酔いどれ堕天使の映画日記

劇場やテレビでみた映画の鑑賞記。原則ネタばれなし!

西川監督の『ディア・ドクター』キネ旬ベスト1!

2010年01月13日 11時20分26秒 | My Favorite Movie
恒例のキネマ旬報ベストテン
昨日、2009年公開作品の結果が発表され
1位に見事、西川美和監督、脚本の『ディア・ドクター』が選ばれました。
個人賞でも脚本賞=西川監督、主演男優賞=笑福亭鶴瓶と
2006年の『ゆれる』の第2位(1位は『フラガール』)につづく快挙です。

小生の年間ベスト(2009年12月2日記事)が批評家と同じというのはむしろとまどいますが
とりもなおさず同監督を買っているひとりとしてはうれしい結果です。

話はかわりますが同じキネマ旬報社から
「オールタイム・ベスト 映画遺産200」という大仰なタイトルの新刊ムックが発売されていてタイトルと中身が一致しない編集になかばあきれながら眺めておりますが
100人ほどの評論家、映画人、文化人?による“心にのこる”映画ベスト10の選者のひとりに西川監督が含まれていました。

小生とちょうどひとまわり若い年齢の西川監督ですが
『復讐するは我にあり』、『家族ゲーム』など映画の好みも似た傾向があり
勝手にシンパシーが増した次第。

今もっとも次作を期待しているつくり手のひとりです。

『野良犬』(1949・日)-My Favorite Movie-

2009年08月27日 16時45分06秒 | My Favorite Movie
今年の夏は盛夏と呼ぶにふさわしい日をあまり経験することなく終えようとしています。
過ごしやすかったといえばいいのでしょうが
やっぱり夏は暑くなくては物足りない・・・?

さて、うだるような夏の暑さがつたわってくる映画といえば
迷わずこの黒澤明の初期の名作が頭にうかびます。

終戦間もない盛夏の東京。
バスのなかで拳銃を掏られた三船敏郎扮する新米刑事村上。
ベテラン刑事の佐藤(志村喬)にたすけられ
自分の拳銃で犯行を重ねる犯人を求めさまよい歩きます。

あまたの刑事ものの原型にして黒澤明の完璧な傑作。

拳銃を奪われた村上が女スリのお銀を尾行するシークエンス。
代役?をつとめた助監督の本多猪四郎が闇市を彷徨する長いながい一連のカット。
村上とのうだるような暑さのとたん屋根の交番からのがれ
佐藤とアイスキャンディーを頬張るピストル屋の女の千石規子。
わずかな休憩時間をむさぼるように楽屋にいっせいに倒れこみ息を切らす踊り子たち。
扇風機を直に顔にあて佐藤らの質問にけだるそうに答えるレビュー演出家の千秋実。
うまい!

いちいちあげたらきりがないほど
全編これでもかというほどスクリーンから暑さがつたわってきます。

夏だけでなくセリフを暗記するほど一年中みていますが
なぜか昨日も無性にみたくなりました。

しかし、DVDを取り出してさあみようとしたとたん
ショー君の“となりのトトロ”にもっていかれてしまいました・・・。

いずれにしても黒澤映画のなかでも特に好きなお気に入りの一本なのです。

☆☆☆☆☆





『恋愛小説家』(1997・米)―My Favorite Movie―

2009年04月17日 09時53分27秒 | My Favorite Movie

ここのところ早い時間から毎日飲んでます。
しかも大量に食べ、飲んでます。

約一ヶ月ほど続いた断酒もお花見の日を境にぷっつり。


さて、飲みながら何故か連日のように取り出してきてしまうのがこのDVD。

何度みても大好きでいまでも繰り返しみている作品です。

みるたびに何ともしれない幸せな気分にひたれるからでしょうか。
今みたいにちょっと落ち込んでいるときにはなおさらです。

それにジャック・ニコルソン演じる主人公のメルヴィンは
とても他人とは思えないですし・・・?

☆☆☆☆☆

『ぐるりのこと。』一矢報いる!?―第32回日本アカデミー賞―

2009年02月20日 23時01分47秒 | My Favorite Movie
今日も早くから飲んで一眠りしたらテレビで日本アカデミー賞をやっていました。

主要部門を『おくりびと』が総なめするという予定通り?の結果。

そんななかで小生の2008年ベスト作である『ぐるりのこと。』
(2008年8月16日当ブログ掲載、関連記事12月15日)

孤軍奮闘。
木村多江が見事、“最優秀主演女優賞”の栄冠に輝き、一矢?報いてくれました。

ちなみに2月4日の「第63回毎日映画コンクール」では
橋口亮輔監督が脚本賞
本作『ぐるりのこと。』は大賞『おくりびと』の次点ということなのでしょうが
“日本映画優秀賞”を受賞しています。

さらに前日2月3日のブルーリボン賞では
木村多江が主演女優賞
小生絶賛のリリー・フランキー氏が“新人賞”を受賞!!!

ちょっと溜飲さげてます・・・。

アカデミー賞の憂鬱

2009年02月19日 21時51分36秒 | My Favorite Movie
今夜も飲んでます・・・。
体重も増えてます・・・。

週明け米アカデミー賞が控えていることもあって
この時期の恒例のアカデミー賞受賞作のTV放映
すでにみている作品が多いため酒を飲まざるを得ないというのは当然言い訳です。

さて、今年で81回目を数えるアカデミー賞ですが
過去の80にのぼる“作品賞”受賞作

もちろんその年のアカデミーが選ぶベストですから勿論名作なのでしょうが
意外にも“My Favorite”な作品がそんなに多くないのも事実です。

一番最近の受賞年でも『クレイマー・クレイマー』(1979)まで遡らねばなりません。
何と30年近く飛び越しちゃいました!

以下、アカデミー作品賞受賞作、年代順に“My Favorite”な作品は

アニーホール(1977)
ゴッドファーザーⅡ(1974)
ゴッドファーザー(1972)
真夜中のカーボーイ(1969)=2008.7.29当ブログ掲載
夜の大捜査線(1967)
失われた週末(1945)=2008.7.9同


今年は他賞を先行受賞の『スラムドック$ミリオネア』が本命ですが
アカデミー賞ならではの番狂わせがあるのかが注目です。

でも、どの作品が受賞しても10年後、20年後にはたして・・・・?



『ルシアンの青春』(1973・仏)

2008年12月19日 17時44分42秒 | My Favorite Movie
ルイ・マル監督作品のなかで特に好きな映画です。

今日のBS2で放送していたのを見直しました。

独軍占領下のフランスの田舎まちが舞台
無知で素朴な農家の小せがれ、ランコム・ルシアン(ピエール・ブレーズ)
レジスタンスにあこがれるも叶わず
ひょんなことからナチの手先となってしまいます。
やがて時代に翻弄されていくルシアンのはかない恋と青春をえがきます。

30年以上前、確か中学か高校のときみたきりですが
子供だったあのとき以上に良かったです。

ルシアンが深くかかわるユダヤ人の仕立て屋の一家
パリから逃げてきたおばあちゃん、おとうさん、美しいひとり娘のフランス(オロール・クレマン)
3人それぞれの描写がすばらしかった。
お父さん役のオルガー・ローウェンアドラーの名演がひかります。

ラストのルシアンとフランス2人のルイ・マルお得意?の思わせぶりなシークエンス
忘れられません!

この作品ではジャンゴ・ラインハルト楽団の演奏がつかわれています。
この不世出の“ギター弾き”ジャンゴ・ラインハルトをこの映画ではじめて知り
テープにいれて繰り返し聴いたことを思い出します。

しばらく遠ざかっていましたが
この間、また聴きたくなってこの映画の冒頭に流れる名曲“Minor Swing”を購入したばかりでした。

☆☆☆☆★


『野獣死すべし』(1980)-My Favorite(Cult)Movie-

2008年11月16日 12時51分43秒 | My Favorite Movie
松田優作

先月25日、BSJapanで放送の二十回忌特別番組をみながら
この不世出の俳優が旅立ってからそんなに月日がたっていたとは
にわかに信じられない感じがしました。

松田優作の主演する映画で一本を選べと言われたら
躊躇することなくこの村川透監督の名作を選びます。

そればかりか、小生にとっては
今村昌平監督の『復讐するは我にあり』(1979)に追随する
数少ないベスト作の一本です。
この作品も年に数回はDVDをとりだしてきてはみています。

松田優作のこの映画の主人公、伊達邦彦への役作りの執念は
巷に喧伝されるエピソードをあげるまでもなく画面に横溢しています。

本人が気に入るまで何度となく書きなおさせたであろう丸山昇一の脚本

伊達が一人部屋に帰って陶酔する大好きなショスタコーヴィチの5番

共演者もよかった。

凶暴性を発露するもやがて伊達の圧倒的な狂気の前に猫のように怯える加賀丈史

銃の売買の極短いやりとりながら強烈な印象を残す東北訛りの佐藤慶

そして白眉は“リップ・ヴァン・ウィンクル”!!!
室田日出男との鬼気迫る対峙は全編どのシーンをとっても痺れます。

角川映画というきわめて商業的な位置づけの作品でありながら
役者と作り手の稀有な才能が恐ろしいほどに結実した稀作であり
名テーマ曲とともに独特なアトモスフィアに覆われた
フィルムノワール屈指の傑作なのです。

☆☆☆☆☆



追悼 緒形拳 『復讐するは我にあり』(1979)

2008年10月07日 16時34分38秒 | My Favorite Movie
緒形拳さんが5日、71歳でお亡くなりになりました。

緒形さんといえばわが国を代表する実力派俳優であり
出演作も数多ありますが
私にとっての永遠の緒方拳は“榎津巌”です。

榎津巌(えのきづ いわお) とは
佐木隆三氏が実際の事件をもとに書いた直木賞小説
『復讐するは我にあり』に登場する
稀代の詐欺師でもある連続殺人犯の男の名前です。

今村昌平監督がこの小説を映画化した作品のなかで
緒形さんは
この榎津という複雑で捉えどころのない人物像を
いきいきと演じて実にみごとでした。

じつは『復讐するは我にあり』(1979)
小生のお気に入り作品のベストのひとつなのです。
(この作品については、大好きな巨匠今村昌平監督の他の作品とともにまた別の機会に書きたいと思ってます・・・。)

『神々の深き欲望』(1968)で俳優のエゴに嫌気がさし
ながらく劇映画から遠ざかっていた今村監督
この『復讐するは我にあり』こそ
今村監督が「俳優ってなかなか捨てたものじゃない!」とみとめ
再び劇映画の世界にもどるきっかけとなった記念碑的作品でもあります。

その「捨てたものじゃない!」のエピソードのひとつが
他でもない緒形さんなのです。

冒頭、榎津がわずかな金をとるため
専売公社の集金人(殿山 泰司)を殺害するシーンがあるのですが
言葉巧みに雑木林に連れ込んで殺人を犯した後
手についた被害者の血を自らの小便をかけて洗い流します。

これは榎津を演じる緒形さん自身からでた咄嗟のアイデアだったといいます。
作品では実際の殺人現場で撮影がおこなわれたとのことですが
このリアルな役作りに流石の“イマヘイ”もいたく感心したといいます。

役者としてつねに真摯な姿勢を貫き
極限まで役に没入していたからこそ得られた発想でしょうし
緒形拳という役者さんをよく物語るエピソードだと思います。

あのイマヘイをも唸らせた名優
緒形拳さんのご冥福をお祈りします。

☆☆☆☆☆

真夜中のカーボーイ ―My Favorite Movie―

2008年07月29日 22時00分15秒 | My Favorite Movie

英国人の監督ジョン・シュレシンジャーの名作
『真夜中のカーボーイ』(1969)です。

先ほどDVDを取り出してきて見ました。
思い出したように繰り返し見る作品です。


1969年当時のニューヨークを見事に表現しているのですが
2008年の今見返しても見ても少しも古びることはありません。

私見では東京もニューヨークも
その殺伐さと相反する都会の魅力というべき雰囲気があるのだと思いますが
そうしたものも見事に表現している代表的な作品だと思います。


テキサスのホームタウンからのがれ
ニューヨークへ男娼として“出稼ぎ”にきた
ジョン・ボイド演じるカウボーイの“ジョー”。

そのニューヨークでジョーが出合う文無しでペテン師の小男
ダスティン・ホフマン演じる“ラッツォ”(どぶねずみ)ことリコ!

やがて都会で取り残されたように寄り添うように暮らす二人。

映画の後半はこのジョーとラッツォの
見事までに不思議に美しい友情劇へとつながっていきます。

特に文字通り都会をどぶねずみのように這いずりまわるリコの
ダスティン・ホフマンは映画史に残る名演技でしょう。


そしてジョーは自分のためにではなく
リコの助けるため、リコの夢をかなえるため路上にたちます。

このあたりからラストシーンまで私の涙はとまりません。

ニルソンが歌うタイトルソング“うわさの男”
全編を流れるジョン・バリーの名テーマ曲
本当に素晴らしいです。

念願かない眩く光の中で二人を乗せたバスはフロリダに向かいます。
都会の呪縛から解放され
友情と幸せに満ち溢れた二人の表情

そしてあのラストをむかえます。

私が愛してやまない永遠の名作映画です。

☆☆☆☆☆


私は当時キングレコードから発売されたレコードを愛聴しています。






アニマルハウス、ブルース・ブラザーズ(ジョン・ベルーシ&ジョン・ランディス)

2008年07月23日 22時20分18秒 | My Favorite Movie


私もかなり世間に対して斜にかまえたところがありますが

ジョン・ランディスの計算しつくされたくだらなさ(失礼!)には

頭が下がります。

本日「ブルース・ブラザーズ」のDVDを見返しました。

おなかを抱えて笑いました。

大好きな映画です。

しかし、こうした制作費をかけ、著名人総出演の映画より


彼らの映画の原点はやはり「アニマルハウス」ではないでしょうか。


そのものズバリの下ネタ満載で閉口される方もいらっしゃるかも知れません。

事実この映画を劇場ではじめてみた高校生になったばかりの私もそうでした。

それが、大学時代すっかり自身がアニマル化してからは

心から楽しめる作品となりました。

このばかさ加減は好き嫌いがはっきりすると思いますので
無理にオススメしませんが

食わず嫌いではないとおっしゃる方は是非!

もちろん、これらの作品には☆評価は邪道です・・・。




「ブルース・ブラザーズ・バンド」自体はいわゆる“ブルース”はほとんど演奏しませんが
出演した敬愛するブルースの大御所ジョン・リー・フッカーには痺れます!
ブラザーズ達がたずねるアリサ・フランクリンの夫で元バンド仲間の男が経営するソウルフード店前のストリートで演奏しているのがそうです。 

残念ながら映画で歌われた「ブン・ブン」ははいっていませんが
映画をみていいと思われた方、よろしかったら一度聞いてみてください。







続夕陽のガンマン―My Cult Movie―

2008年07月19日 23時58分06秒 | My Favorite Movie
セルジオ・レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン』(1966)です。

カルトのジャンルで取り上げるのはどうかと思いましたが

私にとって特別に思い入れのある作品なのであえて・・・。

忘れもしない小学校6年の冬休み
日曜洋画劇場がこの作品との出会いでした。

エンニオ・モリコーネの
あのコヨーテをモチーフにしたテーマ曲が流れてきたとたん
決して大げさでな表現ではなく、
全身の毛が総立ち、たちまち魂を奪われました。
劇中の曲のメロディがその後数週間は頭からはなれませんでした・・・。

事実、中学生になって映画のサントラレコードを購入するまで
映画のメロディをわすれないよう
自分でうたってテープに吹き込んでいたくらいです。

今でこそ巨匠と呼ばれるモリコーネですが
当時はそんなに絶賛される風潮でもなく
モリコーネ作曲の全てのサントラアルバムを求め
なけなしのお金を握りしめて
レコード店を探し歩いた記憶があります。


さて、肝心の本作ですが

南北戦争も終盤をむかえる時代の米国が舞台です。

ビル・カーソンという男が言い残した埋蔵金のありかをめぐって

The Good(好漢)のブロンディー(クリント・イーストウッド)

The Bad(悪漢)のエンジェル(リー・ヴァン・クリーフ)

The Ugly(卑劣漢)のトゥーコ(イーライ・ウォーラック)の三人が

戦争を背景に繰り広げる三つ巴の駆け引きの様子をえがいた
マカロニ・ウェスタン(本国ではスパゲッティ・ウェスタン)の傑作です。

淀川先生が解説の中で
たしか舞台劇を映画化したみたいなことをおっしゃっていた記憶があるのですが
定かではありません。

ただ、単なるマカロニ・ウェスタンの枠をこえた
力量のある作品であるという趣旨は理解できました。

もちろん『荒野の用心棒』からおなじみのクリント・イーストウッドには
かっこよくて痺れました。

しかし、何故か“The Ugly”を演じる
イーライ・ウォーラックの執拗な卑劣漢に不思議に魅了されたのを覚えています。

“悪漢”を演じるリー・ヴァン・クリーフの魅力がわかったのは
もう少したってからですが・・・。

いずれにしても凄いキャストです。

過剰なほどのクローズアップの多用

執拗なまでの人物描写 といった

監督レオーネ独特の世界観は本作でも不滅です。

作家主義というのでしょうか
自らのやりたいことだけに傾斜していく後年の姿勢も素晴らしいですが

本作では
そうした監督のわがままな部分と
エンターテーメント作品として観客に喜んでもらおうという心意気みたいなものが
見事に調和していて私は好きです。

幸い現在は3時間近いオリジナル盤がDVDで簡単に手に入る時代です。

TV放映当時の山田康雄、納谷悟朗、大塚周夫らの名吹き替えを堪能するのもよし

私はその日の気分で選んでいます。

セルジオ・レオーネ監督の最も好きな作品であるばかりか
私にとっては、今でも非常に愛着のある作品です。

感謝!!!

☆☆☆☆☆


私は今でも当時購入したアナログレコードを愛聴しています。
不朽の名作です!




シャイニング ―My Favorite Movie―

2008年07月19日 00時51分28秒 | My Favorite Movie
スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980)です。

この作品も好きでよく(特に暑い今の季節!)取り出してきては見ています。

傑作ぞろいのキューブリック作品ですが
特に『時計じかけのオレンジ』と本作は
テイストにとても共感できるというのでしょうか
私のお気に入りの映画です。

学生時代、劇場公開時に見たときは
「これ、ホラー映画?」という印象でしたが

そうしたジャンルを越えた普遍的な映像の力ゆえでしょうか

時とともに色あせない
みるたびに表現の新鮮さを感じさせる傑作だと思います。


まず、冒頭の空撮からしびれます。

ベルリオーズの「幻想交響曲」第五楽章のメロディーが
巧みな編曲によって悪魔の叫びのように響きわたるなか
ジャック・ニコルソンの運転する車が切り立った崖の道を
物語の舞台となるホテルに向かって走りさっていきます。

その姿を俯瞰でとらえるシーンから
すでに我々はキューブリックの世界にはいっています。

物語はスティーブン・キングの原作を下敷きにしたものですが
のちに原作者ともめるほどキューブリック独特の世界観で描いていきます。

そして、何度見返しても感情移入してしまう
ジャック・ニコルソンの怪演ぶり!!!

また監督にしごかれノイローゼ一歩手前だったという
妻役のシェリー・デュヴァルの表情は
それ自体があの“ムンクの叫び”を連想させるほど鬼気せまるものがあります。
しかし、実際のところは怖すぎて何故か笑ってしまいますが・・・。失礼!

相変わらず映像技術に懲りまくり
あらたな表現を次から次へとうちだしてきたキューブリックですが
この映画で多用されるステディーカムカメラの映像は
当時の映画小僧にはまさに驚きものでした。

一歩間違えば下衆に陥るこうした題材を扱いながらも
キューブリックの映像表現力は
この作品に独特な静謐さを醸し出し
まれに見る気品さえ漂わせ一歩も譲りません。

敬礼!

☆☆☆☆☆



『2001年宇宙の旅』では作曲家に依頼したオリジナルスコアが気に入らず
不採用とし(無論作曲家にお金は払ったそうですが・・・)
ご存知の名曲を採用したとの逸話もあるほどクラシックに精通し
バッハからオペラ、現代音楽まで作品に多用したキューブリックですから
原典を紹介すればきりがありません。
本文でふれたベルリオーズの幻想交響曲ですが
私が日ごろ聴いているのは、このシャルル・ミュンシュ盤です。






黄金 ―My Favorite Movie-

2008年07月18日 00時19分01秒 | My Favorite Movie
ジョン・ヒューストン監督の『黄金』(1948)です。

この作品、小生が小学生の時分
淀川長治氏が解説するあの「日曜洋画劇場」が初見でした。

もちろん吹き替えなのですが
ハンフリー・ボガード演じる男が
黄金をめぐり仲間を裏切るまでに豹変していく姿に
当時、言い知れぬ恐怖を覚えたものです。

物語はメキシコの港町でその日の暮らしもままならない男3人が
山深く砂金を求め堀あて、しだいに運命に翻弄される話です。

冒頭の食い詰めた主人公の男の境遇
港湾労働の詐欺師まがいの雇い主にだまされながらも
(この男を町で見かけ酒場で殴りあうシーンのカット割り実にうまいです!)
必死に生きようとする姿をみていると
齢を重ねた今
この男に抱く印象は子供の頃とは大きく変化しました。

人生にもがき苦しみながら偶然掴んだ幸運さえも
猜疑心ゆえとり逃してしまう。
このデフォルメされた姿は
我々人間そのもののような気がしてなりません。

対照的に主導役である老人は
砂金を仲間に託し
遭遇した村人に乞われるまま村に行き
川に溺れ意識不明となった子供の命を助けます。

この老人役は監督の実父でもあるウォルター・ヒューストンが演じていますが

後半は“明と暗”“老練と未熟”“諦観と執着”など対照がきわだちます。

そしてこの老人の現在のこうした淡々とした生き様も
過去の自身の度重なる苦い経験と挫折の末
たどりついた境地としてあるのだと気づかされます。


やがて映画はこの老人の高笑いによって幕を閉じます。

「人間生きてりゃなんとかなるさ!」と勇気づけられ

じわりと熱くなる、そんなラストです・・・。

☆☆☆☆☆








太陽がいっぱい ―My Favorite Movie―

2008年07月16日 23時07分07秒 | My Favorite Movie
『太陽がいっぱい』(仏・1960)

中学生の頃、この作品に出会ったあの日の感動を昨日のことのように思い出します。

所謂“ヌーベル・バーグ”と言われた映画が全盛だった当時

監督のルネ・クレマンがこうした誰にでも“わかりやすい”映画を堂々とつくったことに私は尊敬の念を禁じえません。

そして、ルネ・クレマンはこの作品によって私の“最も好きな映画監督”になりました。

主人公のアラン・ドロン演じるトムが自ら殺したフィリップ(モーリス・ロネ)を捨てる荒れ狂った海のシーン
まさに神がかりとしか言いようがありません。

アンリ・ドカ(ドカエ)のカメラ
この人も天才です。
アラン・ドロンが魚市場で彼女を待つシーンのすばらしいタッチ・・・。
何度見返しても嘆息します。

そして、ニノ・ロータの音楽
映画音楽の最高傑作ではないでしょうか。

当初驚きを隠せませんでしたが
尊敬する淀川長治氏の
この作品はトムとフィリップの男の愛がテーマであるという趣旨の解釈

むしろ年齢を重ねるにつれ
また作品を見返すにつれ
しだいにこの解釈をかみしめています。

誰にでもわかりやすく
芸術作品としても一級の
こんな映画の創作にたずさわるのが私の夢です。

すみません、
感情が入りすぎて
これ以上この作品について語ることはできません・・・。

☆☆☆☆☆(+☆)




池波正太郎先生も本書でルネ・クレマンを賞賛されていました。
先生のような映画ファンの大先輩にです。
我がことのようにうれしかったのを覚えています。
本書は70年代封切り当時の作品に対する氏の評価などもあり
先生の映画に対する情熱が偲ばれます。


恐怖の報酬―My Favorite Movie―

2008年07月14日 23時23分00秒 | My Favorite Movie
今回のMy Favorite Movieは

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督

ご存知『恐怖の報酬』(仏・1953)です。

小生のお気に入り映画ベスト10があったなら
必ず入るであろう作品です。

物語は、食い詰めた男達が自らを閉じ込めた境遇から逃れる金欲しさに
突然起きた油田火災を消すために雇われ
火災現場目指してニトログリセリンをトラックで運ぶ話です。

悪路を行くトラック、いつ爆発するかも知れぬ恐怖を背負って・・・・。

このサスペンスだけでも見るものを釘づけにするほどの素晴らしさです。

しかし、かの淀川長治氏が指摘されたように
この作品をおもしろくしているのは
男が男にいだく嫉妬や愛憎のすさまじいまでのドラマにあると思います。

イヴ・モンタンの主人公は突然現れたシャルル・ヴァネルに心を奪われ
自分に心をよせる女や同僚が目に入らぬほど夢中になります。

しかし、そのかっこよさが単なる虚飾であるとわかったとたん
憧れが憎しみに変わり
非情なほどこの男を蔑み、痛めつけます。

ニトログリセリン運搬というサスペンスが後半の物語の主軸ですが
この辺の男達の心理描写、演出が実に見事な作品です。

たまに退屈に感じられるとおっしゃる方もある前半部分ですが
この終盤のドラマのためには一尺たりとも削ることはできません。

もちろんそんな理屈抜きに娯楽作品としても一級です。

モノクロ映画ですが
未見の方には是非ご覧になっていただきたい大好きな作品です。

☆☆☆☆☆