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<出演者プロフィール>
津山恵子(ジャーナリスト。専修大学で講師。2003年からNYで活動。大統領選取材は5回目。米政治情勢に精通。)
ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)
峯村健司(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。近著に『台湾有事と日本の危機』。『中国「軍事強国」への夢』も監訳。中国の安全保障政策に関する報道でボーン上田記念国際記者賞受賞)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)
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2期目のトランプ政権がスタートして3カ月。世界の関心が関税に集まる中、アメリカ国内では「言論の自由」が抑圧されると懸念する声が後を絶たない。
いまアメリカで何が起きているのか、専門家とともに読み解く。
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【画像】【トランプ政権】名門大学へは助成金、通信社へは取材で圧力…「言論の自由」抑圧の懸念
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1)名門ハーバード大学が反旗 トランプ政権は補助金凍結
4月15日、トランプ大統領

は「ハーバード大学が政治的、イデオロギー的、かつ『テロリスト』に触発された『病』を押し進め続ける場合、免税資格を取り消し、政治団体として課税するべきかもしれない」とSNSに投稿。
なぜこのような事態に至ったのか。
2024年3月から5月にかけて全米各地の大学で、パレスチナ自治区ガザでの攻撃を続けるイスラエルへの抗議活動が活発化していた。
トランプ政権は3月11日、抗議活動が行われたハーバード大学を含む、全米60校に対し“反ユダヤ主義”への対策を講じなければ「強制措置を取る」と警告する書簡を送付。
さらに3月14日に、トランプ大統領が白人学生への差別だと主張する、DEI(多様性・公平性・包摂性)プログラムをめぐり45大学の調査を開始。
4月11日には、ホワイトハウスからハーバード大学に反ユダヤ主義への対応やDEIの廃止などを求める“要求リスト”が送付され、そこには政府からの助成金を維持するには、「大学が要求に従わなければならない」との警告も。
ハーバード大学は4月14日、「憲法で保障された大学の権利を侵害する」として要求を拒否する声明を発表。
政権は22億6000万ドル(およそ3200億円)の助成金を凍結する、と発表した。
NY在住の津山恵子氏(ジャーナリスト)は、
トランプ政権のハーバード大学への対応の背景を以下のように分析をした。
ハーバードのキャンパスの中には “真理”を意味する“Veritas”(ベリタス)の文字が書かれた旗やロゴが目立つ。
ハーバードのキャンパスの中には “真理”を意味する“Veritas”(ベリタス)の文字が書かれた旗やロゴが目立つ。
この“真理”を徹底的に追及するために学問の自由を維持しようというのが大学のモットーだ。
教授も学生もそれに同意をする人たちが世界中から集まり、ハーバードではDEIが実現されている。
ところがトランプ氏にとってDEIは嫌悪すべきものであり、彼を熱烈に支援する支持者たちもベリタスを追求する大学が気に入らないのだろう。
自身も大学の副学長を務めるジョゼフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、ハーバードの姿勢を評価しつつも、
多くの大学は同様の抵抗をするのは難しいだろうと指摘する。
ハーバード大学の対応、姿勢は非常に評価できる。
しかし残念ながらこれは例外で、多くの大学はトランプ政権の要求に屈している。
先月も、コロンビア大学が4億ドルの出資と引き換えにトランプ政権の要求を受け入れた。
税金をもらう以上、大学側は一定の条件・ルールを遵守すべきとは思うが、
今回のように政権の思想を押し付けるというのは本末転倒だ。
ハーバード大学で客員研究員を務めたこともある峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所)は関係者の話を交え以下のように指摘した。
かつての同僚に昨日話を聞いたが、「こんなことはあり得ない」と激怒し、「徹底的にトランプ政権と闘う」と言っていた。
なぜ、ハーバードは闘うことができるのか。
実はハーバードには非常に大きな基金がある。
現段階で532億ドル、日本円にして7.6兆円の基金だ。
ウォールストリートから優秀な投資家を引き抜き、大学自身で運営している。この中から大学の運営費の一部も賄っている。
しかし、政府からの資金を打ち切られると、強気の姿勢とは裏腹にかなりの痛手だ。
関係者によると、公衆衛生大学院は運営の半分ほどが政府の補助金で賄われており、最もダメージが大きいだろうと懸念していた。
2)大学への“圧力”が引き起こす頭脳流出 米国の国力衰退リスク
番組では、現在ハーバード大学に留学中の日本人留学生を取材。
留学生によると、今後留学を希望する場合、政権はビザ発行に際して当該人物のSNSを検閲するとしており、それにより留学が叶わない人が出てくる可能性があるという。
さらにトランプ政権の政策について「留学生や海外の研究者にとってアメリカはアカデミアにおけるトップの目的地だったが、もし留学生が受け入れられなくなり、資金もカットされれば、その地位はなくなる」とコメントした。
津山恵子氏(ジャーナリスト)は、この状況は“頭脳流失”を招き、アメリカ経済の退行につながると深く懸念。
アメリカでは、移民の卒業生が先進的なベンチャー企業を立ち上げているという例も沢山ある。
アメリカでは、移民の卒業生が先進的なベンチャー企業を立ち上げているという例も沢山ある。
イエール大学の歴史学教授であるティモシー・シュナイダー氏が、同僚2人とともにイエール大学を辞してトロント大学に移ると公表された。
その理由は現在の政治環境に非常に懸念があること、コロンビア大学を含めトランプ政権の要求に屈する大学が出ていること。
そして、自分の子どもや、これまで教えてきた学生たちのことを想うと、彼らが安心して学ぶことのできる環境を担保したい、トロント大学に来てほしい、と。
これはまさに頭脳流出だ。
長い目で見ると、アメリカ経済の退行につながるのではないかと心配している。
峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所)も深い懸念を示した。
ハーバードの私の同僚はほぼ100%民主党支持者で、どちらかと言うとトランプ氏を毛嫌いしている人が多かった。
トランプ氏からみれば、ハーバードは「敵の巣窟」のように見えるのだろう。トランプ氏は「極左から大学の支配権を奪う」とコメントしており、ハーバードを彼らが考えるところの“正常化”したいということなのだと思うが、アメリカの一番の強さは大学にある。
ハーバードには本当に優秀な学生が世界中からやってきて、
研究をすることがアメリカの国力につながった。
そこはどうやっても中国

が追い付けない部分だ。
それをトランプ氏自ら潰しているのは、結果として彼が目指す“アメリカの再生”とは逆方向だ。長期的には衰退にしかならない。
ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、トランプ氏の言動の背後には、一部国民からの支持があると分析する。
トランプ政権の現在の言動は許されるべきものではない。
しかし、アメリカ国民の中にも、大学に行かない低所得者層やトランプ支持者など、この動きを見て「エリート層への戦いだ。我々を助け、味方してくれている」と感じている人たちもいる。
また、海外留学生に対し税金が使われていることに対し好意を持っていない人たちも決して少なくない。
背景にそれなりの国内支持があるからこそ、トランプ氏はこういった無謀な政策を行うことができるということも、我々は認識する必要がある。
3)AP通信は取材機会“減少”「他メディアにも影響…一種の言論統制に」
トランプ政権はメディアへの“圧力”も強めている。
トランプ氏は大統領就任初日「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」に変更する大統領令に署名。
ホワイトハウスは2月11日、「メキシコ湾」の名称を使い続けたとしてAP通信を出入り禁止とした。
4月8日、ワシントン連邦地裁はAP通信への出入り禁止の措置は「違憲」との判断を下したが、ホワイトハウスは4月15日、米AP、ブルームバーグ、英ロイターなどの通信社に割り当てられてきた代表取材枠をなくすと発表。
これまでテレビ枠・新聞枠などとともにあった通信社の代表枠は新聞枠に統合されることとなり、通信社の代表取材の機会は大きく減少する。
津山恵子氏(ジャーナリスト)は、この一連の流れは言論統制につながりかねないと危惧する。
APは世界でも信頼されている強力な通信社で、そこがホワイトハウスの代表取材の枠にないというのは恐ろしいことだ。
AP通信という強力なメディアが首根っこを抑えられ、出入り禁止や取材制限を受けているというのは本当に大きなダメージで、一種の言論統制的な性格がある。
AP通信がこのような扱いを受けるのであれば、他の主要メディアも筆が弱まったり、出入り禁止を避けるための対策を内部で考えるようになる。
恐怖心をあおって言論統制をしていくのがトランプ氏の狙いではないか。
末延吉正氏(元テレビ朝日政治部長/ジャーナリスト)は、政権が「言論の自由」を脅かしかねない事態に警鐘を鳴らした。
アメリカでは、通信社と新聞社の役割は完全に違う。
これでは最初の情報が入手できなくなる。
大学と並び、アメリカが世界で最も優れていたのは「言論の自由」だ。
これこそがアメリカの底力だった。
ここをホワイトハウスが脅かすことの怖さを我々はもっと考えた方がいい。非常に危険な状況だ。
(「BS朝日 日曜スクープ」2025年3月20日放送分より)
テレビ朝日
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