アドビ ワラビー (Adobe Wallaby)

アドビ社がフラッシュを HTML5 に書き換えるソフトを発表した。
意外と言えば意外だが、よく内容を検討してみると意図が見えてくる。

まず事実の整理から。
１．アップル社とアドビ社がフラッシュを巡って対立している。
２．その結果、新規出荷されるマックにはフラッシュがインストールされていない。
３．１億人以上利用者がいる iPhone をはじめ、 iOS デバイスではフラッシュの視聴がしづらい（ほぼ不可能と言って良い）
４．フラッシュ・プロを使っているウェブデザイナーが既に多数存在する。

広告関連の仕事をしている人にとって、 iOS 機器の利用者を無視するというのは自殺行為だ言うことはすぐに推論できる。
あまりにも数が多すぎる。
現況ではクライアント側から HTML5 を使ったウェブ構築を求められるのは当然だろう。
一方、フラッシュ戦争にはアドビ社にとって大きな意味を持っている。
文書（ＰＤＦ）や写真（Photoshop, Light Room）でアドビ社の規格やソフトが標準となっている今、ウェブが支配権争いの中心点だからだ。
このまま引き下がるわけにはいかない。

確かにフラッシュには問題もあった。
元々ウィンドウズ用に開発されたソフトで、マック用は翻訳版である。
"Lost in Translation" が存在するのは当然だ。
本当にフラッシュをウェブ標準にしたければ、ウィンドウズ専用にソフトを開発するという態度ではいけないのではないだろうか。
ユニックスやマックなどの利用者を無視してきた代償を払っているとも言える。

バッテリーの問題もある。
フラッシュをインストールするだけで、マックブック・エアの電池寿命が２時間短縮するという事実を前にすると、何かが間違っていると思わざるをえない、

ウェブ利用者の立場からすると、必要な時にのみフラッシュのプラグインをオンにするという方法はきわめて便利だ。
目障りな広告を見なくて済む。
もちろん、広告会社の立場からすればゆゆしき事態と言うことになるが。

この前提で、アドビ社のワラビーを見てみよう。

１．一番大きいのは変換ソフトをアドビ社が作ったという事実。
　　　これは、フラッシュだけでは駄目だとアドビ社自身が認めたことを意味している。

２．Action Script をサポートしないこと。
　　　これをもってアドビ社が怠慢だというソフトウェア開発者もいるが同意しかねる。
　　　Action Script を使いたければフラッシュを使えというアドビ社からのメッセージだ。

３．サポートされているのはグラフィックやフレームセットなどごく一部で、３Ｄやスクリプト、フィルターなどはサポートされていない。
　　　　これでは一応、努力をしていますよと言う姿勢は見せるが、決して本気ではないと公言しているようなものだ。
　　　　かといって本腰を入れて変換ソフトを開発することはフラッシュの死を意味するため言語道断だという事情も分かる。

ワラビーの影響はいくつか考えられる。
情報発信側にしてみると、広告主から HTML5 使用要請が増えることと、開発者側でのアセット再利用が進むことが予想できる。
情報閲覧側にしてみると、スイッチの入り切りが簡単だったプラグインと違って、ページに組み込まれた広告を切り離すことが困難になるのではないかという危惧がある、

いずれにせよ、大きなニュースであることには違いがない。
フラッシュ戦争における一つの局面変換点になるかもしれない。