月刊パントマイムファン編集部電子支局

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アーティストリレー日記(25)長井直樹さん

2013-02-10 23:32:56 | アーティストリレー日記
今号では、元「マイムトループ 気球座」のメンバーで、現在「マイムトループ グラン・バルーン」の一員として活躍中の、長井直樹さんの日記をお届けします。

さてさて、せっかくこのわたくしめにバトンが手渡されたので、今までの方とは一味違うパントマイムにまつわるお話をと思います。

2012年5月17日 バリ島にて 
 今日はインドネシアのジョグジャカルタからバリ島にやってきたベンケル・マイム・シアターという若手グループの公演を見に行く。
インドネシアでパントマイムをググってみても、でてくるのは白塗りおじさんの舞踏もどき(舞踏をけなしているわけでなく、体鍛えてないのに、それっぽいスローな動きでわけわかんないことしていればいい?みたいなごまかしパフォーマンスっていうニュアンスを感じ取れてしまうそのおじさん…なので、こんな表現になってしまいますが…もちろん、わたくし舞踏は好きなので、だからこそこんな批判めいたことを言ってしまいました)だったり、白塗りの白手袋で、ボーダーTシャツにサスペンダー、やることは「かべ」か「ロープ」のテクニック…習いたての高校生が学園際で発表みたいな…。
それとも、ムーンウォークやヒップ・ホップ・ダンスのムーヴメントの類を、パントマイムと勘違いしていたり…。
まだまだインドネシアでは、シアター・パントマイムってマイナーというか、存在すらほとんどないくらい。

だから、You Tubeでちょこっと得た情報からの、スタジオ公演っぽいことをしているこの若手の公演にとても期待し、いざ会場へ。
会場にきてみる…、その前に、この会場というのが、なかなか見つけられなかった。それというのも、バリにはほとんど劇場というものがない、というか日本で言うところの公的な劇場は皆無。あるのは、バリの芸能用の会場ばかり。ごく一部の劇場を除き、照明設備はおろか、バトンも袖もホリゾントも…ない。あるのは、派手な装飾の出入り口。ここからバリの踊り手が登場したりする。
通常の舞台からすると、この出入り口のコテコテの装飾が、虚構の世界へ誘うことをあえて邪魔する。ついこの前も、日本のお能の巨匠、コンテンポラリー・ダンス、バリ舞踊、ガムランの各界の最たる表現者のコラボの裏方のお手伝いの際、この「コテコテ」が想像の世界へ飛び立つことを妨げていて、もったいないなぁとつくづく感じた。もちろん、本来バリの芸能をすることが第一目的なのであろうから、文句を言える立場どころか、その空間を使わせていただけることに感謝すべき立場であり、バリの芸能の神様の憤りに触れてしまう。ごめんなさい。

さぁ、今日の会場は…。
会場はどうやらボーイスカウトかボランティア活動の拠点の建物内の一室。ここを黒幕で覆い尽くして劇場空間を作り出している様子。想像しやすく説明すると、何か出し物をするために設営された学園祭の教室って感じ。手作りカン満載でなんだか怪しい雰囲気もあり、わくわくする。
バリで初めて出会った、回路数は少ないながらも調光卓で操作され、音響装備もある劇場、というかスタジオ公演って感じ。まず暗転がきちんとできていて、「虚構の箱」という空間を作り出されていることに初めて出会う。インドネシアの首都や彼らの本拠地のジョグジャでは劇場を実際に見たが、まさかここバリで出会えるとは…。

バリでの芸能は、ガムランと踊り、または影絵で構成されるものがほとんどで、基本的に屋外で演じられる。あっても屋根とそれを支える柱だけ。つまり閉ざされた虚構の空間とは真逆の、完全に開かれた空間。だから、シアター・パントマイムなど空想の世界に誘う表現は、並ならぬ集中力を観客に求めなければならない…ううん、これってかなり難しいだろうなぁ…テント張りのイベント会場で、大道芸的パフォーマンスでなく1時間もののソロ公演…やる側としても見る側としても難しそうって想像つくでしょ?
だからこそ、この想像の世界へ誘ってくれる怪しげな空間にわくわくするのだ。

いざ開演。
内容としては…人それぞれ好みもあり、評価できる立場ではないが、なかなか楽しめた。批評家ではないので感想などはあえて伏せる。
終演後、リーダーと話す機会を持てた。
彼らはすべて独学でパントマイムを習得しているとのこと。本やウェブサイトからだそうだ。なかでもYouTubeでまず一番に名の挙がる、先輩に当たるシ○ターH,彼女のサイトは、よ~くお世話なったとか。しかも個人的に彼女の大ファンだそうで、よろしく伝えてくれとも言われた。さすが、インドネシアの人、動体視力がいいのか、見ただけでかなりの動きを模倣できてるようだ。これはパントマイムに限らず、伝統芸能、ダンスなど方々で感じられる。しか~し…やっぱり2次元からの習得には限界があるようで、個人的に感じたのは、動きは真似できても、そのコンセプトや体の意識や感覚までを知ることは難しいのだろうと想像する。彼女も私も学んだドゥクルー・システム、これを独学で探りながらかつ自分の表現を探求するなんて、ううぅ~ん、遠回りなのかもしれないなぁ…と偉そうにも思ってしまった。基本をコンパクトに凝縮して濃密に学習できるって、幸せなんだなぁと再認識する。インドネシアにはまだそういったシステム化されたパントマイムを学べる場がないらしい。

過去、近所のローカルっ子にワークショップを開いたときに感じたことがある。ちょっと見ただけで、すぐに基本的なテクニックができてしまうのだ。日本人よりも、優れている。あきらかに。不必要に文明に侵されていないからこその、動物的なカンの鋭さ、とでも言ったらいいのか。もともと人間がもっていた感覚が日本人は鈍ってきているのではないかなぁ…と思ってしまう。文明って何だろう。人間が楽をするために躍起になって捜し求め、その才能が本来の人間の機能をだめにしていった、見たいな事が手塚漫画にあったような気がする。
すごい…パントマイムのことを考えていて、気がついたら人類の未来まで考察していた…そんな大袈裟な、ね?
話を元に戻してっと。だからこそ、ここインドネシアでも、表現の一つであるパントマイム、いろんなタイプのパントマイムがあることを知ってもらいたいなぁと思いながら、まったりと気持ちの良いけだるさの暑さの中、家路についた。

そして、現在2013年2月。
今年の夏の終わり、8月末からインドネシア・バリ島で開かれる、「ジャパン・インドネシア フェスティバル」で、わがグループ「グラン・バルーン」も参加することが決まり、インドネシアの若手グループとも、コラボか何か交流ができないものかと策を練り…とやり取りしたばかりの今日この頃。
つい先日のバリでのちいさな試演会的パフォーマンスも好評だったこともあり、フェスティバルへの士気がますます高まりつつある。
それにしても、つい先日のバリのあの日差しが懐かしい。腕の日焼け見ながら凍える今日、やっぱり寒いのは苦手だなぁ…。

異国のパントマイムの話、まだまだたっくさんあるんだけど…たった一日分で終わってしまった。いつかどこかで機会があれば直接聞いてください。「もういいっ!やめて」って言われても逃がしませんよぉ…。

長井直樹
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