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超音速・軌道変更の厄介なミサイルも迎撃できる米ゴールデン・ドーム計画の中身と、参画する日本の役割#2025.6.28#横山 恭三

2025-06-29 16:19:49 | 連絡
2025年5月20日、ドナルド・トランプ米大統領は、次世代ミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」の設計を選定し、同プロジェクトの主任プログラムマネージャーに米宇宙軍作戦副部長のマイケル・グートライン将軍を指名したと発表した。
 トランプ氏は「次世代の技術を陸、海、宇宙に展開する」と説明し、「地球の反対側や宇宙から発射されたミサイルでも迎撃できる。史上最高のシステムとなる」と語った。
約3年で完成させ、自身の任期が終了する2029年1月までに運用を始めるという。
 また、トランプ氏は同記者会見で、同防衛システムの費用は約1750億ドルに上り、すべてを米国で製造すると述べた。
 さて、2025年1月27日、トランプ米大統領は、「次世代ミサイル防衛システム」の構築を目指す「アメリカのためのアイアン・ドーム」と題する大統領令(「The Iron Dome for America EXECUTIVE ORDER January 27, 2025」)を発出した。
 同大統領令の詳細は、拙稿「戦費に苦しむロシアを完膚なきまでに叩きのめす、トランプ虎の子大統領令」(2025年2月22日)
を参照されたい。
大統領令では、「アイアン・ドーム」であったが、今回「ゴールデン・ドーム」に改称されている。 
同大統領令には、現在整備が進められている「極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサー」(HBTSS)および「拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ」(PWSA)の開発・導入を加速すると共に、
「都市や民間人への攻撃を阻止するための下層およびターミナルフェーズでの迎撃能力の導入」や「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」などを求めている。
 この「宇宙配備迎撃ミサイル」は、ロナルド・レーガン元大統領が提唱した戦略防衛構想(SDI)、なかんずく、ブリリアント・ぺブルズ(Brilliant Pebbles)を想起させるものである。 
上記のトランプ氏の発表に対してロシアと中国は異なる反応を示した。 
中国外務省の報道官は、構想に「深刻な懸念」を表明し、構想の発表は「強い攻撃的意味合い」を持ち、宇宙の軍事化と軍拡競争のリスクを高めたと主張し、米国に開発を断念するよう要請した。
 ロシア大統領府の報道官は、ゴールデン・ドーム構想の発表により米ロは近い将来、核軍縮に関する協議を迫られる可能性があると述べた。
 ところで、本稿では、「ゴールデン・ドーム」に含まれる主要な事業計画、つまり、「アメリカのためのアイアン・ドーム」と題する大統領令の中で、開発・導入が指示されている事業計画について述べてみたい。
以下、初めにゴールデン・ドームの狙いについて筆者の意見を述べ、
次に、「ゴールデン・ドーム」に含まれる事業計画の概要について述べる。
1.「ゴールデン・ドーム」の狙い
(1)「恐怖の均衡」からの脱却 
戦略防衛構想(SDI)はABM条約(Anti-Ballistic Missile Treaty=弾道弾迎撃ミサイル制限条約、1972年米ソ調印、2002年米脱退により失効)によって制度化された(MAD:Mutually Assured Destruction)、いわゆる「恐怖の均衡」からの脱却を試みた壮大な計画であった。 
弾道ミサイル攻撃への防御策は、1980年代に米国のレーガン大統領が打ち出した戦略防衛構想(SDI)から始まった。
 衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配備、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃、撃墜し、アメリカ合衆国本土への被害を最小限に留めることを目的にした。 
SDIは旧ソ連の長距離弾道ミサイルを宇宙兵器で撃ち落とすという壮大な計画で、およそ187億ドルの予算が投じられたとされる。 
ただ、SF映画の題名を取って「スター・ウォーズ計画」と呼ばれたように、
当時の技術水準では実現困難な部分が多く、結局実用化しなかった。
 その後、米国ではクリントン政権時代、同盟国や国外に駐留する米軍を守るために中・短距離型の弾道ミサイルを対象にした戦域ミサイル防衛(TMD)と、米本土を守る全米ミサイル防衛(NMD)構想がスタート、
現在のミサイル防衛(MD)につながっている。 
さて、ゴールデン・ドームの計画では、「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」が求められている。
この「宇宙配備迎撃ミサイル」は、レーガン元大統領が提唱した戦略防衛構想(SDI)の「ブリリアント・ぺブルズ(Brilliant Pebbles)」を想起させるものである。  
敵性ミサイル察知用の受信装置付の超小型衛星ブリリアント・ペブルズは宇宙に配備し、敵性ミサイルを察知すると衛星自体がロケットモーターを利用し敵性ミサイルに衝突しミサイルを破壊するという構想のもとで開発された。
しかし、宇宙への配備直前で戦略防衛構想(SDI)の自然消滅に伴い、中止された。
(2)極超音速ミサイル防衛システムの構築
 ゴールデン・ドームは、極超音速ミサイル防衛システムの構築を目指している。
 ここ数年、各国において極超音速兵器(Hypersonic Weapons)の開発・導入が進んでいる。
 定義によれば、マッハ5以上で飛行する極超音速兵器は2種類ある。 
①一つはロケットから発射され、標的に向かって滑空する極超音速滑空弾(HGV:hypersonic glide vehicle)。 
➁もう一つが標的を捕捉した後、高速の空気吸入エンジン(air-breathing engines)または「スクラムジェット(scramjets)」により加速される極超音速巡航ミサイル(HCM:hypersonic cruise missile)。
(出典:米議会調査局報告書2020年8月27日)
極超音速兵器は弾道ミサイルや巡航ミサイルなどへの対処を前提としたこれまでのミサイル防衛システムでは対処が困難であるとされている。
 なぜなら、極超音速兵器は飛翔高度が低いため所要のブースト時間は弾道ミサイルよりも短くなり、ブースト用ロケットの出す熱も小さくなるからである。 
従って弾道ミサイルに比べて極超音速兵器は赤外線センサーでは捉えにくくなり、その発射探知や追尾には現用の弾道ミサイル防衛用の早期警戒衛星の能力では不十分となってしまう。
 そこで、米国は高性能の赤外線センサーを装備した衛星を低軌道に多数配置して、警戒・探知・追尾のネットワークを構成する構想を打ち出している。
 それが、宇宙開発庁(SDA)の拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ」(PWSA:Proliferated Warfighter Space Architecture)やミサイル防衛局(MDA)の「極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサー」(HBTSS:Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensorである。
 また、現用のミサイル防衛システムの迎撃兵器にはそれぞれ対応可能高度があり、
高度30キロ~80キロの大気圏内をマッハ 5〜20の極超音速でスキップや滑空しながらかつ軌道変更しながら標的に接近し、最後はダイブして標的に到達する極超音速滑空弾(HGV)を迎撃できる兵器を保有していない。 
そこで、ミサイル防衛局は、極超音速滑空弾(HGV)を滑空段階で迎撃する「滑空段階迎撃ミサイル(GPI)」を日米共同開発している。
2.ゴールデン・ドーム:業務計画の概要
(1)ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイル
  本項の詳細は、拙稿「戦費に苦しむロシアを完膚なきまでに叩きのめす、トランプ虎の子大統領令」(2025年2月22日)
を参照されたい。
 上記大統領令では、「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイルの開発と導入」を求めている。
現時点では「ブーストフェーズ迎撃が可能な拡散型宇宙配備迎撃ミサイル」に関する具体的な事業計画が明らかになっていない。
 そこで、本項では戦略防衛構想(SDI)において配備直前で立ち消えとなったブリリアント・ペブルズの開発状況について述べる。
 1984年1月6日、レーガン大統領(当時)は「国家安全保障令119」により、戦略防衛構想(SDI)と名づけた宇宙配備ブースト迎撃システム中心の新規の多層的ミサイル防衛システムの研究開発の加速を指示した。 
1986年には、最初に「運動エネルギー兵器利用による宇宙配備ブースト迎撃システム」の配備を開始し、段階的にレベルを上げ、中長期的に「指向性エネルギー利用のシステム」に発展させていくという、段階的配備方針(phased deployment)が形成されていった。 
さらに具体的に、「第1段階の宇宙配備ブースト迎撃」システムとして、「宇宙配備運動エネルギー破壊飛翔体(SBKKV:Space-Based Kinetic Kill Vehicle)」といった「運動エネルギー兵器利用の宇宙配備ブースト迎撃」システムの「1993年配備計画」が立案された。 
1986年中盤には「運動エネルギー兵器利用の宇宙配備ブースト迎撃」の1993年配備は固まっていった。 
1988年11月には、SBKKVのホバーテスト(浮揚実験)がエドワード空軍基地で実行され成功した。
「運動エネルギー兵器利用・宇宙配備ブースト迎撃の1993年配備計画」は実現の射程に入っていった。
 一方、「初期のSBKKV」は比較的大型で、宇宙空間で旧ソ連のASAT(衛星攻撃兵器)によって、攻撃される可能性が指摘されていたが、「初期のSBKKV」を小型化し、しかも「迎撃装置の自動発射化」も可能にしたマシーンが、ローレンス・リバモア国立研究所のローレル・ウッド博士によって考案された。 
これが、当初のSBKKVの発展形としての「ブリリアント・ペブルズ(Brilliant Pebbles)」と呼ばれるシステムである。
ブリリアント・ペブルズのイメージは、下図1の通りである  
図1:ブリリアント・ペブルズのイメージ図 
ローレンス・リバモア国立研究所の所長を務めたこともある同研究所のリーダー、エドワード・テラー(注1)氏がブリリアント・ペブルズ の推進を強力にバックアップした。 
(注1)エドワード・テラー氏(1908-2003)はハンガリー生まれのユダヤ人理論物理学者。ローレンス・リバモア国立研究所は同氏の提案で設立された。
米国では「水爆の父」とも呼ばれる。
ブリリアント・ペブルズ方式の迎撃の概略は以下のようなものだった。 
宇宙に約5000基の敵性ミサイル察知用の受信装置付の超小型衛星ブリリアント・ペブルズを配置、それらの超小型衛星は敵性ミサイルを察知すると衛星自体がロケットモーターを利用し敵性ミサイルに衝突しミサイルを破壊する。
 1987年10月、ローレンス・リバモア国立研究所のローレル・ウッド博士とエドワード・テラー博士は、ブリリアント・ペブルズを戦略防衛構想機構(SDIO:Strategic Defense Initiative. Organization)のジェームス・エイブラハムソン局長にブリーフィングし承認を得て資金提供が決定した。 
ここにブリリアント・ペブルズが宇宙配備ブースト迎撃の中心として形成されたのである。 
1988年3月、ローレル・ウッドとエドワード・テラー両博士は、ブリリアント・ペブルズをレーガン大統領(当時)に直接説明した。 
レーガン政権実質最終年の1988年に、「ブリリアント・ペブルズ方式の宇宙配備ブースト迎撃」の配備方針が固まった。
 ところが、旧ソ連のゴルバチョフ政権誕生をきっかけとした緊張緩和と軍縮路線が加速し、SDI構想は次第に存在意義を失った。
 1991年12月に旧ソ連が崩壊し、冷戦は完全終結した。冷戦終結と相前後して、戦略防衛構想(SDI)は、自然消滅に近い形で中止された。 
(2)拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ構想
拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ(PWSA:Proliferated Warfighter Space Architecture)構想とは、超音速兵器を含むミサイル脅威を探知・追尾する低軌道衛星コンステレーションのことである。 
PWSA構想の旧称は、国家防衛宇宙アーキテクチャ(NDSA=National Defense Space Architecture)構想であった。
 ア.国家防衛宇宙アーキテクチャ構想
 2019年3月、宇宙における米国の技術的および軍事的な優位性を確保することを目的として、将来の宇宙装備品の開発と配備を推進する宇宙開発庁(SDA:Space Development Agency)が、国防総省の下に設立された。 
SDAは、極超音速兵器を含むミサイル脅威を探知・追尾するための低軌道における衛星コンステレーション・システムである国家防衛宇宙アーキテクチャ(NDSA)」構想を2019年に立ち上げた。 
NDSAには、トランスポート層とトラッキング層いう2つの独立した衛星群が含まれる。 
トランスポート層は、低軌道(LEO)において光衛星間リンクで接続されたメッシュネットワークを形成する。
 これらのリンクはレーザーを介してデータを伝送し、従来の無線伝送よりも傍受がはるかに困難な非常に狭いビームを用いて光速でデータを伝送する。 
アーキテクチャ全体で伝送されるすべての情報はトランスポート層を通過し、地上の必要な場所へとルーティングされる。 
トラッキング層は2番目の衛星群であり、低軌道からのリモートセンシングと地球観測を行う。
 トラッキング層の衛星には、ミサイルの脅威を検知・追跡するための赤外線センサーが搭載される。
 これらの衛星は光リンクを介してトランスポート層に接続され、そのデータはメッシュネットワークを介して伝送され、地上にダウンリンクされる。 
NDSAでは、7種類のレイヤーが作られ、それぞれのレイヤーに次のような異なる役割が割り振られている。
 ①Transport Layer(衛星間通信層):300~500機、低遅延の衛星間通信、衛星を経由してグローバルな通信が可能。
 ②Tracking Layer(ミサイル追跡層):極超音速滑空ミサイル等を探知・追尾。
③Custody Layer(標的管理層):リアルタイムで偵察・監視、専用衛星は持たず既存の偵察衛星や商用の画像衛星を利用。
 ④Battle Management Layer(戦闘管理層):衛星を支援する戦闘管理ソフトウエア、AIを活用、オンボード処理。
⑤Navigation Layer(航法層):GPSの妨害状況下における測位機能を代替。 
⑥Deterrence Layer(宇宙監視層):月と地球軌道を含む宇宙状況監視。 
⑦Support Layer(支援層):地上施設、受信施設、即応打ち上げ施設など。 
ちなみに、
カストディ・レイヤー(Custody Laye)は、専用衛星は持たず既存の偵察衛星や商用の画像衛星を利用し、宇宙ベースの情報収集・警戒監視・偵察(ISR:Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)活動を行う。
 宇宙ベースのISR活動は、データ収集のために衛星に組み込まれた高度なセンサーやペイロードのような上流技術と、収集されたデータを処理して配信する地上局のような下流要素の両方を含む高度なインフラに依存している。 
大統領令ではこの「カストディ・レイヤー(Custody Layer)の開発と導入」の促進を求めている。 
国家防衛宇宙アーキテクチャのイメージは、下図2のとおりである。 
図2:国家防衛宇宙アーキテクチャのイメージ図 
イ.拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ構想
2022年10月に米宇宙軍に編入された宇宙防衛庁(SDA)は、2023年1月に、NDSAの名称を拡散型戦闘宇宙アーキテクチャ(PWSA=Proliferated Warfighter Space Architecture)に変更した。  
SDAによれば、NDSAのPWSAへの名称変更は、ミッションの変更を意味するものではないとしている。
PWSAでは世界中のユーザーに、ミサイル発射の早期警報や位置情報などを伝達する。
 PWSAは低軌道に光衛星通信による高速かつ抗堪性(こうたんせい=脅威にさらされた時に機能の低下や中断を抑える能力)が高いネットワークを構築し、陸・海・空に展開する部隊に通信機能を提供する壮大な構想である。 
その目的の一つが、ロシアによるウクライナ侵攻で実戦において初めて使われたとされる極超音速ミサイルなど、極超音速兵器の探知・追尾である。
極超音速兵器は、放物線を描くこれまでの弾道ミサイルと異なり、低空を超高速かつ変則的な軌道で飛行する。
下図3を参照されたい。
図3:衛星コンステレーションによる極超音速ミサイルの探知・追尾 
出典:総務省「Beyond 5G の実現に向けた宇宙ネットワークに関する技術戦略について」
  弾道ミサイルの場合、高度3万6000キロの静止軌道上の早期警戒衛星で、発射地点と初速、方向を探知できれば着弾点が計算できた。
 しかし、極超音速ミサイルの場合は、距離が遠い静止軌道からでは、その軌道を正確に捉えることは難しい。
 そこで、低軌道を周回する衛星コンステレーションで極超音速ミサイルを探知・追尾し、即座に情報を地上に送ることを目指している。
 WSAではトラッキングレイヤーで追跡したミサイルの情報を、メッシュネットワークを組んだトランスポートレイヤーの衛星を経由して、即座に地上や艦艇などのミサイル撃墜システムに送る。 
これを実現するためにも、
電波と比べて桁違いとなる「ギガクラス(数Gbps以上)」のスループット(単位時間あたりに処理できるデータ量)を実現でき、秘匿性が高い光衛星通信が必須となる。 
このためトランスポートレイヤー衛星には、
光衛星通信端末が4~5台搭載される。
 PWSAは最終的に1000機以上の衛星コンステレーションによる大規模な構想であるため、SDAでは規格をアップデートしながら段階的に進める。 
実証フェーズの「トランシェ0(Tranche 0)」では、最終的に20機のトランスポートレイヤー衛星、そして8機のトラッキングレイヤー衛星を高度約1000キロの異なる軌道面に配備する。 
PWSA は2023年に実証フェーズを始動させ、最初の衛星の打上げに成功した。
 2026年までの次なるフェーズ「トランシェ1(Tranche 1)」においては、
光通信衛星も含む、126機のトランスポートレイヤー衛星と35機のトラッキングレイヤー衛星の合計174 機の小型衛星からなる低軌道通信衛星コンステレーションの構築を目指している。

 (3)極超音速および弾道ミサイル追跡宇宙センサ
極超音速弾道追跡宇宙センサー(HBTSS=Hypersonic and Ballistic Tracking Space Sensor)は、ミサイル防衛局(MDA)が滑空段階迎撃ミサイル(GPI:Glide Phase Interceptor)と共同で開発している衛星ベースのセンサーシステムであり、極超音速滑空弾(HGV) の脅威に対処するためのものである。
HBTSSは、最終的に宇宙開発局(SDA)が開発しているより広範な衛星群であるPWSAに統合される予定である。
すなわち、宇宙開発庁(SDA)が開発するPWSAのトラッキングレイヤー衛星と低高度軌道でネットワークを構成し、「宇宙配備赤外線システム」(SBIRS)衛星や「次世代静止軌道衛星」(OPIR:Overhead Persistent Infrared)からキューイングを受けて極超音速兵器を追随し、そのデータを滑空段階迎撃ミサイル(GPI)やイージスシステム、「終末高高度地域防衛ミサイル」(THAAD)に送信するとされる。 
HBTSSのイメージは下図4を参照されたい。 
図4:HBTSSのイメージ図
2024年2月、国防総省(DOD)は、HBTSSのプロトタイプ2機を含む6機の衛星の打ち上げと軌道投入に成功したと発表した。
2025年4月25日、ミサイル防衛局(MDA)は、L3ハリス社のHBTSS衛星の試作機が試験で性能目標を達成したと発表した。
MDAの広報担当者によると、同局は2024年2月にL3ハリス社製とノースロップ・グラマン社製の2機の競合するHBTSS実証衛星を打ち上げたが、プログラム要件を満たしたのはL3ハリス社の衛星のみだった。
 HBTSSは、大統領令によって正式化されたミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム・プログラム」の基盤技術とみなされている。 
大統領令は、ミサイルおよび航空脅威から米国を守るためのより広範な戦略の一環として、「HBTSSの導入の加速」を求めている。 
(4)極超音速滑空弾、下層およびターミナルフェーズでの迎撃能力
 本項の詳細は、拙稿「日米安保を理解できないトランプの裏で、先端防空システム共同開発進行中」(2025年3月13日)を参照されたい。
ア.全般 
現用のミサイル防衛システムの迎撃兵器には、それぞれ対応可能高度がある。 
大気圏内用の「地対空誘導弾パトリオット3」(PAC-3)の最大迎撃高度は15キロ、大気圏外用の「イージス弾道ミサイル」(SM-3) と「地上配備迎撃ミサイル」(GBI)の最低迎撃高度は70キロ、同じ大気圏外用の「終末高高度地域防衛ミサイル」(THAAD)の最低迎撃高度は40キロといわれている。 
極超音速滑空弾(HGV)は、弾道ミサイルなどで大気圏外に打上げられ、切り離された後、高度30~80キロ大気圏内をマッハ5〜20の極超音速でスキップや滑空しながらかつ軌道変更しながら標的に接近し、最後はダイブして標的に到達する。 
 HGVは、大気圏外の宇宙空間に飛び出さずに希薄な大気が残る高高度を飛ぶことにより、弾道ミサイル防衛用の大気圏外迎撃ミサイルであるSM-3とGBIを無力化する。 
THAADで対応可能であるが、THAADの迎撃弾頭はサイドスラスターのみで機動するので細かい機動はできても大きく軌道変更することはできない。
このため、跳躍しながら軌道変更して飛んでくるHGVへの対応は困難である。
唯一、PAC-3がHGVに対して有効であるが、最大迎撃高度は15キロと防護範囲が小さい。 
そこで、米国は高度30~80キロでHGVを迎撃可能な新型迎撃兵器の開発を目指している。
それが、滑空段階迎撃ミサイル(GPI:Glide Phase Interceptor)である。
ちなみに、極超音速巡航ミサイル(HCM)については、最終突入時に空気の濃い低空に差し掛かると空気抵抗で急激に速度は落ちてくる。
このため、PAC-3などの対空ミサイルでも対処が可能であるとみられている。
 GPIによるHGV迎撃のイメージは下図5の通りである
図5:GPIによるHGV迎撃のイメージ図
イ.滑空段階迎撃ミサイル(GPI)の開発経緯
①ミサイル防衛局(MDA)が2022年4月13日、各メーカに対して超高速ミサイルを迎撃する滑空段階迎撃ミサイル(GPI)を海軍のイージスシステムと組み合わせて使用する武器の提案を要求した。
この計画は2022年2月に計画が中止になったMDAの地域滑空フェーズ兵器システム(RGPWS:Regional Glide Phase Weapon System)に代わる計画である。 
②MDAが2021年11月19日、極超音速ミサイルの洋上発射型迎撃弾GPI試作弾概念設計をロッキード・マーティン社(2094万ドル)、ノースロップ・グラマン社(1896万ドル)、レイセオン社(9097万ドル)に発注した(かっこ内は発注額)。
 GPIはイージス駆逐艦に装備され、改良されたイージス「Weapon System Baseline 9」により垂直発射装置(VLS)から発射される。
③MDA長官のジョン・A・ヒル海軍中将は2023年3月15日、国防総省がGPIの開発を加速するため日本の参画を希望し、両国の国防関連企業間で調整を進めていると述べた。
④日米両国は2023年8月、GPIの共同開発を決定した。 
⑤2024年5月3日、共同通信は、次のように報道した。
「日米両政府は、極超音速兵器を迎撃するための新型ミサイルの共同開発費が総額30億ドル(約4600億円)を超えるとの推計をまとめた。日本は10億ドルを拠出する。米国ミサイル防衛庁(MDA)が2日、明らかにした」
⑥日米両国は2024年5月15日、防衛省においてGPIの日米共同開発に関するプロジェクト取決め(Project Arrangement)に署名した。 
⑦2024年11月11日、防衛省はGPIの日米共同開発において日本が分担することとなる部位について、三菱重工業と契約したことをプレスリリースで次のとおり発表した。 
・契約の件名:GPI共同開発(その1)
・契約相手方:三菱重工業
・契約金額:56億4500万円
・納期:令和11年3月 
■おわりに(我が国のとるべき対応)
我が国のミサイル防衛システムの整備について簡単に私見を述べる。
同システムの対象となるミサイルには弾道ミサイル、巡航ミサイル(極超音速兵器巡航ミサイルを含む)および極超音速滑空弾が含まれる。
一般にミサイル防衛は、攻撃、積極防衛と消極防衛の3つの作戦行動から構成される。 
①攻撃作戦とは、ミサイル発射プラットホームおよびその支援組織・システムを破壊、混乱又は無力化するための作戦である。 
我が国は、同盟国である米国との了解の下、敵対国の基地に対する攻撃も含め、攻勢作戦を米軍に依存していた。 
ところが、近年の弾道ミサイルや極超音速兵器の脅威の高まりを背景に、抑止力の向上を目的とした専守防衛下の敵地攻撃能力の保有をめぐる議論が行われてきた。 
そして、2022年12月16日に閣議決定された防衛力整備計画において、「米国製のトマホークをはじめとする外国製スタンド・オフ・ミサイルの着実な導入を実施・継続する」と明記された。 
防衛省は2024年1月18日、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の購入契約を米政府と締結した。契約額は約2540億円で、最大400発が2025年度から27年度にかけて順次納入される。 
②積極防衛作戦とは、ミサイルの空中発射プラットホームや海上発射プラットホームまたは飛行中のミサイルを破壊し、ミサイルから重要防護対象を防護することである。 
現行の弾道ミサイル防衛では東京などの政経中枢地域が重要防護対象となっている。 
我が国は2004年度から弾道ミサイル防衛システムの整備を開始した。 
他方、巡航ミサイルと極超音速滑空弾を対象としたミサイル防衛システムの整備については極端に言えば手付かずである。
防衛白書ではこれらのミサイルの脅威に対しては、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限する「総合ミサイル防空能力」で対処するとしている。
しかし、現有の装備ではこれらのミサイルへの対処は困難であろう。
 将来の装備化を目指し、電気エネルギーから発生する磁場を利用して弾丸を撃ち出す「電磁レールガン」やレーザーのエネルギーにより対象を破壊する「高出力レーザー兵器」の研究・開発を本格化する必要がある。
③消極防衛作戦とは、重要防護対象の脆弱性を減少し、ミサイル攻撃の影響を局限することである。
ミサイル攻撃に対する脆弱性を軽減する方策の一つは敵に我の重要防護対象の所在を暴露しないことであり、もう一つは爆撃効果を低減することである。 
対策としては、 シグネチャー低減対策、欺騙、堅固化、分散、重要施設の地下化などがある。
これらの対策は、ミサイル攻撃に限らずあらゆる物理的攻撃、例えば無人攻撃機に対して有効なものである。 
最後に、いかにミサイル対処能力を強化したとしても、敵のミサイル攻撃を完全に阻止することは不可能であろう。
 したがって、敵のミサイルからの爆撃効果を低減するための重要施設の堅固化・地下化に直ちに取り組むことを推奨する。 
その際、電磁パルス(EMP)攻撃を想定し、施設のEMP保護シールドを実施することも必要である。



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