昭和四十年太郎が小学校の六年生の時、
「日本は高度成長の道を進んでいった」
太郎が歩んできた、
「昭和三十年代は過去のものになり、遠くなっていったのである」
時代の流れを痛感しながらも、太郎と夕子は楽しい毎日を送っていた。
「中学生になっても仲良くしてね」
「うん」
こんな会話を毎日のようにしていたのである。
事実このまま幸せな日々が続くと思っていた。
だが、中学入学を前にした昭和四十一年三月、太郎は母親からショッキングな事を言われたのだった。
「広島に仕事場を移す」
頭ごなしにこうだった。
「勝手に行ったら」
「何よその言い方」
太郎と母親の押し問答は続いた。
だが、結局は押し切られ広島行きを覚悟しなければならなくなった。
「中学校の生活が待ちどうしいねえ」
夕子の言葉に太郎は力なく、
「うん」
と答えるのが精一杯だったのである。
ある三月の終わり、トラックで荷物を運ぶ太郎の一家に一人の少女が手を振っていた。
「夕子だった」
泣いていた。だが太郎の車が見えなくなるまで手を振っていた。
「何で別れはこんなに悲しんだろう」
太郎は涙が出ないように上を向いていたのである。
完
「日本は高度成長の道を進んでいった」
太郎が歩んできた、
「昭和三十年代は過去のものになり、遠くなっていったのである」
時代の流れを痛感しながらも、太郎と夕子は楽しい毎日を送っていた。
「中学生になっても仲良くしてね」
「うん」
こんな会話を毎日のようにしていたのである。
事実このまま幸せな日々が続くと思っていた。
だが、中学入学を前にした昭和四十一年三月、太郎は母親からショッキングな事を言われたのだった。
「広島に仕事場を移す」
頭ごなしにこうだった。
「勝手に行ったら」
「何よその言い方」
太郎と母親の押し問答は続いた。
だが、結局は押し切られ広島行きを覚悟しなければならなくなった。
「中学校の生活が待ちどうしいねえ」
夕子の言葉に太郎は力なく、
「うん」
と答えるのが精一杯だったのである。
ある三月の終わり、トラックで荷物を運ぶ太郎の一家に一人の少女が手を振っていた。
「夕子だった」
泣いていた。だが太郎の車が見えなくなるまで手を振っていた。
「何で別れはこんなに悲しんだろう」
太郎は涙が出ないように上を向いていたのである。
完