ガイド日誌 - 北海道美瑛町「ガイドの山小屋」

北海道美瑛町美馬牛から、美瑛の四季、自転車、北国の生活
私自身の長距離自転車旅
冬は山岳ガイドの現場をお伝えします。

ブッ、ブレーキがっ! 海外ツーリング中のブレーキトラブル ニュージーランド南島自転車の旅

2019年12月07日 | 自転車の旅 海外


困ったことになった。
前ブレーキが効かない。

ブレーキパッドが擦り減って
交換期が来たのか?
それにしても早いな。

まあ、まずは新品に交換だな。

そう思いながらその日は走り終えて漁村みたいな海辺の集落に宿を求めた。


さて。ブレーキの解説。

このタイプのブレーキ、
ディスクブレーキは大変高性能なブレーキで、CDみたいな金属盤を挟み込んで制動する。

雨でも雪でも全天候で効き、
かつ構造も簡単で、故障も少ない。

自転車に装着されているものも、基本的にはクルマやオートバイと同じものが付いている。

見た目も同じ。

従来の自転車のブレーキは雨や雪では極端に効きが悪くなった。
また、車輪に少しの歪みが生じただけで引き摺りが発生したり、長い下りで徐々に力が落ちてきたり、消耗が早かったり、なかなか質実剛健とはいえなかったが、ディスクブレーキが自転車にも搭載されるようになったことでそれらの欠点は解消された。
革命的だったと言える。

ただ、
昔からのチャリダーには頑固な人が多い。
こういう新しいモノはとりあえず却下。認めない。精神が軟弱だ!と信じている人も多い。

まあつまり、オッサンなのだ。

俺も頭が固い、昔が大好きな昭和生まれなのだが、オートバイ乗りで機械いじりが大好きなことがこのジャンルの理解を良くした。
昔気質のオートバイ乗りだからディスクブレーキの信頼性はよく分かっている。

そりゃあ、ディスクブレーキでしょー!

ということでマイ旅自転車は20年前にはディスクブレーキ化した。
今の旅自転車は前後ともディスクブレーキなので滅法調子がいいのである。

それなのに!

ニュージーランド旅が後半に入ろうというときに、ブレーキが効かなくなってしまった。


それも、前だけ。
前ブレーキは急制動の要、生死に関わるブレーキだ。

困ったな。

こうしてブレーキ修理が始まったのだ。


これが、持参工具の全て。(部品は別)
これで何とかならなければ、お手上げだ。


まずは、この割りピンを引き抜く。

ブレーキを自転車からいったん取り外したり、分解する必要はない。


割りピンは、小さな部品なので無くさないよう注意なのだ。


あんなに奥に、マイナスのネジが!


奥まで届くマイナスドライバーがあるのか、いきなり焦る。


あった!
2つの携行自転車工具セットのなかにそれは無く、
(高額商品なのに)
旅行やキャンプなんかに持っていくビクトリノックスのプライヤーのツールの中にあった。


やれやれ。
回すことができた。


古いブレーキパッドを引き抜いて、新しいものと交換。

抜いて、新しいものを戻して、
ホントにそれで終わり。
難しく考える必要はない。
簡単だ。

しかし、思った通り、
古いブレーキパッドはまだあまり磨耗してない。


バネには右左があるので注意。

パッと見た目はわからんから、よーく見る。


元どおりに戻す。
最後にマイナスネジを締めて、割りピン付けて。
手順は取り外し時と同じ。


再装着完了。
しかし、本当の『?』はこれからだった。

その程度のことでわざわざブログ一本書いたりしない。

ブレーキパッドを新品に交換したにも関わらず、
ブレーキの効きが十分に回復しないのだ。
交換前よりは幾分改善したものの、
少なくともこれでは
「急ブレーキは無理」という状態。

ここから先は写真がない。
修理に「集中」したものだから。

俺の立てた仮説はこうだ。

「ディスクに油が付着したんじゃ?」

取り外したブレーキパッドを見た。
当然、真っ黒だが、それにしても手触りがおかしい。違和感がある。

試しに、
真っ黒なブレーキパッドを、
お湯で洗った。

まだ若干おかしい。

次は、台所洗剤で三度洗いした。
汚れが落ち、メタルの色を取り戻し、
ようやく、本来のパッドのザラザラ感が現れた。

油が付着した?
それもかなりしっかりと、ブレーキが油ぎっていたことは間違いない。

さて。ブレーキを挟み込む側のブレーキパッドがこれなのだから、
車輪側のディスク盤、
金属の円盤もきっとやられていると思った。

再び、車体から取り外した前輪。
金属の円盤が付いている。
何しろ自転車の車輪を丸ごとだから、
今度は、キッチンで洗うわけにはいかない。

車輪は、
部屋のシャワーに持ち込んだ。

海の家、みたいな部屋に泊まっている。
コンクリート床のざっとしたシャワーがあるのだが、ちゃんとお湯は出る。

海から戻ってきて、シャワー直行みたいなコンクリート床のシャワーだ。

俺は自転車前輪の車輪をコンクリート床に転がして、金属円盤を台所洗剤で洗った。

洗ってはお湯シャワー、三回、四回と繰り返した。

こうして、洗いたての前輪は見た目もキレイになった。
祈るような気持ちで車輪を装着。

ブレーキテスト。

キッ!と瞬時に止まった。
ガイドの山小屋品質をクリア。
合格だ。

油をすっかり洗い流すことで、
ブレーキトラブルは改善した。

しかし、なぜこうなったんだろう?
原因は?
まだ、
皆目、検討がつかない。


あくまでも憶測だけど、
町に自転車をどかんと駐輪して、ブラブラ歩きに出たことがある。
ほんの15分くらいで戻ったが、そのあとから調子がおかしくなり、ブレーキはどんどんスカスカになってしまったのだ。

一服、盛られたか。

しかし、妙だ。

自転車にイタズラするために油を持ち歩くやつなんかいるのか?

カッターナイフで車輪をパンクさせたり荷物やシートを切り刻むほうがシンプルだし早いし見た目も衝撃的だ。

わざわざディスク盤に油を?

それはないように思う。

たまたまか?
アスファルトの重油が飛び跳ねた?

わからない。
しかしまあ、油が原因だったことは間違い無さそうだ。


取り外した古いブレーキパッドは、
まだまだ使える厚さなので、取っておく。
綺麗に洗って乾燥させたが、
念のため、表面をビクトリノックス・プライヤーのヤスリで軽く研磨した。

いいザラザラ感。
これで制動力は完璧だ。

それにしても、
毎日、風が強くてかなわん。

明日は山を3つ越える行程が待っている。
プラス、向い風。

「また痩せちゃうなー。」

俺は古タイヤのような腹をポンポン叩きながら、
満足げに笑うのだ。

はっはっは。











羊が溢れ出してきた! オマラマ ー クロウ ー ワイマテ ニュージーランド南島自転車の旅

2019年12月03日 | 自転車の旅 海外


ニュージーランドも先進国の一員であることに疑いはない。
ただし、ネット環境はいろいろ微妙だったりする。

iPhoneを必死に凝視しながらようやくブログを書き終えて、少し冷ましてから校正しようと「下書き保存」したら、

スッ飛んでいた。
なんてことが起こる。

油断ならん。

都市部はともかく農村地帯(ほとんど農村地帯だが)は、いわゆるisdnくらいの感じで、利用の集中する夜9時前後など、
ダイヤル回線並みになり、
頻繁に切断したり、
ついには信号が消滅したりする。

この時間に書き上げたブログも、回線の情緒不安定のどさくさに紛れて消滅したりする。

まったく油断ならん。


さあ、消滅したブログを書き直すぞ!

大作の消滅ショックで1週間以上放置して以来、イイニクの日のブログが先にあがり、以降の更新はストンと止まっている。

さあ、きょうこそ。

でも、
油断大敵なのだ。


11月下旬、
俺はオマラマからワイタキ川に沿って走る。


このワイタキ川はタスマン氷河を源流に、サザンアルプスの水を集めて太平洋を目指す。

ワイタキ川は中流域に、あの有名な
テカポ湖と、プカキ湖をもつ。
この2つの人工湖をはじめ、流域にはダムが行列を為していて、日夜水力発電に励んでいる。
その発電量はニュージーランド全体の約半分になるというから驚きだ。

テカポ湖もプカキ湖も、もともとは自然の小さな湖だったそうだが、その地形が注目されて水力発電ダム化されて今の姿がある。

この2つの湖はカナルと呼ばれる人工水路で結ばれて、その水は徹底的に、完膚なきまでに発電に利用されている。

北海道美瑛町の「青い池」もそうだが、
実は観光客が『大自然凄いー」って感動しているものは、実は国策土木事業の結果だったりするのだが、まあその話はもうよそう。

俺が何故ここまで来て、
あの有名な「テカポ湖」を露骨に回避するのかは、何も、
「一泊最低でも3万円」にビビっているだけではないのだ。

調子に乗ってんじゃねーよ発電ダム湖のクセに。
なんてことは全然思ってはいないです。
はい。


ワイタキ川沿いには発電所の従業員のための小さな町がいくつかある。


こんな風景が続くのだが、
ん?
何かが写り込んでいる。


商用ヘリコプターが飛び回っている。
たぶん、エニシダ駆除剤の散布のようだ。


こういうダムがいくつもあり、
まるで段々畑のようにダム湖が連なる。


僅かに残る、昔ながらの河川。
しかし、この下流にはまたダム湖が待っている。


昼メシ時におしゃべりした奥さまチャリダーと抜きつ抜かれつ。


ブラザーと俺。
クロウの町の公園にて。

元オールブラックスのキャプテン、
リッチーマコウは2011年のワールドカップでオールブラックスを優勝に導いた。
オアマルの北にあるこのクロウで育ったそうだ。

今は引退して商用ヘリコプターのパイロットになり、そのへんを飛び回っているそうだ。

そのクロウで一泊。

翌朝、ワイタキ川を向こう岸に渡り、ワイマテに向かう。

牛が迎えてくれた。


牛が俺に気付いて走り寄ってくる。


わらわらと集まってきた。

俺が走り出すと、追いかけてくる。


ニュージーランドの田舎風景そのもの。

何やら先のほうでクルマ同士が停止して、おしゃべりしている。
どんだけユルイんだよ!笑

その理由は、まもなくわかる。

わー!

羊が溢れてる!

後ろからは犬がワンワンしていた。
国道は何もクルマだけのものではない。

チャリダーの自転車が走ってもいいし、
トホダーが歩いてもいいし、
ポコダーは馬で歩いてもいい。

羊だって近所の牧草地に歩いて移動なのだ。


まるで「街道」みたいだ。

ガードレールではなく、石垣だ。


古い橋。

Give way(向こう側に先に譲ってね)
の標識があり、譲り合いの一方通行になっている。


防風林が青空に映える。


峠道。
ハァハァ、ゼェゼェ…


峠の頂上が見えてきた。


標高がゾロ目だった。


何?

酒場。
古い英語では酒場のことをHOTELという。

宿泊できないが、開拓時代には
酒場=泊まる部屋がある
だったので、その名残。

今もなお、ニュージーランドはじめオーストラリア、スコットランドなど、イギリス系の国ではパブ(酒場兼食堂)には宿泊を併設しているところは多い


何のアート?
無数の靴が引っ掛けられている。

時にブラジャーだったり、
時に長靴だったり。
時々見かけるこの手のアート。

正直よくわからない。


エニシダの谷。


えらいこっちゃ!


気温ぐいぐい上昇。
体感的には気持ちいい。

けど。

あちこちでアスファルトが崩壊し始めていて、自転車に溶け始めたアスファルトの油が跳ね飛んで付着して大変。

ニュージーランドのアスファルト、
脆弱すぎる。


ワイマテの町に着いた。


町の入り口の穀物サイロが、

なかなか素敵だ。

ポツンと田舎町、ワイマテ。
俺の好きな町だ。

今年は南島の西海岸の天候が乱れていて、
西海岸の自転車旅を断念した。

クイーンズタウンからは内陸周りで東海岸カンタベリー平野を目指し、三大峠のひとつリンディスパスを越えて、ようやくまたカンタベリー平野に戻ってきた。

明日からまたカンタベリー平野を走るのだ。

向い風が俺を待ち構えている。

明日は11月29日、
イイニクの日。

向い風に備えて、
明日はどーんと、

「肉を食うぞ!」

俺は空を仰ぎ、そう誓うのであった。















向い風、遠い山。リンディスパスを越える。 クイーンズタウン ー クロムウェル ー リンディスパス ー オマラマ ニュージーランド南島自転車の旅

2019年12月02日 | 自転車の旅 海外


クイーンズタウンから先は、
東海岸寄りに北上すると決めた。
野生的で荒々しい西海岸の旅はこの上なく魅力的ではあるものの、
西海岸の天候は安定せず(毎度のことだが)
天候待機を繰り返せば日程が足りなくなる。


クイーンズタウンを出て1時間も走れば緑豊かな風景になる。
湖のほとりでランチしたりする。
焼いてないパンにバナナを挟んだだけでも美味に感じる。


国道沿いに自転車専用道路がある。

こういうサイクルパスは、近年至るところで見られるようになった。多くは廃線跡を使用したり、旧道を再整備したり、農道を借りたりして繋いでいる。過疎地域活性化の『要』と言えるかと思う。

アスファルト舗装しないため比較的安く済む割には観光投資効果が極めて高い(つまり地域が『がっぽり儲かる』ということだ)ということに気づいた国や行政や地元が積極的になった結果といえる。

残念ながら日本人には無理だ。

仮に整備するとしたらロードバイク乗りの人たちが黙ってないだろう。
あの最近よく見るロードバイクという競輪みたいな自転車は未舗装路を走れない。

「なぜ舗装しないんだ危険だろ何かあったらどーのこーの」
「舗装しろアレもコレもやれ。あーだこーだ」
ゴネて終了。

アスファルト舗装はカネがかかる。
すごく高い。
うちの、あの猫額な駐車場ですらアスファルト舗装300万円と言われ断念した。

舗装は凄く高いのだ。
未舗装は安あがりだ。

過疎地域に整備する自転車専用道路に何億もかけられるはずがない。

優れた構想も妄想で終わる。
足の引っ張り合いの末に。

舗装の話ではないものの、
そういう不毛な会議をいくつか見てきた。

日本では無理だ。
残念な国だ。


古い橋、現る。


この開拓時代の橋は耐用年数を過ぎたので引退しているが、
再整備して「遊び」に使われている。
例えば『バンジージャンプ』とか。

引退した古い橋を再利用して「遊び」に使うなど、日本では考えられない発想だ。
日本ならば、
「何かあったらどーするんだ、あーだこーだ」となり、
「遊びなど、けしからん」となって終了。

それが日本だ。


もちろん自転車で走ることができる。
バンジーの後ろを通り過ぎていく。


近年、オタゴ地方では、牧場の減り方が著しい。
牧場は、ぶどう畑に変わり、ワイナリーになった。
牧童たちはワイナリーオーナーになり、お金持ちになった。

『農家が大金持ち。』

この国では普通に見られる。
特に、オタゴ地方のように、周辺に著名な観光地を抱える地域では観光との直接的間接的な相乗効果が顕著に働き、結果、「大金持ち農家」が増えた印象がある。


お!
俺の好きなオタゴワインの畑じゃないか!
ここで育ったのか〜。
しみじみ刺さる。


凄いところ通ってきた。


落石多発地帯だったらしい。

小刻みに小さな峠あり。
ハァハァ、ゼェゼェ。

明日はでかい峠を越えるからということで、
クロムウェル宿泊では肉を食う。
スーパーマーケットで買ってきて自炊だ。


パンがデカくて入らない。笑


翌朝、少し早めに出発。
この橋を渡ったら左へ。
110km先のオマラマに向かうのだが。


クソ遠い上、峠越えなのだ。


しかも向い風じゃないか。
でも写真には風が写らないぞ!!


最初で最後の集落「タラス」で休憩する。
ここから先、峠越えが始まる。


ニュージーランド3大峠は、
アーサーズパス
ハーストパス
そしてこの、リンディスパス。


しかしまあ、でかい。


携帯は圏外。
ひたすら僻地。


遠い。


でかい。


と、遠い…。


ようやく先が見えてきた。


峠だけならまだいい。
朝からずっと向い風と戦ってきた。
足が攣り、腿やふくらはぎが痙攣する。

何度も休み、日本から持ってきた
『芍薬甘草湯』(筋肉の攣りの漢方薬)
を飲んだりしながら標高を稼いできた。


最後は歩いた。
歩いたほうがずっと早い。


ラストは歩いて登頂。


しかし、まだ先がある。


下りも遠い。
長すぎる下り坂だけど、どーん!と行けたのは最初だけで、
徐々に向い風に押し戻される。

下りなのに、ペダル漕いだ。


110kmを11時間もかけてオマラマのキャンプ場に到着。
もう夕方の7時になっている。
早くしないとスーパーマーケット閉まる。

降参だ。