Lancet Infect Dis 2018; 18; e217-25
David S Hui, et al.
Introduction
2015年以降もMERS-CoVの症例はアラビア諸国では報告が続いており、他の国でも散発的なアウトブレイクは時々ある。
Epidemiology
MERS-CoVの症例の約40%は院内もしくは家庭内のアウトブレイク。中東以外では、2015年5月の韓国でのアウトブレイクが最大で、186例中38例が死亡した(致死率20.4%)。カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、バーレーンに旅行した韓国人が発症し、2015年5月20日にMERSと診断がつくまでに複数の医療機関に受診したことが原因。医療関係者は25名。181名は医療機関との関連あり。その後もサウジアラビアでは間欠的に散発が生じており、WHOは優先度の高いブループリントリストのひとつとしている。
2012年6月に重症肺炎と多臓器疾患で死亡した60歳のサウジアラビア人の痰から、9月にMERS-CoVを分離して以来、症例の報告は増え続けている。2018年2月時点で2182の感染例(致死率35.7%)が27か国で報告されている。サウジアラビアで最も多く、約82%(1807例、致死率39%)。サウジアラビアの症例の半数はPrimary infection、11%は家庭内伝播、24%は医療機関関連。
Primary infection
コウモリがoriginal sourceと考えられているが確定的ではない。Taphozousという種類のコウモリから検出されたMERS-CoVの遺伝子の一部は人から分離されたものと近かった。ヒトコブラクダは中間宿主(reservoir)であることが示唆される。カタールではヒトコブラクダの血清と乳から抗体、ラクダの鼻汁や糞から活動的なウイルスの排泄、ラクダの乳からRNAがそれぞれ検出されている。エジプトではラクダの71.2%が血清中に抗体陽性で、15.4%で鼻腔スワブでRNAが検出された。抗体は直腸からも検出された。乳は63℃ 30分の加熱殺菌で検出不可能になった。
Primary infectionのリスクファクター
2週間以内のヒトコブラクダへの直接的接触、心疾患、6か月以内のヒトコブラクダへの接触歴が感染の独立したリスク因子。サウジアラビアの一般人口で抗体陽性なのは0.2%で、ラクダの放牧で15倍高率、トサツで23倍高率。ラクダ関連の労働では訓練や搾乳、一泊入院が必要な呼吸器症状、ラクダの排泄物への接触、作業前後で手指衛生が乏しい場合が、リスクとわかっている。
ラクダから人への伝播
気道分泌物や唾液を介して直接的に生じるか、乳や調理が不十分な肉の消費で生じると考えられている。ヒトコブラクダの鼻腔でRNAが約2週間陽性。MERS-CoVはヒトコブラクダの中では広がるが、ラクダから人への感染は比較的稀で、ラクダへの暴露が大きな負担になるわけではない(MERSに感染したヒトコブラクダへ様々な程度で接触した191名の血清からは感染の証拠がなかった)。実際Primary infectionを生じた人の半数未満しかヒトコブラクダとの接触歴がなかった。
非特異的症状
臨床症状や検査所見は非特異的。誤診されやすく、その間に伝播する。無症候性から重症まで様々。潜伏期間は2~14日間。軽症では微熱、鼻汁、乾性咳嗽、咽頭痛、筋痛。重症ではARDSやMOFに至る肺炎。肺炎は画像上、約7日間は急速に進行し約14日でピークに達する。下気道のウイルス量は上気道よりも多い。半数はAKIを生じ、Critical illの患者の1/3は消化器症状があり、ウイルスが便から検出される。3日目の死亡率が13.8%、30日死亡率が28.3%、全死亡率が29.8%。60歳以上でより死亡しやすかった(45.2% vs 20%)。
重症化と死亡のリスク因子
高齢・男性・併存症(肥満・DM・心/肺/腎疾患、免疫抑制)、低Alb血症、共感染、血清MERS-CoV RNA陽性、医療関係者以外、意識変容、入院時のPSI高値、来院時の炎症反応上昇(IP-10, MCP-1, IL-6)、入院後day5-10のウイルス量高値と発症day11-16の抗体低値が重症化のリスク
ヒトーヒト伝播
MERS-CoVは血液や尿・便からは検出されにくい。空気感染・飛沫感染・摂取が考えられている。close contactがないと起こりにくく、一次感染を生じたcommunity内や家族間、医療機関が多い。
家庭内伝播
リスク因子は同室での就寝、排泄物を扱った場合、気道分泌物に接触した場合。rtRT-PCRよりも抗体測定の方が感度がよいことを証明した研究あり。
院内感染
医療関連のアウトブレイクは特徴的で、約1/3を占める。インフルエンザと比較すると低い温度(20℃)、低い湿度(40%)でエアロゾル内で安定し、48時間はプラスチックやスチールの表面からも検出される。このことが空調を中央管理している医療機関で広がりやすいことを説明しうる。
院内感染例は、医療関係者間で感染制御ができず、適切な隔離ができなかったことが要因。中にはエアロゾル発生装置(AGPs: CPAPやネブライザー、CPR)の関与もあったと思われる。感染管理としては、
・MERS-CoVの検査する以前にも、発熱のある患者に手指衛生・飛沫・接触予防策
・透析を行うすべての患者にサージカルマスクをつけAGPを使用しているMERS-CoV感染者に対しては、医療者がN95を使用。
・MERS-CoVの感染が疑われる患者が透析やICU入室する際には個室管理とする
・環境清掃を徹底し、MERS-CoV感染者に接触する医療者や面会者を減らす
医療関連アウトブレイクは、救急部や外来や透析室が多い。
医療関係者と伝播
サウジアラビアの病院で患者との接触後に感染したのは8%(20/250)。放射線技師が最も罹患率が高かった。medical maskかN95を常用していた場合は感染しにくかった(6.0% vs 18.8%)。
MERS-CoVのウイルス量と伝播
韓国のスプレッダーの分析で、発病1~11日目(中央値7日)まで伝播でき、一人あたり1~84人(中央値2人)に感染させる。MERS-CoVのウイルス量は発症2週間以内にピークに達し、下気道の方が上気道よりウイルス量は高値で、持続期間も長かった。韓国でのアウトブレイクはCycle threshold, 入院や救急外来前の隔離(OR6.82)が関連していた。Superspreading eventは隔離前接触、隔離前の救急外来への頻回の受診、Dr shoppingが関連していた。
重症度と伝播
死亡する患者は2次感染を生じやすかった。医療関連のアウとブレイクの基本再生倍数は2から5人。
院内の環境汚染
ベッドシーツ、柵、点滴棒、CT装置、待合室のテーブル、空気からMERS-CoVは陽性になった。モニターに付着したウイルスは希釈した亜塩素酸ナトリウムで消毒後のみ検出されなくなった。
無症候性の人からの伝播
無症候性で上気道のMERS-CoVが陽性になっても、2-3日以内で消失する( 35日まで検出された報告もある)。ウイルス培養が陰性になった回復期の患者でもPCR陽性が続くことはある。無症候性の医療関係者から免疫抑制などのリスクのある患者に伝播するのかははっきりしていない。患者のケアに関わった医療関係者のうち0・5%(3/591名)が無症候性感染を生じたが、うち一人の追跡調査では2次感染は生じなかった(韓国)。家族内感染が無症候性患者と関連があるとするものもあった(サウジアラビア)。
伝播にリスクを減らす
ワクチンはないので、早期に症例を認識、隔離、感染管理が重要。
感染予防と感染管理
飛沫感染予防として、患者の1~2m以内でサージカルマスクを使用、患者の部屋ではガウン・手袋・ゴーグルを使用。空気感染対策は開放型吸引や挿管、気管支鏡、CPRなどAGPsに適応されるべき。この際にはN95 Facepiece respirator, FFP2/3 filtering facepirce respiratorを適切に使用する。
室内のコンタミネーションを減らすため、1時間に最低6回換気を行うことが推奨。AGPsを要する患者のケアの前には12回。環境の清掃は水と洗剤、次亜塩素酸などの消毒薬で十分。
MERS-CoVが陽性になった医療関係者は最低24時間あけて採取した2つの上気道サンプルが陰性であることを確認し、潜伏期間14日を経過するまで出勤停止。
教育
併存症がある患者では感染のリスクが高いため、ラクダやコウモリには近づかない。ラクダに触る前後は手を洗う。加熱していないラクダの乳や尿を飲まない、調理不十分な肉を食べない。WHOは中東から帰国した時点でMERS-CoVのスクリーニングをすることは推奨していない。アラビア諸国に旅行して10日以内に気道症状と39℃以上の発熱もしくは画像変化を伴う咳がある場合に、より疑うべき。
まだわかっていないこと
感染経路(ヒトコブラクダから人へ)の正確なメカニズムは不明。コウモリなど他のリザーバーがいる説もある。無症候性キャリアから感染するかも明確でない。AGPsが医療機関関連感染に重要な役割をもっていそうだが、正確な役割については不明。
結論
MERS-CoVは公衆衛生上のリスクとして重要で、旅行者を介しての国際的広がりが生じうる。毎年1000万人が182カ国からサウジアラビアに渡航するため、サーベイランスと感染の認識が重要。医療関連感染は多くは診断の遅れにより、外来や救急外来、透析室で広がる。国際的な感染管理のプロトコールの順守が重要。
David S Hui, et al.
Introduction
2015年以降もMERS-CoVの症例はアラビア諸国では報告が続いており、他の国でも散発的なアウトブレイクは時々ある。
Epidemiology
MERS-CoVの症例の約40%は院内もしくは家庭内のアウトブレイク。中東以外では、2015年5月の韓国でのアウトブレイクが最大で、186例中38例が死亡した(致死率20.4%)。カタール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、バーレーンに旅行した韓国人が発症し、2015年5月20日にMERSと診断がつくまでに複数の医療機関に受診したことが原因。医療関係者は25名。181名は医療機関との関連あり。その後もサウジアラビアでは間欠的に散発が生じており、WHOは優先度の高いブループリントリストのひとつとしている。
2012年6月に重症肺炎と多臓器疾患で死亡した60歳のサウジアラビア人の痰から、9月にMERS-CoVを分離して以来、症例の報告は増え続けている。2018年2月時点で2182の感染例(致死率35.7%)が27か国で報告されている。サウジアラビアで最も多く、約82%(1807例、致死率39%)。サウジアラビアの症例の半数はPrimary infection、11%は家庭内伝播、24%は医療機関関連。
Primary infection
コウモリがoriginal sourceと考えられているが確定的ではない。Taphozousという種類のコウモリから検出されたMERS-CoVの遺伝子の一部は人から分離されたものと近かった。ヒトコブラクダは中間宿主(reservoir)であることが示唆される。カタールではヒトコブラクダの血清と乳から抗体、ラクダの鼻汁や糞から活動的なウイルスの排泄、ラクダの乳からRNAがそれぞれ検出されている。エジプトではラクダの71.2%が血清中に抗体陽性で、15.4%で鼻腔スワブでRNAが検出された。抗体は直腸からも検出された。乳は63℃ 30分の加熱殺菌で検出不可能になった。
Primary infectionのリスクファクター
2週間以内のヒトコブラクダへの直接的接触、心疾患、6か月以内のヒトコブラクダへの接触歴が感染の独立したリスク因子。サウジアラビアの一般人口で抗体陽性なのは0.2%で、ラクダの放牧で15倍高率、トサツで23倍高率。ラクダ関連の労働では訓練や搾乳、一泊入院が必要な呼吸器症状、ラクダの排泄物への接触、作業前後で手指衛生が乏しい場合が、リスクとわかっている。
ラクダから人への伝播
気道分泌物や唾液を介して直接的に生じるか、乳や調理が不十分な肉の消費で生じると考えられている。ヒトコブラクダの鼻腔でRNAが約2週間陽性。MERS-CoVはヒトコブラクダの中では広がるが、ラクダから人への感染は比較的稀で、ラクダへの暴露が大きな負担になるわけではない(MERSに感染したヒトコブラクダへ様々な程度で接触した191名の血清からは感染の証拠がなかった)。実際Primary infectionを生じた人の半数未満しかヒトコブラクダとの接触歴がなかった。
非特異的症状
臨床症状や検査所見は非特異的。誤診されやすく、その間に伝播する。無症候性から重症まで様々。潜伏期間は2~14日間。軽症では微熱、鼻汁、乾性咳嗽、咽頭痛、筋痛。重症ではARDSやMOFに至る肺炎。肺炎は画像上、約7日間は急速に進行し約14日でピークに達する。下気道のウイルス量は上気道よりも多い。半数はAKIを生じ、Critical illの患者の1/3は消化器症状があり、ウイルスが便から検出される。3日目の死亡率が13.8%、30日死亡率が28.3%、全死亡率が29.8%。60歳以上でより死亡しやすかった(45.2% vs 20%)。
重症化と死亡のリスク因子
高齢・男性・併存症(肥満・DM・心/肺/腎疾患、免疫抑制)、低Alb血症、共感染、血清MERS-CoV RNA陽性、医療関係者以外、意識変容、入院時のPSI高値、来院時の炎症反応上昇(IP-10, MCP-1, IL-6)、入院後day5-10のウイルス量高値と発症day11-16の抗体低値が重症化のリスク
ヒトーヒト伝播
MERS-CoVは血液や尿・便からは検出されにくい。空気感染・飛沫感染・摂取が考えられている。close contactがないと起こりにくく、一次感染を生じたcommunity内や家族間、医療機関が多い。
家庭内伝播
リスク因子は同室での就寝、排泄物を扱った場合、気道分泌物に接触した場合。rtRT-PCRよりも抗体測定の方が感度がよいことを証明した研究あり。
院内感染
医療関連のアウトブレイクは特徴的で、約1/3を占める。インフルエンザと比較すると低い温度(20℃)、低い湿度(40%)でエアロゾル内で安定し、48時間はプラスチックやスチールの表面からも検出される。このことが空調を中央管理している医療機関で広がりやすいことを説明しうる。
院内感染例は、医療関係者間で感染制御ができず、適切な隔離ができなかったことが要因。中にはエアロゾル発生装置(AGPs: CPAPやネブライザー、CPR)の関与もあったと思われる。感染管理としては、
・MERS-CoVの検査する以前にも、発熱のある患者に手指衛生・飛沫・接触予防策
・透析を行うすべての患者にサージカルマスクをつけAGPを使用しているMERS-CoV感染者に対しては、医療者がN95を使用。
・MERS-CoVの感染が疑われる患者が透析やICU入室する際には個室管理とする
・環境清掃を徹底し、MERS-CoV感染者に接触する医療者や面会者を減らす
医療関連アウトブレイクは、救急部や外来や透析室が多い。
医療関係者と伝播
サウジアラビアの病院で患者との接触後に感染したのは8%(20/250)。放射線技師が最も罹患率が高かった。medical maskかN95を常用していた場合は感染しにくかった(6.0% vs 18.8%)。
MERS-CoVのウイルス量と伝播
韓国のスプレッダーの分析で、発病1~11日目(中央値7日)まで伝播でき、一人あたり1~84人(中央値2人)に感染させる。MERS-CoVのウイルス量は発症2週間以内にピークに達し、下気道の方が上気道よりウイルス量は高値で、持続期間も長かった。韓国でのアウトブレイクはCycle threshold, 入院や救急外来前の隔離(OR6.82)が関連していた。Superspreading eventは隔離前接触、隔離前の救急外来への頻回の受診、Dr shoppingが関連していた。
重症度と伝播
死亡する患者は2次感染を生じやすかった。医療関連のアウとブレイクの基本再生倍数は2から5人。
院内の環境汚染
ベッドシーツ、柵、点滴棒、CT装置、待合室のテーブル、空気からMERS-CoVは陽性になった。モニターに付着したウイルスは希釈した亜塩素酸ナトリウムで消毒後のみ検出されなくなった。
無症候性の人からの伝播
無症候性で上気道のMERS-CoVが陽性になっても、2-3日以内で消失する( 35日まで検出された報告もある)。ウイルス培養が陰性になった回復期の患者でもPCR陽性が続くことはある。無症候性の医療関係者から免疫抑制などのリスクのある患者に伝播するのかははっきりしていない。患者のケアに関わった医療関係者のうち0・5%(3/591名)が無症候性感染を生じたが、うち一人の追跡調査では2次感染は生じなかった(韓国)。家族内感染が無症候性患者と関連があるとするものもあった(サウジアラビア)。
伝播にリスクを減らす
ワクチンはないので、早期に症例を認識、隔離、感染管理が重要。
感染予防と感染管理
飛沫感染予防として、患者の1~2m以内でサージカルマスクを使用、患者の部屋ではガウン・手袋・ゴーグルを使用。空気感染対策は開放型吸引や挿管、気管支鏡、CPRなどAGPsに適応されるべき。この際にはN95 Facepiece respirator, FFP2/3 filtering facepirce respiratorを適切に使用する。
室内のコンタミネーションを減らすため、1時間に最低6回換気を行うことが推奨。AGPsを要する患者のケアの前には12回。環境の清掃は水と洗剤、次亜塩素酸などの消毒薬で十分。
MERS-CoVが陽性になった医療関係者は最低24時間あけて採取した2つの上気道サンプルが陰性であることを確認し、潜伏期間14日を経過するまで出勤停止。
教育
併存症がある患者では感染のリスクが高いため、ラクダやコウモリには近づかない。ラクダに触る前後は手を洗う。加熱していないラクダの乳や尿を飲まない、調理不十分な肉を食べない。WHOは中東から帰国した時点でMERS-CoVのスクリーニングをすることは推奨していない。アラビア諸国に旅行して10日以内に気道症状と39℃以上の発熱もしくは画像変化を伴う咳がある場合に、より疑うべき。
まだわかっていないこと
感染経路(ヒトコブラクダから人へ)の正確なメカニズムは不明。コウモリなど他のリザーバーがいる説もある。無症候性キャリアから感染するかも明確でない。AGPsが医療機関関連感染に重要な役割をもっていそうだが、正確な役割については不明。
結論
MERS-CoVは公衆衛生上のリスクとして重要で、旅行者を介しての国際的広がりが生じうる。毎年1000万人が182カ国からサウジアラビアに渡航するため、サーベイランスと感染の認識が重要。医療関連感染は多くは診断の遅れにより、外来や救急外来、透析室で広がる。国際的な感染管理のプロトコールの順守が重要。
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