酔いどれ堕天使の映画日記

劇場やテレビでみた映画の鑑賞記。原則ネタばれなし!

『母なる証明』(2009・韓)

2010年02月25日 15時14分59秒 | 劇場鑑賞作品
韓国を代表する気鋭、ポン・ジュノ監督の昨年晩秋の公開作。
先週末遅ればせながらみてきました。

ある街で一人息子の青年トジュン(ウォンビン)と肩寄せあいながら暮らす母(キム・ヘジャ)。
貧しさにくじけそうになりながらも女手ひとつ漢方薬の商いと無免許の鍼の収入でなんとかトジュンを育て上げました。
しかし、母から受け継いだ美しい瞳をもつ精神が幼いままのトジュンは
ある日近所でおきた女子高生殺害事件の犯人として逮捕されてしまいます。
安易に犯人ときめつけ疑わない警察や少しも争う姿勢をみせない弁護士に業を煮やした母は
自ら息子の無実を証明しようと行動をおこします。

謎解きサスペンスでひきつけ社会の暗部も描き出しながら
しかしカメラがうつしだすのは昆虫が地を這うがごとくずるくしぶとく生き延びようとする人間の営み。

一人息子を溺愛する母を突き動かす狂気ともいえる情動
理性かなぐりすてる野生の母性がとる必死な行動は壮絶ながらなぜか滑稽でもあり
本邦の巨匠、今村昌平がつくりだした“重喜劇”の世界にまぎれもなくかさなります。
映画の冒頭とラスト、衝動的に披露される母の“踊り”はそれを象徴しているかのようで何とも感慨深いです。
トジュンの要領のいいチンピラの友人(チン・グ)はじめ重喜劇の住人にふさわしい人物も数多く登場する。

演技陣もよかった。
“韓国の母”といわれるらしい国民的女優キム・ヘジャの異色な母への起用は
ベテランの持ち味をいかした存在感と表現力がすばらしく大正解。
久々の映画出演で複雑な役どころを見事に演じきったウォンビンも当然褒めなくてはいけません。

人間への冷徹な観察眼としつこく粘りある情熱からうまれるに違いない才気ある演出。
“今平”亡き後、ポン・ジュノこそこの巨匠の後継最有力候補だと
なかば嫉妬にかられながらそう実感せざるをえない傑作です。

☆☆☆☆☆



『ラブリーボーン』(2009・米=ニュージーランド)

2010年02月19日 16時59分44秒 | 劇場鑑賞作品
昨日みてきました。
ベストセラー小説の映画化作品で
14歳の若さで殺された少女が死後の世界から家族や犯人のその後を見届けるというおはなし。

昨日もわが国の児童への虐待や性犯罪の増加をしめす憤りのデータが報道されていましたが
こんな現実がまだ一般には認識されていなかったであろう時代の1973年
米国ペンシルバニア州のごく普通の家庭で両親と妹それと幼い弟に囲まれ幸せな日々をおくる少女スージー・サーモン(シアーシャ・ローナン)は
彼女が想いをよせる学校の上級生からデートに誘われたその日、近所の男によって殺害されてしまいます。

監督は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン。
スージーを演じるシアーシャ・ローナンの
きらきらした目と笑顔が素敵です。

サイコサスペンスかと思えばファンタジーや青春映画の要素もあり家族の愛や葛藤をえがいたりもする。
人間の存在そのものについて考えさせられる描写もあって興味深いテーマの作品ではありますが
みる側としてどこに軸足をおけばいいのか迷います。

犯人を演じたスタンリー・トゥッチが授賞式も近い米アカデミー助演賞にノミネートされています。

☆☆☆

『銀色の雨』(2009・日)

2010年02月16日 16時51分45秒 | 劇場鑑賞作品
先週末みてきました。

人生の影を引きずっていきる三人の男女が出会いやがて心かよわせるドラマ。
浅田次郎の同名短編が原作です。
鳥取県や地元の教育委員会から後援をえて米子市や境港市など鳥取県内でロケした地方色の濃い作品でもあります。

もと札付きの悪(ワル)ながらある人との出会いによって更正したプロボクサーの章次(中村獅童)。
一時の日本チャンピオンも世界への夢をはたせないまま時が過ぎいまはジムから引退勧告される身の上です。
老親を案ずる手紙をうけとったことから故郷鳥取を飛び出し上京してからはじめて帰郷の途につきます。
一方、鳥取県内の高校2年生で陸上部員の和也(加来賢人)。
三歳で父を亡くし周囲にいまひとつ心開かない彼は住み込みのバイト先の新聞配達所でささいな諍いをおこし夜中に衝動的に家を出ます。

別々の事情で米子駅に降りたった章次と和也。
二人はそこで和也の知人でもあるスナック勤めの女性、菊枝(前田亜紀)と出会います。
猫とくらす“キャンディ”のように飾りつけられた菊枝の部屋にあがりこむことになる章次と和也。
やがて因縁の事実が明らかにされます。

いったんわかれたはずの主人公たちが何度となく同じカメラにおさまる演出に
鈴井貴之というこの監督の律儀さを感じますし
章次と和也の関係が語られていく話法ひとつとっても
昔のテレビドラマをみているような既視感をおぼえますが
不思議と嫌いではないです。

でている役者も大仰なところがなくて
肩肘はらず素直にほっとできる
地方色と手作り感がまじりあった静かな小品です。

☆☆☆

『インビクタス/負けざる者たち』(2009・米)

2010年02月12日 15時44分31秒 | 劇場鑑賞作品
クリント・イーストウッド製作、監督最新作。

この巨匠じつは2人いるかと疑いたくなります。
前作から一年とおかずこんな良作をまたも世に送り出してくるのですから。

1994年の南アフリカ共和国。
反アパルトヘイトの闘士にして長い牢獄生活をへて同国の大統領に就任したばかりのネルソン・マンデラをモーガン・フリーマンが演じます。
アパルトヘイト後も反目を続ける国民感情を翌年自国開催となるラクビーワールドカップによってひとつにまとめようとこころをくだくマンデラと
彼から勝利を託されたラクビー代表選手主将(マット・デイモン)との心の交流と静かな闘志を描きます。

マット・デイモンといえば彼が自ら脚本を手がけた主演作『グット・ウィル・ハンティング』(1997)をBS2で先日も再見し感動をあらたにしたばかりですが
どんな役を演じても好感がもてる彼の魅力はこの作品でも堪能できます。

つくりての良心がそのままあらわれたような
素直に血沸き胸熱くなるすぐれた感動作です。

☆☆☆☆

『おとうと』(2010・日)

2010年02月04日 14時03分05秒 | 劇場鑑賞作品
この映画をみた封切日の夜
奇しくも“おとうと”(義弟)を突然の病魔が襲い翌日には奪いさっていきました。

夫婦仲むつまじく必ず妹と二人で映画館に足をはこんでいた彼。
この拙いブログも読んでくれていたようです。

ただただ無念で何も言葉がみつからない。

当然いまは映画について語る余裕もありませんが
天国の弟が読んでくれているとの思いで続けていきたいと思います。

ありがとう。

そしていもうとのことをこれからも見守ってあげてください。

☆☆☆☆