吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

韓国旅の風景 十

2006年05月07日 07時56分37秒 | Weblog
韓国旅の風景  十 

 初めての大地  
 扶余旅の帰途
 扶余で古都のたたずまいを堪能したのはよいが、論山発の特急列車に乗り遅れてしまった。午後四時台に一本、急行列車があったが、それに間に合うような扶余から論山までの交通関係はバスも時間がずれて駄目、タクシーは来ない、ふとヒッチハイクを思い出して、土手に沿った砂利道へ出た。しばらくすると荷台に藁束を満載した小型トラックが走って来た。
 車は日本のマツダである。
 親指で合図すると止まってくれたので、訳を話して便乗することができた。
 駅に着いたのは麗水始発列車が五分後に到着と言うぎりぎり時間だ。
 上りソウル行きは混みあっていたので入り口近くの通路に新聞紙を敷いてすわった。
 隣りに座っていた学生らしい女の子は、携帯ラジオからのイヤホンを耳にして静かに首を振っている。
 列車のレールの軋みに混じってラジオ音楽が漏れていた。
 聞き覚えの歌だった。
 鳳仙花 ひっそりと
 声もなく かき根のかげに……
 『鳳仙花』…ポンソンファ…である。
 私ももれてくる歌に調子をとって首を静かに振った。
 知人で東京のC大学の先輩でもある、韓明錫(ハンミョンスク)の話。…戦時中、悲しいことがあると在日の朝鮮人学生逹は姫路に集まって…鳳仙花を歌ったという。姫路には母国の暖かい環境があったらしい。
 その時、突然、左耳に物が触れた。
 隣りの娘がイヤホンの片方を親切にも私の耳にさしこんでくれたのだ。
 歌のリズムに合わせて首を静かにふっている私をきずかってくれた優しい心の娘に私は無言で笑みをかえした
 その娘は用事で故郷の木浦(モッポ)に戻っての帰りで、梨花大学の三年生、日本学研究のグループで、岩波の『日本書紀』を教材にして学んでいると言った。