珠玉の映画に出会った。
邦題名「善き人のためのソナタ」はここ数年で最も不当に評価の低い映画ではないか。
もっと話題になっていいはずだ。
アカデミー賞(外国映画)は受賞したもののゴールデングローブなどはとっていない。
Ulrich Mühe の演技はケビン・スペイシーを彷彿とさせる雰囲気で、徐々に変化する内面をうまく表現している。
邦題名は不運の舞台監督アルベルトが準主役の脚本家に送った楽譜のタイトルで、映画中で主人公が盗聴器を通じてこのピアノ演奏を聴く。
この曲は善人の琴線に触れる筈だというのが題名の意味するところ。
是非、この映画を多くの人に見てもらいたいので、ネタがばれない程度にとどめておこう。
舞台は東ドイツ。
言論統制の中心的役割を担っている集団と、その体制の中でもがいている民主的な芸術家たちの生き様を描いている。
一方通行の人間関係(盗聴やビデオカメラによる監視)と秘密を持った人々の苦悩が縦糸だとすると、その中で変化していく人間の描写が横糸である。
映画中でも語られる通り、人間は生まれ変わることができるとこの映画の製作者は信じている。
鬼のシュタージのなかに一人くらい異端児がいてもいい。
収集したデータを緻密に解析できる諜報員だからこそ芸術家個人や人間関係を深く理解でき、音楽や舞台芸術の助けを借りて人間性を取り戻せたのだろう。