように感じていた・・

「・・・ はい・・ では、また・・ 」

「うん・・ そうだね・・ じゃ・・」

一体何が(そうだね)なんだ? 電話は切れてしまった・・
最後の言葉の意味は?・・
肯定なのか否定なのか・・

とにかく、私に与えられたオプションは、
次に電話が掛かってくる可能性を信じて待つ・・だけしか残されていなかった・・ 
軽い後悔の念に襲われる・・

(私は、 おかしな事を言ったのだろうか?)

こんな短い時間なのに、何を言ったのかを全く思い出せない自分が居た・・

思い出せないのなら、仕方が無い!
早い話が、電話の内容は、計画通りに内部監査が実施され、
彼女が想定したように事が進んだだけで、ただ単純にそれを伝えたかっただけだろう
ただそれだけだ・・ 仕事だ・・ そうなんだ、仕事なんだ・・
それ以下でも、以上でもない!!

そのように、自分に言い聞かせ、事務所の自分の席に戻ったのだが・・
事務所の女子社員たちが私を見てニヤニヤしている・・

「何をニヤニヤして居るんだ? 仕事をしろ! 仕事を!!」

時にして、男って奴は、自分に都合の悪い時は、このように言う物だ・・
それを、女子社員たちは経験則から知っている・・

「は~い♪」

返事はするが、顔は笑っている・・
しまった・・  誤解を解かねば・・・

「ああ・・・ ほんとに この忙しい時に・・ 車屋さ!
 任意保険が切れるので次はどうされますか? って・・ 継続で良いよ・・って
 言ったのに・・ お勧めプランがあって・・ と・・ 奴らのお勧めプランって
 絶対に安くならないしな!・・」

男という生き物は、何か心にやましい事があると、口数が増えると聞いた事があるが
このときは、そんな事はすっかり忘れており、非常に饒舌な自分がいた・・

「なんだぁ・・ そんな電話だったのですか? 
 そんな風には見えませんでしたよ・・ なんか、焦ってたしぃ ♪」

「それはだな・・ 電話に登録していない番号で掛かってきたから・・
 誰からか、解らない時って 焦るだろ・・ そういうことだ・・」

「ふ~ん・・ じゃ・・ また掛かってくるのでしたら、
 ちゃんと登録しておかないといけませんね・・ 車屋さん・・ 」

(なんだ?・・ 登録?・・  ?? ん? ・・・)
また、私の鼓動が早くなっていた・・

「ああ・・ 登録なぁ・・   別に・・ しなくても良いだろう!」

「え~っ! 登録してないと、また掛かってきたら慌てちゃいますよ!・・ 」

「そうだな・・ まぁ登録するなら、また後だ! さて 仕事仕事!!・・」


 そうなんだ・・ 彼女はただ連絡してきただけではないのだ! 違うのだ!
      私の携帯電話に彼女の電話番号が残ったのだ!!

これは、凄い事なのでは?
どうしよう? 登録しようか?  いや・・ その必要は無い!
しかし、無機質な単なる数字の並びだけなのに
この番号の先に、彼女が繋がっているという事を考えると
とても有意義な価値のある数字列に見えてくる・・  
消すなんて、できっこない・・ だといって、登録するのか?

というか、早くしないと消えちゃわないか?
バカな奴が、この後にバンバンと私の携帯電話にかけてきたら・・
着信履歴などすぐに消えてしまう・・
だからといって・・

     今、速攻で電話を出して、登録するわけにも行かない・・

焦る・・ そんな中 また私の携帯が鳴った・・
あわてて出ると、営業の新人君・・ (今は、掛けてくるな、このバカ野郎!・・)

内容は些細な問合せであった・・
「そんな事は! メールしろ!」と、つい口走ってしまった・・

「・・・ えっ・・ だって・・ メールじゃなく、電話をして来い・・と
     おっしゃったのは・・ 」

しまった・・ 確かにそのように言っている、メールでは正しく相手に伝わらない事が
多く、そのすれ違いからトラブルが発生する事が多いんだ・・ と・・

「いや・・ そういうことでなく・・
 スマンスマン・・ ちょっと別件があってな・・ バタバタしてたので・・
 悪いが、また後で電話してくれるか? 」

「・・・ あっ・・ すみません・・ 解りました!
     お忙しいところ、申し訳ありませんでした では!!」

ふぅ・・ 一体何をしているんだ・・ しっかりしろ!!
仕事に影響が出ているじゃないか!!
中学生高校生であるまいし! 

しかし・・
個人の携帯電話番号という魔物が、甘美な感覚で私の心中に潜り込んでいる・・
それは事実であった・・
また、その感じは・・ 遠くに忘れてしまった初恋のときめき?・・
中学生や高校生であるまいし・・と思ったすぐ後に、中学生高校生を同じである事に
気が付き・・ 思わず顔がにやけてしまっていた・・

「あれ~・・ どうしたですか? 楽しそうに笑われて・・
 なんか・・ スケベ笑いですよぉ~♪」

「うるさいぞ! 仕事をしろって言っただろ・・」
 いや・・ 電話は、知っていると思うが、営業の新人君なんだ・・
 まぁ、頑張っているみたいだから、今度飲みに連れて行ってあげようかなぁ・・って」

「あっ! じゃあ・・ 私達もご一緒させてくださいね!!」

「えっ・・ そうか・・ まぁいいかぁ・・」

「その時にですね・・ 第2営業のあの子・・
 ほら!・・ いま人気のあの子も呼んでくださいよぉ・・」

「ちょっと待て・・ あのイケメン君か?
 それだったら、君たちの合コンじゃないか・・
 それは私には割が合わんぞ! 女性陣も誰か可愛い子を呼んでくれるのか?」

「ああ・・ それって 私が可愛くないみたいじゃん!!・・
 セクハラですよ~♪・・」

「いや・・ そうい意味ではなく・・ 困ったなぁ・・
 ああ・・ もう解ったから・・ 日程は勝手に決めろ・・
 で・・ 仕事をしようぜ ♪」

「やったぁ! 了解です♪」

・・・

なんともなぁ・・ でも、問題は解決した訳では無いぞ・・
また電話がかかってくる可能性は、非常に高い・・ 何とかしないと・・

仕事に戻って作業をしているのだが・・電話が気になって仕方が無い・・
問題は早期解決だ!!

そう思うと「ちょっとトイレ・・」と、席を立っていた・・

・・・

トイレに入ると携帯電話と手帳を取りだし・・
あわてて携帯電話の着信履歴を操作して、先ほどの営業君の前の番号を表示させた。

次に手帳の、先日彼女と待ち合わせてイタメシ屋に行った日のページをめくり出し、
その日の右欄に、携帯電話に表示された電話番号をメモしていた・・
ただ電話番号だけ・・ そこに彼女の名前は書けなかった・・

(第9話)神様のバカ!・・」に続く・・・
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(第7話)電車・・ / [小説]甘い誘惑

2008-02-08 12:24:28 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
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彼女の手を握りしめたまま・・ 
私は何を話せば良いのか解らなくなり、無言の時が過ぎていった・・
ただ単に握った手に、彼女の湿り気を感じながら・・

電車は1つ目の駅に到着する・・ 反対のドアが開き、数名の乗客が
乗り込んできた・・ 反対側から押し付けられる・・
その時、今まで身動き出来なかった足を動かすチャンスが瞬間的に現れた・・
その瞬間に自分の都合の良い位置に足を踏み変えたのだが・・
不意に反対のドア側から強く押し戻されてしまった・・

その時・・

彼女の右足が、私の足と足の間に挟まった・・ というか・・
私の右足が、彼女の足と足の間に挟まったという方が正しいのかもしれない・・
本当に不意の出来事であるが、そのままの状態でロックされてしまったのだ・・
全身に彼女の体温を感じ、体中の血液が、私の体の一部を目指し走り出す。
ただ、今までは顔の下にあった彼女の頭は、私の右側の下方にあり、顔と顔の距離は
開いたので話はしやすくはなり、彼女が頭を上げて私を見上げていた・・

しかし・・ その顔は、何かを私に求めている困惑の顔でもあった・・

理由は解っている・・ この密着した体制を何とかしないと・・ 非常に調子が悪い・・
しかし、動こうとすると余計に都合が悪くなる・・ まずい・・
恐れている現象が既に始まっている・・ 本当にまずい・・ 落ち着け!!

(ええと・・ 円周率は 3.141592 65358979 32384626 ・・
 元素周期律は・・ 水兵リーベ僕の船、そう曲がるシップスクラ~ク・・
 あああ・・ クラーク博士ごめんなさい・・ 少年よ大志をいだけぇ~・・)

もう! 顔から火が出そうだ!
穴があったら入りたい・・とはこのような状況を言うのだろう、

しかし・・彼女には本当に悪いが・・ こんな体験は2度とは無いだろう・・ 
不謹慎にも神様に感謝する私もそこにいた・・
互いの汗でじっとりとはしていたが、繋いだ手はそのままでもあった・・
本当に「ずるい奴」になっていたのかもしれない・・

そのまま、2つ目の駅に着き・・ また逆のドアがあいた・・
ちょっと隙間が出来る・・ その瞬間に私は体を横に向けた・・
また、隙間が出来た事で、二人の間に距離が出来、極自然に繋いだ手も離れてしまった・・
(かなり残念ではあるが・・ 助かったぁ・・ が本音でもある ん?本音か?・・)

「混んでますね・・ 」 今まで無言だった彼女が話し掛けてきた・・

なんとか冷静さを取り戻そうとするが、「ああ・・」としか答える事が出来ず
気まずい空気だけが流れていた・・

私の心の中は悶々としていた・・
指の隙間から、白浜の砂のようにこぼれ落ちていった暖かいとても大切な物・・
そんな大事な物を無くしてしまったような感傷に襲われていたのだ・・ 

(彼女の手のぬくもりが欲しい・・ もう一度・・) 

私は彼女の手の位置に目線を落とし確認をした・・
(近い! すぐそこだ!)
私の手と彼女の手との距離はたったの2センチほどなのだ!
でも・・ 再度手を繋ぐような事は絶対に不可能なのだ・・
たった2センチなのだが、この2センチが20,000キロの彼方のように思えてならない・・
なにかきっかけさえあれば・・ と卑怯者に成り下がった私がそこにいた・・

・・・

二人は無言のまま、電車は3つ目の駅に到着し、私達が乗っている側のドアが開いた。
入り口近くの私は、他の乗客の人ごみに押され、駅のホームに流れて行く・・

彼女は? 人ごみに押されながら私は出てきたドアを振り返った・・
彼女はドアの戸袋側に移動し、車両の中に留まっていた
私が彼女を目で捕らえた時、彼女も私を視認はしたが、今度は車両に乗り込む人に紛れ
見えなくなってしまった・・

ドアが閉まる・・ その閉まるドアを、ただ見つめ・・ 走り去る電車を見送っていた・・

なんだ・・ この結末は?・・ 消化不良じゃないか・・ 落ちがないじゃないか・・
いや・・ なにかを期待していたのか? 仕事じゃないか? ・・

(そうだ・・ これで良いんだ・・ これで・・ )

そう自分に言い聞かせ、
走り去る電車の赤いテールライトに背を向け、私は歩き出した・・・

・・・

次の日の午前中に彼女からの依頼があった、内部監査に対する調整を行った・・
そして、その内部監査を担当する監査員に、なぜそのプロジェクトを監査対象に
設定したのかを説明し、あとは内部監査の結果を待つだけの日を何日か過ごしていた・・

会社で仕事をしていると、その多忙さで仕事には没頭できるのであるが・・
あの日以来、私の心の中に何かが生まれている事を感じていた・・

テレビや雑誌などで「不倫」の言葉を聞いたり見たりすると、その内容に興味が
出てしまうのだ・・ 意識をしていない・・ と心で否定するのだが・・
実際にそのような事象に、全く興味も無かった自分が、確実に変化し興味を持っている
事を認識もしていた・・

今まで、あまり好きではなかった、タレントの石田純一に、親近感をも感じている・・

「不倫は文化か・・」 と、つい口が滑り、声に出してしまう・・

それを聞いていた女子社員が・・
「えぇ~ ♪ 不倫されているのですかぁ~?♪」と、面白そうに顔を覗き込んできた

「いや・・ 石田純一だっけ・・ そんな事を言ってるなぁ・・って 君はどう思う?」

「私ぃ? 私は嫌ですね・・ 絶対に!」
ほう・・ 見た目は軽い感じの子なのだが・・ 見た目では判断出来ないのだなぁ・・

「そうかしら?」 と、隣の女子社員が割り込んできた・・
こちらは、不倫にはほど遠い感じの、よく出来るキャリアウーマンタイプの子なのだが・・

「私は、お互いに合意の上だったら・・ ちょっとぐらいなら良いかなぁ・・って・・」

へぇ・・ そうなんだ・・ ホントに人の考え方なんて解らないものなんだ・・

「うそぉ! 絶対駄目よ! 結婚できないのよ!」

「結婚だけがゴールじゃないでしょ?・・」

「先輩!・・ ひょっとしたら?・・」

「しらないわよ!♪ でも、『文化』っていう表現はアリかな?って・・」

「ふ~ん・・ そうなんだ・・」

と会話は私から離れ、彼女たちの間で盛り上がりつつあった丁度その時、
突然、私の携帯電話が鳴った・・ 携帯を開くと知らない電話番号である。
個人の電話ではあるのだが、よく移動している事もあり、会社のメンバーには
知らせてある電話番号だ・・ 何かあって、誰かが掛けて来たのだろう・・
何も考えず、電話を取った・・

「はい、もしもし・・」

「・・・ 私です・・ わかりますか?・・ 」 か・・ か・・ 彼女からだ!!

思わず、私は椅子から転げ落ちそうになってしまった!

「えっ・・ ちょ・・ちょっと待ってくださいね・・」

私は慌てて席を立ち、部屋を出て廊下に飛び出す・・
オフィスの女の子達が、何故か嬉しそうな顔で見合わせ、好機の目で私を見ていた・・

(第8話)携帯電話・・」に続く
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