Seiji Ninomiya (二宮正治)

Let me tell "JAPAN NOW"

二宮正治の短編小説 小学生悲恋物語 太郎のその後 第9回

2010-11-03 03:16:36 | 日記
 昭和四十年四月太郎は小学校の六年生になった。
この頃、太郎の心に去来した物は、
「時代が変わった」
 と言う事だったのである。
「人々は忙しく働き暮らしぶりは良くなっていったが、人々の絆が急速に薄れて自分中心的な人が恐ろしくも増えていった」
 この思いが太郎の心を支配していた。
太郎は夕子の顔を見るたびに、
「世の中が変わった」
 と言うのだった。
「私もそう思う」
 夕子が言葉を返した。
「ぼくが幼稚園の頃、喉自慢大会で『ダイアナ』や『有楽町で逢いましょう』を唄った頃が懐かしい」
 空を見上げて太郎が自分に言い聞かすように呟いた。
「あのころは、人々のふれあいがあったよね」
 夕子が相槌を打つ。
「昭和三十年代が遠くなって行く」
「うん」
 太郎と夕子の会話がはずんだ。
「ぼくらは仲良くしようね」
「うん」
 太郎はポケットからハーモニカを取り出して、
「上を向いて歩こう」
 を吹き始めた。