前回に引き続き、馬渕睦夫氏の書籍より一部抜粋させて頂きます。
日本再発見その十四より
タイ国王が国民に呼びかけた「足るを知る」の意味
※「足るを知る」生活にもどろう
タイの国内がバーツ危機で混乱したとき、タイのプミポン国王が国民に
メッセージを発せられたのです。そのメッセージに、私は非常に感心させられました。
国王はこう国民に訴えられました。
「原点を忘れてはいないだろうか」と。
つまり、「タイは農業で発展してきた。だからタイは豊かな国なんだ。
ところがその足下を忘れて欧米の近代化の利点だけ、過剰消費だけを受け入れて
しまったがために、1997年からの混乱を招いたのであろう。
だから私たちは、その『足るを知る』生活というものに戻る必要があるのではないか」
__、プミポン国王はそういうことを強調されたのです。
タイの豊かさの根源であるタイの農業、特に稲作ですが、それをもう一度見直す
必要がある、そういうことを順々と諭されたのです。
私たちは、なかなか「足るを知る」生活というのはできません。しかし、
「足るを知る」生活を忘れると、極端に走ってしまう危険があるのです。
プミポン国王は敬虔な仏教徒であり、タイの国民は、9割5分ぐらいは仏教徒です。
一部イスラム教徒がいますが、ほとんどは仏教徒です。そういう人たちにこの
プミポン国王の言葉は響いたと思います。
国王は、〝中道〝の生活の重要性をおっしゃったのです。
「足るを知る」生活です。これは仏教の教えの基本です。
両極端を避ける。過剰な消費生活、大量消費文化ではなく、
また逆にストイックな生活でもない生き方です。
今の言い方で言えば、グローバリズムと伝統文化の中道の生活をするということです。
その両方を日々の生活態度にどう結びつけていけばよいかを考えよう、
そういう指摘であったと思います。
これはまさに世界が直面している問題です。
そういう意味で私は、プミポン国王が亡くなられたことは非常に残念に思います。
「中道の生活をする」「足るを知る生活をする」ということはむずかしいかもしれません。
この世の中は、あまりにも物質的な欲望が多すぎますからね。
しかし、私たちは日々の生活のなかで、少しでも中道というものを振り返ってみる
時間が必要であろうと思います。
一日のうちの数分でもいいから、そういう「足るを知る」生活というものに
思いを馳せてみるということが必要になってきているのではないでしょうか。
そういう日々のささやかな努力の積み重ねが、やがて大きくわが国を動かしていく
ことになるだろうと私は思っています。
(タイ国王のラーマ9世(プミポン国王)は、先般「2016年10月13日)亡くなられました。)
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◎この項目には、他に タイの不景気とエリート階級の反応 と
「欧米流近代化」と「自国の伝統文化」の両立に成功した日本 があります。