秘密の絵
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」。
日本中で愛される童謡の産みの親、詩人まど・みちお(1909-2014)。
今からおよそ50年前にひそかに描きためた100枚以上の絵がある。
その絵は、短く、平易なことばでつくられるまどの詩とはまるで似つかない。
画用紙一面を細い線で塗りつぶしている。紙の地肌は削れ、波を打っている。
何を描いたのかさえわからない不思議な絵。そこには一体どのような思いがあったのか・・・。
まどが絵に没頭し始めたのは50歳を迎えたころ。
戦後、児童雑誌の編集者と童謡作家の二足のわらじの生活を続けながら、
「ぞうさん」「やぎさんゆうびん」「ふしぎなポケット」などを生み出してきた。
それは、童謡の創作に専念するため、退職してまもなくのことだった。
「描いても描いても絵が描きたい。なんということだろう。」
そんな言葉を残したほど、絵にのめり込んだ。
しかし、それらの絵は完成した後、押し入れにしまわれた。
長いあいだ誰にも見せないままだった。
絵に没頭したのは3年半のあいだ。
そののち、まどは童謡を離れ、自由詩に活動をうつした。
そして、独自の宇宙観にあふれる詩の世界をつくりあげた。
詩人は絵を描くことを通して何をつかみとり、そしてどこへたどり着いたのか。
100枚におよぶ秘密の絵から、まど・みちおの知られざる姿を見つめていく。(引用)