困ったことになった。
前ブレーキが効かない。
ブレーキパッドが擦り減って
交換期が来たのか?
それにしても早いな。
まあ、まずは新品に交換だな。
そう思いながらその日は走り終えて漁村みたいな海辺の集落に宿を求めた。
さて。ブレーキの解説。
このタイプのブレーキ、
ディスクブレーキは大変高性能なブレーキで、CDみたいな金属盤を挟み込んで制動する。
雨でも雪でも全天候で効き、
かつ構造も簡単で、故障も少ない。
自転車に装着されているものも、基本的にはクルマやオートバイと同じものが付いている。
見た目も同じ。
従来の自転車のブレーキは雨や雪では極端に効きが悪くなった。
また、車輪に少しの歪みが生じただけで引き摺りが発生したり、長い下りで徐々に力が落ちてきたり、消耗が早かったり、なかなか質実剛健とはいえなかったが、ディスクブレーキが自転車にも搭載されるようになったことでそれらの欠点は解消された。
革命的だったと言える。
ただ、
昔からのチャリダーには頑固な人が多い。
こういう新しいモノはとりあえず却下。認めない。精神が軟弱だ!と信じている人も多い。
まあつまり、オッサンなのだ。
俺も頭が固い、昔が大好きな昭和生まれなのだが、オートバイ乗りで機械いじりが大好きなことがこのジャンルの理解を良くした。
昔気質のオートバイ乗りだからディスクブレーキの信頼性はよく分かっている。
そりゃあ、ディスクブレーキでしょー!
ということでマイ旅自転車は20年前にはディスクブレーキ化した。
今の旅自転車は前後ともディスクブレーキなので滅法調子がいいのである。
それなのに!
ニュージーランド旅が後半に入ろうというときに、ブレーキが効かなくなってしまった。
それも、前だけ。
前ブレーキは急制動の要、生死に関わるブレーキだ。
困ったな。
こうしてブレーキ修理が始まったのだ。
これが、持参工具の全て。(部品は別)
これで何とかならなければ、お手上げだ。
まずは、この割りピンを引き抜く。
ブレーキを自転車からいったん取り外したり、分解する必要はない。
割りピンは、小さな部品なので無くさないよう注意なのだ。
あんなに奥に、マイナスのネジが!
奥まで届くマイナスドライバーがあるのか、いきなり焦る。
あった!
2つの携行自転車工具セットのなかにそれは無く、
(高額商品なのに)
旅行やキャンプなんかに持っていくビクトリノックスのプライヤーのツールの中にあった。
やれやれ。
回すことができた。
古いブレーキパッドを引き抜いて、新しいものと交換。
抜いて、新しいものを戻して、
ホントにそれで終わり。
難しく考える必要はない。
簡単だ。
しかし、思った通り、
古いブレーキパッドはまだあまり磨耗してない。
バネには右左があるので注意。
パッと見た目はわからんから、よーく見る。
元どおりに戻す。
最後にマイナスネジを締めて、割りピン付けて。
手順は取り外し時と同じ。
再装着完了。
しかし、本当の『?』はこれからだった。
その程度のことでわざわざブログ一本書いたりしない。
ブレーキパッドを新品に交換したにも関わらず、
ブレーキの効きが十分に回復しないのだ。
交換前よりは幾分改善したものの、
少なくともこれでは
「急ブレーキは無理」という状態。
ここから先は写真がない。
修理に「集中」したものだから。
俺の立てた仮説はこうだ。
「ディスクに油が付着したんじゃ?」
取り外したブレーキパッドを見た。
当然、真っ黒だが、それにしても手触りがおかしい。違和感がある。
試しに、
真っ黒なブレーキパッドを、
お湯で洗った。
まだ若干おかしい。
次は、台所洗剤で三度洗いした。
汚れが落ち、メタルの色を取り戻し、
ようやく、本来のパッドのザラザラ感が現れた。
油が付着した?
それもかなりしっかりと、ブレーキが油ぎっていたことは間違いない。
さて。ブレーキを挟み込む側のブレーキパッドがこれなのだから、
車輪側のディスク盤、
金属の円盤もきっとやられていると思った。
再び、車体から取り外した前輪。
金属の円盤が付いている。
何しろ自転車の車輪を丸ごとだから、
今度は、キッチンで洗うわけにはいかない。
車輪は、
部屋のシャワーに持ち込んだ。
海の家、みたいな部屋に泊まっている。
コンクリート床のざっとしたシャワーがあるのだが、ちゃんとお湯は出る。
海から戻ってきて、シャワー直行みたいなコンクリート床のシャワーだ。
俺は自転車前輪の車輪をコンクリート床に転がして、金属円盤を台所洗剤で洗った。
洗ってはお湯シャワー、三回、四回と繰り返した。
こうして、洗いたての前輪は見た目もキレイになった。
祈るような気持ちで車輪を装着。
ブレーキテスト。
キッ!と瞬時に止まった。
ガイドの山小屋品質をクリア。
合格だ。
油をすっかり洗い流すことで、
ブレーキトラブルは改善した。
しかし、なぜこうなったんだろう?
原因は?
まだ、
皆目、検討がつかない。
あくまでも憶測だけど、
町に自転車をどかんと駐輪して、ブラブラ歩きに出たことがある。
ほんの15分くらいで戻ったが、そのあとから調子がおかしくなり、ブレーキはどんどんスカスカになってしまったのだ。
一服、盛られたか。
しかし、妙だ。
自転車にイタズラするために油を持ち歩くやつなんかいるのか?
カッターナイフで車輪をパンクさせたり荷物やシートを切り刻むほうがシンプルだし早いし見た目も衝撃的だ。
わざわざディスク盤に油を?
それはないように思う。
たまたまか?
アスファルトの重油が飛び跳ねた?
わからない。
しかしまあ、油が原因だったことは間違い無さそうだ。
取り外した古いブレーキパッドは、
まだまだ使える厚さなので、取っておく。
綺麗に洗って乾燥させたが、
念のため、表面をビクトリノックス・プライヤーのヤスリで軽く研磨した。
いいザラザラ感。
これで制動力は完璧だ。
それにしても、
毎日、風が強くてかなわん。
明日は山を3つ越える行程が待っている。
プラス、向い風。
「また痩せちゃうなー。」
俺は古タイヤのような腹をポンポン叩きながら、
満足げに笑うのだ。
はっはっは。