少年たちはなぜ「アンパンマンたいそう」を歌ったか

2014-08-29 23:23:00 | コンサート
フレーベル少年合唱団仙台公演
2014年7月21日(祝・月) 東北大学 川内萩ホール
開場 午後4時15分 / 開演 午後5時
ゲスト出演=NHK仙台少年少女合唱隊
入場無料

フレーベル少年合唱団コンサート
2014年7月22日(火)
仙台アンパンマンこどもミュージアム&モール 1階アンパンマン広場
10時30分
無料エリア

          ※図はイメージです 


 コンサートの終わり、3ステップの山台に4段で揃ったNHK仙台の隊員たち39名とフレーベルの24名の少年たちが小気味良い演出に彩られた「アンパンマンたいそう」を歌い続けます!かつてのフレーベルのユニフォームを想起させもするシンフォニー・ブルーの標準ユニフォーム用ボトムズに、シャーベットグリーンやウェッジウッド色のTシャツを組み合わせたSBC・SGCの隊員たち。ネイビーのベストに赤ボウ・紺ベレー姿のフレーベルの少年たちが交互に隊列を噛まして「♪アンパンマンは君(きみ)さ!」のサビを幾度も幾度も楽しげにたたみかけていきます。お客様方はもちろんのことステージ上の全員が微笑んでいます。インパクトのある、エキサイティングで巧みな、会場をまるごと「元気100倍!」にするフィナーレでした。この企画を思い描き、プログラムを編まれた方々の心中には、ステージの皆が誰をして「♪アンパンマンは君(きみ)さ!」と呼ばわり歌い続けていくのか解っていたはずです。演奏旅行が終わった今も少年たちは自分たちが一体何者であったのかにおそらく気付いていません。雨に濡れれば声も出ず、頭をちぎっては弱っている人々に食べさせてやり、新しい顔を常に付け替えてもらってばかりいる、ヒーローらしからぬルックスの世界最弱のヒーロー…アンパンマン。これは2014年7月の海の日の宵から翌日までのステージに見た「やさしいヒーロー」たちの記録です。

 合唱団創立55周年の節目を迎えるフレーベル少年合唱団、ャXト・カルメン君チームとも言うべき2014年度隊の本格稼働の二日間は「仙台公演」と「仙台アンパンマンミュージアム」でのミニライブ。時期としては4月の年度スタートから、定期演奏会の行われる11月までの中間地点に位置し、タイミング的には6月に発売されたアルバム「やなせたかしのうた~アンパンマンのマーチ~」のリリース1か月後にあたります。前年度の53回定期演奏会前後から「来年は被災地の皆さんを無料でお招きして東北でコンサートをやります」といったお話が少しずつ聞こえはじめていました。一般公開で行われた国内の地方演奏旅行としては、「東京フレーベル少年合唱団:山形公演」(昭和61年8月17日山形県県民会館:友情出演=山形少年少女合唱団シニア・ジュニア、山形少年少女合唱団ブルンネン、YBC放送こども会。フレーベルの子どもたちは2部の分量で10曲と合同演奏でフィンランディアほか2曲を歌うかなり満腹感のある演奏を展開した)からはおよそ28年ぶり、平成に入ってからでは岳南の富士市「フレーベル少年合唱団:30秒ボランティア1周年記念公演」(平成10年7月24日富士市ロゼシアター中ホール:このときもほぼ定演と同量の演目を7部構成で歌っていた)からは約16年ぶり、海外公演では昭和62年の「創立30周年記念中国訪問演奏」(このツアーの後、すぐる先生は24期ソプラノで各パートに一人ずつ配される中学3年生団員の一人になった)が最後で、やはり長の年月が経過しています。在京の男の子のみの児童合唱団がどちらも21世紀に入ってから諸処の事情により夏期合宿や付随する夏の演奏旅行をばっさり止めてしまったことを考えると、今回のツアーは非常に貴重なものであったと言えはしないでしょうか。団員たちも、彼らを送り出すお家の皆様も、お膳立てをなさった周囲の方々も、「昨年はどうだったか」という前例が十何年も昔の出来事ですから、たぶん手探り状態で、結果的にたくさんのことを学ばれ、少年たちも一回り大きく頼もしくなったと思います。

 赤いタキシードを着た眼鏡の人物を背負い颯爽と飛んでくるアンパンマンのキャラクターを中央に配したスカイブルー基調の素敵な図案は、ャXター・チラシ・入場整理券・プログラムなど全てのエフェメラに使われ配布されました。こちらも過去の演奏旅行での配布物と比較してみましょう。山形公演のときのものはベレーを阿弥陀かぶりにした団員少年の美しいカメオのシルエットが使われ、富士公演でも天使の羽を生やした半ズボン姿のかわいい少年が一人描かれています。どちらも団員の姿を象徴的に表していますが、今回のャXターには子どもの見映えにあたるものが見当たりません。中央に配されたアンパンマンの背中に飛び乗って「頼むぞ!アンパンマン!」とばかり微笑んでいるのは、やなせ氏が自身を描くときに使っていた自画像のキャラクター(やなせうさぎ)です。今や空の上にいらっしゃるはずの方が、ここで何故アンパンマンの力を借りて飛んで来たのかに興味を惹かれます。この図像の意味するところは何なのか、私たち観客は演奏会の最後に気付かされ、思い知らされ、少年たちをますます好きになってしまうことになります。

さて、21日の公演当日実際に歌っていたメンバーの顔触れはプログラムの裏面上部にきれいな集合写真で刷り込まれ、眺めることができます。ソプラノ後列のシモ手から2人目に不自然な空間はありますが、高低2部、背の順で並んだユニフォーム姿の少年たちが22名写っています。絵姿は在っても、実際のステージには立っていない団員さんや、逆に残念ながら写真には写っていなくても、当日の舞台には乗って大切な役割を演じてくれた団員さんたちが認められます。これらの入り繰りがあって実際のツアーメンバーは24名を数えましたが、この写真を見て2つのことを想いました。一つは単純に身長順で並んでいるはずの隊列から、ここに写っていない団員を含めはからずも2014年度のフレーベル合唱団の構造や力学を窺い知ることが出来るように思えたこと。もう一つは、既に30年間以上も定期演奏会のプログラムには現役チームの団員の写真が載ってこなかったので、このぐらい鮮明でカッコいいビジュアルが作れるのならば55回目定演プログラムの端っこを飾ってくれていて良さそうなものを…と思ってしまったこと。飾り気の無いユニフォームを着ている男の子の合唱団でも、出演が多い団ほどこうした写真は保護者や団員やファンにとっても思い出になります。ライブ中の記録と違って支度をして撮るスチル写真だからこそ、あの子のベレーのかぶり方が去年とは違っているとか、○○君の眼鏡のフレームはこの年に変わったんだとか、これは△△君らしいソックスの履き方じゃないしずっと履いてる靴も変えちゃったみたいとか…そういうトリビアなところがたくさん見つけられて楽しいのです。

 21日のソワレの会場は東北大学川内キャンパス入口に近い東北大学百周年記念会館川内萩ホール(せんだいはぎホール)でした。震災で部分悼オた東北大の東北アジア研究センターはこの斜向かいのブロックにあります。1960年竣工のダブルパーャXのホールでしたが21世紀に入ってからの改修で、シューボックス・タイプ、オーク張りの深いナチュラルな音響のステージになっていました。最近のフレーベルの子どもたちが慣れ親しんでいるすみだトリフォニーと或る意味共通点を感じさせるところがあります。仙台入りした団員たちにも当然ゲネプロのようなリハーサルがあったらしいのですが、もう何年もこのホールで歌って来たような感じの良い響かせ方を、20人ちょっとの小学生の男の子がイッパツで手繰り寄せたことには驚きを感じます。スパンと狙った所へ声を当ててきます。頼もしいし、カッコいいのです。優しい声も涼し気に鳴らせるし、キュッ!キュッ!と切り込むこともできます。一時期のフレーベルのような、何を歌っても同じ歌に聞こえるというような冗長な頭声発声は存在しません。そういうわけで、合唱団全体の声はエッジが立っていて透明感のある輪郭のハッキリした響きに仕上がっていました。この日のために、どの団員も本気で頑張ってきてくれたのだと思います。定演の前ですと、彼らの歌がきわめて幾何級数的に仕上がっていって本番を迎えることが多く毎年ヒヤヒヤさせられてしまうのですが、今回の「お品書き」の編成を見る限り、そのような心配は杞憂だったことが判ぜられます。演目を見ていきましょう。21日は3部構成で午後5時開演、インターミッション20分間で7時終演ですからおよそ100分間のライブです。プログラムを一見したところ全体のイメージに既視感を覚えます。合唱団「団歌」で始まり、「さんぽ」「君をのせて」…と、アニメソングが2曲。続けて小学生大好きナンバーの「Believe」と「すてきな友達」の2曲。計5曲がPart1です。フレーベル「団歌」などという、仙台のお客様が誰も知らない(笑)ような曲で唐突にコンサートが始まり、人気のかっこいい団員さんらや可愛らしい小さな頼もしい団員君たちをMCに起用し2曲目4曲目の間のベスト・タイミングで聞かせます。前回の定期演奏会でのパターンと酷似しています。影アナが半分で、子どもたちのナレーションが半分。新アンコール君の優しい柔らかい端正な声も、アメージング君の早口のMCもありで、フレーベル少年合唱団のテイストがたっぷりと出ていて楽しいのです。Part2が組曲「ふるさとの四季」で、インターミッションと副団長のお話があり、応援の出演を含む「やなせたかしコレクション」のPart3が続いた後、アンコール2曲で終演…。しかもエフェメラの図案も、やはりやなせ先生でした。お気づきになられたでしょうか?当夜の上演は昨年10月に行われた第53回定期演奏会のリプリーズでおそらく54回定演の部分告知なのです(違っていたのはAB組のメンバーが出ていないことと、終演後にロビーで花束が配られないことだけでした)!少年たちがこれをやるのは、「自分たちのコンプリートバージョンを仙台のお客様にもお届けしたい」という真摯な気持ちからと感じました。
 Part1の「団歌」の歌声は、確かにいつものフレーベルの団員らの歌声なのですが、その他の4曲はそれぞれおさらいの積み重ねを感じさせる工夫やチャレンジがハッキリと聞き取れます。デュナミクや表情付けに適度な工作のあとが出ていてチャーミングな演奏でした。これらの曲は昨秋の定期演奏会の後、クリスマスの練習・本番とオペラ・バレエの出演、やなせ先生のお誕生日関連の出演等で中断はしていますが、少なくとも3月にはライブ本番での試行が再開され、レギュラーの六義園や地域行事での出演、ごほうびのお菓子だけは楽しみにいただくという毎年持ち出しのボランティアのステージなどでお客様の胸をお借りして繰り返し歌い、客席の表情を見ながら勉強しなおしてきた歌の数々です。最初にステージで歌われたときはピッチ・歌詞ともにかなり怪しく、また、たまたまなのでしょうけれどFM合唱団のレパートリーにあるナンバーばかりですから、私たちファンもどうしても聞き比べてしまいます。子どもたちはおそらく辛い想いをしながら、幾度も歌ってここまで頑張ってきたのでしょう。そうした少年らしい気持の良さを感じさせる演奏でした。少年合唱団員というのは、見ていないようでいて、ステージの上から客席全体をよく見ている子が多くいます。だから、本Partのようなライブで少し歌い込んだような曲でも彼らは気を抜いてはいないし、いつもは団塊以上のおじいちゃんおばあちゃんの圧涛Iに多い客層を前に歌うことが頻繁な彼らも、一見して小さい子たちの多い客席を良い表情で真摯に見ていました。また、本ホールはNHK仙台のフランチャイズのようなところでもありますから、お客様の中には見たところ隊員さんのお家のかたや応援の方々と思われるお客様が集まっていらして、…当然フレーベルの団員たちの保護者層とイメージ的に重なりますから、ちょっと安心して歌えたところもあったのかと思います。少年合唱団ですから、もちろん最初から最後まで引き締まった表情のままです。ただ、ブレスや口形などを見ていると、心を込め、胸弾ませ、ひた向きに歌ってくれていることがよく判りました。実は開場の午後4時15分過ぎから1ベルまでの間、ホールには塵沈めで今回公開の「やなせたかしのうた」のうち数曲(おそらく、翌日のライブの伴奏(?)に使用するために持ち込まれたもの?)がリピートでガンガン流れていて、一見のお客様もフレーベルの少年たちの歌声がどんなものであるのか、実物を見る前によく分かるようになっていました。それでもなおかつ子どもたちの第一声を聞いた仙台のお客様がたの第一声は「わあ!きれい!」でした。口を衝いて出た正直な感想だったと思います。プロセニアムレスのステージなので袖幕が無く、ホリゾン側の下手袖後扉(オケコンならばパーカッションとかトランペット系のオ兄さんたちが出てくるドアでしょうか…)の中に団員たちが山台に踏み上がるため寡黙にスタンバイをしています。2ベルの後にご担当の方が、袖扉をこっそり開けておそらくご招待のお客様の着席の確認などをしているのでしょうけれど、その後ろにスタートダッシュを待つ紺ベレーのアルトの団員さんたちがびっしり隠れていて、入場前からもう私たちをワクワクさせてくれるのです!キューがかかると今度はこのドアから前後列が同時に流し込まれるため、お客様を殆ど待たせません。かつてのフレーベルの入場に顕著だったもたつきは皆無でした。Part1の演目はあっという間の5曲ですが、一方で現在のフレーベルの少年たちの衒いの無い歌声を一見のお客様に楽しんでいただくには十分な分量・内容でよかったと思います。このことから客席で私が思い至ったのは、仙台のステージで既に姿の無いカルメン君が10年間の永きを歌いきった後に仲間たちへ何を残していったのかということでした。前述の通り、この演奏会はカルメン君の居ないフレーベル少年合唱団にとって初めての大仕事。ツアー中、ソロも凝ったMCも演出も一切ありません。ただ、カルメン君が合唱団を引き連れた過去数年間、経験豊富で自由に繰れるその声を武器に彼が何者かと戦おうとしたことは1回も無かったという事実に目が行きます。自らの声をバリアに皆を守り、抗う者を組み伏せる力技を彼は注意深く回避していたように思えます。アンパンマンのごとく自分の声を下級生たちの糧に分け与え、カルメン君は明らかにフレーベル少年合唱団の一団員であることを全うしようとしてきた。だからこそ、カルメン君のいないソプラノ部が今日もキラキラと100分間を歌いきり、彼ららしい、生きた合唱を私たちへ届けてくれたのだと私は思っています。3月8日、この日、六義園のライブはブッキングの都合からフレーベル館本社正面玄関前のピロティへと場所を移していました。庭園を囲むマンションやビル群の壁にこだまする少年たちの歌声は都市の喧噪の中で本当に美しかった。最後の客上げの場面で彼らは未だ少年合唱団バージョンのアンパンマンのマーチを歌っていました。そのとき、本郷通り側の観客に混じり、周囲の人々や子どもたちから、出て行って一緒に歌えばいいじゃないか…と腕を引かれているのに、ニコニコしつつ「いやだ!いやだ!」とじたばた抵抗する声の変わりかけた普段着の男の子が一人います。フレーベル館前に集まったお客様がたは、ダダをこねて逃げてしまうこの大きな少年が誰なのか良く知っています。聴衆はもちろんのこと、上級生団員たちも(実は、この日はA組の子どもたちもソロ等のミッションのため隊列へ投入されていました)、合唱団のスタッフさんたちも楽しそうに笑っています。合唱団のユニフォームはまとっていませんが、人気者の男の子なのです。彼は7曲入りのソロCD「永遠~Angel Song~
」(TryTrick LLC.)を吹き込んでいて、その後ネット通販などが開始され、歌声も話題になってゆきます。わたしはこの日、フレーベル館の玄関で見たカルメン君のその姿が、彼らしい衒いの無さや未だヤンチャでナチュラルな心根の優しさを感じさせ、忘れる事が出来ません。普段着のこの姿こそ、カルメン君が現在の下級生たちに残していった素晴らしい贈り物の根底にあるものだと思います。


 副団長先生のお話をはさんだPart2のソプラノチームの声を聴いていると、カルメン君が後輩たちに何を贈り残し、何のために合唱団で生きたのか、容易に理解することができます。ここでは定演のpart2ステージと同じ女声合唱のための唱歌メドレー「ふるさとの四季」全曲が歌われました。キラキラと輝いていたのはソプラノの少年たちです。今回のツアーメンバーを見てみると、高声部はメガ美男子君やアメージング君のような長距離ランナーが何人もいるような顔ぶれではありません。しかし、彼らは個々の努力と力量とによって組曲全体をしっかりと牽引しています。表情も良いのです。歌声にハートと少年らしい一途さ、ひたむきさと誠意があります。気迫がこもっていてここ一番の勝負時にスカスカな合唱をすることはまずありません。小さい団員たちは手慣れたブレスですが歌い込む気迫に満ちています。当日、本来ならばMCの担当があっても良かったはずの団員たちが、皆この声部の所属であったことを考えてもソプラノ・パートのアドバンテージには納得がいきます。本Part冒頭のMCはK太君が担当しました。「ボーイソプラノの声が合唱団のユニフォームを着て歩いている」ようなスーパー・カッコいい団員くんです。MCの話し声も勿論誰しもがぐっとくるような上気した少年の凛々しさにキリリと貫かれていますが、この日、せめて1フレーズだけでもソロの歌声の出番があったらいいのに!と思いました。
一方、Part2のメゾ・アルト部というと、開演部分でのようなハイパワーが出ません。メゾには新アンコール君の鉄壁のリードはありますが、頼みの綱の最上級生たちは変声ギリギリのコンディションで、小さい団員の中には、多分長旅に疲れてしまったのでしょう、もう立ったまま眠りかけている子もいます。5名編成のアルトの強力なエネルギー源になってもらいたい上級生たちは、この日のための「助っ人」という立場が見え隠れし、仙台公演へ向けてコツコツと1から積み上げて来たという感じが希薄なのと、どうしてもきちんとした基礎発声を徹底して叩き込まれてきたという声のつくりではないため、パワー不足を経験の力で補っていたという感じでした。お客様がたの温かい心からの応援の視線をいっぱい頂いてかろうじて踏ん張っていたような気がします。
クロージング面では今回ツアー1日目のPart1がイートンに赤ボウのフル装備で、副団長先生のご挨拶の間に早替えの紺ベストのスタイルになり、それでおしまいです。プログラムに掲載された集合写真のスタイルのまま開演し、途中でイメージチェンジがパッと簡潔に行われて気分が変わるという、品のある更衣に留めています。Part3になって、今度は煉瓦色ブレザーのフォーマルになるのかと思っていたのですが、衣装替えはありませんでした。NHK仙台の隊員たちが半ズボンにボックスプリーツでカラフルなラフ目のプルオーバーを組み合わせていたため、結果的にフォーマルにしない方が正解で良かったのです。それに、子どもたちのこの衣装選択はPart3のステージコンセプトにマッチし、楽しい雰囲気いっぱいで適切でした。


2014年6月25日、日本コロムビアは、やなせたかし作品の18曲を22トラックにまとめ、「やなせたかしのうた~アンパンマンのマーチ~」としてリリースしました。トラック数が収録曲数より4つも多いのは、フレーベル少年合唱団が同じ楽譜をpf伴奏と打ち込みバージョンの2種類でそれぞれ吹き込んでいるからです。合唱団草創の頃のフランチャイズだったキングレコードやアンパンマンのサウンドトラックを手鰍ッるバップではなく、コロムビアからの発売ということもあるのでしょうか、サイトを見るとCDメインの商品というよりは、iTunesやレコチョク等のダウンロード・コンテンツとして作成されたアルバムという感じを強く受けます。「希望する人にはAmaonなどでCDに焼いた盤も売っていますよ」というスタンスです。今回のアルバムの発表によって日本のボーイズ・コーラスも遂に「レコード・CDへ吹き込んで売る」という時代に別れを告げたような気がします。フレーベルの子どもたちは1962年に10インチ・バイナル盤のレコード「たのしい合唱・とっきゅうこだま」(KH-50・キングレコード)のリリースで少年合唱団としてのスタートを切りました。ろばの会、アンパンマン、キンダーブックなどの縁に恵まれて、少年たちは以後半世紀の間、EPシングル・コンパクト盤・30cmLP・コンパクトカセットテープからCD・ミュージックDVDまで様々なディスクメディアに歌声を吹き込み私たちを楽しませ続けてくれました。ときは西暦2014年…今回の配信アルバムがフレーベル合唱団にとってはじめてのダウンロードコンテンツ先行の商品となったわけです。アルバムアーチストはフレーベルの他に八千代とすみだの各少年少女合唱団が担当しています。ただ、フレーベル少年合唱団は全収録22曲のうち、13曲を歌っています。八千代が5曲ですみだ少年少女が4曲ですから、本来はフレーベル少年合唱団のアルバムとしたいところを大人の事情かなにか(?)で、半分弱を他団にうまく割り振って商品にしました…という感じの作りになっています。「夕やけに拍手」などの例外はありますが、ここでフレーベル少年合唱団の子どもたちが吹き込んでいるのはいずれもここ5年間以内に彼らが定演などのライブで歌って来た作品が殆んどです。「雪の街」など季節柄ライブに乗るタイミングを逸していたものも今回はノミネートされました。アーティスト名は「フレーベル少年合唱団」ですが、ここで吹き込みを担当しているのはセレクテッド・セレクトの選抜組の団員さんたち。ここ数年間のフレーベルのステージをご覧になった方でしたら、当録音で歌っている全員の顔をご存知のはずです。「老眼のおたまじゃくし」「シドロアンドモドロ」などの本来AB組のレパートリーでS組団員が歌ってこなかった作品も今回セレクトメンバーの声で歌われました。彼らは、VBCも毎年「天使のハーモニーシリーズ」の録音に使っていた部屋と全く同じ青山のビクタースタジオの3階で2014年の5月にレコーディングを行っています。フレーベル合唱団のテーマソングとも言うべき「アンパンマンのマーチ」も、テレビと同じアレンジの打ち込み伴奏とピアノ伴奏の2タイプが新録音され、昨秋まで数年間歌っていた少年合唱団バージョンのファンファーレ付きイントロのものは既に使われていません。「勇気りんりん」も2001年のキンダーブック2 「わくわくえんのちゃっぴとうたおう」(R0090198_フレーベル館)でオケ伴奏のCD版を発表しているフレーベル少年合唱団ですが、使い回しをすることなく今回さらに2バージョン録りなおしています。前の版で歌われて以来、合唱団がレパートリーとして堅持し続けていた簡易版の歌詞ではなく、ドリーミングさんたちが歌っているちょっとシラブルの建てこんだ「かびるんるん」や「アンコラ」や「てんどんまん」の出てくるバージョンを再録してくれました。「勇気の花がひらくとき」は1997年公開の映画「それいけ!アンパンマン 勇気の花がひらくとき」でフレーベルの先輩方が歌ったサウンドトラック版のようなアカペラの歌唱を更新しました。また、「手のひらを太陽に」は「「手のひらを太陽に」創作50周年記念 生きているから歌うんだ!」(VPCG84911_2011年・バップ)が近年録音されていますが、こちらも録音しなおしています。
どの曲も一聴して、担当している現役メンバーの子どもたち一人一人の姿…歌っているときの仕草、表情、視線や息遣いまでも鮮やかに目に見えるように録り上げられています。ミキシングコンソールの前に座ったエンジニアさんは、自分の仕鰍ッたマイクロフォンを通じ少年たち一人一人の声がオンマイクでフレッシュなままレコーダに飛び込んできてビックリなさったに違いありません。私たちも静かな気持ちで「雪の街」などに耳を傾けていると、各パートから選ばれた団員たちの柔らかなな身体が震えるように鳴って快いボーイソプラノ&ボーイアルトを楽しむことができます。今回の録音の最大の魅力はそこなのです!アルバムの最後には「カラオケバージョン」という触れ込みで「アンパンマンのマーチ」「勇気りんりん」「アンパンマンたいそう」「手のひらを太陽に」の4曲の打ち込みオーケストラ・バージョンに合わせフレーベルの少年たちの歌ったものが収録されています。名前は「カラオケ…」ですが、歌声も録音されているのです(後になってリリースされたコンテンツでは「オーケストラバージョン」という表示に更新されています)。
 さて、20分間の休憩を挟んだPart3の全演目は、この「やなせたかしのうた~アンパンマンのマーチ」でリリースしたナンバーから全て選ばれています。NHK仙台SBC・SGCの友情出演は、かつてのフレーベルの地方公演の舞台構成でしたら、他団に1幕をャ刀Iと気前良く差し上げて「どうぞ存分に歌っていってください!」とプログラムを編むのでしょうけれど、今回はおそらくフレーベルの子たちのパワー総量やレパートリー量のコンパクトさに合わせて、それをしませんでした。「アンパンマンのマーチ」で幕を開け、「勇気りんりん」の2曲までが2つの合唱団の冒頭の合同演奏でした。「…マーチ」の前奏も、従来の少年合唱団バージョンのものではなく、今回販売開始になった録音のpf版と同様の前奏になっています(全て池田規久:委嘱編曲)。出演している仙台の隊員たちはフレーベルの子たちと年齢層的にはあまり違いの無いメンバー構成でしたが、「…マーチ」の最初の四分音符を3つ歌っただけで高い実力がサッと判明しています。2曲目の「勇気りんりん」も、ハンドクラップの付く新録音版のピアノバージョンのアレンジで歌われました。拍手の仕方で、やはりSBC・SGCのリズム感の鍛えられ方が判ります。プログラムの構成が、Part冒頭とおしまいだけCDの曲順と機械的に同じにしてあるのかもしれませんが、この2曲を冒頭に据えて仙台の子たちの力を引きだしたのは自然な感じがして非常に巧みだったと思います。その後に、フレーベルの団員たちが1・3列目から左右にサッとはけてNHK仙台少年少女だけで、今回の録音のうち少年合唱団が担当していない「地球の仲間」「さびしいカシの木」と「ぼくらは仲間」の3曲を歌います。彼らが単独で声を響かせるのはこの3曲だけです。フレーベルの現状パワーを冷静に見て寄り添ってくれているのです。日本の児童合唱のレベルというのがこの段階にまで育ち高められ熟していることを「地球の仲間」の第一声は物語っていました。また、このように全体量を考えて彼らが思慮深くゲスト出演に徹してくれたことが、当夜の盛会の一つの大きなカギになっていたと思います。
 今回の演奏会で、アルバムに収録されているのに演目にのぼらなかったフレーベル少年合唱団の担当作品は2曲だけでした。1曲は「雪の街」。もう1曲は「シドロアンドモドロ」です。他のライブでは演奏されていましたが、最初の第一声から、最後の「チョン止め柝」のような歌い上げまでが本当に幼少年らしいちょこまかとした明るい声質で総べられていてステキなのです。でも、本当にスゴイのはこの曲のpf伴奏!ライブでもレコーディングでも、YMOばりのハードコア・テクノっぽいメカニカルなサウンド(笑)をピアノ伴奏で担当なさっているのはツアー当夜も伴奏をしてくださった吉田慶子先生です!カッコ良くてまじ、ヤバすぎます!こういうわけで、NHK仙台のメンバーとチェンジしたフレーベル少年合唱団のみの演奏は「老眼のおたまじゃくし」と「きんいろの太陽がもえる朝に」でした。前者はいずみたく、後者は木下牧子の作曲でいずれも定期演奏会の演目として過去に歌われています。昨年まではAB組のレパートリーだった「老眼の…」は、今回もユニゾンで供されました。終始粘度の高いフレーズがもったりと続いてゆきます。ボーイズのファンとしては、このように斉唱で歌ってもらえると、応援している団員さんたち一人一人の声を容易に耳で捕獲できるのでアリガタイしオイシいレパートリーでもあります!「きんいろの…」は、フレーベルの場合、高低のパートのかけひきやバランスが非常にモノをいう作品なのですが、前述の通り低声の通りが本調子ではありません。客席から「しっかりしろ!アルト!!目を覚ませ!仙台まで来て、このまま終わってしまっていいのか?!」と叫びたくなるのをガマンしていた私の気持ち、お分かりになりますか?こうして、木下作品らしいボカリーズの絡みや、フェミニンなアーティキュレーションの許容など、100%の実力発揮とは行かない中で頑張って聞かせていました。その後、少年たちの隊列が上下に開き、SBC・SGCの隊員たちが行間に流れ込み、合同演奏でフィナーレのステージとなります。「勇気の花がひらくとき」と「アンパンマンたいそう」が歌われました。子どもたちのロングトーンが美しい「勇気の花が…」はNHK仙台、フレーベルともに美麗なソプラノが氷の刃物のハッキリとした仕上がり。パワーのかけ方と両隊の質量がバランス良く合唱を前に押し出して、客席はとても満足しました。「アンパンマンたいそう」は、昨年の定期演奏会まで「アンパンマンのマーチ」の影にかくれて(?)、フレーベル少年合唱団でも1年間に何度もプログラムに上らない曲でした。今回、アルバムコンテンツの録音では、ピアノ伴奏なのに冒頭でドンカマっぽいリズム音がカカカカッと鳴って、少年らの嬌声がホウ!とカットインして始まります。左右からは合の手のハンドクラップ。続いて子どもたちが、歌いだしのフレーズをアレンジした風変わりなスキャットを挿入してきます。伴奏のコードもホンキートンクっぽい音が鳴ったり、ちょっとカッコいいコード進行で流していたりして、わくわくしてきます!またオーケストラ・バージョンの方はドリーミング版に忠実で、イントロのブレークに少年たちが「アーンパーンマーン!」と叫んでくれます。どちらのバージョンの嬌声も、隊列前方の中央寄りに立って歌っている低学年くらいの団員たちの声をダイレクトに拾ったような声質が生乾きのまま記録されていて実にたまりません。当夜、録音のテイストを余すところ無く活かした「アンパンマンたいそう」は、前述の通り愉快で楽しい演出と編曲が私たちをときめかせ、かがやかせ、キラめかせてくれました。「手のひらを太陽に」と「故郷(ふるさと)」がアンコールに採り上げられています。当日もともと明るめだった客調が上がりプログラムに挟み込まれた歌詞カードをお客様に見せる照明計画で、フレーベルの仙台ツアー第1日目が幕を下ろしました。フレーベルの子たちに負けず劣らず仙台の隊員さんたちの撤収のフットワークは迅速・軽快で気持ちがよかったです。
 仙台のステージ上、左右に並んだ団員らの頭一つ抜き出たひと際高いところ…金モールに刺繍されたフレーベル少年合唱団のfマークが、あみだかぶりの紺ベレーの頂きの上できらきらと輝いていました。彼は今、今日ひと日の演目を歌い終え、右向け右でシモ手袖扉へとひな壇の上に歩みを進め帰投して行きます。そうして山台の下り際に、目前を撤収するアメージング君の背中へと、客席に判らぬようフッと安堵の笑みをもらします。この一年ほど、ステージ上に殆んど表情を崩すことのなかった団員くん。注意して見ていないと見落としてしまいそうな一瞬の出来事でした。それがメガ美男子君の今日の姿でした。表情だけでなく、私の知る限り、この1年間、メガ君の出演していないフレーベル少年合唱団のコンサートは1回もありませんでした。小さな団員たちの多いコンパクトなコンサートでも、ぴょこんと飛び抜けて背の高い、見るからに変声途上のその男の子が必ずいて歌っていたのです。少年合唱団員の変声を興味本位でネタや知識や常套句のように取りざたする人間は世の中に曹「て捨てるほどいます。また、かつて中学3年生のボーイソプラノ団員ですら珍しくなかったフレーベル少年合唱団では彼らの「声変わり」はMC原稿の恰好の材料にもなっていました。時は移り、団員構成が驚くほど様変わりし、周囲で歌っているのは変声などまるで無縁そうなあどけない小さな少年たちばかりです。この1年のメガ君の立ち姿は、こうした来歴の中で私たちに「少年合唱団で本当に大切なこと」が何であるか、さりげなく教えてくれます。どこから見ても二枚目のメガ美男子君が、カッコカワイイ外見の良さを見せつけ、これにおもねるようなステージ運びで歌声を聞かせたことは、だだの一度もありません。ステージに見る彼の毎回の勝負は、幼いA組団員だった時代から一貫して「合唱団員としてのナカミ」を謙虚に問い続けることでした。だから今、彼の外見が「お兄さん」になり、良い匂いのするバラの頬をした可愛らしい小さな王子の外見でなくなっていても、団員としての彼の立ち姿に何一つブレは無いのです。もともと「中味」で勝負してきたメガ君だから、見てくれがどうであろうと美男子であろうとなかろうと、頼りがいのある大切な立派なフレーベル少年合唱団員であることに全くもって変わりが無いのです。私はこのことを思うにつけ、現在のフレーベルのいったい何が私たちをこんなにも惹き付け、団員たちが何を見せようとして歌い、人々を楽しませ続けているのかわかるような気がします。2014年現在、大きく3パターンの各々2から8アイテムの組合せでステージユニフォームを構成するオシャレでナイスなフレーベル少年合唱団ですが、彼らはライブ途上、客席やMCのお姉さんたちから「カワイイー!」と声をかけられる事を極端に嫌います。あからさまに顔をしかめる団員たちすらいます。そこには「見てくれでボーイソプラノを判断するな!」という彼らの強烈な信条表明がハッキリと読み取れるのです。仙台のステージの一番長身なメガ君の頭のてっぺんに、なぜ金色のフレーベルの徽章がキラキラと最後まで輝いていたのか、皆さんもこれで合点がいかれたことと思います。

 翌7月22日(火)、一般には平日ですが首都圏の公立の小学校はこの日が夏休み第一日目にあたり、団員たちも仙台ツアーを続行しています。大人の足ですとJR仙台駅エスパルII方面出口などから徒歩圏内にある仙台アンパンマンこどもミュージアムの「アンパンマン広場」で、午前10時30分に2日目のキック・オフでした。15分1本の出演で、フレーベル少年合唱団としては最もコンパクトな10分間前後の営業の次に短いミニ・ライブ。目前の指揮者無し、伴奏もキーボードではなく、カラオケテープでもない、前述のアルバム「やなせたかしのうた」のオケ伴奏の歌入りのトラック4本をPAで流し、団員たちがさらにそこへナマの歌をかぶせるという趣向です。10時半のスタートですから、いくら身支度の速いフレーベルの少年たちでも朝の慌ただしい起床をしてきているはずです。ツアーメンバーたちは、どちらかというとお疲れ気味。また、小さい団員は既にツアーを終えたのか出演していません。前日21日のコンサートでは入場口の1階フロアでCDの物販がありました。(プログラムの裏面に「好評発売中!」の文字も踊る日コロの広告が掲載されています!)一番目立つところへ陣取っているのですが、デスクの位置が僅かに奥まっていて損をしていました。今回の会場はミュージアムの中でもショッピングモールのアトリウムに相当する場所でしたし、本番のパフォーマンスにも使われているわけですからCDの物販があるのかな…と探してみましたがちょっと見付けられませんでした。「会場」と言っても床の中央を外縁部より3段ほど下げて作った窪みで椅子等のセッティングは無く、観客のしゃがむ位置を誘導する白いラインが横に何本も入れられているだけのシンプルなパティオです。これまで彼らが歌って来たような、縁台や立ち見オンリーの場所とは観客の視線のアングルが違います。アンパンマンテラス側の最上段とステップ1段下りたところに2列横隊のレギュラーの整列順で立って(残念ながら、おそらくキャラクターと小さいお客さまとの接触防止のために赤いベルトパーテーションが前方に張られています)ひな壇のようにして使いました。団員クンたちが入場して前方を一見した瞬間、彼らを大きく見上げている小さな子たちの顔・顔・顔…が目に飛び込んで来たはずです。5-6年のステージ経験を持つアメージング君やメガ君でさえ目にした事の無い光景だったに違いありません。おそらくここ10年から15年の間にフレーベル合唱団のライブ経験の中で、今日のこの客席は最も平均年齢の低いものだったはずです。少年たちがこの状況に「ワッ!」と思って良い気持ちで客席に微笑みを返していた光景は目の保養になりました。団員たちの周囲では場内警邏中だったアンパンマン・しょくぱんまん・カレーパンマンが駆けつけて来てくれて応援してくれています。たくさんの人たち、パパさん・ママさんがた…お家に帰ってからミュージアムの今日の思い出のお話の材料になさるのでしょう、写真や動画を夢中になって撮って喜んでいらっしゃいました。こうした光景は日本の他の少年合唱団のライブパフォーマンスではあり得ないことでしょう。彼らの胸に輝くきんいろのfマークがさらに輝いた瞬間でした。会場がアトリウム状と言う印象が強かったからでしょうか、実際には天蓋がありエアコンの効いた涼しい場所でしたが、ベレーにノータイ、紺ベストというスタイルでした。ツアー初日同様、ソックスがクルーではなく、また、着帽で、XYサスペンダーまでいっていないので「猛暑日の屋外対応衣装」というチョイスまでいっていません。ただ、当日の仙台は朝から良い天気で気温もあがりました。野外コンサート経験の豊富なフレーベルの子どもたちは、この5-6年でクーラーのよく効いたバスやビルのロビーで十分な涼をとり、本番キューでサッとステージに出て行って、パッと歌ってサッと撤退する酷暑ライブのかわし方をうまく身につけてきたような気がします。演目は「アンパンマンのマーチ」でいきなり歌いだし、アメージング君の開幕MCの後「アンパンマンたいそう」MC「手のひらを太陽に」さよならMC「勇気りんりん」の4曲がナレーションと交互に歌われていました。全てオーケストラバージョンですから、「…たいそう」の頭には当然「アーンパーンマーン!」と客席を巻き込んだ少年たちの嬌声が入ります。ただ、曲順だけは2曲目の「勇気…」を最後に持ってきてフィナーレに使うということをやっていました。会場をテレビカメラが取り囲んでいるのは日本テレビ系列のミヤギテレビの収録が入っているためです。合唱団の背後にいるキャラクターさんたちの演技は手配が行き届いています。団員たちの前に出て踊るキャラもソプラノかみ手寄り前方の立ち位置が抑えられていて、1体以上はゾーンに入って来ません。旅の疲れが出始めている団員たちでしたが、キャラクターさんたちの動きが直接視界に入らず、客席の反応だけで背後の気配を感じているので最後まで歌に集中することができていたように思えます。前夜に準じたCMの布陣はハッキリとしたナレーションで頼もしかったことは言うまでもありません。

 ツアー初日の川内萩ホール、2日目のアンパンマンミュージアム、…両日ともに開演のキューがかかれば団員たちは整然と流れ込んで所定の位置に整列します。今回、全隊のぺースメーカーにあたる先導を担当していたのはあのワルトトイフェル君でした。バミ位置を正確に目指し軽快に入場口から躍り出てきます。意外に思われるかもしれませんが、2014年度チームの団員の中で、行進の姿勢が一番キマって美麗なのは他でもないワルト君なのです!?爽快な脚の蹴り出しと美しいストライド。目的地をスッと見つめた上体、宙を切るような腕の抜き方など、数年前まで口もろくにひらかず空ろな目で抜け殻のように歌っていた同じ団員の姿だとは思えない立派なスマートな行進の姿勢なのです。実物よりひと回りも二回りも大きく見えること間違いなし!私自身、このことに気付いたのはつい昨年の事でした。「まさか、あの子が?!」…というかたは、次のライブの冒頭、彼の入場を見ていてください!きっと超カッコ良くて驚かれると思います!両日ともにアルト下段のライトウイングにはワルトトイフェル君。隣には同じくらいの背丈で豆ナレータ君が配されていました。通常、下級生団員の前方に上級生団員が2人揃って立つ事は無いので、ちょっと驚いてしまうのですが、私はとても嬉しかった。豆ナレーター君は前年12月7日の「文京ボランティア・市民活動まつり2013」(文京区民センター3階・文京区社会福祉協議会60周年記念式典)のライブと終演の挨拶が私の見た最後の出演でした。ワルトトイフェル君は 2013年12月23日サントリーホールで行われた東京ヴィヴァルディ合奏団のクリスマスコンサート「第14回ファンタジックなクリスマス~天使の秘密featuring栗原一朗とパペットマペット」に一人の観客として来ていました。カルメン君のお引き合わせだったのでしょうか、インターミッションのロビーで偶然出会うことができ、点灯式以来出演を控えていることが気がかりだったので、今後の予定を尋ねてみましたが、「(出演するかどうか)わかりません。」という返事を静かに落ち着いて繰り返していました。事実、この半年以上の間、ワルト君の姿を私がステージ上に見る事は無かったのです。今回、ステージ・アルト前列の端に2人はお兄さんらしくしっかりとした脚を統べて立っていました。以前からずっとそうして2人で立ち続けているような姿で、安堵と頼もしさを強烈に感じる図像だったのです。彼らの歌う表情を見ながら、私は突然思い至るところがあり思わず客席で頓悟の声をあげそうになりました。2008年10月8日すみだトリフォニーホール、第48回定期演奏会第4ステージの中盤です。当年度入団のB組団員たちの顔見世がありました。忘れもしないメガ美男子君が1つ上のクラスにいて、A組団員であるのにもかかわらず彼らしくMC後に挨拶のやり直しをした…という思い出深いステージです。このときB組最前列のソプラノ側に、生き生きとした歌い姿に表情もキラキラと輝く眼光の鋭い男の子が一人いて歌っていました。B組ゆえまだベレーがあてがわれず、マルーンの髪にエンゼルリングが光るその子の隣で、今度は丸い黒真珠のようにふんわりと淡い円満な歌を繰り出す優しい表情の幼少年がおっとりと皆に合わせリズムをとっています。1ダース程もいるB組団員の中で、この2人の姿はひときわ観客の目を引くものでした。その日寄り添って歌い、フレーベル少年合唱団の団員としてスタートを切ったこの2人こそ、現在のワルトトイフェル君と豆ナレーター君です。仙台のステージで、B組時代同様前列隣同士に並び、彼らはあの最初の日と全く同じ表情で歌っていました。私がワルト君の心躍る表情とはずむようなビビッドなブレスを見て思ったのは、満身創痍の中、知らぬ観客たちからは陰で揶揄されたりもし(ステージ上ではスーパーナレーター君がいつもそういう彼をかばっているように見えました)、一時姿が見えなくなりそうな時期さえあったその人が、日本中のボーイアルトの誰もやり遂げることのできなかったろう苦難に満ちた旅路を経て帰還を果たしたこと。宇宙探査船「はやぶさ」同様、苦労して持ち帰った収穫物は風塵のように僅かで「物としては何も無い」ように見えます。ただ、若隼の力を信じ策を講じて支え続けた人たちがいたことと任務を続行し帰還を果したことと何かを持ち帰ったという事実の重さ・気高さは計り知れません。ツアー1日目、この2人は途中から腕をきちんと後ろに組まず、豆君は右に下ろした腕の肘を左の掌で掴み、ワルト君は対称的に左に下ろした腕の肘を右の掌で掴んで歌っていました。ステージ慣れした上級生のやることですから、普段は後列のお客様に見えないところでそれをやるのでしょうけれど、今日だけは前列で客席にもそれが見えてしまっています。彼らがなぜ2人セットで招集に応じ2人並んで歌ったのか、その姿を見ていると判るような気もします。
 合唱団はこの2日間、「僕たちは被災地の皆さんに夢と希望と感動と勇気をお届けにきました」という内容のMCをしきりに繰り返していました。ステージ上では副団長先生のお話、プログラム文面では団長先生の「ごあいさつ」でも、こうした内容の誓言がみられます。「演奏会がなぜ人的被害の大きかった石巻や名取や陸前高田ではなく仙台で開かれたのか?」ということも勿論ありますが、客席にいた私がナレーションを聞くお客様がたの息づかいから感じとった偽らざる思いは、「震災から3年以上も経って、何を今さら…?」というものでした。政令指定の100万人都市、東北の中心地とも言うべき杜の都は既に大きな復興を遂げようとしています。川内萩ホールの隣地で震災時タワーの瓦解をきたした前述の東北アジア研究センターも、改修が終わり清楚なエントランスの建物になっていました。演奏会のこのタイミングが部外者の私にはどうしてもおしはかりかねたのです。
 公演1日目の幕切れ、ついに豆ナレーター君がカミ手位置のまま太く信頼感のあるトーンに成長した声で号令をかけます。「気をつけッ!…ありがとうございました!」。…しかし、ステージ上に並んだ合同演奏後の子どもたちは期せずして全員がこれに応ずるのです。「ありがとうございました!」と。
 楽しく歌声にみちた仙台での2日間の最後の最後…聞いている私たちにとっても歌っている少年たちにとっても大切な思い出の1ページになったに違いない仙台アンパンマンこどもミュージアムでの演奏会の終演に、同じ号令で合唱団を御したのは…。あの日と同じ面差しでここに立ち戻って歌い、「日本一のボーイアルト」の名にふさわしい勇気と強さと幸せいっぱいの2日間をくれたワルトトイフェル君だったのでした。しかし何故、この2人が仙台のステージのために召喚され、その位置に立ち、最後の呼号を叫んだか?勿論、当日のアルトの団員構成をみれば一目瞭然なのでしょうけれど、それだけだったのでしょうか?ヒントは終演してもなお、美しいマットなスカイブルーの表紙を私の手許に鈍く輝かせていた演奏会プログラムに大きくハッキリと描かれていました。満面の笑みのやなせたかし氏を背中に乗せ、いずこへと皆の夢を守るために飛んでゆくアンパンマン!フィナーレのステージで、合同演奏の子どもたち全員が一丸となって「アンパンマンたいそう」を歌い続けます!「♪アンパンマンは君(きみ)さ!♪アンパンマンは君(きみ)さ!」…フレーベル少年合唱団がなぜ従来の終演に歌い込み、一般には震災復興のテーマソングともなっていたはずの「アンパンマンのマーチ」ではなく「…たいそう」を選んでいたのか…。やなせ氏は体調不良から引退を決めていたところ震災が発生、「印刷して売り物に貼ってかまわないから」と復興努力をしている人たちに無報酬でキャラクターを描いて送ったり被災地の子どもたちに「アンパンマンをながめて楽しい気持ちを思い出して!」とャXターを作成し配布するなど、引退なんかしてる場合じゃないとばかり復興支援をペンで遂行していたことはよく知られています。ご本人の最後の願いが「誰か私の代わりに現地に入って子どもたちの前でアンパンマンを描いてきてほしい」だったとしたら誰に頼むでしょうか。もともとアンパンマンの企画自体、やなせ先生が少年合唱団のツテを頼りにフレーベル館に持ち込んで採用してもらい、当時のご担当のかたから「もう、(顔をちぎって人に食べさせたりする弱っちいヒーローの絵本など)これきりにしてくださいね。」と言われたとか言われなかったとか…。フレーベル少年合唱団の少年たちが居なかったとしたら現在のアンパンマンは存在していなかったのかもしれません。合唱団の昨年の定期演奏会の10日前、天国に召され、やなせうさぎになった氏の最初の願いは「フレーベルの少年たち!きみらを2日間だけアンパンマンにするから、私を背中に乗せて皆の心へアンパンマンを描きに行こう!」だったのに違いありません。遺言のようなものだから、最短でこの時期なのです。「♪アンパンマンは君(きみ)さ!」の「君(きみ)」というのはフレーベル少年合唱団の団員たちのことなのです。一度は引退を決め、それでも人々を元気づけようと再起したやなせ氏…出演していた一人の団員の再帰に似ていませんか?だから「アンパンマンたいそう」の歌詞を読み返すと、そこに歌われていることが、よく見えるべく押し出されるようにしてアルト隊列右翼最前で歌い、最後に「ありがとうございました!」と叫んだあの二人の団員に驚く程あてはまるのです。フレーベル少年合唱団の仙台公演。これは雨に濡れれば声も出ず、歌声を人々の心に食べさせて元気100倍にしてやり、新しい顔が次々と入れ替わる、やさしいヒーロー…アンパンマンの2日間の物語です。

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