その夏休みを利用して、かつての教え子が7月末に私の教室に遊びに来ました。 その生徒は、日本の公立小学校6年生だった昨年の夏に、アメリカの中学校に入学するために渡米。 もともと生まれもアメリカなので、日常英会話には支障がないほど堪能に会話することができたようです。 それもその筈、彼女の耳にはイヤリングが光っています。 日本では、たぶんこの年頃の女の子がイヤリングなどしていれば、不良と陰口を言われそうです。
アメリカの学校の夏休みは長い。
てきぱきと話す利発な女の子ですが、一年ぶりに会う彼女は、少し大人びて見えました。
しかし、そうしたマイナスの印象を受けずに、彼女なりのさりげないファッションは、海外の中学校生活で成長した姿を私に感じさせました。
(彼女がお土産に持ってきた御菓子・・・カラフル~!)
アメリカの学校生活について、興味がありましたので、学習内容や学校の雰囲気などについて、私は彼女に聞いてみました。
彼女の語った内容で、私が印象に残ったことを少しまとめてみましょう。
- まず、登校してくる生徒は、さまざまな手段でやって来る。例えば自転車・キックスクーター・ローラーブレード・ローラースケート・スケートボード・・・。
- 髪型は全く自由で、カラフルなモヒカンの生徒もいる。
- 服装も自由。当然イヤリングなどの装身具も自由。
- ただ携帯してはいけないナイフなどを持ってくると、中学生でも停学処分。
- 学校内で解決できない問題は、警察が介入することも稀ではない。
彼女の通う、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊の公立中学校の学園生活ですが、ご覧の皆さん、この話をどう感じたでしょう。
まず私の印象は、日本と異なり中学生をかなり大人扱いしているということです。
学園生活のかなりの部分を、生徒の自由裁量にまかせている点は、日本とは大きく異なります。
しかし、限度を超えた行動に対しては、停学や警察介入といった、これまた日本では少ない厳しい処置が下されます。
中学生に対して、日本のように学校側がこと細かく規則を決めるのではなく、アメリカでは自分で考え行動することを求めています。
アメリカの教育は、日本に比べて自分が選択できる自由度が大きく、自分の行動に対する責任も大きいと言えます。
どちらの教育が優れているのか、その優劣を比較することは容易ではありません。
ただ、そうした教育に対する異なるスタンスが、そこで育つ生徒に多大な影響を与えていることは事実で、教育成果を比較対照して、その評価のフィードバックを怠ってはなりません。
ただ日本における教育の成果評価や現状認識は、文科省・教育委員会・教育現場という縦組織の中での身内評価が多く、科学的かつ客観的評価とは言い難いと常々私は考えています。
(袋の中身のグミも、これまたカラフル~!)
この話題と関連し、私の脳裏から消えない、今年出されたある調査結果について語りたいと思います。
それは、財団法人日本青少年研究所(東京)が今春公表した、日米中韓の高校生7233人に実施した調査結果のことです。
「自分は価値のある人間だと思うか」との質問に、「全くそうだ」と答えた生徒は、米国57・2%、中国42・2%、韓国20・2%、日本は7・5%。
「自分を優秀だと思うか」との問いに、「そうではない」と回答した割合は、日本83・2%、米国の11・2%、中国の32・7%。
「学校には私を理解してくれる先生がいる」と考える日本の生徒は52・7%で、4カ国中最低。(私の感覚では、この数値さえ現実より高いように思う。)
「親は自分をよく分かってくれる」としたのは68・0%で、韓国の66・2%に次いで低い。
上記の調査結果と、先の生徒の学園生活の紹介内容とは、無縁ではないと、私は考えています。
日本では、管理者側が生徒が問題を起こさないよう、こと細かく配慮し規律を作りそれに従うように指導します。
時には、持ち物検査までして、生徒のプライバシーにまで立ち入って、指導を行うこともあるでしょう。
そうした日本の教育は、自主性や積極性を尊重し育成する教育とは言い難く、何か事なかれ主義のお役所仕事と一脈通じる教育現場のように、私には感じられます。
「おいおい、生徒の自由裁量にまかせ、自主性と積極性を尊重する教育?今の教育現場の実情を知って、言っているのかい?」という声が聞こえてきそうです。
無論責任と対策を教育現場だけに押し付けるのではなく、難しい問題を内包していると考えられる家庭や社会全般の在り方を含めて、もう一度考え直さなければならないことを、この調査結果は示しているように思います。
(クッキーも香り付けが、やっぱしアメリカ風)
今日のブログの最後に、ちょっとした出来事について、触れておきたいと思います。
「どんぐりころころ どんぐりこ お池にはまって さあ大変 どじょうが出てきて今日は 坊ちゃん一緒に 遊びましょう ~」
保育園の育児風景ではありません。
今週、公立中学校で3年生の数学の授業を行っていた時、たぶんトイレ帰りの生徒でしょうか、用を足して開放感に浸ってしまったのが原因か、廊下で大声で「どんぐりころころ」を歌い始めました。
授業中の人気のない廊下、大声を出したいという衝動は分かるけれど、それが授業妨害になることを分かって歌ったのかい君は!
「誰だ、歌を歌っている生徒は!」
生徒の歌が終わるか終わらないうちに、教師の雷が聞こえてきました。
その生徒にとって、歌ってすっきりした代償は、予想以上に大きかったのでは。
さて、このようにさまざまな生徒が通う公立中学校、自ら考え行動する力を重視するアメリカ型教育か、または問題行動を未然に防ぐことに執心する日本型教育が良いのか、細かい点は捨象してこの二つを対立軸とします。
あえて二者択一の判断をするなら、そうした教育を受ける子どもの現在だけではなく、将来をも見通す長いスパンの成果評価と、またそうした教育を是とする社会のあり方をも包含している点を考慮に入れて、決めることになるでしょう。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設の事案は、アメリカを納得させることと、沖縄県民を納得させることは両立せず、悩ましい問題ですが、上記二者択一を考えるとき、つい連想してしまう事柄です。
と言うことは、この悩ましい問題は、私にとってまだ悩ましい状態であり、いつか、上記の考慮事項をも加味して、結論を出したいと思います。
初めにお話した教え子は、アメリカに戻り、
日本より一足早く中学2年生となって、
学園生活を楽しんでいることでしょう。
休みに日本に戻ったら、
またアメリカの教育事情を教えてくださいね。
美術館の入り口から入った子どもたちは、単なる美術鑑賞のステージから、やがて絵画作品との対話へのステージと進む。美術館を出た彼らはどのように変わっていくのだろうか。子どもたちが、神奈川県立近代美術館(神奈川県)と戦没画学生慰霊美術館「無言館」(長野県)の展示作品と「対話」をすることで、学習の成果は、時間の経過の中で徐々に子どもの中でカタチを変えながら内面化されていく・・・。
小学校時代に多くの時間を美術館で過ごした子どもたちのその後を、ドキュメンタリー映画化。10月の横浜をスタートに、長野、東京と順次上映会を開催します。
【上映映画】
★『Museum Trip(22min)<鎌倉の立てる像たち・拝啓鬼様>』
出演:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校卒業生有志
監督:森内康博
企画:稲庭彩和子(神奈川県立近代美術館学芸員<2009年当時>)
高松智行(附属鎌倉小学校教諭)
制作:(株)らくだスタジオ
協力:神奈川県立近代美術館、国立情報学研究所
制作年:2009年
*ドイツ「ワールドメディアフェスティバル2011」ドキュメンタリー部門入賞
★『青色の画布-十五歳 もうひとつの無言館-(50min)』
出演:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校卒業生有志(映画「無言館」に出演)
窪島誠一郎(無言館館主)
監督:森内康博
企画:高松智行(附属鎌倉小学校教諭)
制作:株式会社らくだスタジオ
協力:戦没画学生慰霊美術館無言館、
横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉小学校
制作年:2011年
<上映会1>『Museum Trip』『青色の画布』
■日時:10月30日(日) 19:00~
■会場:関内ホール(※横浜/JR関内駅徒歩5分)
■当日券:1000円
※メールにて事前にお申し込みの方は前売り料金の800円でご覧になれます。
○氏名○所属○人数 を明記の上、info@rakudastudio.com までお申し込み下さい。
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)
<上映会2>『Museum Trip』『青色の画布』
■日時:12月3日(土) 19:00~
■会場:上田映劇(※長野県上田市/JR上田駅から徒歩)
■当日券:1200円
※メールにて事前にお申し込みの方は前売り料金の1000円でご覧になれます。
○氏名○所属○人数 を明記の上、info@rakudastudio.com までお申し込み下さい。
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)
<上映会3>『青色の画布』
■日時:1月21日(土) ①16:00~ ②19:00~
■会場:キッドアイラックホール
(※東京/京王線明大前徒歩3分)
■当日券のみ:500円 ※窪島誠一郎氏のトークあり
■お問い合わせ:050-3585-7161(『青色の画布』上映会係)