・・・前略・・・
スキャケベクはこの悲惨ながんが増加していることに興味を抱いた。
自身の初期の研究に目を向けた彼は精巣がんの前駆細胞として現れる異常細胞に関して
別の注目点を見出した。
「この細胞は胎児に見られるような ごく未分化な細胞だ。
ふつうなら成人の細胞には 胎児の細胞のように見えるものは存在しない。
それは驚くべき現象だった。」
このことは 精巣がんを引き起こす出来事が ごく早い時期
おそらくは子宮内で起こり 発生の再初期の段階で
未成熟になってしまったことを示していると考えられた。
さらに研究を続けるうち 同じような細胞が中絶胎児から数例発見され
精巣がんの原因となる出来事が発生のごく初期の段階で起きたという考えに信憑性を与えた。
スキャケベクは 成人の精巣がんは出産前の出来事が原因だが
思春期にホルモンの刺激を受けるまで病理学上の進展はない との仮説を立てた。
この考えは今では広く支持されている。
研究は 子宮内の男の胎児の発達に何かが影響を与えているかも知れないという
最初の重大な手掛かりをもたらした。
・・・略・・・
子宮内の胎児の発生プロセスは自然の驚異の一つであり
各器官を間違いなく形成し 体内の定められた場所に
きちんと配置するための一連の段階的反応のつながりは
あまりの複雑さから生物学的に解明するのはおよそ不可能だ。
生殖器官の発達も例外ではない。
胎児が男性あるいは女性になるための段階を順序良く踏むためには
然るべきときに 然るべきホルモンが タイミングよく分泌されなければならない。
人間の胎児は 発生の最初の時点ではすべて女性だ。
だが 男性になる胎児は 妊娠六週目ごろになると
男性生殖腺である精巣が左右の腎臓の近くに各一個ずつ分化し始める。
精巣は成熟すると精子を作るが
胎児の段階ですでに男性ホルモンのテストステロンを分泌する。
これが他のホルモンとの相互作用で
男性生殖器の発達を導く一連の動きの引き金を引く。
女性生殖器の原基であるミュラー管は退化し 吸収されてしまう。
精巣は妊娠10週目ごろに腎臓付近から下降し始め
出産直前には陰嚢に到達する。
片方あるいは両方の精巣が下降しないままの場合 停留精巣と呼ばれる。
停留精巣は後にがんにつながることもあり 生殖障害の原因とおなるため
ふつう生後二年くらいで手術して治す。
つづく
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