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三題噺:台風十一号、海水温、天気図

2014-08-04 22:55:48 | 日記

 僕の幼馴染の一人は少し変わった名前である。
 台風十一号という名前の女の子で、苗字の読みは台風(たいふう)で名前の読みは十一号(じゅういちごう)である。
 台風一家の長女として生まれた彼女は普段は行動に移すまで長くかかり動きがスローモーだが、身体能力が高く、美しい目をしていて皆に注目されていた。
 僕は今年の8月初旬に彼女と海水浴に行った。
 彼女は更衣室で着替えて、日焼け止めも塗って準備万端で現れ、僕に浮き輪を膨らませるように言ってきた。
 「私、これポンプなしで膨らませるのやりたくないの。口のところ汚いじゃん。おねがい」
 仕方なしに口で膨らませて渡すと、
 「サンキュー、海にはいろーよ」
 そういって海のほうに歩き出し、波打ち際まで来ると足先で海水温を確かめながら、少しゆっくりとした足取りで海に入っていった。
 「波が高くてなんとなく冷たそうに見えたけど、かなりあったかい。海ってこんなに温かいんだっけ」
 その言葉を聞きながら、僕は海の中に入ってクロールをしてみた。
 波が少し高くクロールするのに向いていないと感じすぐにやめて十一号の浮き輪をつかんだ。
 その時に周りを見渡してみると、いつの間にか沖に流されていた。
 「岸まで流れに逆らって泳がないと漂流しちゃうよ。行こう」
 そして、彼女と僕は100m程泳いで岸にたどり着いた。
 そのあとは波打ち際で浮き輪を投げたり、サンダルによる天気占いをやったりで遊び、ほとんど海には入らなかった。
 帰りのバスに乗りながらワンセグテレビで天気予報を見ていると、彼女と同じ名前の台風十一号が接近しており、僕は思わず笑ってそのことを彼女に言うと、自分の父親が自分の生まれたときに発生した台風の名前を付けて、それを役所が受理したことを恨んでいると悲しそうにこぼした。
 天気図では中心気圧が非常に低く、進路予想では来週末に日本に上陸することになっていた。
 そしてその週末、台風の上陸とともに市内の河川が軒並み氾濫して彼女の家は浸水し、その混乱の中で彼女の心の天気図も大荒れになっていたらしく彼女が父親を殴る事件が発生し、彼女の家では内外で大きな被害が発生した。
 彼女は早く結婚して家を出て、名前を変えるのだと僕に言っているが、僕は今のところ金の当てがないので決められないような気がしていて、その提案を受諾できない。結婚願望があるのはうれしいが、結婚の約束をさせようとしてだましてくるのはやめてほしいと思う。



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