あたしたちはかつて親友だった。というのも、ほら、小学生とか中学生とかって、確かめたくなるじゃん。「友達だよね」って。「親友だよね」って。今思うとすっごいばかげてるんだけど、まあとにかくあたしたちはかつて親友だった。
今は?
今はどうなんだろう。あたしは友達だって思ってるけど、ミサは違うみたい。ミサは最近三年の先輩に夢中で、あたしなんかどうでもいいみたい。そんなこと云う時点であたしの負けってのはよくわかってるんだけど。
六時間目のえらく退屈な世界史が終わって、太った担任教師の終礼も終わって、あたしたちはいつものように帰ることにした。
すると。
JRのホームに鍵が落ちていた。パンダのキーホルダーがついた、銀色に光る、まあ普通の鍵なんだけど。
「アオイ、見て、このパンダ超かわいくない?」
ミサはパンダがすきなのだった。
「んー、微妙」
あたしはどっちかって云うとそういうキャラクターみたいなのは苦手。
「このパンダだけもらってこうかな」
「やめなよ、さすがに」
ミサは鍵を太陽にすかすように掲げた。もみじがきれいなことに、十一月にしてあたしはいまさら気がついた。
あたしはその鍵の変なところに気がついた。
鍵なら当然ついているはずのあるものがその鍵にはなかった。
それは、溝。鍵ってたいてい溝がついているよなあ、なんて間抜けにも考えてしまう。
「アオイ!アオイ!この鍵変!溝がない!」
「いまさら気づいたの?」
なんの鍵なんだろう。すくなくとも家の鍵ではないはずだ。
「魔法の鍵かも」
ミサは乙女チックだなあ、なんてね。あたしもちょっと思った。魔法の鍵かもって。
「魔法ってどういう風に?」
「どこでもひらけるとか?」
試してみよう、とミサは云うと、駅員たちが出入りするような、普通のひとはなんの部屋かわからないドアの鍵穴にその鍵を突っ込もうとした。ところが、当たり前、溝がないんだから鍵は入らない。
「入らないじゃん」
「あれえ、どゆこと?」
あれ。なんか変。胸のあたりが熱い感じがする。
「アオイ、どうしたの?顔赤いよ」
「胸焼けっぽい。調理実習でケーキたべたから?」
「それ午前中の話じゃん」
と、云うとミサは鍵を持った手であたしの胸のあたりに触ろうとした。と、不思議な、不思議すぎることが起こった。
あたしの胸の中に鍵が入っていったのである。途中までで止まり、あたかも鍵をあける時のように。
「何これ!?」
「ちょっと大きな声出さないでよ、恥ずかしい」
といっても客はほとんどいないし電車も来ない。ここは田舎だからなあ。でもあたしは恥ずかしい。
ミサは鍵をひねろうとした。
「ちょ、やめてよ」
今度はあたしが大きな声を出した。
すると。
鍵が、回った。要するに、鍵が、開いた。
「うそ、いまがちゃって云ったよね」
胸の熱かったのがうそみたいになり、なんだかすっきりしたような気分になった。
「あたし、ミサが好きだよ」
「はあ?」
唐突にあたしの口からそんな言葉が出た。おかしい。そんなの云う予定はなかった。
「ずっと友達でいたいと思ってる。先輩に恋するのはいいけど、あたしとも向き合ってほしい」
「なんでそんな急に」
この鍵のせい?と思い、あたしは鍵をはずしミサの胸に当ててみる。
がちゃり。
「あたしもアオイ好き。大切に思ってる。先輩も好きだけど、アオイは特別だよ」
「ちょっと待ってあたしそんなアオイが好きなんて云うつもりなくて」
「あたしもなかった。この鍵のせいかもよ」
「うそ」
「つまりこれは」
「ほら出たアオイのまとめ癖」
「やっぱり魔法の鍵なんだよ」
大変なものを拾ってしまった。これは本当に魔法の鍵だ。
「どうする?これ」
ミサは自分の胸から引き抜き、また陽にすかす。
そこに電車が来た。あたしは強引にミサの手から鍵をうばうと、それを線路に放り投げた。
「こんな危ないもの、もってちゃだめだよ」
「もったいないよ。なんでなげちゃうのさ」
「いいじゃん。ミサの本音聞けたし」
「アオイってやっぱりあたしがすきなんだね」
「違うよ、あれは鍵のせい」
「そんなことないね。だってあたしアオイすきだもん」
あたしは胸をつかれたみたいな気分になった。いっつもミサが一枚上手なのだ。
次の日。
「おはよー」
駅の前でミサと会う。
「ああもうアオイとなんか行きたくないのに。先輩と行きたーい」
またミサはいつものミサに戻っていた。
でも知ってるんだ、あたし。やっぱりあたしたちは。
やだ、そんなの聞かないでよ。わかるでしょ?
今は?
今はどうなんだろう。あたしは友達だって思ってるけど、ミサは違うみたい。ミサは最近三年の先輩に夢中で、あたしなんかどうでもいいみたい。そんなこと云う時点であたしの負けってのはよくわかってるんだけど。
六時間目のえらく退屈な世界史が終わって、太った担任教師の終礼も終わって、あたしたちはいつものように帰ることにした。
すると。
JRのホームに鍵が落ちていた。パンダのキーホルダーがついた、銀色に光る、まあ普通の鍵なんだけど。
「アオイ、見て、このパンダ超かわいくない?」
ミサはパンダがすきなのだった。
「んー、微妙」
あたしはどっちかって云うとそういうキャラクターみたいなのは苦手。
「このパンダだけもらってこうかな」
「やめなよ、さすがに」
ミサは鍵を太陽にすかすように掲げた。もみじがきれいなことに、十一月にしてあたしはいまさら気がついた。
あたしはその鍵の変なところに気がついた。
鍵なら当然ついているはずのあるものがその鍵にはなかった。
それは、溝。鍵ってたいてい溝がついているよなあ、なんて間抜けにも考えてしまう。
「アオイ!アオイ!この鍵変!溝がない!」
「いまさら気づいたの?」
なんの鍵なんだろう。すくなくとも家の鍵ではないはずだ。
「魔法の鍵かも」
ミサは乙女チックだなあ、なんてね。あたしもちょっと思った。魔法の鍵かもって。
「魔法ってどういう風に?」
「どこでもひらけるとか?」
試してみよう、とミサは云うと、駅員たちが出入りするような、普通のひとはなんの部屋かわからないドアの鍵穴にその鍵を突っ込もうとした。ところが、当たり前、溝がないんだから鍵は入らない。
「入らないじゃん」
「あれえ、どゆこと?」
あれ。なんか変。胸のあたりが熱い感じがする。
「アオイ、どうしたの?顔赤いよ」
「胸焼けっぽい。調理実習でケーキたべたから?」
「それ午前中の話じゃん」
と、云うとミサは鍵を持った手であたしの胸のあたりに触ろうとした。と、不思議な、不思議すぎることが起こった。
あたしの胸の中に鍵が入っていったのである。途中までで止まり、あたかも鍵をあける時のように。
「何これ!?」
「ちょっと大きな声出さないでよ、恥ずかしい」
といっても客はほとんどいないし電車も来ない。ここは田舎だからなあ。でもあたしは恥ずかしい。
ミサは鍵をひねろうとした。
「ちょ、やめてよ」
今度はあたしが大きな声を出した。
すると。
鍵が、回った。要するに、鍵が、開いた。
「うそ、いまがちゃって云ったよね」
胸の熱かったのがうそみたいになり、なんだかすっきりしたような気分になった。
「あたし、ミサが好きだよ」
「はあ?」
唐突にあたしの口からそんな言葉が出た。おかしい。そんなの云う予定はなかった。
「ずっと友達でいたいと思ってる。先輩に恋するのはいいけど、あたしとも向き合ってほしい」
「なんでそんな急に」
この鍵のせい?と思い、あたしは鍵をはずしミサの胸に当ててみる。
がちゃり。
「あたしもアオイ好き。大切に思ってる。先輩も好きだけど、アオイは特別だよ」
「ちょっと待ってあたしそんなアオイが好きなんて云うつもりなくて」
「あたしもなかった。この鍵のせいかもよ」
「うそ」
「つまりこれは」
「ほら出たアオイのまとめ癖」
「やっぱり魔法の鍵なんだよ」
大変なものを拾ってしまった。これは本当に魔法の鍵だ。
「どうする?これ」
ミサは自分の胸から引き抜き、また陽にすかす。
そこに電車が来た。あたしは強引にミサの手から鍵をうばうと、それを線路に放り投げた。
「こんな危ないもの、もってちゃだめだよ」
「もったいないよ。なんでなげちゃうのさ」
「いいじゃん。ミサの本音聞けたし」
「アオイってやっぱりあたしがすきなんだね」
「違うよ、あれは鍵のせい」
「そんなことないね。だってあたしアオイすきだもん」
あたしは胸をつかれたみたいな気分になった。いっつもミサが一枚上手なのだ。
次の日。
「おはよー」
駅の前でミサと会う。
「ああもうアオイとなんか行きたくないのに。先輩と行きたーい」
またミサはいつものミサに戻っていた。
でも知ってるんだ、あたし。やっぱりあたしたちは。
やだ、そんなの聞かないでよ。わかるでしょ?
でも、二人の「好き」がかみ合って、救いがあって、
よかったと思います。
ラストがいいですね。
ギビ・ワールド全開ではありませんか。
読ませてくれて、ありがとう。
これからもよろしく!
ラストは確かにわたしっぽいと思います。
「なにはともあれ日常は過ぎてゆきます」みたいな。
こちらこそよろしくです。
うれしくって、一気に読んでしまいましたですよ。
こういうふしぎなことをあるがままにさらっとうけとめられるのは
女の子の特技ですよね。
お話全体から、「女の子」であることの楽しさやうれしさが
いっぱい感じられて、読んでいてとても楽しかったです。
駅のドアに鍵を入れたりするシーンにどきどきしちゃいました。
開いたドアのむこうに、おたがいの「好き」がつまっていてよかったなあ。
今回は、鍵の不思議さよりも、女の子の不思議さを出せたらなー、って思ってたんです。
「好き」がつまってるのは、ご都合主義という見方もありますが、わたしは気に入っています。「
女の子の不思議。女の子特有の感覚。
ふたりとも女の子であることをすごく楽しんでるかんじがするなあ。
そういう子って、見ているこっちまで幸せにしてくれるから
大好きなのですよ。
女の子にうまれると、厄介なことや
めんどうくさいこともあるけれど、
やっぱりわたしは女の子なんだなあ、っておもいます。