朱禪-brog

自己観照や心象風景、読書の感想
を書いてます。たまに映画も。

本感想 賊将 池波正太郎

2022-03-12 17:22:49 | 本 感想
涼やかで執着のない男
それが人斬り半次郎と呼ばれ
日本初の陸軍少将となった
桐野利秋へのぼくの印象だ。

極貧の家庭に生を受け
父はその貧しさあまり
病苦にあえぐ娘の治療費欲しさに
公金を一時借用した科により
遠島となる。

「今にみちょれ!」と
誰しもが開墾しない荒地を耕し
夜は内職の紙漉きをし
その後、ただ一太刀に全精力を
渾身する打ち込みを繰り返す。

冒頭はそんなくだりで始まる。

短篇である。
個人的には短篇はその作者が
「図面だけ書くよ、図面みて想像して」
どう感じるか楽しんでね」
と思っている。

読後感は
恩を忘れるのは男(桐野利秋)の
恥であり、心酔する西郷をどこまでも
慕い、死ぬまで
銘刀 綾小路定利を一閃、一閃する
涼やかな快男児であった。




本感想 上海の長い夜 鄭念

2022-03-12 07:47:18 | 日記
上海の長い夜 上下巻
鄭念 1988年作


著者の回顧録いや真実の記録と
言っていいと思う。

今から55年前、著者は
突然暴風雨のような近衛兵の
来襲に会い、略奪、迫害、拘禁される。

今、世界の強大国となった中国で
起こった文化大革命が真実の場
であり記録は進んでいく。

資本家というだけで
党に対する逆賊とみなし
ありもしない事を「告白」という
見世物の場で公開し逆賊の烙印を押す。

文中、彼女はあるゆる非人道的
な行為、拷問、死の寸前にまで
至る独房生活を送る。
たったひとつの希望は
会えないひとり娘だ…

「生きざま」
もし一言で感想を述べるなら
これに尽きる。

腎臓がひとつなく
健康状態もよくない著者は
「してないことにはしてないとしか
言えません。
それが私の真実です。」
と言う。

精神が崩壊する
いや、死んでも不思議ではない
環境で
「真実」にのみ「忠実」であらん
とした。

決して折れる事のない
「生きざま」
よくぞここまで…
また、よくぞこの著作を書き上げて
くれたと感謝する。

そして、中国という国に対して
ひと言も論じてない。

陳腐な言い回ししかできないが
著者は愛国者であったと思う。

祖国から離れて眠る著者は
いまも中国を見つめているだろう。
そして、どう真実を見つめているだろう。