夕方四時の各駅停車は、いつもどおり半端にこんでいて、あたしは魔法をつかって、全員次の駅でおろしたりしてみたいなあ、なんてすでに負け組意識満載で考えていた。
あたしはつりかわにつかまり、なんとなく窓の外を見ていた。耳にはBOSEのヘッドフォン。聞こえてくるのは鋭利なナイフのようなするどい歌声。地下鉄だからなんにも見えないんだけどね。
ふと、前に座る女の子に目をやる。開いてる参考書で、私立中二年生ぐらいだな、と見当がついた。制服は知らないところだった。女子校なんだろうなあ、って思う。一昔前じゃかえって不良と思われただろうな長いスカート。みどりを通り越して不気味な黒髪。
バイブレーションの音。となりに寝ていたこれまた同じぐらいの女の子が目をさます。こちらは対照的にスカートも短く、茶髪がだらしなく伸びている。
あたしはおどろいた。どうみても二人は同じ顔をしている。誰が、どうみても、だ。眉は茶髪ちゃんはそってて黒髪ちゃんはそってないからちがうけど、目、鼻、口、耳までパーツが全部同じだ。あたしは悟った。ああ、双子かあ。
ところが、だ。
二人のあいだにまったく会話はない。ほら、次の駅、なんて会話すらない。仲の悪い双子なのかなあ、と思っていると、茶髪ちゃんが席をたった。そして次の駅に着き、茶髪ちゃんは電車をおりてしまった。
必然的にあたしは黒髪ちゃんのとなりにすわる。
またしてもバイブレーション。黒髪ちゃんのケータイのようだ。好奇心が勝り、いけないと思いつつのぞいてしまう。
「みつけちゃったね、あたしのこと」
それだけ書いてあるメール。差出人は、「あんたのいとしのもう一人のあんた」
黒髪ちゃんは息を鼻から思いっきり吸う。
そしてあたしのほうをむく。
「たぶん、あなたにしかわたし、見えてないと思うんです」
なにがなんだかさっぱりわからない。
「つまり、わたし、ドッペルゲンガーに出会ってしまったんです」
それがなぜあたしに?
「ほら」
と、黒髪ちゃんは鏡を差し出した。そこには黒に茶メッシュの、あたしがいた。
それも、二人とまったくおなじ顔だった。
あたしは、急に不安になる。って当たり前か。
あたしはかばんの中をあさる。プリクラ、写真、学生証、なんでもいいからあたしが二人とは同じ顔じゃないという証明を!!!!
専門学校の学生証を見つける。
そこに緊張した面持ちで笑うのは、あたし。
でも、二人とおんなじ顔。
「ドッペルゲンガー?」
でも、普通、二人だって言うよね。
「つまりさきほどの茶髪の彼女がわたしのドッペルゲンガーで、わたしがあなたのドッペルゲンガーなんです」
怖くなって周りを見渡す。
老若男女、黒髪、茶髪、キンパ、みーんなあたしと同じ顔をしている。
そしていっせいになるバイブレーション。
あたしのケータイも、また。
知りたくない。その中身なんて。
怖くてあたしは電車を降りた。
そこに地面はなかった。
羽を生やした男がいた。
天使、なんだろうか。非常に整った顔立ちで、笑っている。
「どうも、ドッペルゲンガーのみなさん」
あたしの後ろにはあたしの行列ができている。
「みなさん、これから一人の人間になってもらいます」
せーの、っと男は魚屋の兄ちゃんみたいな声で云った。
次の瞬間、あたしはまた電車の中にいた。きょろきょろしてみる。あたしはたったままだ。
鏡を見る。さっきとは違う、よく慣れた昔どおりの顔が浮かぶ。
黒髪ちゃんも茶髪ちゃんも、ありとあらゆるあたしもいない。
すうううう。息をすう。はああああ。口から吐く。するとあたしの耳には確かに聞こえた。
「あなたは全世界の人間のドッペルゲンガーなんです。だからしょっちゅう顔も変わる。まあ、しょうがないですよ。あきらめてください」
あたしは人を滅ぼし続ける運命にあるのだと思う。よくわかんないけどさ。
でも、あたしは生きるしかない。
あたしの、ドッペルゲンガーすら消すあたしだよ?
ぜったいどんでん返しが待ってる。
その日まで、生き抜いてやる。
ざまあみろ、天使。ふざけんなこの世界を作ったカミサマとやら。
あたしはつりかわにつかまり、なんとなく窓の外を見ていた。耳にはBOSEのヘッドフォン。聞こえてくるのは鋭利なナイフのようなするどい歌声。地下鉄だからなんにも見えないんだけどね。
ふと、前に座る女の子に目をやる。開いてる参考書で、私立中二年生ぐらいだな、と見当がついた。制服は知らないところだった。女子校なんだろうなあ、って思う。一昔前じゃかえって不良と思われただろうな長いスカート。みどりを通り越して不気味な黒髪。
バイブレーションの音。となりに寝ていたこれまた同じぐらいの女の子が目をさます。こちらは対照的にスカートも短く、茶髪がだらしなく伸びている。
あたしはおどろいた。どうみても二人は同じ顔をしている。誰が、どうみても、だ。眉は茶髪ちゃんはそってて黒髪ちゃんはそってないからちがうけど、目、鼻、口、耳までパーツが全部同じだ。あたしは悟った。ああ、双子かあ。
ところが、だ。
二人のあいだにまったく会話はない。ほら、次の駅、なんて会話すらない。仲の悪い双子なのかなあ、と思っていると、茶髪ちゃんが席をたった。そして次の駅に着き、茶髪ちゃんは電車をおりてしまった。
必然的にあたしは黒髪ちゃんのとなりにすわる。
またしてもバイブレーション。黒髪ちゃんのケータイのようだ。好奇心が勝り、いけないと思いつつのぞいてしまう。
「みつけちゃったね、あたしのこと」
それだけ書いてあるメール。差出人は、「あんたのいとしのもう一人のあんた」
黒髪ちゃんは息を鼻から思いっきり吸う。
そしてあたしのほうをむく。
「たぶん、あなたにしかわたし、見えてないと思うんです」
なにがなんだかさっぱりわからない。
「つまり、わたし、ドッペルゲンガーに出会ってしまったんです」
それがなぜあたしに?
「ほら」
と、黒髪ちゃんは鏡を差し出した。そこには黒に茶メッシュの、あたしがいた。
それも、二人とまったくおなじ顔だった。
あたしは、急に不安になる。って当たり前か。
あたしはかばんの中をあさる。プリクラ、写真、学生証、なんでもいいからあたしが二人とは同じ顔じゃないという証明を!!!!
専門学校の学生証を見つける。
そこに緊張した面持ちで笑うのは、あたし。
でも、二人とおんなじ顔。
「ドッペルゲンガー?」
でも、普通、二人だって言うよね。
「つまりさきほどの茶髪の彼女がわたしのドッペルゲンガーで、わたしがあなたのドッペルゲンガーなんです」
怖くなって周りを見渡す。
老若男女、黒髪、茶髪、キンパ、みーんなあたしと同じ顔をしている。
そしていっせいになるバイブレーション。
あたしのケータイも、また。
知りたくない。その中身なんて。
怖くてあたしは電車を降りた。
そこに地面はなかった。
羽を生やした男がいた。
天使、なんだろうか。非常に整った顔立ちで、笑っている。
「どうも、ドッペルゲンガーのみなさん」
あたしの後ろにはあたしの行列ができている。
「みなさん、これから一人の人間になってもらいます」
せーの、っと男は魚屋の兄ちゃんみたいな声で云った。
次の瞬間、あたしはまた電車の中にいた。きょろきょろしてみる。あたしはたったままだ。
鏡を見る。さっきとは違う、よく慣れた昔どおりの顔が浮かぶ。
黒髪ちゃんも茶髪ちゃんも、ありとあらゆるあたしもいない。
すうううう。息をすう。はああああ。口から吐く。するとあたしの耳には確かに聞こえた。
「あなたは全世界の人間のドッペルゲンガーなんです。だからしょっちゅう顔も変わる。まあ、しょうがないですよ。あきらめてください」
あたしは人を滅ぼし続ける運命にあるのだと思う。よくわかんないけどさ。
でも、あたしは生きるしかない。
あたしの、ドッペルゲンガーすら消すあたしだよ?
ぜったいどんでん返しが待ってる。
その日まで、生き抜いてやる。
ざまあみろ、天使。ふざけんなこの世界を作ったカミサマとやら。