渚は1人で満天の星の下、民宿から歩いてヘリポートに来ていた。
明日は石垣に戻るつもりだ、星の輝きを見つめながらオリオンビールを開けた。
民宿から持ってきたのだ、ビールが美味しい。
おだやかな風の音が真っ暗なヘリポートを包み込む。
虫の声も西表の自然が生み出すハーモニーに聴こえた。
星空はいくら見ていても飽きない、いつまでもここにいたい気もする。
同じ頃、コテージでベビーフェイスは考えていた。「ナイフ」と「シャーク」から連絡はない。
どうもおかしい、今日の昼過ぎには着いているはずだ。
フォックスも見当たらない、自分だけの時間が過ぎる。
結論を考えると、全員終わり屋に始末された事になる。
組織にはまだ報告はしない、今から己れ1人の闘いになるのは承知の上だ。
ベビーフェイスは全ての可能性を考える、終わり屋が女の側にいる。
女は明日石垣に戻ると言っていた。
まずは拠点を石垣に移す、後手にまわっては殺られてしまうからだ。
朝一の高速艇で移動を決めた、大きなバックに荷物を詰める。
ふと考えた、終わり屋は女と接触したのか。
ありえない事だと思った、お人好しの女には嘘は言えまい。接触したら女が危険になる。
女を人質に奴をおびきだすかとも思ったが、奴が女のために命を捨てるとは到底思えない。
奴と組んで仕事もしたが、氷のような男だ。女に未練とか思う奴ではないと思う。じゃあなぜ居るのか、組織を壊滅させる気か。
いくら奴でもそれは無理だろう。
ともかく奴を仕留める。それ以外自分も危なくなる。
綺麗な天の川が見える、渚はオリオンビールが無くなったので、トコトコと道を歩き出した。
行きに通った居酒屋に行ってみたかった、カップルの笑顔が愉しそうだったからだ。
居酒屋に入ると、カップルと地元の客と思われる中年の男が3人いた。
若い女が「いらっしゃい」と側にきた。
渚「泡盛のソーダー割りをお願いします、それと島ラッキョとウミブドウ」
女「はーい」
渚が店内を見ていると、いきなり中年の客が話をしてきた。
中年「お姉さん観光さぁー、西表おもしろぃね」
渚「今日はカヌーしました、西表の自然ていいですね」
中年「1人旅ねー、これ食べん美味しいよ」
中年の男は皿にタコの刺身のようなものを渚に出した。
ひとつ貰った、シークワサァー醤油が香る。噛むと甘さが広がった、泡盛が旨い。
中年「タコをあぶったさぁー、どこの人」
渚「大阪です、沖縄も初めてなんです」
中年「大阪弁じゃないねー」
渚「会社が本社が東京で、大阪の支店もほとんど関東の人間なので」
中年「いつまでいるの」
渚「明日は石垣に行きます」
中年「もう帰るの、旅行だからねー」
渚「いえ当分石垣に居ます」
とりとめも無い話をしながら思う、島の人間は優しい感じがする。
その時電話が鳴った学生からだ。
渚「もしもし友達が来るんじゃなかった」
山口「いや何してるのかと思って」
渚「楽しく呑んでますよ、お友達いっぱい」
山口「明日は石垣ですよね何時の船ですか」
渚「レンタカーを返すから、昼過ぎかなぁどうして聞くの」
山口「いえ、見送りができるかと思ってちょっと時間あいません」
渚「気を使わなくていいのよ、元気でね」
山口「またつれないなぁ、僕も石垣にいつかは戻りますから。飛行場は石垣にしかないんです」
渚「おもしろーい、じゃ切るわね」
山口「おやすみなさい」
女が昼過ぎなら、終わり屋もまだ居るはず。
朝一で移動する予定は変わらない。
静かな車の中で「シャーク」が言った。
シャーク「奴は米原に行くまでに必ず仕掛けてくる、2キロ手前から降りるか」
ナイフ「そうだな奴なら狙撃してくるだろう、狙撃の腕は確かだからな」
シャークは銃を確認している、車は海沿いの道を走っていく。
しばらく走ると比較的直線が続く道になった、急にビシッとフロントガラスにひびが入った。
シャーク「もう仕掛けてきたか、停まるなよ」スピードを落とすと狙撃される。
ナイフ「まかしておけ、奴の罠にははまらん」
車は蛇行しながらスピードをどんどんあげて行く、10分も走っただろうか。
ジャングルのような森の小道に入り、車は停まった。
2人は素早く降りると周りを確認する。
シャーク「狙撃した場所からすぐには移動できまい」
ナイフ「奴のことだ安心はできん、地図ではこの近くには高い場所は無いから狙撃はできんはずだ」
シャーク「じゃ何処から狙撃したんだ」
2人はGPSを取り出すと歩きだした、米原キャンプ場を目指す。
奴が待ち構えているが、こっちは2人だ。
2人はある程度距離をとって進む、狙撃が無いとすれば接近戦になる。
ドコーン、シャークの前方の森から凄い爆発音がした。
ナイフ「もう先にいるか、今の爆破は陽動だな」
シャーク「どのみち、奴も同じで近づかないと戦えん。爆発はオトリだから、後ろから来るか」
2人は小型無線機で話している、10メートルは離れ静かに進む。もちろん後方に気をくばる。
また火柱が上がった、爆発音が森に響いた。
爆発音がしたところの反対側があやしい、「ナイフ」が森の中に拳銃をかまえランダムに撃ちまくった。14連発の銃は直ぐに弾が無くなった、弾装をすばやく補充する。
森の中で何か倒れた音がする。
「ナイフ」はジャケットの下の5本のナイフを確認するナイフ使いでは名人と言われている、音のした方にダッシュで走り出した。
ジャングルを抜けるとその場所にきた。なぜだか木でできた三才児くらいの大きさのピノキオの人形がナイフを持って倒れていた。
ピノキオの人形には銃弾の跡があった、それにしても人形がナイフを持っている意味はわからない。
そのとき「ナイフ」の後ろにドコーンと爆発音がした。小型無線機でシャークに話しかける。
ナイフ「なぜか人形が倒れている、爆弾ではないようだ。今の爆発もオトリか」
シャーク「そのようだ」
「ナイフ」が少し人形から目を離した時、人形の持ったナイフが飛んできたピノキオの人形が笑っている。間一髪でなんとかよけた、ピノキオの人形を撃って粉々にする。
ナイフ「高性能爆弾の次は子供だましの人形かぁ、しかし危なかった」
音も無く「ナイフ」の後ろからボーガンの弓矢が背中に突き刺さった。
矢は確実に急所をとらえていた。
ナイフ「くそー」静かにその場に崩れた。
最後の無線の声を聞いてシャークは思った。
得意のナイフさえ使えなかったか。
銃声がしなかった、サイレンサーかいや違う。
地面に伏せると、足音がしないか静かに待った。
ガサガサガサと走る音が近付いてくる。銃を構えた、奴だジャングルの中をこっちに来る。
右に飛ぶと、銃を撃ちまくった。
奴からは反撃がない、しばらく沈黙が続く。
左に人影が走った、しめたチャンスだ引き金を引く。ビシッビシッと弾が木に当たる。
手応えがあり、殺ったかと思った時、黒い影が真上から襲ってきた。鋭利なナイフが肩口から突き刺さった。
薄れる意識の中、終わり屋の顔が見えた気がした。
終わり屋は森の中に、ピノキオの人形をちりばめた。遠隔操作できるロボットだ、いつも1人なので人形は役にたつ。
終わり屋は西表に向かう高速艇に乗っていた。拉致してある男が待ってるかと思う。
渚は民宿で夕食を食べた。
もずくの天ぷらや海ぶどうも出た。スキューバーの女性と会話が弾む。
食事の後1人で外に出た、スキューバーの女性に呑まないかと誘われたが1人で星の下を歩いてみたかった。
今日も星が綺麗だ、懐中電灯を民宿で借りてトコトコと昨日行ったヘリポートに行こうと思っていた。
途中に居酒屋があった、表の扉が開いていて中が見える。
カップルが1組見えた楽しそうに笑っている。 後で寄ってみようと思った。
そのころ、終わり屋の事を考えていた山口は考えがまとまらなかった。
テントの他にコテージを借りている、もちろん武器や通信機器などが置いてある。
なぜだか夕方からフォックスに連絡が取れない、使えない奴なのでトラブルかもしれないが、昼間姿を表した終わり屋が自分の存在がバレたのだから、早めに動いたかもしれない。
それに今日にも来ているはずの2人の仲間とも連絡が取れない、胸騒ぎがする。
フォックスは暗い部屋で目を覚ました。
猿ぐつわをされ縛りあげられている。
いきなり強く蹴られた、激痛が腹をはしる。
急に明かりがついたのでしばらく見えなかった。
フォックスの前に初老の細い男が立っていた。
終わり屋か、いや奴はもっと若いはずだ頭は白くなっていた。
男「しばらくここに居てもらう、俺は管理人だ」
男はフォックスの猿ぐつわを外した。
フォックス「なんのつもりだ、なぜ殺さん」
男「わしゃあ知らん、お前さんを見張るのに金を貰っただけさぁー」
フォックス「終わり屋の仲間か、奴は1人かと思っていた」
男「何の事かわからんが、明日までおとなしくしとくことだ」
初老の男はフォックスに猿ぐつわをつけると小屋を出ていった。
外にでると初老の男はニヤリと笑った、やはりこの男は使える。
組織もこんな奴を雇うとはレベルが落ちたものだ。
マスクを取ると精悍な顔つきの男の顔に戻る、夜だがサングラスをかけると車に乗り込む。
終わり屋は昼から石垣に行っていた、情報屋から2人が着いたと連絡がきたからだ。
西表に居る事がバレた以上早く動く、昼前にはフォックスを拉致した。警戒心が無いのかと思うくらい簡単だった。
その足で石垣に行った、空港から出てきたのは「ナイフ」と言われる男と「シャーク」と呼ばれる男だった。
終わり屋は近くの若い男の旅行者に言った。
「あの体格のよい2人組が携帯を落とされたみたいで、僕時間ないのでお願いできないですか」
旅行者「いいですよ」
若い男が携帯を渡しに言った。
怪訝な顔をして、「ナイフ」と言われる男が携帯を受け取ったもう終わり屋に気づいている。
携帯が鳴る、静かに「ナイフ」が電話を受けた。
ナイフ「どういうつもりだ」
終わり屋「招待しようと思ってね、けりは早くつけないか」
どうするかナイフが聞く。
シャーク「まだベビーフェイスに会ってないぞ」
ナイフ「奴の手の内はわかっている、早く済まそう」
ナイフは携帯に吐き捨てるように言った。
ナイフ「いいだろう、場所はどこだ」
終わり屋「米原キャンプ場がいいだろう、一時間後だ」
「ナイフ」は携帯を茂みに捨てた、2人は駐車場に用意されている黒い車に向かったシャークが小型の器械のような物を出した。
シャーク「電波は出てない」
終わり屋はよく火薬を使う、車に爆薬が仕掛けてあるかもしれない。
注意深く車を調べる、2人は車に乗るとダッシュボードから銃とナイフを出した。全てベビーフェイスが用意した事だ。
米原キャンプ場に向かう、注意深く後方を見る必ず途中で仕掛けてくる。
青い海が広がる道には似合わぬ男達だった。
つづく
なぜか西表の温泉で会った大工の大崎と明日の夜に、また石垣で呑む約束をした。
振り返って見ると五年間失踪した男とつき合い、一年間影を追っていたのだ。
その間他の男と遊びにすら行かなかった、今はなぜだかわからない。
いつも出張で居ない事の方が多かったのだから、他の男でも良かったかもしれないが。
自分はあの男に惚れていたのだと思う。
温泉から帰り無人販売所に寄った、風呂上がりで冷たい物が食べたかった。無人販売所の冷蔵庫にカットスイカがあったがパインアイスを取ると100円を箱に入れる。
まだ明るい、そうだと渚は思った。学生に電話しなきゃと思い、学生に電話をしたがなかなか出ない。
民宿で晩御飯を食べるが、学生が暇なら後で少し呑みたくなった。
二回かけなおしたが出ないので諦めた、パインアイスをほうばるとエンジンをかける。
レンタカーを動かすと夕食まで少し時間がある事に気がついた、帰る前にマングローブの森の近くの公園に行く事にした。
車が五台ほどおける駐車場に車を停め、階段を降りて海岸まで下がる。コンクリートで固められた道を少し歩くと、マングローブの中に木で通路が作ってある。そこから下を見てみるとカニが見えた、マングローブの根っ子は複雑な形で面白い。
マングローブの林にチラチラと光がそそいで気持ちがいい。
風で草木が音をたてる、心地よい音だった。
渚は通路の端から海岸に降りた、本当は降りてはいけないのだろうが誰も居ないのだ。
何か知らない魚がピョンピョン跳んでいる。
ザクッザクッと砂の上を歩く、短いヒールなのでなんとか歩けた。
渚は思いっきり背伸びをして、沖を見ている。ユラユラとした波が見えて、沖に船が見える漁でもしているのかしらん。
何もない海に向かって渚が大声で叫んだ。
渚「武志のバーカ」
思いっきり遠くまで叫んだ、一度思いきり言って男を吹っ切りたかった。
石垣で見たそっくりな男も忘れるつもりだ。
誰も居ない海岸で貝を拾ってみた、大事にポケットに入れる。思いでを詰め込んだつもりだ。
ザクッザクッと足音が響き、波の音が追いかけてくる。
電話が鳴った、学生からだった。
少し黙って歩きたかったので出なかった、また後でいいわと思う。
通路に戻ると近くにある川が海にそそぐ直前の河原に行った。
河原には穴がたくさんあった、静かに見ているとエビのような生き物が見えた。
渚「冷たい、気持ちいいわ」
1人だが川の水で遊んでみた。
時計を見るとヤバいと思い、急いで車に戻った。
その時又電話が鳴った、学生からだ。
渚「もしもし」
山口「良かった、怒ってますか電話出なくて」
渚「いいえ、私の勝手ばかりだから」
山口「今日は都合が悪くなったんです、友達がくるので会わなくてわならなくて」
渚「いいのよ、私は」
山口「すみません、また明日でも」
渚「明日は石垣に戻るのよ、色々ありがとう。素敵な旅をしてね」
山口「石垣ですか、つれない言葉ですね又会いに行きますよ」
山口は電話を切ると思った、今晩が山場になるか。
女が石垣に戻ると奴はどう動くかだ。
本部にはまだ奴が表れた事は連絡していない。
今日くる仲間でなんとか始末する、失敗すれば今度は自分達が危なくなる。
組織には腕の悪い殺し屋はいらないからだ、きれいに始末してから報告するつもりだ。
山口は静かに仲間からの連絡を待っていた。
つづく
西表には日本最南端の温泉がある。
外は水着で男女一緒に入る温泉と、普通のプールがあり周りはジャングル見たいで、すぐ横を川が流れている。
西表のセミの声を聞きながら、渚は素敵だわと思っている。
カヌーツアーから帰って、1人車で走り日本で一番南にある温泉にきた。
屋外には水着ゾーンがあって、所々温泉があり小さいがプールもある。
渚は水着で外の温泉に浸かっている、蝶々が飛んでいて幻想的だ。ぼーとしていると気持ちがいい。
明日は石垣に戻って、アパートを探すつもりだ。
何か仕事が見つかるだろうか、少し貯金もあるからし先の事はしばらくは考えない。
誰か温泉に入ってきた、またカヌーツアーで一緒だった中年のカップルだ。気がついたのか男が挨拶だろう手をあげている。
渚は軽く会釈した、カップルなのだから。あまり話しかけない方がいいと思った。
パトロンとママかぁと自分で納得している。
中年のカップルが近くに来た、男が話しかけてきた。
中年「若い女性が1人旅ですか」
渚「ええ、長期休暇を取ったんです」
女「失恋旅行とか」
渚「いえそんなんじゃないんです気晴らしです、失礼ですがご夫婦ですか」
女「そうなの、夫婦に見えないけど15才も違うけど夫婦なのよ」
中年「年の差を言う事ないだろう」
お腹が出た男は笑顔で言った。
渚「旦那様もお若く見えますよ」
女「無理しなくていいのよ、よく呑み屋のママと旦那とかよく言われるの」
やっぱりそうなんだと渚は思った。
渚「こんな時期に夫婦で旅行なんて、素敵ですね」
女「一回も旅行もせず、働いたからごほうびなのよ夫婦で居酒屋をしてるんだけど5年半で初めての休み」
中年「苦労かけるな」
女「かけすぎよ、だから遠くに行きたくて西表に」
渚「いいですね、私なんか1人旅です」
中年「きれいだから、すぐに恋人できますよ」
温泉への扉が開くと誰かが近づいてきた。黒光りした体に白い歯が見えた、一瞬誰かわからなかったが石垣のバーで会った大工だ。
確か大崎とか言っていたはず。
大崎「なかなか水着も素敵さぁー」
渚「最初わからなかったです、石垣の工務店ですよね」
大崎「今こっちに下見にきたさぁー、ペンション建てるから」
渚「仕事なら今3時だからお風呂には早すぎじゃ」
大崎「今日は下見だからね、いいのいいの」
中年「やっぱりきれいな人はもてるなぁ」
女「あんたには私がいるでしょ、他に誰がいるの」
中年「すみませんな」
男は照れ臭そうに笑った。
大崎はしばらくするとプールに移り、バシャバシャと泳ぎだした。全身の筋肉が美しい。
渚は男を見ていた、なんか縁があるのかしらん。
同じ時サングラスの男はテーブルの上にナイフを並べると、砥石で磨いでいる。
サングラスを外すと、鋭い目が見えた。
鞄から次々武器を出す。
今度は失敗はできない、裏の裏の裏をかく。
「確か仲間がくるはず」
もともと組織の人間なので、誰かは直ぐにわかるはずだ。
パソコンにメールが来た、情報屋からだ。
「あいつらか、少し手こずりそうだ」
ベットに横たわると、最も適した作戦を組み立てる。
終わり屋はコテージから出ると、近くの森に走った。森の中に埋めてあった大きなトランクを2つ掘り起こす。
大きなトランクを2つコテージに持って入った。
一方のトランクには武器、もう1つのトランクには変装の道具が入っている。
カメレオンの異名をもつ男が動き出した。
つづく