今日は明日の前日だから

わたしはおもう。わたしはつづる。あなたにみてほしいのは、あなたがあなただから。

季節の携帯

2005-05-08 15:58:11 | Weblog
偶然かどうかなんてわかんないけど、あたしの乗った地下鉄にはあたし以外だれものってなかった。だあれもだよ。
そこであたしは携帯電話を拾った。もちろん普段はそんなことしない。無視する。当たり前でしょ?でも今日は違う。だって誰も乗ってない地下鉄の車両の薄汚れた床のうえで携帯が歌っていたから。ほんとに歌ってた。あたしはシーエムでやってる着うたって奴だな、と思った。その歌はただらららと歌っているだけだったんだけど、不思議なことに一度もきいたことのない歌だった。あれ、なんだ?この歌。そんなことも重なって、あたしは携帯を手にとった。折畳みだからそっとあける。でも気は急いている。
画面には「着信」と出ていた。非通知で。あたしはもう完全に夢中になって通話ボタンをおした。
「もしもし?おれだけど。」
詐欺かな?なんて思って相手の名をたずねる。
「おれだよ。夏だよ。そろそろおれそっちいっていいよな?」
夏?
「あれ?おかしいな。あんた春だろ」
実は地下鉄のなかで拾ったんです。ちょうど今。
「ああそうか春は今いないんだもんな。最近、ほら、寒いだろ?まったく携帯ぐらい持っていけよ」
どういうことですか?
「ああ、もしかしてあんたニンゲン?」
分類上は。
「よく携帯みつけたな。着信もよくきけたな」
どういうことですか?
「ようするに、夏が来るってことさ」
そういうと、自称夏は大笑いして電話をきった。するとあたしの手のなかにあった電話は消えてしまった。どう、って説明できない。ただ、消えた。
なんだかあたしはすがすがしい気分になった。次の駅につくと人がたくさん乗ってきた。



夏が来る!