酔いどれ堕天使の映画日記

劇場やテレビでみた映画の鑑賞記。原則ネタばれなし!

真夜中のカーボーイ ―My Favorite Movie―

2008年07月29日 22時00分15秒 | My Favorite Movie

英国人の監督ジョン・シュレシンジャーの名作
『真夜中のカーボーイ』(1969)です。

先ほどDVDを取り出してきて見ました。
思い出したように繰り返し見る作品です。


1969年当時のニューヨークを見事に表現しているのですが
2008年の今見返しても見ても少しも古びることはありません。

私見では東京もニューヨークも
その殺伐さと相反する都会の魅力というべき雰囲気があるのだと思いますが
そうしたものも見事に表現している代表的な作品だと思います。


テキサスのホームタウンからのがれ
ニューヨークへ男娼として“出稼ぎ”にきた
ジョン・ボイド演じるカウボーイの“ジョー”。

そのニューヨークでジョーが出合う文無しでペテン師の小男
ダスティン・ホフマン演じる“ラッツォ”(どぶねずみ)ことリコ!

やがて都会で取り残されたように寄り添うように暮らす二人。

映画の後半はこのジョーとラッツォの
見事までに不思議に美しい友情劇へとつながっていきます。

特に文字通り都会をどぶねずみのように這いずりまわるリコの
ダスティン・ホフマンは映画史に残る名演技でしょう。


そしてジョーは自分のためにではなく
リコの助けるため、リコの夢をかなえるため路上にたちます。

このあたりからラストシーンまで私の涙はとまりません。

ニルソンが歌うタイトルソング“うわさの男”
全編を流れるジョン・バリーの名テーマ曲
本当に素晴らしいです。

念願かない眩く光の中で二人を乗せたバスはフロリダに向かいます。
都会の呪縛から解放され
友情と幸せに満ち溢れた二人の表情

そしてあのラストをむかえます。

私が愛してやまない永遠の名作映画です。

☆☆☆☆☆


私は当時キングレコードから発売されたレコードを愛聴しています。






海水浴で一杯

2008年07月29日 15時44分19秒 | 飲酒or節酒
家族と2泊3日で海水浴に行ってきました。


酒好きの私

海の家でも朝からレモンサワーなどやっておりましたが

夜は夜で地元のおいしい魚で本格的にいきます。


今年も訪れたのは

吉田港の「ひげ奴」という地魚料理のお店。

とりあえず大ジョッキで生ビールをグビッとやった後は

当店おすすめの純米吟醸酒でしみじみと・・・。

名物ひげの親父さんが造る刺身との相性がとてもよかったです。


さて、宿に戻ってからは

車の運転で一滴も飲めなかった妻のためと言い訳けをしながら

さらに杯を重ねたのは言うまでもありません。

アニマルハウス、ブルース・ブラザーズ(ジョン・ベルーシ&ジョン・ランディス)

2008年07月23日 22時20分18秒 | My Favorite Movie


私もかなり世間に対して斜にかまえたところがありますが

ジョン・ランディスの計算しつくされたくだらなさ(失礼!)には

頭が下がります。

本日「ブルース・ブラザーズ」のDVDを見返しました。

おなかを抱えて笑いました。

大好きな映画です。

しかし、こうした制作費をかけ、著名人総出演の映画より


彼らの映画の原点はやはり「アニマルハウス」ではないでしょうか。


そのものズバリの下ネタ満載で閉口される方もいらっしゃるかも知れません。

事実この映画を劇場ではじめてみた高校生になったばかりの私もそうでした。

それが、大学時代すっかり自身がアニマル化してからは

心から楽しめる作品となりました。

このばかさ加減は好き嫌いがはっきりすると思いますので
無理にオススメしませんが

食わず嫌いではないとおっしゃる方は是非!

もちろん、これらの作品には☆評価は邪道です・・・。




「ブルース・ブラザーズ・バンド」自体はいわゆる“ブルース”はほとんど演奏しませんが
出演した敬愛するブルースの大御所ジョン・リー・フッカーには痺れます!
ブラザーズ達がたずねるアリサ・フランクリンの夫で元バンド仲間の男が経営するソウルフード店前のストリートで演奏しているのがそうです。 

残念ながら映画で歌われた「ブン・ブン」ははいっていませんが
映画をみていいと思われた方、よろしかったら一度聞いてみてください。







カラジッチ拘束!映画『ハンティングパーティー』後日談

2008年07月23日 21時11分37秒 | 劇場鑑賞作品
この間当ブログ(6月30日)でとりあげました

映画『ハンティング・パーティー』

モデルになった実在の戦争犯罪人

カラジッチ被告がついに拘束されました!!!

国内と米国のニュースだけを取り上げるわが国は例外ですが?

世界が注目した歴史的な一日になりました。

先行したコソボ独立など政治的な話は差し控えますが

まさに映画が歴史的事件をあぶりだしている様を目の当たりにした気分です。

誰でもが分かり合え語り合える愛すべき映画というメディアに拍手喝采です!

ちなみに発見当時の被告は白い長髪にひげで変装しており
偽名で病院に勤務していたようです。(7月23日、日経新聞朝刊より)



ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌

2008年07月21日 15時19分26秒 | 劇場鑑賞作品
昨日に引き続き今日も娘とデートです。


水木しげる原作の鬼太郎は

最近、貸本時代の原作「墓場鬼太郎」をベースにしたアニメ作品が
深夜枠で放映されて好評だった影響からでしょうか

オープニングに鬼太郎誕生の場面がでてきて
お、これは!と思いましたが

人間を助ける最後の幽霊族鬼太郎と
妖怪に狙われ、助けられる側の女子高生の人間の
それぞれの葛藤のお話

寺島しのぶの濡れ女の悲劇

これに妖怪同士の決闘などが延々と繰り広げられる展開には

ちょっと盛り込みすぎてしまったという印象です。


大人向けアニメのヒットと第五シリーズ放映による人気化で

製作サイドも少々気負いすぎてしまったかもしれませんね。


個人的には往年のちょっとダークな鬼太郎の路線で的を絞っていただき
一作いかがでしょうか?

あるいは
今回も最高だった大泉洋のビビビのねずみ男にスピンアウトしてもらって・・・。
失敬、図に乗りすぎました。

☆☆


スピードレーサー

2008年07月20日 21時27分39秒 | 劇場鑑賞作品
夏休みにはいり、小学生の娘といっしょに日本語吹き替えで見てきました。

マトリックスシリーズのウォシャウスキー兄弟が独自の映像表現で

タツノコプロ(吉田竜夫原作)の人気アニメ「マッハGoGoGo」を実写映画化しました。


斬新な視覚効果を多用した映像表現も
家族の力で悪党をやっつけるというシンプルな物語も

わかりやすいうえに少しも退屈せず、小生はとても楽しめました。

何よりも彼らが幼少のころTVに向かって目を輝かせてみたであろう
この原作アニメに対する敬愛の念みたいなものが
スクリーンからストレートに伝わってきてとてもうれしかったです。

安易にノスタルジーにおちいることなく
自分達のスタイルを追求しようという創作姿勢
素直に評価したいですね。

Go!!!

☆☆☆









続夕陽のガンマン―My Cult Movie―

2008年07月19日 23時58分06秒 | My Favorite Movie
セルジオ・レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン』(1966)です。

カルトのジャンルで取り上げるのはどうかと思いましたが

私にとって特別に思い入れのある作品なのであえて・・・。

忘れもしない小学校6年の冬休み
日曜洋画劇場がこの作品との出会いでした。

エンニオ・モリコーネの
あのコヨーテをモチーフにしたテーマ曲が流れてきたとたん
決して大げさでな表現ではなく、
全身の毛が総立ち、たちまち魂を奪われました。
劇中の曲のメロディがその後数週間は頭からはなれませんでした・・・。

事実、中学生になって映画のサントラレコードを購入するまで
映画のメロディをわすれないよう
自分でうたってテープに吹き込んでいたくらいです。

今でこそ巨匠と呼ばれるモリコーネですが
当時はそんなに絶賛される風潮でもなく
モリコーネ作曲の全てのサントラアルバムを求め
なけなしのお金を握りしめて
レコード店を探し歩いた記憶があります。


さて、肝心の本作ですが

南北戦争も終盤をむかえる時代の米国が舞台です。

ビル・カーソンという男が言い残した埋蔵金のありかをめぐって

The Good(好漢)のブロンディー(クリント・イーストウッド)

The Bad(悪漢)のエンジェル(リー・ヴァン・クリーフ)

The Ugly(卑劣漢)のトゥーコ(イーライ・ウォーラック)の三人が

戦争を背景に繰り広げる三つ巴の駆け引きの様子をえがいた
マカロニ・ウェスタン(本国ではスパゲッティ・ウェスタン)の傑作です。

淀川先生が解説の中で
たしか舞台劇を映画化したみたいなことをおっしゃっていた記憶があるのですが
定かではありません。

ただ、単なるマカロニ・ウェスタンの枠をこえた
力量のある作品であるという趣旨は理解できました。

もちろん『荒野の用心棒』からおなじみのクリント・イーストウッドには
かっこよくて痺れました。

しかし、何故か“The Ugly”を演じる
イーライ・ウォーラックの執拗な卑劣漢に不思議に魅了されたのを覚えています。

“悪漢”を演じるリー・ヴァン・クリーフの魅力がわかったのは
もう少したってからですが・・・。

いずれにしても凄いキャストです。

過剰なほどのクローズアップの多用

執拗なまでの人物描写 といった

監督レオーネ独特の世界観は本作でも不滅です。

作家主義というのでしょうか
自らのやりたいことだけに傾斜していく後年の姿勢も素晴らしいですが

本作では
そうした監督のわがままな部分と
エンターテーメント作品として観客に喜んでもらおうという心意気みたいなものが
見事に調和していて私は好きです。

幸い現在は3時間近いオリジナル盤がDVDで簡単に手に入る時代です。

TV放映当時の山田康雄、納谷悟朗、大塚周夫らの名吹き替えを堪能するのもよし

私はその日の気分で選んでいます。

セルジオ・レオーネ監督の最も好きな作品であるばかりか
私にとっては、今でも非常に愛着のある作品です。

感謝!!!

☆☆☆☆☆


私は今でも当時購入したアナログレコードを愛聴しています。
不朽の名作です!




シャイニング ―My Favorite Movie―

2008年07月19日 00時51分28秒 | My Favorite Movie
スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980)です。

この作品も好きでよく(特に暑い今の季節!)取り出してきては見ています。

傑作ぞろいのキューブリック作品ですが
特に『時計じかけのオレンジ』と本作は
テイストにとても共感できるというのでしょうか
私のお気に入りの映画です。

学生時代、劇場公開時に見たときは
「これ、ホラー映画?」という印象でしたが

そうしたジャンルを越えた普遍的な映像の力ゆえでしょうか

時とともに色あせない
みるたびに表現の新鮮さを感じさせる傑作だと思います。


まず、冒頭の空撮からしびれます。

ベルリオーズの「幻想交響曲」第五楽章のメロディーが
巧みな編曲によって悪魔の叫びのように響きわたるなか
ジャック・ニコルソンの運転する車が切り立った崖の道を
物語の舞台となるホテルに向かって走りさっていきます。

その姿を俯瞰でとらえるシーンから
すでに我々はキューブリックの世界にはいっています。

物語はスティーブン・キングの原作を下敷きにしたものですが
のちに原作者ともめるほどキューブリック独特の世界観で描いていきます。

そして、何度見返しても感情移入してしまう
ジャック・ニコルソンの怪演ぶり!!!

また監督にしごかれノイローゼ一歩手前だったという
妻役のシェリー・デュヴァルの表情は
それ自体があの“ムンクの叫び”を連想させるほど鬼気せまるものがあります。
しかし、実際のところは怖すぎて何故か笑ってしまいますが・・・。失礼!

相変わらず映像技術に懲りまくり
あらたな表現を次から次へとうちだしてきたキューブリックですが
この映画で多用されるステディーカムカメラの映像は
当時の映画小僧にはまさに驚きものでした。

一歩間違えば下衆に陥るこうした題材を扱いながらも
キューブリックの映像表現力は
この作品に独特な静謐さを醸し出し
まれに見る気品さえ漂わせ一歩も譲りません。

敬礼!

☆☆☆☆☆



『2001年宇宙の旅』では作曲家に依頼したオリジナルスコアが気に入らず
不採用とし(無論作曲家にお金は払ったそうですが・・・)
ご存知の名曲を採用したとの逸話もあるほどクラシックに精通し
バッハからオペラ、現代音楽まで作品に多用したキューブリックですから
原典を紹介すればきりがありません。
本文でふれたベルリオーズの幻想交響曲ですが
私が日ごろ聴いているのは、このシャルル・ミュンシュ盤です。






黄金 ―My Favorite Movie-

2008年07月18日 00時19分01秒 | My Favorite Movie
ジョン・ヒューストン監督の『黄金』(1948)です。

この作品、小生が小学生の時分
淀川長治氏が解説するあの「日曜洋画劇場」が初見でした。

もちろん吹き替えなのですが
ハンフリー・ボガード演じる男が
黄金をめぐり仲間を裏切るまでに豹変していく姿に
当時、言い知れぬ恐怖を覚えたものです。

物語はメキシコの港町でその日の暮らしもままならない男3人が
山深く砂金を求め堀あて、しだいに運命に翻弄される話です。

冒頭の食い詰めた主人公の男の境遇
港湾労働の詐欺師まがいの雇い主にだまされながらも
(この男を町で見かけ酒場で殴りあうシーンのカット割り実にうまいです!)
必死に生きようとする姿をみていると
齢を重ねた今
この男に抱く印象は子供の頃とは大きく変化しました。

人生にもがき苦しみながら偶然掴んだ幸運さえも
猜疑心ゆえとり逃してしまう。
このデフォルメされた姿は
我々人間そのもののような気がしてなりません。

対照的に主導役である老人は
砂金を仲間に託し
遭遇した村人に乞われるまま村に行き
川に溺れ意識不明となった子供の命を助けます。

この老人役は監督の実父でもあるウォルター・ヒューストンが演じていますが

後半は“明と暗”“老練と未熟”“諦観と執着”など対照がきわだちます。

そしてこの老人の現在のこうした淡々とした生き様も
過去の自身の度重なる苦い経験と挫折の末
たどりついた境地としてあるのだと気づかされます。


やがて映画はこの老人の高笑いによって幕を閉じます。

「人間生きてりゃなんとかなるさ!」と勇気づけられ

じわりと熱くなる、そんなラストです・・・。

☆☆☆☆☆








太陽がいっぱい ―My Favorite Movie―

2008年07月16日 23時07分07秒 | My Favorite Movie
『太陽がいっぱい』(仏・1960)

中学生の頃、この作品に出会ったあの日の感動を昨日のことのように思い出します。

所謂“ヌーベル・バーグ”と言われた映画が全盛だった当時

監督のルネ・クレマンがこうした誰にでも“わかりやすい”映画を堂々とつくったことに私は尊敬の念を禁じえません。

そして、ルネ・クレマンはこの作品によって私の“最も好きな映画監督”になりました。

主人公のアラン・ドロン演じるトムが自ら殺したフィリップ(モーリス・ロネ)を捨てる荒れ狂った海のシーン
まさに神がかりとしか言いようがありません。

アンリ・ドカ(ドカエ)のカメラ
この人も天才です。
アラン・ドロンが魚市場で彼女を待つシーンのすばらしいタッチ・・・。
何度見返しても嘆息します。

そして、ニノ・ロータの音楽
映画音楽の最高傑作ではないでしょうか。

当初驚きを隠せませんでしたが
尊敬する淀川長治氏の
この作品はトムとフィリップの男の愛がテーマであるという趣旨の解釈

むしろ年齢を重ねるにつれ
また作品を見返すにつれ
しだいにこの解釈をかみしめています。

誰にでもわかりやすく
芸術作品としても一級の
こんな映画の創作にたずさわるのが私の夢です。

すみません、
感情が入りすぎて
これ以上この作品について語ることはできません・・・。

☆☆☆☆☆(+☆)




池波正太郎先生も本書でルネ・クレマンを賞賛されていました。
先生のような映画ファンの大先輩にです。
我がことのようにうれしかったのを覚えています。
本書は70年代封切り当時の作品に対する氏の評価などもあり
先生の映画に対する情熱が偲ばれます。


近距離恋愛

2008年07月15日 22時12分45秒 | 劇場鑑賞作品
先ほど見てきました。

配給会社の人も邦題に苦労なさったと思います。

原題は日本では馴染みのない習慣である“花嫁付添い人(メイド・オブ・オナー)”なのですから。

『魔法にかけられて』のあのパトリック・デンプシーが今回はなんとプレイボーイ役という設定です。

印象がいい人すぎてとても似合いません・・・。

その彼が
10年前、大学で運命的な出会いを果たしながらも
ずっと仲のよい友達でしかいられなかった
最愛の彼女の花嫁付添い人に!

ストーリー自体はありふれた話ですし

ほぼ期待通りの結末をむかえるわけですが

パトリック・デンプシーの憎めないキャラクターが作品を救います。

後半は愛しい彼女の婚約者の故郷であるスコットランドが舞台となります。

ニューヨークがいいか

風光明媚でトラッドなスコットランドがいいか

嫁ぐ女性でなくとも迷うところですね。

プロデューサー、監督、俳優にと文字通りマルチなタレントで活躍され
先日惜しくもお亡くなりになった
シドニー・ポラックが
デンプシーの反面教師的な父親役で健在な姿を見せておられました。

☆☆





シドニー・ポラック氏、この5月に鑑賞したばかりの『フィクサー』では
主演のジョージ・クルーニーが所属する法律事務所の渋いボス役で出演してます。
ラストの息を呑むような展開に思わず喝采です!
非常によくできたエンターテイメント作品だと思います。
☆☆☆☆



お姫様じゃなくても小生もやはりニューヨークがいいです・・・。

恐怖の報酬―My Favorite Movie―

2008年07月14日 23時23分00秒 | My Favorite Movie
今回のMy Favorite Movieは

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督

ご存知『恐怖の報酬』(仏・1953)です。

小生のお気に入り映画ベスト10があったなら
必ず入るであろう作品です。

物語は、食い詰めた男達が自らを閉じ込めた境遇から逃れる金欲しさに
突然起きた油田火災を消すために雇われ
火災現場目指してニトログリセリンをトラックで運ぶ話です。

悪路を行くトラック、いつ爆発するかも知れぬ恐怖を背負って・・・・。

このサスペンスだけでも見るものを釘づけにするほどの素晴らしさです。

しかし、かの淀川長治氏が指摘されたように
この作品をおもしろくしているのは
男が男にいだく嫉妬や愛憎のすさまじいまでのドラマにあると思います。

イヴ・モンタンの主人公は突然現れたシャルル・ヴァネルに心を奪われ
自分に心をよせる女や同僚が目に入らぬほど夢中になります。

しかし、そのかっこよさが単なる虚飾であるとわかったとたん
憧れが憎しみに変わり
非情なほどこの男を蔑み、痛めつけます。

ニトログリセリン運搬というサスペンスが後半の物語の主軸ですが
この辺の男達の心理描写、演出が実に見事な作品です。

たまに退屈に感じられるとおっしゃる方もある前半部分ですが
この終盤のドラマのためには一尺たりとも削ることはできません。

もちろんそんな理屈抜きに娯楽作品としても一級です。

モノクロ映画ですが
未見の方には是非ご覧になっていただきたい大好きな作品です。

☆☆☆☆☆




ぼくの伯父さん―My Favorite Movie―

2008年07月10日 22時06分10秒 | My Favorite Movie
ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(1958)です。

この作品も思い出したようにDVDを取り出してきてはみる映画です。

ジャック・タチは前作『ぼくの伯父さんの休暇』(1953)において
パントマイム出身のみごとな身のこなしを活かし
独特な風貌の主人公である
ご存知ムッシュー・ユロ=ユロ氏を誕生させます。

このユロ氏をカラー作品として再び登場させ
作品としての評価(米アカデミー外国語映画賞など)のみならず
商業的にも大成功をおさめたのが本作です。

しかし、そうした世評にかかわらず
私がこの作品が好きなのは

ジャック・タチの独特な映画的こだわりにあります。

たとえば“音”の使われ方です

ユロ氏は言葉をほとんど発しません。

それとは対照的に
ユロ氏をとりまく“音”には異常なこだわりをみせています。

自動車のタイヤがパンクする音
電話の受話器から流れるラジオの音楽
ユロ氏が暮らす街の喧騒
はたまたユロ氏の義弟が経営するビニールパイプ工場のパイプが膨張する音
であったりもします。

ユロ氏をとりまく周囲の人物が発するのもそういえば言葉ではなく
“音”だと捉えることができるかもしれません。

ジャック・タチの関心は映画のストーリーよりも
作品全体のアトモスフィア=空気にあるように感じます。


やがて、ユロ氏は一般観衆の期待を裏切り
群集の一人として
その言葉だけでなくその姿を完全に埋没させてしまいます。

次回作『プレイタイム』(1967)では
「タチヴィル=タチの都市」と呼ばれる巨大なセットをつくるなど
自らを破産に追い込むほどの徹底したこだわりに発展します。

この『ぼくの伯父さん』では、そのこだわりが
主人公ユロ氏の“ぼくの大好きな伯父さん”としての活躍により
ぎりぎりのところで娯楽性を保ちながら開花した愛すべき作品です。

ところで、一方の『プレイタイム』への私の評価ですが

もちろんジャック・タチの傑作のひとつだと思いますし
タチ芸術の一つの到達点として
今後ますます評価が高まっていく作品ではないでしょうか。

☆☆☆☆☆




私が普段聴いているのは
ジャケットがモノクロのトラヴェリング社のCDです。
こだわりの“音”もはいっていて
愛聴しております。

失われた週末 ―My Cult Movie―

2008年07月09日 22時26分14秒 | My Favorite Movie
終戦の年、1945年の米アカデミー賞の
作品、監督、主演男優、脚色の主要部門を総なめにしたビリー・ワイルダー監督作品です。

当時一般の評価も高かった作品ですが、私にとっては年に一度は観ずにいられないほどのカルトな作品です。

お話は何のことはないアルコール中毒の話です。

アル中の映画といえば「酒とバラの日々」、「バーフライ」、「リービング・イン・ラスベガス」などを思い出しますが

世界中のアルコール依存症の罹患数にくらべ圧倒的にテーマとして扱った映画の製作本数は少ないはずです。

邦画でもこの問題のみを直接のテーマとして扱った作品は思い当たりません。

一説によるとアルコール飲料メーカーからの圧力が強いからだなどという人もいますが
単に映画のテーマとしては一般にお客さんを呼べないからではないでしょうか。

それでは、私はなぜこの映画が好きか?

理由は2つあります。

とても不道徳な理由で申し訳けないのですが
(不快感をいだかれると困るのですが)
先ほど挙げた他の作品が多少なりとも酒は麻薬といっしょで怖いなと感じさせるのに対して
この作品を見ますと

主人公の酒への乾き
アルコールが体内に入ったときの幸福感
そして酩酊感

これらの表現が実にすばらしく、共感できるからだと思います。

それ以前は二枚目だが大根役者といわれた主役のアル中男ドン・バーナムを演じるレイ・ミランドは
監督のビリー・ワイルダーによって徹底的な演技指導を受け
インテリだが弱さ故、アルコールに溺れる男を実に見事に演じています。

事実、私はこの作品を酒を飲みながら鑑賞することが多いのですが
いつのまにか主人公に感情移入し、酒を酌み交わしている気分になってしまいます。

あるときは私自身がドン・バーナムになりきってしまいます。

たとえが悪くて恐縮ですが、
黒澤明監督はやくざが嫌いで、その汚さや惨めさを表現したくて
名作「酔いどれ天使」を撮ったにもかかわらず
三船敏郎のチンピラのほうに観客が感情移入してしまったように。

その映画が好きだと感じるのは主人公に感情移入できるか否かが大きなポイントだと思いますが

私にとってこの作品は究極の感情移入映画なのです。

少々大げさ過ぎましたね・・・。


もう一つは
これまた、さらに不遜な理由ですが、
自分のアルコール依存度をチェックできるからです。

「俺は、まだドン・バーナムになっていないぞ!」と。


そして、愛飲家の私はやがて主人公がまた酒場に戻ってくることを確信しながら
ボトルの栓をあけます。

あなたも、自らのアルコール依存度を確認するためにも年に一度はDVDをみて安心?してください。

私の個人的な趣向は抜きにしましても

よくできたビリー・ワイルダー作品ですし

未見の方にはオススメの映画です。

☆☆☆☆☆


ちなみに私が一般の方?に胸を張って??オススメする

ビリー・ワイルダー作品ベストは

「情婦」、「サンセット大通り」の2本です。

これらの作品については、また別の機会にいたしましょう。











あにいもうと

2008年07月08日 22時59分09秒 | 名作・映画作家探訪
成瀬巳喜男が室生犀星の短編小説を水木洋子の脚本で撮った作品です。
昨日の「稲妻」につづいての2本目の大映作品です。

東京で結ばれぬ恋の子を孕んで実家に戻ってきた“いもうと”とそれを愛情の裏返し故か厳しく叱責する“あに”という小説のテーマはこの作品ではさほど重要ではありません。

自堕に落ちたが開き直って今は東京で逞しく生きている京マチ子演じる官能的な長女(いもうと)
それと対照的に清楚で、はきはきとしっかりとした考えを持ちながらも
それ故に男と結ばれない次女役の久我美子を軸に展開する話です。

姉妹は東京で暮らしています。

それに対してこの作品の男達は川(この映画では多摩川という設定)を隔てて隣接する地元から
決して対岸の東京にわたることはありません。
(カメラも一度も東京にわたりません!)

川の護岸工事を仕切っていたが、時代の変化ゆえ今は取り残されている
かつての土建屋の親分である山本礼三郎の父親

落ちぶれて帰ってきた妹を叱責するが
逆に内面的な弱さを“いもうと”に見透かされて罵られる森雅之演じる兄

次女との将来を切望している製麺屋の養子の男も
一度は川を渡って東京に行こうと彼女との駆け落ちを切り出すが
女に内面を見破られついに果たせません。

さらに姉を孕ませた船越英二演じる学生は川をわたって謝罪に来ますが
母親との会話に妙に絆され、かえって心を落ち着かせてしまう有様です。


この作品は最後まで母性からのがれられない男達と

自ら立つ逞しい女の姿を対比させて描いているとも言えるでしょう。

いろんな出来事や喧嘩におろおろしながらも
いつも鷹揚にすべてを許してしまう浦辺粂子演じる母親(実にうまい!)は
まさに男達を引き止める母性の象徴としての存在です。

事実、船越英二演じる学生などは、女の兄にもう二度と来るなと追い返された帰りのバスの中で居心地よさそうにこの母親の拵えた饅頭をおいしそうに頬張る始末です。
まさに母性への飢えを象徴するような表現であり、とても感心したシーンです。

兄にとっては“いもうと”であり
父親にとっては常に“母なる川”が
母性の源です。

水木洋子の脚本からはすでに『浮雲』と同じモチーフが感じられてなりません。

“身を持ち崩しながらも愛をつらぬこうと逞しく生きる女たち”

それと相反するように、世間への体面などから虚勢と大声を張り上げるが
母性に依存しなければ生きていけず
その場限りの都合のよい愛に依存せざるを得ない男たち・・・。

「女性を描く巨匠」

しばしステロタイプ的にいわれる成瀬監督ですが

むしろ、男と女のありようをその生来のありのままにあぶりだしたところに

その卓越さがあるのではないでしょうか。

☆☆☆☆☆